短距離ランニングフォーム解析 (30)
2013年日本選手権100m山縣亮太選手の速さの秘密(A)はじめに

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)@ 9621 ANALYSIS

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 はじめに

 これまでの短距離ランニングフォーム解析の画像データとしては、おもに、月刊陸上競技に掲載された連続写真を中心として利用していました。これらは、フィールド内で撮影者がカメラを持って、走ってゆくランナーを撮影するという状況なので、ほぼ真横から撮影した画像データとしては、2歩から4歩程度にすぎないものでした。トップランナーが勝負を決めて独走状態となったときのものが多く、そのようなわけで、すでに大きな速度に達している、中間疾走の後期のものが採用されていました。唯一の例外は、タイソン・ゲイ選手のスタートダッシュ後半が記録されたものです。
 ランニングフォームを研究しているものにとっては、ちようど、それらの間隙となる、スタートダッシュから中間疾走へと移るところが、興味を引くところなのです。ウサイン・ボルト選手や桐生祥英選手が他の選手から抜き出てゆくところのランニングフォームが、いったいどのような違いを持っているのかということが、大きな関心の的なのでした。
 今回解析するのは、2013年日本選手権100m山縣亮太選手のランニングフォームです。このとき山縣選手は、スタートダッシュから他を引き離しており、その「差」を保ったままゴールへと向かったように見えているかもしれません。スタートダッシュでやや出遅れていて、そのあと爆発的に加速したというわけではありません。しかし、そのようなドラマチックな展開に勝るのが、スタートダッシュから抜き出ていて、そのままゴールまで「差」を詰められず、逃げ切ってしまうという、今回、山縣選手がやりとげたパターンです。
 2013年日本選手権100mは、現地で観戦してビデオ撮影することができませんでしたが、TVの画像をビデオ撮影したものを解析に利用することができました。これは2つの条件が満たされたことによります。その一つは、並走しての、ほぼ真横からの撮影であることです。100mのトラックと観客席の間にレールが敷かれてあって、撮影のためのカメラを積んだロボットカ―のようなものが走っていました。これによる画像が放映されました。さらに、二つ目の条件として、ややスローモーションとなっていることが必要となります。1秒間を30コマで撮影した画像を、1秒間を30コマで撮影するビデオで記録すると、画像がずれることによって、とんでもない解析結果となってしまい、信頼性が大きく欠けることとなります。スローモーション画像を通常のビデオ画像で撮影すると、このような困難をかなり避けることができます。
 唯一の問題点は、このスローモーション画像の速さが、任意に変化できるものであったということです。しかし、この問題は、ランナーの1歩に要するコマ数を調べることにより、ほぼ克服することができます。このようにして調べたところ、1秒間で30コマ撮影するビデオで、通常は、ランナーの1歩が7コマ(山縣選手の前半では6コマ)であるのに対し、可変スローモーション画像では、9から11コマとなっていました。
 もうひとつ別のスローモーション画像がありました。これは、ランナーと並走するカメラではなく、おそらく、スタンドの何処かに固定されているカメラによるものと思われます。こちらのスローモーション画像の速さは、さらに遅くて、ランナーの1歩は14コマぐらいになっていました。1秒間に60コマ撮影するビデオ画像なのかもしれません。
 画像の質も大きな問題の一つとなります。月刊陸上競技に掲載される連続写真は、ビデオカメラによるものではなく、連写機能をもつ写真カメラによるものです。これは、ランナーのすみずみまで、きちんと記録されています。とびきり速く動いている、腕や足先のところまで細かく撮影されているのです。ところが、最近のビデオ画像では、画素数を大きくするという問題と引き換えに、速く動いている部分を、きちんととらえきっていないという、おそまつな現実があります。もっと画素数の少なかった、10年前のビデオでは、きちんと細部まで記録されていました。並走カメラの画像にも、この問題はつきまとっています。どういうわけか、1秒間に60コマ撮影していそうな、定点カメラによるスローモーション画像では、細部まで記録されています。おそらく、値のはる機械を使っているのでしょう。
 このような問題点はありますが、並走カメラによって、100mのほぼ全区間にわたって、ランナーのほぼ真横から撮影した画像が得られたということは、ランニングフォーム研究のためには、とても重要な意味を持ちます。これまで、ほとんど解析画像が得られなかった、世界や日本でのトップランナー(具体的には、今回の、山縣選手)のランニングフォーム画像が得られました。
 2013年日本選手権100mにおいて山縣亮太選手は、スターティングブロックから跳び出す1歩目から数えて、47歩でゴールへと跳び込んでいます。このときの、1歩目から7歩目までは、スローモーション画像として得られていませんが、8歩目から47歩目以降まで、トップの山縣選手を中心とした画像が記録されています。となりのレーンで2位となった桐生選手のフォームも観測できますが、まずは、山縣選手の8歩目から47歩目までを解析しました。
 各キックフォームにおける、キックポイントでの、ランニングフォームの分類と、全重心水平速度(dG)、キック脚重心水平速度(dK)、ヒップドライブ速度(dT-dK)、相対スウィング速度(dS-dB)などの各速度と、キック軸加速度比(aGO/g)を調べました。
 これらを詳しく調べ、これまでの解析結果と比較して考察することにより、山縣亮太選手の速さの根拠となる要因が分かってきました。そして、そのような「強さとしての要因」を生み出すため、山縣選手が、レースの中でのキックフォームとして、どのようなことを意図しているのかということも、おそらく、明らかにできると思います。それらが、きっと、「速さの秘密」と見なされるものとなることでしょう。

 解析の流れ

 スタートからの7歩は観測されていないものの、8歩目からゴールへと向かう47歩目までの、ほぼ真横からの画像が得られているので、これを解析し、その結果を詳しく説明するということとなると、これまでとは比べようもない時間が必要となります。解析結果をすべて詳しく(みなさんにも理解できるようなものとして)表示しようとすると、何ヶ月もかかるかもしれません。しかし、解析結果は、すでに明らかなものとなっています。私が解析し、その結果を簡単なフリーハンドのグラフに描いて考察するという方法なら、数日以内ですみます。これは、すでにやり終えています。結論はすでに分かっているのですが、それを、論理的に説明するには、とても時間がかかってしまうのです。
 2013年日本選手権100m山縣亮太選手のランニングフォームを解析した結果を説明するため、これらのデータを、およそ3つか4つに分けて示そうと思います。スタートから7歩目までの画像はありませんから、8歩目から、およそ10歩分のところを、最初のグループとします。これは、スタートダッシュの後半部分と考えられます。トップスピードへと向かう、重要な加速部分です。2つ目のグループは、トップスピードを維持してゆく、中間疾走のところです。これは、前期と後期として、それぞれ10歩ずつくらいをグループとすることができます。全体で47歩でしたから、残りは、ゴール手前の10歩ということになります。いわゆるラストスパートというグループです。

 おことわり

 このページは、私の解析ページには似つかわしくない、まったく、解析画像を含まないものとなりました。示そうと思えば、解析画像は非常にたくさんあるのですが、それを示したとき、それらについての解説をするとなると、これまた、ひじょうに多くの時間が必要となります。
 このページは、いわば、予告編のようなもの、あるいは、純粋な「はじめの諸注意」をまとめたものとなります。
 次は (B)スタートダッシュ後半 についての解析結果を説明するつもりです。
(Written by KULOTSUKI Kinohito, June 13, 2013)

 

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