高速ランニングフォームのためのトレーニングメニュー(2)
高速ランニングフォームを身体に覚え込ませる

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)@ 9621 ANALYSIS

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 高速ランニングフォームを身体に覚え込ませる

 次の手順ですすめて下さい。

1) ウォーミングアップとしてジョギングと準備体操
 このとき、左右のアキレス腱をしっかりのばしておいてください。

2) 地面ではじけるスキップ系ドリル
 a) 地面ではじける連続ももあげ(スキップA)
  (水平スピードを殺して) 40m ×1本 
 b) 地面ではじける連続ももあげ(スキップA)
  (水平スピードをあげてゆく) 40m ×1本 
 c) 地面ではじける連続ももあげからのスウィング(スキップB)
  (水平スピードを殺して)   40m ×(1〜2)本
d) 地面ではじける連続ももあげからのスウィング(スキップB)
  (水平スピードをあげてゆく) 60m ×1本

3) ランニングフォームを磨くためのテンポ走
  スタンディングスタート → 高速ランニングフォームへ移る
(トップスピードの80%〜90%くらいで) 80m ×4本 ×(2〜3)セット
 このトレーニングメニューでは、次のポイントを意識するようにして行ってください。

 a) 身体重心直下でのキック位置
 上記のスキップ系ドリルの、水平スピードを殺しておこなうスキップAやスキップBでの、地面ではじける感覚で、地面をキックできていますか。
 地面を後方に押すのではなく、真下に押すのです。
 できるだけ短い時間でのキックを心がけてください。足首に力をこめて、ここの部分のバネを強く意識し、はじけるように地面を打つ感覚です。
 慣れないうちは、身体重心直下より少し前でスパイク面を接地する感覚が、地面で何かに「けつまづく」ように思えるものです。この感覚は、短い時間でのキックを心がけてゆくと、力の集中がうまくいって、気にならなくなってゆくはずです。
 短い時間での、はじけるようなキックのあとキック脚の力を抜きます。このことにより、後方へ流れたキック脚が、お尻のほうへと巻き上げられずに、地面で反発して、直ちに前のほうへと戻る感覚となります。外から観察すると、実際は、キック脚は後方へと流れます。このあと、キック脚はスウィング脚へと役目を変えることになります。このスウィング脚の膝が折りたたまれるか開いたままかということは、あまり意識しなくてもよいようです。高速ランニングフォームで走っている世界のトップランナーでも、ここのところの違いはいろいろです。

 b) 前方へのスウィング脚の振り出しにおけるリラクセイション
 スウィング脚がいくらか折りたたまれて身体重心直下あたりを通過し、キック脚の作用を補助したあと、膝が前方へと出てゆきます。このあと、上記のスキップBの動きで、膝から下の部分が前方へと振り出されます。ここで、スイング脚全体がのびるようにしますが、これは、力を抜いて、うまくリラクセイションすれば、自然にのびるものです。200mや400mのときは、ここで「空気に乗り」、無駄に力を入れずに休んでおくことになります。このあとのキックのタイミングを、ここでの動きで調整することになります。

 c) キック時における力の集中
 ランニングにおけるキックは、キック脚だけでおこなっているわけではなく、スウィング脚の動きも役だっています。まず、この注意点の第一段階としては、キック脚の動きのピークとスウィング脚の動きのピークを合わせることです。これがうまくいっているときのフォームを「シンクロキック」と呼んでいます。長距離では高橋尚子選手が、短距離ではガトリン選手が、見事なシンクロキックを見せてくれていました。これは、ランナーの内的な感覚としては、「キック時に力を集中する」というものです。この感覚はシンプルなものですが、みがきあげてゆくことにより、キックの効果が高まります。
 キック時における力の集中の第二段階は、お尻や背中の筋肉も使って、より大きな力を生み出すということです。これは、ふだん、あまり意識していないようですが、意図して試みれば、このようなことは可能です。これがうまくいったら、お尻や背中に力が入っていることが分かり、痛みのような感覚を覚えます。慣れないうちは、連続したキックではおこないづらいものです。どちらかのキック脚で、1回だけ、このような感覚を覚えるようにしてください。これができたら、今度は、違うキック脚で1回だけ試みます。実は、1回だけでも、このように、全身を使ったキックを行うと、そこで加速されて、スピードが高まります。さらには、右脚キックで2回3回と繰り返します。また、左脚キックでも繰り返してゆきます。このようなことに体が慣れてゆくと、連続した左右のキックで、全身を使ったキックを行うことができるようになります。先日のロンドンオリンピックの100mを観察したところ、ガトリン選手の予選のフォームでは、突然加速が生じた1歩がありました。ところが、決勝では、ボルト選手が、左右連続の強いキックをやってしまい、ガトリン選手を振り切ってしまいました。

 ※ ここのところの「キック時における力の集中の第二段階 / お尻や背中の筋肉も使って、より大きな力を生み出す」というところは、意図的に行うべきものではないようです。このような「強いキック」や「突然の加速」というものは、「大きな力」を出そうとして生み出されるものではなく、どちらかというと、「ピッチを上げる」とか「スピードを出す」という意識のもとで、キックの位置やタイミングが調整され、そして、力の集中ぐあいが高まることにより、自然と生み出されるもののようです。そのときのフォームを観測して調べてみると、「より大きな力が生み出されている」ということのようです。また、「お尻や背中の筋肉も使って」と記しましたが、背中の筋肉を使って力を生み出すというのは難しく、これによって実際にスピードが高まっているかどうかは、まだ確かなものではありません。これに対して「お尻」のほうは、実際にスピードを高めるために使われているようです。ほぼ身体重心直下での、具体的に言いますと、身体重心Gとキック足支点Oを結ぶGO前傾角が鉛直線から測って10度くらいまでの状態で、非常に短い時間でのキックが行われるように走ることができると、大殿筋の下部が強く使われ、トレーニングののちに筋肉痛が生じるようになり、後日、この部分が発達するということになります。

 キック時における力の集中の第三段階は、より高度な感覚となります。実は、このような力を集中させるときには、「体の動きを止める」ということが重要なコツなのです。野球のバッティングで、ホームランを打つときのバッタ―は、ボールをバットでとらえたとき、全身の動きを止めて、それまでもっていた「運動量」のすべてをボールへと移しています。陸上競技の例としては、棒高跳の選手がポールをボックスに突っ込んで踏み切ったとき、全身の動きを止めて、もっていた「運動量」をポールへと移して、このポールを曲げようとしています。バーベルを持ち上げる運動などでも、大きな力を生み出すときには、動きが一瞬止まっているものです。ランニングにおいても、キック時で、より大きな力を生み出そうというときは、力をこめる一瞬だけ、「体の動きを止める」ようにするとよいのです。このとき、地面に力が伝えられ、その反作用としての「抗力」がランナー自身へと作用し、ランナーの身体重心を加速することになるわけです。

 ※ ここのところも「考えすぎ」だったかもしれません。トレーニングがうまくいって、以前より速く走れるようになってきてふりかえってみると、上記の表現はオーバーだったと思えてきます。「力をこめる一瞬だけ、体の動きを止める」というよりは、「力をこめるのを、できるだけ短い時間に集中する」と考えたほうがよいように思います。このとき、力の伝達が終わった瞬間に、体の動きは止まることになります。同じような現象ですが、「体の動きを止める」ということに意識を集めるのではなく、「力を集中させる」というほうに意識すれば、その結果として、一瞬ですが、「体の動きが止まる」ということなのです。

4) 高速ランニングフォームのための補強運動
 これは、余力が残っているときに行ってください。上記3)のトレーニングは、意識のもちかたにより、さまざまなトレーニング負荷となります。足首やふくらはぎへの負荷が大きなものだと感じられたら、ここの補強運動はやらないほうがよいでしょう。

 a) 地面ではじける連続ももあげ(スキップA)100m×(1〜2)本
 水平スピードについては、あまりこだわらなくてもかまいませんが、できれば、遅い目にして行います。キック後ただちに力を抜くことができれば、100mの距離をこなすことができます。

 b) 地面ではじける連続ももあげからの大きなスウィング(スキップC)
  50m×(2〜5)本
 スキップBより、さらに膝を高くあげてからスウィングする運動をスキップCと呼ぼうと思います。もちろん、地面でのキックは、足首に力をこめて、はずむようにします。上半身をやや後ろに傾けて、水平スピードを殺しておこないます。地面でのキックの反発を利用して、できるだけ膝を高くするため、スウィングの動作を、大きく速くする必要があります。この補強運動をやっておくと、次回の「ランニングフォームを磨くためのテンポ走」のトレーニングでのレベルが向上します。

5) クーリングダウン



図1 スキップCの動き

 キック画面で、踵を地面につけないようにして、スウィング脚を大きく速く動かし、できるだけ短い時間ではじけているところが、この運動のコツです。
 キック脚のバネと、スウィング脚のパワーとを、同時に高める運動です。

 

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