短距離ランニングフォーム解析 (42) YG選手のランニングフォーム概観

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)@ 9621 ANALYSIS

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 はじめに

 YG選手は20歳のハードラーです。身長は1m80で脚も長く、まさにハードル選手にぴったりです。
 2013年10月27日(日)に、水口スポーツの森にある、甲賀市陸上競技場(青い高速オールウェザー)で、高速ランニングフォームの指導を行いました。具体的には、(黒月式)走の基本ドリルを私が実演して説明し、短い距離で1本〜2本程度なぞってもらい、最後に、どのようなフォームで走れるようになっているかを、テストのようにして試みてもらい、それをビデオで撮影して解析したものです。夕方になって寒かったのと、疲れもあるので、トップスピードではなく、コントロールスピードで、フォームの感覚に注意して走ってもらいました。
 これらの講習の前に、1本、それまでのフォームで走ってもらいました。それをビデオ画像で記録しておいて比較すると、もっと分かりやすかったかもしれませんが、撮影しておくのを忘れました。ただし、それを見たときの私の感想として、「キックにおける力の集中が、よく出来ていない」と述べました。キック脚による(キックベース速度を大きくする)加速よりも、キック脚の膝を中心としたメトロノームのような振り子運動で上半身を前方へと送る動きが目立っていたのです。このようなタイプのフォームでは、キック局面で、時間をかけて加速しようとするため、たいていのケースでデルタクランクキックとなります。
 このような、目視による観察での判断は、ビデオ画像からの解析によって実証できました。
 今回の解析のもととなったビデオ画像では、ランナーは左に向かって走っていますので、解析ソフトは、このときの右脚と右手を赤色で、左脚と左手を青色で描きます。
 また、このときのビデオ撮影は通常のモードであり、1秒間に30コマを記録するものです。

 全速度dGとスピード能力3要素の変化

 図1はYG選手の全速度dGとスピード能力3要素の変化です。スピード能力3要素とは、全速度dGの独立した3つの成分速度で、キックベース速度(キック脚重心水平速度)dK、(係数p=2/3つき)相対トルソ速度p(dT-dK)、(係数q=1/4つき)相対スウィング速度dS-dBとなります。これらを加えるとdGとなります。pやqの係数は、これらの関係を見出すときに利用した、運動量保存の関係での、身体各部の質量比に由来するものです。


図1 YG選手の全速度dGとスピード能力3要素の変化

 図1のdGグラフには、それぞれのキックフォームについての分類記号が添えられています。gdは、正式にはガンマデルタ(γδ)クランクキックですが、他の記号と紛らわしくなるので、これだけアルファベット表記としています。
 YG選手の(ドリル学習以前の)従来のフォームの片鱗は、解析1歩目から5歩目までと、後半の、力を抜いて走っている、解析12歩目と14歩目に現れているようです。
 今回のドリル練習による成果は、解析6歩目から11歩目までの6歩のところに現れていそうです。dGの値も大きくなり、ガンマクランクキック(γ)が4歩生み出されています。7歩目のデルタクランクキック(δ)は、1歩目のピストンキックや3歩目のデルタクランクキックの仲間と見なせます。もっとも成功しているガンマクランクキックは、dK値も大きくなっている11歩目のものです。10歩目のガンマデルタクランクキック(gd)のdGも大きく、このときは、相対トルソ速度p(dT-dK)が比較的大きくなっており、三角形の面積が大きく見えます。ただし、このときのキックベースはあまり大きくないものなので、三角形が左に位置しています。今後のトレーニングの狙いとしては、これらの2歩の、良いところだけを組み合わせることでしょう。つまり、10歩目での相対トルソ速度を大きくする動きを組みこみながら、11歩目での、大きなキックベース速度を生み出せるようにするというものです。

 ランニングフォーム概観

 次の図2は「YG選手のランニングフォーム(左)とスピード能力3要素寄与式の三角表示(右)」です。これらの画像をクリックすると拡大ページへ進みます。拡大ページの構成は、[1] 拡大ランニングフォーム、[2] キック局面の詳細データ、[3] 総合解析、[4] スピード能力3要素寄与式 dG=p(dT-dK)+dK+q(dS-dB) の三角表示の4つを並べたものです。
 スピード能力3要素寄与式の三角表示(右)の評価は、(1) できるだけ右にある(→ キック脚重心水平速度((キックベース速度) dKが大きい)、(2) 三角形の面積が大きい(→ ヒップドライブ速度(ペンジュラム速度、あるいは、相対トルソ速度) dT-dKや相対スウィング速度 dS-dBが大きい)の2点に着目しておこなうとよいでしょう。
 このときのランニングは、ビデオから展開した画像の、任意のフォームから解析していますので、YG(1)の番号1は、スタートからの歩数ではなく、ランニング途中からの「解析番号」を示しています。

図2 YG選手のランニングフォーム(左)とスピード能力3要素寄与式の三角表示(右)
(画像をクリックすると拡大ページへ進みます)

 まとめ(対策)

 短時間のドリルトレーニングだけでしたが、YG(11)のような、優れた高速ランニングフォームを生み出すことができました。それよりも、加速段階での、キック脚の膝が伸びた、腰高フォームが問題です。どうやら、こちらのフォームのほうをしっかりと教える必要があったようです。しかし、見本で示した、(黒月式)走の基本ドリルを幾つか選んで繰り返し行ってゆくことにより、ここに示した問題点が消えてゆき、より優れた高速ランニングフォームとなってゆきます。まだまだ全体の筋力不足です。速筋を中心として、もっと筋肉量を増やしてゆれば、自分が想像しても見なかったようなタイムが出せるスプリンターへと変身することになるでしょう。もちろん、できるだ故障を避けて、順調に発達してゆけば、の話です。自分のコンディションを考えて、適度な負荷をかけていってください。
 (Written by KULOTSUKI Kinohito, Nov 3, 2013)

 

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