短距離ランニングフォーム解析 (4) メカニズム

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)@ 9621 ANALYSIS

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 はじめに

 ランニングにおける力学的な仕組みについて説明します。これは、短距離、中距離、長距離のような、距離によって変わるものではありませんが、それぞれにより、要素の重要度が変わってきます。ここでは、おもに短距離ランニングフォームのことを想定して説明してゆきます。

 ドライブがかかったボールの動き

 卓球やテニス、あるいはバレーボールなどで、ボールにドライブがかかった状態というものがあります。このようなボールが卓球台や地面でバウンドしたあと、それまでの水平スピードを増すことが知られています。このときの力学的な仕組みを説明します。
 (a)のボールは、赤色の向きに回転しながら、青色の速度をもって進んでいます。このとき、このボールは、進む速度に由来する運動量と回転にもとづく角運動量というものをもっています。
(描写していませんが)重力が常に作用しており、やがて、地面に落下します。
 (b)で地面に接地したとき、地面との摩擦によって、このボールの回転が止まったとします。このとき、このボールが緑色の棒のようになったとみたてて、これを前方へと回転させようという力(黒い矢印)が生じます。
 (c)へ向かうとき、(b)で起こった現象により、ボールの回転は遅くなり、かわりに、水平速度が高まります。ボールがもっていた全体の運動量の配分が変わったということになります。(c)では、回転にもとづく角運動量が小さくなった分、進む速度に由来する運動量が大きくなるわけです。


図1 ドライブがかかったボールの動き

 ランニングフォームの加速3要素

 ランニングフォームの加速にかかわる要素として、「運動量の変化によるドライブ効果」「キックによる地面からの抗力」「スウィング脚の効果」の3つがあります。


図2 ランニングフォームの加速3要素

  図2の「(1)運動量の変化によるドライブ効果」では、図1で説明した、ドライブ回転のボールが地面でバウンドするときに生じる、運動量の再編という現象がかかわってきます。しかし、まったく同じというわけではありません。
 空中にあるランナーは、水平速度による運動量をもっています。さらに、前脚のスウィングによる角運動量をもっていますが、体全体がドライブボールのように回転しているわけではないので、これを補うための、逆回りとなる、スウィング脚の角運動量や、上半身の角運動量を生み出しているはずです。つまり、ランナーは、空中に浮かんでいるとき、水平速度による運動量だけをもっているわけです。ですから、図1のような、ドライブボールによる接地時の加速効果は期待できません。
 このあと、地面に接地すると、体は一本の棒のようになって、下端を地面に固定し、上端が前方へと振り回されるような状態になります。ここで、水平運動による運動量が、棒のようになった体の回転運動としての角運動量へと変化します。
 このとき、棒状態の体が回転作用を受けるわけですが、身体重心と地面の接地点とが鉛直になっていると、回転を始める向きが水平になるということに注目してください。高速ランニングフォームにおいては、身体重心直下で、真下方向へとキックするというコツがあります。このコツのメカニズムは、ここにあるのです。
 図2の「(1)運動量の変化によるドライブ効果」だけだと、水平方向から少し下方へと向かう回転が生じることとなります。ここのところの説明は誤っていました。キック脚のスパイク面が接着剤のようなもので地面から離れないようになっていれば、このような回転が生じることでしょうが、そうはなっておらず、スパイク面は容易に地面から離れることができます。「水平方向から少し下方へと向かう」ことになるのは重力が働いているからでした。キック以前のランニングにおける跳躍と同じような高さへと戻るためにこのような重力の作用に逆らって、いくらか跳躍するために、そして、さらに加速するために、図2の「(2) キックによる地面からの抗力」を生み出しておく必要があります。このとき、高速ランニングフォームにおいては、キック脚の特殊な形が作用して、足首のところで地面を後方へとはじくこととなります。足首の角度は小さくなってから、急に大きくなろうとします。同時に、膝の角度も、やや小さくなったあと、少しだけ大きくなります。
 もう一つ忘れてならないのは、図2の「(3) スウィング脚の効果」です。実は、「(1)運動量の変化によるドライブ効果」が作用しているとき、スウィング脚は、この効果とは独立して動いています。何も意識していなければ、「(1)運動量の変化によるドライブ効果」によって組み直された運動量の一部を、この、自由に動ける状態になっているスウィング脚が受け取って、それまでの速度を大きくすることになります。
 図2の「(3) スウィング脚の効果」が意味をもつのは、自然に受け取る運動量による速度アップ以上の動きをスウィング脚が生み出したときです。おそらく、意図的にピッチを上げようとして、スウィング脚の動きを速くしようとしているときに、「(3) スウィング脚の効果」が発生しているものと考えられます。

 短距離ランニングにおける加速のコツ

 このようなメカニズムにもとづいて、実際のランニングにおいて注意すべきこと。
 (A) 前方に振り出した脚は、よく伸ばして、大きくスウィングします
 (B) 地面に接地するとき、身体重心直下を真下に押すようにします。
 (C) 地面に接地するとき、スウィング脚を除いた、残りの体は、一瞬、力を込めて固めます
 (D) このキックにスウィング脚の動きも合わせます。
 (Written by KULOTSUKI Kinohito at Oct 13, 2012)

 この時点における「短距離ランニングにおける加速のコツ」を(A)〜(D)のように記しましたが、この後の解析研究などにより、これらの中で(A)と(C)は除外すべきだと思われます。(A)の「スウィング脚を前方でよく伸ばす」というものは、あまり重要なものではなく、(B)の「身体重心直下を真下に押す」ということができるかぎり、スウィング脚の膝をとくべつしっかりと伸ばす必要はないと思われます。ただし、前方に出したスウィング脚の、膝下部分がじゅうぶんにリラクセーションされていた(力が入っていない)とき、自然と脚が伸びるというのであれば、このような動きは否定されるものではありません。スウィング脚の膝を伸ばすことにこだわりすぎると、接地時のフォームが「腰高」になってしまうおそれもあります。身体が「浮く」と、うまく加速できないので、どちらかというと、「中腰フォーム」のほうがよいようです。接地時に、膝が直ちに少し曲がるようにしたほうが、うまく「中腰フォーム」へと移れるようです。
 (C) の「体に力を込めて固める」というコツは、すこしきょくたんな表現だと思われます。力をこめなければいけませんが、体を固めるというところまでめざしてしまうと、力を無駄に永く加えてしまいそうです。

 「短距離ランニングのメカニズム」について新しく分かったことが、次のページにあります。
 より詳しい 高速ランニングフォームのメカニズム
 また、「高速ランニングフォームの研究で分かったこと」の(3)キック軸 GO と GO前傾角で、上記(B)についてのメカニズムについて詳しく説明しています。参照してください。
 (Written by KULOTSUKI Kinohito at May 3, 2013)

 

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