短距離ランニングフォーム解析 (20)
2005年ガトリン選手の詳細重心解析

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)@ 9621 ANALYSIS


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 2005年9月のガトリン選手

 2005年の9月に日本で行われた100mレースにガトリン選手は出場しています。記録は10秒2くらいだったでしょうか。もちろん優勝しています。このときのレースがテレビ放映されたので、その画面をビデオで撮影しました。リアルタイムのものではなく、録画の、しかも、速度を自由に変えられたスローモーション映像でした。そのため、速度の解析という観点では利用できませんが、ややスローモーションとなっているため、フォームを調べるには好都合でした。

 ガトリン選手のランニングフォーム









図1 ガトリン選手のランニングフォーム(画像をクリック → 拡大画像へ)

 解析の特殊な事情

 このビデオ画像からフレームごとの静止画像を取り出して保存してあるハードディスクから、今回解析するための小画像を切り出し、ランニングフォーム解析ソフトruna.exe に取り込んで、座標を読み込み、このデータから出発し、中間疾走の連続した8歩について調べました。
 もともとの画像では、向かって左から右へと走っていますが、ソフトの都合で、画像を左右反転しましたから、ステックピクチャーの赤色は「左」を、紺色は「右」を示しています。
 通常のビデオ画像は1秒間に30コマが撮影されます。しかし、今回の解析画像はテレビで放映された、ややスローモーションぎみのものでした。しかも、このスローさが同じというわけではないようでした。そこで、記録から逆算して、水平速度を概算して求め、このような水平速度となるような、1秒間のコマ数を推定しました。このため、このあとの解析結果での、全重心の水平速度は、確かに求められたものではありません。よって、これらの差異を議論するのは無意味です。このようにしましたが、推定して調整した全重心の水平速度に対して、スウィング脚やキック脚の速度が、相対的にどのようになるかということを考えるのは、意味のあることです。
 このような観点から、全重心の水平速度dGと、スウィング脚重心の水平速度dSの比としてdS/dGを求め、dGとキック脚重心の水平速度dKの比としてdG/dKを求めたところ、ピストンキックを得意とするFJ選手のパターンとは大きく異なることが分かりました。

 キック局面の解析結果


図2 キック局面の解析結果Gatlin(1)
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図3 キック局面の解析結果Gatlin(2)
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図4 キック局面の解析結果Gatlin(3)
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図5 キック局面の解析結果Gatlin(4)
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図6 キック局面の解析結果Gatlin(5)
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図7 キック局面の解析結果Gatlin(6)
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図8 キック局面の解析結果Gatlin(7)
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図9 キック局面の解析結果Gatlin(8)
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 これらの解析結果から、幾つかの指標となる値をとりだし、次の表1と表2 にまとめました。ここに記した全重心の最大速度は、スローモーション速度が確かではないため、記録からの逆算によって推定したものです。よって、これらの速度の絶対値は意味をもちませんが、これらの速度値の比である「SG比」や「GK値」は意味をもつ指標となります。

表1 2005年ガトリン選手の中間疾走8歩の解析結果(概要)



表2 2005年ガトリン選手の中間疾走8歩の重心最大速度 [m/s]



 それぞれのキック局面における全重心とスウィング脚とキック脚の、水平速度のプロットパターンをまとめたグラフを示します。ここでも速度値の絶対値は確かなものではありませんが、これらの相対的な関係や、変化のパターンが意味をもつことになります。


図10 総合水平速度グラフ解析(1)
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図11 総合水平速度グラフ解析(2)
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図12 総合水平速度グラフ解析(3)
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図13 総合水平速度グラフ解析(4)
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 図10の2歩では、キック局面の後半に加速しようとする様子がうかがえます。しかし、その後の6歩では、もっと短い時間でのキックが行われていることが分かります。少しずつ微妙な変化が見られますが、図11の「Gatlin(3) 左脚キック」のパターンは、スウィング脚の効果も高そうであり、しかも、プロットのパターンが左右対称となっています。このあたりに、ガトリン選手のランニングフォームの要点があるのかもしれません。
 ささいな観察結果ですが、これらのフォームを調べて、ガトリン選手は右脚キックと左脚キックとで、かなり異なる動きとなっていることが分かります。それは、腕振りの違いとして明らかになっています。右脚キックでは、後方へと振る腕が、それほど強くないのに比べ、左脚キックでは、後ろへ振る腕が、肩から強く後方へと動かされています。おそらく、この動作は、左脚キックにおいて、腰を前方へと突きだす動作を打ち消すためのものと考えられます。
 右脚キックと左脚キックのフォームを見比べると、そのときの、スウィング脚のあつかいかたも、かなり違うということが分かります。右脚キックのときに比べ、左脚キックのときのほうが、スウィング脚の膝の角度が大きくなっており、スウィング脚のおりたたみかげんがゆるくなっています。3歩目から8歩目までの6歩について、左脚キックの「キックポイント」のフォームは、いずれもγクランクキックです。「分類グラフ」で確認すると、γクランクキック領域のなかでも、かなり右下のほうに分布しています。このことは、脛角(θs)が大きいということです。つまり、キック脚の脛部分の傾きが大きいということになります。これはガトリン選手をはじめとする、「高速ランニングフォーム」の使い手の大きな特徴でもあります。
 (Written by KULOTSUKI Kinohito, Nov 7, 2012)

 

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