短距離ランニングフォーム解析 (43) UK選手のランニングフォーム概観

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)@ 9621 ANALYSIS

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 はじめに

 UK選手は16歳のハードラーです。身長は1m65ですが、ハイハードルを何の苦もなくクリアーしてゆきます。
 2013年10月27日(日)に、水口スポーツの森にある、甲賀市陸上競技場(青い高速オールウェザー)で、高速ランニングフォームの指導を行いました。具体的には、(黒月式)走の基本ドリルを私が実演して説明し、短い距離で1本〜2本程度なぞってもらい、最後に、どのようなフォームで走れるようになっているかを、テストのようにして試みてもらい、それをビデオで撮影して解析したものです。夕方になって寒かったのと、疲れもあるので、トップスピードではなく、コントロールスピードで、フォームの感覚に注意して走ってもらいました。
 これらの講習の前に、1本、それまでのフォームで走ってもらいました。UK選手はハードルのインターバル走を意識して、かなり前傾してハイピッチで走っていました。キックポイントは、身体重心よりやや後方で、おそらく、ガンマデルタクランクキックからデルタクランクキックあたりのフォームのように見えました。
 幾つかのドリル種目を試してもらったときの印象として、ハイステップスキップAやB、ロングステップスキップAやBといった、キック力強化のドリルで、スウィング脚のほうは力強く動かせるのですが、キック脚のほうの、膝のところで、しっかりとのびきっていないということを感じました。この印象は、この後の解析結果によって裏打ちされることとなります。
 今回の解析のもととなったビデオ画像では、ランナーは左に向かって走っていますので、解析ソフトは、このときの右脚と右手を赤色で、左脚と左手を青色で描きます。
 また、このときのビデオ撮影は通常のモードであり、1秒間に30コマを記録するものです。

 全速度dGとスピード能力3要素の変化

 図1はUK選手の全速度dGとスピード能力3要素の変化です。スピード能力3要素とは、全速度dGの独立した3つの成分速度で、キックベース速度(キック脚重心水平速度)dK、(係数p=2/3つき)相対トルソ速度p(dT-dK)、(係数q=1/4つき)相対スウィング速度dS-dBとなります。これらを加えるとdGとなります。pやqの係数は、これらの関係を見出すときに利用した、運動量保存の関係での、身体各部の質量比に由来するものです。


図1 UK選手の全速度dGとスピード能力3要素の変化

 図1のdGグラフには、それぞれのキックフォームについての分類記号が添えられています。gdは、正式にはガンマデルタ(γδ)クランクキックですが、他の記号と紛らわしくなるので、これだけアルファベット表記としています。
 ビデオの画像は、スタンディングスタートからのランニングについて、解析可能な姿勢のところから残したのですが、初めのあたりは、今回指導した、高速ランニングフォームとしての中間疾走とは無関係な、通常のスタートダッシュのフォームだったので、およそ、解析歩数の5歩分を省略し、解析歩数の6歩から解析しました。
 図1によれば、解析11歩目のところの全速度dGが大きく突出しています。このときのガンマクランクキックのフォームが、今回のトレーニングの成果だと言えます。14歩目と17歩目のところにアルファクランクキックのフォームがあって、少し大きめの速度dGとなっていますが、未完成のフォームと言えます。しかし、指導前のフォームでは存在しなかったはずの、アルファクランクキックやベータクランクキックが数多く生まれており、高速ランニングフォームの基本的な動きが理解できていることがうかがえます。
 図1のキックベース速度(キック脚重心水平速度)dKが、4.0 [m/s] 前後のところで、あまり突出した値をもたずに推移しています。大きなdG値の11歩目でも、あまり大きなdKとはなっていません。走の基本ドリルにおいて、スキップA(B)ゴーオンや、ハイステップスキップA(B)、ロングステップスキップA(B)などの種目が、うまくこなせていなかったことの結果が、ここに現れています。

 ランニングフォーム概観

 次の図2は「UK選手のランニングフォーム(左)とスピード能力3要素寄与式の三角表示(右)」です。これらの画像をクリックすると拡大ページへ進みます。拡大ページの構成は、[1] 拡大ランニングフォーム、[2] キック局面の詳細データ、[3] 総合解析、[4] スピード能力3要素寄与式 dG=p(dT-dK)+dK+q(dS-dB) の三角表示の4つを並べたものです。
 スピード能力3要素寄与式の三角表示(右)の評価は、(1) できるだけ右にある(→ キック脚重心水平速度((キックベース速度) dKが大きい)、(2) 三角形の面積が大きい(→ ヒップドライブ速度(ペンジュラム速度、あるいは、相対トルソ速度) dT-dKや相対スウィング速度 dS-dBが大きい)の2点に着目しておこなうとよいでしょう。
 このときのランニングは、ビデオから展開した画像の、任意のフォームから解析していますので、UK(6)の番号6は、スタートからの歩数ではなく、ランニング途中からの「解析番号」を示しています。

図2 UK選手のランニングフォーム(左)とスピード能力3要素寄与式の三角表示(右)
(画像をクリックすると拡大ページへ進みます)

 まとめ(対策)

 上記「ランニングフォーム概観」の「拡大ページ」の説明文のところで、具体的な問題点について、こと細かに指摘してきました。
 それによると、UK選手の体力的な問題点として、キック脚の足首部分がかなり弱いと分かりました。技術的な問題点としては、ハードルのインターバルをなんとか3歩でこなそうとして試みている、キックポイント後に高く跳び出そうとする動きが、ランニングスピードを高めることの「障害」となってしまっています。
 ハードルのインターバルは、ジャンプ力によってこなすのではなく、水平スピードを失わず、ところどころで高めるという方針で動きを変えて行かないと、こちらの記録も伸び悩むと思われます。
 ランニングでの足首が弱いという問題点は、走の基本ドリルをしつこく行うことや、もう少し静かな補強としてヒールレイズを行えば解決してゆきます。
 キックベース速度が低調だという問題点も、足首強化と並行して、ウォークゴーオン、ジョッグゴーオン、スキップAゴーオン、スキップBゴーオン、ハイステップスキッブA(B)、ロングステップスキップA(B)に取り組めば、自然と解決してゆきます。ハイステップスキッブA(B)などは、慣れれば、Bだけをやったほうが合理的です。
 スキップB系の動きは、ハードルを置かない、フラットランニングできちんとマスターしておくべきです。それによる、キックベースを大きくして利用できるランニングフォームが無意識に使えることで、ストライドも自然と伸びます。
 (Written by KULOTSUKI Kinohito, Nov 4, 2013)

 

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