短距離ランニングフォーム解析 (21)
MR, NS, KR, FJ, FS, Gatlin選手らのフォームを比較する

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)@ 9621 ANALYSIS


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 ランニングフォームの比較


図1 各選手のランニングフォームの比較

 図1のランニングフォームを見て、これらの特徴を見出して分類するのは、なかなかできることではないだろう。このようなステックピチャーでなく、実際のランナーが走っているところを見るとか、ビデオに撮影して比較するとしても、本質的なところを見分けることは難しい。
 しかし、次の図2を見れば、これら6選手のランニングフォームを、この「総合水平速度グラフ」のパターンによって、およそ2種類へと分類することができる。


図2 各選手の総合水平速度グラフの比較

 図2のグラフは、上から、スウィング脚重心、全身の重心、キック脚の重心についての、各キック局面における、詳細フォームの、水平速度の変化をプロットしたものである。
 ここで、ことわっておくべきことがある。このようなフォームのタイプは、各選手に固定されたものではないということである。たとえば、FS選手は、Gatlin選手のフォームに近いものも生み出している。Gatlin選手のフォームの中にも、FJ選手のようなものが認められる。
 向かって左側の縦線が入っている部分は、空中から地面へと接地したものの、まだ地面との接触が不十分で、速度が高まっていないところである。また、向かって右側の縦線が入っている部分は、地面にキック足が接しているものの、身体重心はすでに空中へと飛び出しているため、地面との接触がゆるく、動きが遅くなっているところである。
 縦線の入っていないところが、まさに接地中の、地面へと力を加え、その反作用としての抗力を受け取っているところである。これを「有効キック区間」と呼ぶ。ここの部分の、スウィング脚重心と、全身の重心と、キック脚の重心についての、水平速度の変化パターンが違うわけである。
 上段にあるFJ, NS, FSでは、有効キック区間の終わりに向かって、3種の水平速度が高まっている。これに対して、下段のMR, KR, Gatlinでは、有効キック区間の中央部にピークがある。下段のフォームでは、このピークのところから離陸が始まっていると見なして、ここで有効キック区間を終わってしまうこともできる。有効キック区間の長さも、上段と下段とでは異なっている。上段では比較的長く、下段では比較的短い。


図3 各選手の画像コマのフォーム


図4 各選手の有効詳細フォーム区間とキックポイント(最大水平速度のフォーム)


図5 各選手のキックポイント(最大水平速度のフォーム)の比較

 キックポイント(最大水平速度のフォーム)の比較を見ると、Gatlin選手のフォーム位置に、もっとも近いのは、NS選手である。NS選手は100mで10秒79を出していた(その後の記録は確認していない)。ここのあたりにも、何か秘密のようなものがあるかもしない。


図6 各選手の全重心の水平速度(黒)と鉛直速度(緑)

 図2では水平速度のプロットだけを取り出して比較したが、もととなった解析グラフでは、鉛直速度の変化も緑色でプロットしている。これらを観察すると、Gatlin選手のパターンにもっとも近いものは、NS選手のものである。有効フォーム区間右端の方へ向かって、全重心の鉛直速度が負の値になるというのである。無駄に上に向かって飛び出そうとしていないということかもしれない。


図7 各選手のスウィング脚重心の水平速度(紺/赤)と鉛直速度(緑)

 このスウィング脚重心の鉛直速度(緑)のパターンを見ると、やはり、Gatlin選手のものでは、離陸へと向かって、負の値へと大きく落ち込んでいるが、このようなパターンを生みだしているのはNS選手である。


図8 各選手のキック脚重心の水平速度(赤/紺)と鉛直速度(緑)

 キック脚の重心についても、鉛直速度(緑)は、Gatlin選手のパターンにおいて、離陸時に負の値となっている。キック脚の重心が水平より下方へと向かうということは、キック脚の膝を曲げたままで、地面を後方へと押していることになる。このような動きは、他の選手では現れていない。ここに、重要な秘密がありそうだ。
 図4にもどって、キック局面のフォームを見比べてみると、Gatlin選手のものにもっともよく似ているのはNS選手のものである。しかし、図2の総合水平速度グラフのパターンを見ると、NS選手のものは、Gatlin選手のほうにではなく、FJ選手のほうへと近づこうとしている。2005年の段階で、このようなところまで分析するのは無理だっただろう。残念なことである。ここまで分かっていたとしたら、NS選手の記録は、もっと伸びていたかもしれない。
 (Written by KULOTSUKI Kinohito, Nov 08, 2012)

 

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