短距離ランニングフォーム解析 (27) TS選手のスプリント中間疾走の詳細重心解析

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)@ 9621 ANALYSIS

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 TS選手のスプリント中間疾走

 TS選手はまだ無名の選手です。ただ、高速ランニングフォームでもっと速く走りたいという思いで、こつこつとトレーニングを続けています。
 初期の解析フォームでは、まだまだ、色々な問題点があって、これをとりあげるのはどうかと思われましたが、最近、かなり上手に高速ランニングフォームで走れるようになりましたので、それについて解析したものを示します。
 今回の解析に用いたランニングは、土のグラウンドでのものです。タイムトライアルのような全速力ではなく、フォームに気をつけて気持ちよく加速出来てゆくかを試すといったものです。それでも、この時期としては、なかなかスピードに乗れています。もちろん、私よりずうっと速くて、しかも、右脚キックのフォームは、高速ランニングフォームとして、かなり上手なものとなっています。

 画像コマのステックピクチャー

 これらの解析の手と脚は、赤が右を、青が左を示しています。TSのあとの23は識別のためのコードです。







図1 画像コマのステックピクチャー

 これらを見ると、偶数番号の右脚キックでは、接地時の重心が低く、キック脚の膝がやや曲がった状態になっています。このときの「接地の感覚」がうまくいっているらしいということが、この後の解析に現れています。
 これに対して、奇数番号の左脚キックでは、少し腰高のフォームとなっています。これはTS選手のクセのようなものでしょう。

 有効詳細フォームとキックポイントのフォーム




図2 有効詳細フォーム(左色つき画)とキックポイントのフォーム(右線画)

 6歩のフォームとも見事に全てガンマクランクキックです。これは、キック脚とスウィング脚の力の集中がうまくできていることによります。これまでのTS選手のフォームでは、スウィング脚の動きがキックの動きから遅れてしまっており、デルタクランクキックとなるものが多くありました。ピストンキックもありました。もちろん、このようなフォームでは、力をばらばらに加えようとしているので、効率の良い加速フォームとなりませんでした。
 向かって右側が右脚キックで、左側が左脚キックです。
 左側のフォームでは、腰高となっていますが、スウィング脚がダウンスウィングとなっており、全重心も高く跳び出そうとはしていないことが分かります。
 これに対して右側のフォームでは、見事に中腰ガンマクランクキックとなっています。スウィング脚はさほどダウンスウィングでもなく、このとき全重心は水平かやや上向きに跳び出そうとしています。
 このように、右脚キックと左脚キックは、たくみに違いを利用し合っています。ガトリン選手に見られた、効率の良い加速フォームである、中腰ガンマクランクキックというものは、このようにして生み出されるのかもしれません。

 総合解析







図3 総合解析
(左上)フォーム分類グラフ,     (中上)TGB鉛直速度グラフ,   (右)総合水平速度グラフ
(左下)有効キック区間の代表フォーム, (中下)SK鉛直速度グラフ                   


 これらの総合解析でとくに注目してほしいところは、「(右)総合水平速度グラフ」(TS23のコードがあるところ)の、各重心の水平速度プロットのパターンと、緑がかった水色のdGOのパターンです。
 各重心の水平速度プロットのパターンは、真ん中で上にとんがっているのが理想的です。
 緑がかった水色のdGOのパターンは、真ん中でぐいっと立ちあがっているのがよいわけです。この変化については、加速度としてのaGOを重力加速度gで割ったaGO/gの、同色実線によるパターンが描いてあります。キャップパターンと呼んでいるものです。これが高いということは、GO軸のバネが強く作用しているということです。
 緑がかった水色の実線キャップパターンを見ると、2歩目でMax=6.5、4歩目でMax=7.5と、大きな値が現れています。とても良い傾向です。6歩目ではMax=5.0と少し小さめになっていますが、水平速度への変換がうまくいったようで、スピードが高まっています。これらはいずれも右脚キックです。
 これに対して、左脚キックでは、緑がかった水色の実線キャップパターンは、いずれも小さなもので、加速フォームとはなっていません。しかし、ランニングフォームというものは、このようなものかもしれません。左脚キックが慣性フォーム(スピード維持)であっても、100mのようなスプリントランニングにおいては、右脚キックでだけでも加速できていれば、スピードを上げてゆくことができます。
 5歩目の左脚キックは、もういいだろうと思って、意図的に力を抜いて走るときのパターンが現れています。7歩目も解析したのですが、これと同じパターンでした。しっかり走ろうと思っていたのは、この解析における4歩目までだったようです。ただし、6歩目の右脚キックでは、それまでの動きの流れで、うまく加速できて、最も速く走れています。これも、もういいだろうと思っているようで、腰高のフォームとなっています。
 「(中下)SK鉛直速度グラフ」のところを見ると、スウィング脚をダウンスウィングしていることが分かります。
 「(中上)TGB鉛直速度グラフ」では、全重心などの動きが分かります。いずれも、あまり鉛直方向の上へと向かっていません。このあたりも見事な技術です。
 (Written by KULOTSUKI Kinohito, Feb 4, 2013)

 

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