短距離ランニングフォーム解析 (38)
マスターズ陸上M60クラスSO 選手のランニングフォーム概観

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)@ 9621 ANALYSIS

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 はじめに

 OS選手はマスターズ陸上M60クラスです。もう少し若いころには長距離をやっていたそうですが、歳を重ねてから、短距離走の魅力にはまったそうです。
 今回解析するのは、レースにおけるランニングではなく、トレーニングにおける、いわゆる、フロートとかテンポ走と呼ばれる、フォームやコンディションの調整のためのランニングです。このため、スピードそのものは、レースのときのものより、幾分遅くなっています。
 ランニングフォームを撮影したビデオを見せると、「速く走るにはどうしたらよいのか」と問われました。そこで、詳しく解析することにしたわけです。
 解析の結果、この問いに対する回答を幾つか提示することができたと思われます。
 今回の解析のもととなったビデオ画像では、ランナーは左に向かって走っていますので、解析ソフトは、このときの右脚と右手を赤色で、左脚と左手を青色で描きます。
 また、このときのビデオ撮影は通常のモードであり、1秒間に30コマを記録するものです。

 ランニングフォーム概観

 次の図1は「SO選手のランニングフォーム(左)とスピード能力3要素寄与式の三角表示(右)」です。これらの画像をクリックすると拡大ページへ進みます。拡大ページの構成は、[1] 拡大ランニングフォーム、[2] キック局面の詳細データ、[3] 総合解析、[4] スピード能力3要素寄与式 dG=p(dT-dK)+dK+q(dS-dB) の三角表示の4つを並べたものです。
 SO(10)のランニングフォーム(右)がビデオ画像10コマとなっているのは、ここだけがスローモーション撮影となっているからではありません。とても珍しい現象ですが、確かに、他では8コマほどなのに、ここで増えているのです。これは、接地時間がきょくたんに永いことに由来しています。接地してすぐ、アルファクランクキックとなりそうな、全速度のピークが見られましたが、そのまま離陸するのではなく、再び全速度を少し低下させ、地面に接したまま動いたあと、デルタクランクキックでピークを生み出して離陸したというわけです。そういえば、私も、若いころ、400mなどを走るとき、このような、接地時間の永いキックフォームで走っていたのだと思います。なぜかというと、このほうが、瞬間的に大きな力を生み出すことなく走れるので、比較的長い距離を走るときは「楽」だったのです。しかし、全速力で走るときのランニングフォームというわけではなかったと思います。
 スピード能力3要素寄与式の三角表示(右)の評価は、(1) できるだけ右にある(→ キック脚重心水平速度((キックベース速度) dKが大きい)、(2) 三角形の面積が大きい(→ ヒップドライブ速度(ペンジュラム速度) dT-dKや相対スウィング速度 dS-dBが大きい)の2点に着目しておこなうとよいでしょう。面積が大きいのはSO(14)とSO(20)とSO(21)ですが、SO(20)が最も右あって、dK値も大きく、優れたフォームとなります。













図1 SO選手のランニングフォーム(左)とスピード能力3要素寄与式の三角表示(右)
(画像をクリックすると拡大ページへ進みます)

 考察

 SO選手のスピード向上のための問題点は、次のようなものと考えられます。
 (*a) キック脚重心水平速度(キックベース速度) dKが比較的小さい。
 キックベース速度は、全速度dGの、およそ60パーセントの寄与率となっています。これでスピードを稼げていないのは致命的です。足首まわりの強化、ふくらはぎのパワーなどを強化し、前進する動きを意識したスキップAやスキップBのドリルを行って、キック脚の膝下部分での動きがうまく水平速度へと転化できるという感覚を見出す必要があります。キック軸加速度比aGO/gの値も、SO(20)の8.8以外は、不十分なものです。接地前から、地面を強く真下に押すという動きをしっかりと意識することが必要です。
 (*b) キック局面の時間が永すぎて、力の集中ができていない。
 [2] キック局面の詳細データの左下にあるグラフで、全重心水平速度(黒丸)のプロットパターンが平たんになっていることが、これを示しています。力の集中ができていると、黒丸のプロットパターンが、もっと上に尖ってきます。総合解析の右にあるグラフでも、dKやdT-dKやdS-dBのピークが、dGのピークと一致するような、動きが一瞬に向かって統一されているフォームが理想的です。
 (*c) キックポイントが遅れぎみで、加速効率の悪いデルタクランクキックに偏ってしまっている。
 接地して「休む」ことなく、直ちに重心直下を真下の方向へと押すことにより、加速効率の良い、ベータクランクキックやガンマクランクキックを生み出すことができます。この感覚を身につけるために、スキップA系のドリルをたっぷりと行うべきです。
 (Written by KULOTSUKi Kinohito, Sep 23, 2013)

 

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