短距離ランニングフォーム解析 (18)
より精密になった解析ソフトで調べなおしたFJ選手の中間疾走

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)@ 9621 ANALYSIS


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 より精密になった解析ソフト

 ランニングフォーム解析ソフトruna.exeの名前は変わらないのですが、機能やアルゴリズムの変化は、今でも続いています。ここ最近の変化の中で、もっとも意義深いのは、基本的なデータ解析の手法を改めたということです。これにより、こまでノイズだらけだった部分も、意味のあるものとして取り扱うことができるようになりました。このことにより、地面に足先がついていても、まだしっかりと地面に体重が乗っていない状態や、地面から離れていないように見えていても、すでに全重心が地面からの抗力を受けていない状態などが、今回の解析では、はっきりと分かるようになりました。


図1 FJ選手の1歩目FJ(1)の 全重心速度変化グラフ

 図1にFJ選手の1歩目FJ(1)の 全重心速度変化グラフについての、「(a) 改良前」と「(b) 改良後」を示しました。縦線の入っている部分のプロットが、(a) 改良前では大きく乱れていますが、(b) 改良後では、なめらかな変化となっています。そして、接地してすぐのところでは、小さな値から、少しずつ、このときのランニングスピードの9 [m/s] あたりへと上昇しており、最後の離陸するあたりでは、少しずつ遅くなってゆきます。このように、はじめとおわりのところが、これまでのものより、よりげんみつに表現できるようになったため、縦線の描かれていない「有効フォーム」のところでの水平速度(黒いプロット)のパターンで、離陸前にピークが現れるようになりました。ここでは見やすいようにしていますが、これらのパターンから、ここのピークのところで「離陸」を始めたと考えることができます。

 調べなおしたFJ選手の中間疾走について

 FJ選手と記していますが、実は、2005年の藤巻理奈選手のことです。日本インカレの100mの決勝で、他の選手を2m以上引き離して独走していました。得られた座標値はじゅうぶん信頼できるものと考えられます。最近使っているビデオより、そのころのビデオのほうが、1コマの画像についての画素数が少ないため、しっかりと動きが記録されているのです。
 基本的なデータ解析の手法を改めて、より精密に身体全重心(G)の水平速度や鉛直速度を求めることができました。これまでは有効詳細フォームの「中間状態のところ」を「パワーポイント」と見なしていましたが、「全重心の水平速度が最大値をとる瞬間」を決めることができるようになりました。この瞬間を「パワーポイント」と呼ぶのは正しくないように思えます。最も力が強く作用しているところではなく、その結果として、スピードが最も大きくなるところなのです。そこで、これを、キックにおけるスピード(全重心の水平素度)の「ピークポイント」と呼ぶことにします。かつて、「スプリントランニングフォームの分類」を行ったときに生み出した「脛角と太もも角による分類グラフ」での基準となったデータは、この「ピークポイント」の値でした。  FJ選手のランニングフォームは、50m付近の連続した6歩についてのデータを調べました。次の図2は、1歩目と2歩目についてまとめたものです。他のものについての空中フォームの描写については略します。


図2 FJ選手の解析1歩目と2歩目のランニングフォーム

 FJ選手の中間疾走の解析結果

 50mあたりからの6歩についての解析結果を、図3〜図8としてまとめました。それぞれのキック局面について、次の6種類の解析結果を示しています。
 (a) コマ別ステックピクチャー
 (b) 有効詳細フォームとピークポイント
 (c) 全重心の水平速度(黒)と鉛直速度(緑)
    (d) スウィング脚重心の水平速度(紺)と鉛直速度(緑)
   (e) キック脚重心の水平速度(赤)と鉛直速度(緑)
 (f) フォーム分類グラフとピークポイントのフォーム
 ここでの「有効詳細フォーム」は、有効フォームの間隔が比較的長いものについては「最初」「中間」「最後」の3つを、間隔が比較的短いものについては「最初」と「最後」の2つを描いてあります。描写間隔を「飛値(step)」として添えています。


図3 FJ(1) / 最大スピード(9.01) / δクランクキック


図4 FJ(2) / 最大スピード(9.30) / ピストンキック


図5 FJ(3) / 最大スピード(9.46) / ピストンキック


図6 FJ(4) / 最大スピード(9.00) / δクランクキック


図7 FJ(5) / 最大スピード(9.23) / δクランクキック


図8 FJ(6) / 最大スピード(9.33) / γクランクキック

 考察

 上記解析結果は、図やグラフとなっており、情報量は豊富ですが、ここから何か意味のあることを見出すため、それらの情報から、いくつかの特徴的な指標を選び、次の表1と表2にまとめました。

表1 FJ選手の中間疾走6歩の解析結果(概要)



 FJ選手は「有効フォーム区間」が比較的長いタイプです。FJ(1)の有効フォーム区間を20としていますが、グラフを見なおしたところ、FJ(2)と同じようなパターンなので、これも9〜24などと考えられます。その上でまとめますと、およそ17の有効詳細フォームのキックと、12ほどのキックを生み出していることになります。
 全重心最大速度は9.00〜9.46を生み出しています。SDからの100mのタイムとして換算すると、12秒11〜11秒57に相当します。2005年の女子スプリンターとしてはトップレベルのスピードです。
 フォームの分類では、δクランクキックとピストンキックが優勢なものとなっています。キック局面の後半において、しっかりとキック脚の膝角度を大きくして、キック脚を伸ばすように意図する、「従来型」と名づけられることもあるフォームです。地面を後ろへと「押しやる」とか「払う」といった言葉で表現される感覚のものです。

表2 FJ選手の中間疾走6歩の重心最大速度 [m/s]



 表2では、「全重心」と「スウィング脚重心」と「キック脚重心」の最大速度を拾い上げ、それらの比を求めています。
 FJ選手の6歩のキックにおいて、最も大きな水平速度9.46 [m/s] を生み出しているFJ(3)では、スウィング脚重心の速度も12.39 [m/s] と大きなものですが、SG比は1.31で、とくに他より大きくなっていません。比較的小さなほうです。このときの原動力となったものは、キック脚であることが、キック脚重心速度6.14 [m/s] によって明らかになります。ここのところが、FJ選手のランニングスピードの本質的な特徴だと言えるでしょう。
 この表2の解析でGK比というものを調べましたが、この値は1.54〜1.70の範囲で変化しています。キック脚重心の速度に対して、全重心の速度が何倍になっているかというものです。これの値が、FK(3)では1.54と、最も小さな値です。これは意外なものです。つまり、FK選手は、キック脚をしっかりと伸ばす動作でスピードを高めようとしているのですが、このときの「効率」は、あまりすぐれたものではないということになります。
 このGK比が1.70と、最も大きなものとなっているのは、FK(6)のγクランクキックのものです。全重心の最大速度は9.33で、悪くありません。しかし、FK選手は、この6歩を調べたかぎりにおいては、このγクランクキックを目指そうとはしていないようです。
 ここではFJ選手のフォームについてだけ調べましたが、他の選手のフォームについても調べてゆけば、もっと確かなことが分かってゆくと思われます。
 (Written by KULOTSUKI Kinohito, Nov 3, 2012)

 

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