短距離ランニングフォーム解析 (23)
MR, NS, KL, FJ, FS, Gat選手らのフォームと加速力を比較する

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)@ 9621 ANALYSIS

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 はじめに

 「短距離ランニングフォーム解析 (21) MR, NS, KR, FJ, FS, Gatlin選手らのフォームを比較する」を生み出したのは、2012年の11月8日のこと。その次として「解析(22)」でSG比やGK比やBK比について述べた。このあと、解析方法は次々と生まれたのだが、それらは「高速ランニングフォームのエピソード」のシリーズとして構成してゆくこととなった。はじめは単なるエピソードとしてのエッセイだったのだが、いつのまにか、理論研究の、むつかしい内容のものとなっていった。この理論研究も成熟して、さて、これらの成果を、もっと具体的なランニングフォームへと適用し、もっと実用的に役だつものだということを示そうと考えた。かくして、「短距離ランニングフォーム解析」のシリーズを再開することとなる。
 ここでは「短距離ランニングフォーム解析 (21) MR, NS, KR, FJ, FS, Gatlin選手らのフォームを比較する」に応じて、それらのフォームにおける加速力がどのように作用しているかということについて説明しよう。ただし、KRのフォームは(私自身のフォームでもあるので)、ここ最近のものに置き換え、KLと名づけ直すことにした。クロツキの「ロ」は、発音してみれば分かるが、巻き舌のROではなく、口蓋に舌をつけるほうのLOである。

 ランニングフォーム


図1 ランニングフォーム

 キック局面の詳細フォームと重心軌跡


図2 キック局面の詳細フォームと重心軌跡

 重心軌跡は、上から、キック棒(キック脚と上半身)重心、全重心(黒色)、スウィング脚重心となっている。
 黒い全重心の変化を見ると、NS選手のもので上向きになっている。FJ選手とGat選手では、やや下向きとなっており、他はほぼ水平である。
 スウィング脚重心を見ると、NS選手とMR選手ではレベルスウィングだが、他の4選手はいずれもダウンスウィングである。
 これらの詳細フォームは、地面としっかり力のやりとりをしているものについて描いた。こらの詳細フォームの数が多いとき(FJ選手やNS選手)、ランナーは比較的永くキックしていることになり、(MR選手やKL選手のように)少ないときは、キックの時間が短いと感じていることだろう。

 キックポイントのフォーム


図3 キックポイントのフォーム

 キックポイントとは、キック局面において全重心の水平速度が最大値となるときである。このあと、キック足が地面についているとしても、ランナーは地面を離れて跳び出そうとしていることになる。
 図3に描いた線や点に基づく角度などの情報は、表1としてまとめた。

表1 キックポイントのフォームにおけるデータ



 総合水平速度グラフと加速力

 図4の「総合水平速度グラフと加速力」の解析において、縦線が入っていない中央の明るい領域が有効キック区間で、そこで中のつまった円で表示されているのが各重心の水平速度である。脚の左右によって色は異なるが、上から、スウィング脚重心(紺色かエンジ色)、全重心(黒色)、キック棒重心(オレンジ色か水色)、キック脚重心(エンジ色か紺色)が基本となる4つの重心についてのもの。ピンク色は、スウィング脚重心の水平速度(dS)と、キック棒重心の水平速度(dB)の差 dS-dB である。最下部にあるのが、身体重心(G)とキック足の支点(O)を結ぶ線分である、キック軸(GO軸)の長さにおける変化を示したもので、負値のとき濃い黄色で、正値のとき緑がかった水色で表わしている。
 紺色の実線は、このキック軸(GO軸)の長さの変化から求めた加速度を、重力加速度(g=9.80 [m/ss])で割ったもの。GO軸に沿って、体重の何倍の力が作用しているかを表わす。黒と緑と赤の実線は、黒が全重心水平速度(dG)、緑がキック棒重心水平速度(dB)、赤がスウィング脚重心水平速度(dS)についての、それぞれに作用する力を求めたもの。重力加速度で割って、それぞれの質量比を掛けてある。濃い黄色の実線は、dS-dBから求めた作用力。ランナーの感覚として、スウィング脚を速く動かそうとするときの力を求めようとしたもの。これも、重力加速度で割って、質量比の係数として0.25を掛けてある。


図4 総合水平速度グラフと加速力

 各重心の水平速度のパターンが、上段と下段で異なる。上段ではキック局面の後半にむけて値が大きくなろうとしており、下段ではもっと早くピークを生み出し、その後は急激に低下している。これは、離陸が始まったことに基づくもの。
 FJ選手のピストンキックでは、キック局面の後半に、黒と緑の実線がピークをもとうとしていることが分かる。これがピストンキックの特徴とも言える。キック局面の後半において、キック棒を加速し、全重心の速度を高めようとしている。しかし、このような努力にもかかわらず、全重心は、あまり加速されていない。
 NS選手のケースでは、キックポイントのフォームがガンマクランクキックであるにもかかわらず、生みだされようとしている力は、ピストンキックのパターンのほうに近い。
 FS選手のフォームでは、あまり加速力が生み出されていない。
 下段の3選手のパターンはよく似ている。青いキャップ型の実線は、GO軸に沿った加速のようすを表わしている。黒と緑と赤の線が、このキャップ型の立ちあがりのときに、くさびか爪のようにさしこまれているように見える。このことは、GO軸の加速が、各重心の水平速度の加速へと、うまく変換されていることを示している。
 KLとしている私のフォームは、MR選手やGat選手のパターンを再現しようとして、自分の体でテストしたときのものである。このことにより、このようなフォームが偶然生まれるのではなく、意図して生み出すことができるということが分かった。確かに、解析して、図4下段のようなパターンとなるフォームは、これまでの別のものより、速く走れるし、出力としてのエネルギーも少ないと感じられる。これが、高速ランニングフォーム(サバンナキック)の、本質的なメカニズムだったのである。
 (Written by KULOTSUKI Kinohito, Dec 28, 2012)

 

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