高速ランニングフォームのためのトレーニングメニュー
(4) 速く走れるフォームのための3つの条件

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)@ 9621 ANALYSIS

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 速く走れるフォームのための3つの条件

 これまでの研究によって、速く走れるフォームというものがどのようなものなのかということが分かってきました。そのようなものについての具体的な条件を見出すこともできるようになってきました。ここに、その条件を3つあげます。

 @ キックポイントフォームでのGO前傾角が10度くらいになるように、すばやく(およそ詳細フォーム5つくらいの時間の1/60秒で)重心直下を踏みつける。
 A キック脚の筋肉群など(アキレス腱などの腱群も含む)における伸張反射を利用して大きな抗力を生み出し、全身の重心の水平速度を加速するための力として、効率よく変換する。
 B キック脚の動きとスウィング脚の動きをシンクロさせ(シンクロキック)、かつ、スウィング脚重心の動きを瞬間的に速くする。

 これらの3つの条件が満たされたフォームが、これまで高速ランニングフォームとかサバンナキックと呼んでいたものになります。
 ランナーの全重心における水平速度への寄与としては、キック脚によるものは60パーセントから70パーセントとなり、スウィング脚によるものは40パーセントから30パーセントとなります。日本のトップランナーでも、たいていは、キック脚のほうだけに頼りがちで、スウィング脚の寄与率は30パーセントから35パーセントあたりに集まっています。
 スウィング脚の寄与率を40パーセントへと高めているランナーは、ほんのわずかながらも存在します。そのケースでのスウィング脚の使い方には、さらにいくつかの細かな条件がともないます。
 上記の@〜Bの条件は重要なものから並べてあります。しかし、それらは独立したものではなく、ひとつの総合的な技術について、3つの視点から眺めたもののようになっています。@とAはつよく結びついていますし、さらに、Bを組み合わせれば、もっと効果的なものとなります。
 これらの条件をランナーの運動システムという、筋肉群と神経系のダイナミックステレオタイプとも呼ばれるプログラムへ書き込むには、これらの条件にみあう動きを意識した運動を何度も反復し、そのときの感覚を神経系などに記憶させなければなりません。
 このようなわけで、私が提案するのは、次のようなトレーニングです。

   上記条件の@とAの「動き」のためには、ジョギングやフロートくらいの、比較的スピードが遅いランニングにおいて、キック脚のバネを利用して、真上へと、ピョンピョン跳ねあがるようにするランニングを行います。これらを、ピョンピョンジョギングピョンピョンフロートと呼びます。このようなときでも、スウィング脚の動きをシンクロさせることはできますが、スウィング脚のスピードを大きくすることはできないので、条件Bについては満たされません。逆に言うと、さらに条件Bを満たせば、高速ランニングフォームとして、速いスピードで走ってしまうことになるわけです。すると、エネルギーを使いすぎ、筋肉や腱への負荷も大きくなりすぎて、数多く反復することができません。
 ピョンピョンジョギング(ピョンピョンフロート)については、私が試み、その画像を撮影してもらって解析してあります。そのステックピクチャー(動き)や解析結果を示します。


図1 ピョンピョンジョギング(ピョンピョンフロート)の動き


図2 ピョンピョンジョギング(ピョンピョンフロート)の解析

※ 速度値はいずれも低いものですが、解析のパターンは、図5(もしくは図A)のものをなぞっています。つまり、図5(もしくは図A)のようなパターンを生み出すための「動き」ができているということです。[1]

 上記条件の@とAの「筋スピード」のためには、これまでに説明しているスキップAなどの運動が効果的です。スウィング動作を加えるスキップBやスキップCについても説明しましたが、いろいろやってみて、もっとも近いものはというと、スキップAだと思えるようになってきました。上記条件の@とAについて、実際に強い負荷で刺激を与え、何度も反復できるのはスキップAの系統のトレーニングです。これまではスキップAとしてだけ説明してきましたが、強度に応じて、次のような変化でトレーニングに組み込むことができます。

 (1) ハーフスキップA / 膝を軽く上げて行うもの。
 (2) スキップA / 膝を腰の高さまで上げて、テンポは自然なものとして。
 (3) スピードスキップA / 膝を腰の高さまで上げて、テンポを速め、水平スピードも高めてゆく。
 (4) ハイニースキップA / 膝を腰よりできるだけ高くあげて、テンポは自然なものとして行うもの。

 これらの(2)〜(4)においては、腰にウェイトベルトをつければ、さらに強度を高めることができます。


図3 足首おもり(市販のもの)を利用したウェイトベルト

 上記条件のBについて反復するには、どうしてもランニングそのものということになります。フロートやテンポ走、あるいはウインドスプリントと呼ばれている、全速力ではない、コントロールスピードのランニングにおいて、このような技術を反復します。
 条件Bのために役立つのは、スウィング脚のダウンスウィングという技術です。これは、キックを終えた脚をスウィング脚と意識して前へと引きだすとき、動き始めは「直線引き出し型」のようにしますが、少しだけ「巻き上げ型」の動きを取り入れ、スウィング脚の重心位置を高くします。お尻の後方へと巻き上げてしまうのではなく、少しだけ膝を折りたたみぎみにするのです。そして、ただちに、キック脚の動きに合わせて、キック脚の横で振り出します。このときの意識はスウィング脚の膝にあります。膝から下は、自然な動きにまかせます。キック脚の動きによって、スウィング脚の膝から下は、自然と振り下ろされ、その動きの延長として、力を抜けば、前方へと振り出されます。このあたりでは、もう、ランニングスピードとしての重要な局面は終わっています。ここでスウィング脚の膝を高く上げようとしたり、膝から下を前方へと振りだそうとしても、ランニングスピードを高めるためには何も役立ちません。


図4 条件@〜Bを心がけスウィング脚をダウンスウィングとした動き


図5 条件@〜Bを心がけたランニングフォームの解析

 ※ 解析グラフの見方については、「エピソード(18)」「エピソード(19)」もしくは「エピソード(22)」を参照してください。[1]

 スウィング脚の動きを速くするためのコツは力の集中とリラクセイション(脱力)です。キック脚と違って、スウィング脚のほうは、比較的小さな質量(全体の1/4ほど)を取り扱うだけなので、この動きを磨き上げるのは、空手の「突き(あるいは、脚なので、蹴り)」のトレーニングと似ています。これに対して、キック脚のほうは、少なくとも全体の3/4の質量、あるいは、スウィング脚もふくめて、これらを動かそうとしていますから、筋肉群などにかかる荷重としての負荷も大きなものとなります。

 正確な動きと適度なスピードのもとでの高速ランニングフォーム(サバンナキック)のランニングでは、ランニングそのものが、キック脚の筋力強化の運動となります。なぜかというと、キックにおけるGO軸の向きで、体重の5〜8倍くらいの力が生み出されているからです。これに対して、他のランニングフォームでは、もっと小さな力しか生み出されていませんし、時間的に力が分散されていることもあります。[2]
 上記の@〜Bの条件がうまく満たされた、上質の高速ランニングフォーム(サバンナキック)でランニングを行うことができるようになれば、いろいろなスピードベルや距離でランニングを行うことだけで、ランニングに対する潜在的な能力を高めることができるようになるのです。
 他のフォームでは、このようにうまい話にはなっていませんでした。このようなフォームの選手では、ランニングスピードを高めるための、幾種類もの補助運動をこなして、バネとしての筋力や筋スピードを高め、ランニングに対する潜在能力というものを高めてゆかなければなりません。それでも、いつしか「スピード障害」が起こって、何年もトレーニングを重ねていっても、ランニングスピードは、いっこうに高まらないということになっていたのです。これまでは、それがあたりまえのことだと考えられていたのかもしません。

 条件@〜Bを目指して行うトレーニング(一例)

 1) ピョンピョン弾むジョギング800mのあとストレッチ(足首など)
 2) ハーフスキップA(膝を高くあげないスキップA)100m×3
 3) ピョンピョンフロート(靴)100m×3
 4) フォームチェックフロート(スパイク)100m×3
 5) 軽いダッシュからのフォームチェックテンポ走100m×3
 6) 強いダッシュからのスピードアップテンポ走100m×2
 7) 筋力強化のためのダッシュ60m×3
 8) ゆっくり走るダウンフロート150m×1
 9) ストレッチ(お尻の下部をしっかりと伸ばすための、膝をやや曲げ、立って行う前屈)
 ※これは、実際に私が行ったものです。この日は雪もちらつくほど寒かったので、体を温めるため、強度の弱い運動を、変化をつけて数多くおこなって、中心的なトレーニングの6)へと向かっています。そのような準備的な運動の全てにおいて、条件@〜Bを意識づける動きの反復を試みています。そのため、距離をいずれも100mとして、正確な動きの反復回数を増やそうとしています。スピードは遅くても、正確な動きをすることにより、力が集中することへとつながってゆきます
 この日は時間的な制限があったため、これらの運動を1時間半ほどで終わりました。時間的な制約がないときは、7)のところで、もう少し本数やセット数を増やして太ももやお尻の筋肉などを追いこむか、200mのテンポ走を何本かおこなってアキレス腱などへ負荷をかけることがあります。8)のかわりに、100mで本数を重ねるとか、400mでジョギングしてもよいでしょう。
 これは冬期のトレーニングですが、高速ランニングフォームを身につけようとしているときの、初期のトレーニングとしても役立ちます。せっかちにスピードを求める前に、合理的な動きがほぼ自動的に行えるよう、重要なところをきちんと意識しながら、比較的楽な運動によって、数多く反復することが大切です。そうすることによって、「もっと速く走ることができる」という感じをつかんでゆくことになります。「このように走れば、いつだって加速できる」ということが分かるようになって、「一歩ずつ加速してゆけるから、どんどん速くなってゆく」ということが分かるようになれば、条件@〜Bが体に理解されたことになります。
 (Written by KULOTSUKI Kinohito, Jan 1, 2013)

 参照資料

[1] 総合水平速度グラフの見方


図A  Gat(3)の解析

 縦線が入っていない中央の明るい領域が有効キック区間です。そこで中のつまった円で表示されているのが各重心の水平速度です。
 脚の左右によって色は異なりますが、上から、スウィング脚重心(紺色かエンジ色)、全重心(黒色)、キック棒重心(オレンジ色か水色)、キック脚重心(エンジ色か紺色)が基本となる4つの重心についてのものです。
 ピンク色は、スウィング脚重心の水平速度(dS)と、キック棒重心の水平速度(dB)の差 dS-dB です。
 最下部にあるのが、身体重心(G)とキック足の支点(O)を結ぶ線分である、キック軸(GO軸)の長さにおける変化を示したもので、負値のとき濃い黄色で、正値のとき緑がかった水色で表わしています。
 紺色の実線は、このキック軸(GO軸)の長さの変化から求めた加速度を、重力加速度(g=9.80 [m/ss])で割ったものです。GO軸に沿って、体重の何倍の力が作用しているかを表わしています。
 黒と緑と赤の実線は、それぞれの質量比を考慮して、黒が全重心水平速度(dG)、緑がキック棒重心水平速度(dB)、赤がスウィング脚重心水平速度(dS)についての、それぞれに作用する力を求めたものです。重力加速度で割って、それぞれの質量比を掛けてあります。
 濃い黄色の実線は、dS-dBから求めた作用力です。ランナーの感覚として、スウィング脚を速く動かそうとするときの力を求めようとしたものです。これも、重力加速度で割って、質量比の係数として0.25を掛けてあります。

[2] 他のランニングフォームでの解析


図B キック力が弱く、スウィング脚の動きがシンクロしていない


図C キック動作は強いものだが、水平方向の速度へと利用されていない

 

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