高速ランニングフォームのためのトレーニングメニュー(7)
高速ランニングフォーム体験はじめての人が試みること

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)@ 9621 ANALYSIS

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 はじめに

 高速ランニングフォームのためのトレーニングメニューを (1), (2), (3)と作ってきましたが、ここ最近、これらの内容ではうまくつたえられていないのではないかと思うようになりました。
 私自身、なかなかうまくこのフォームをマスターすることができずにいました。また、ここ最近の研究の結果、高速ランニングフォーム(サバンナキックとも呼ぶことにしています)で実際に速く走るためには、さらにいろいろなことを条件として満たす必要があるということが分かってきました。
 そこで、これらのことを考慮して、今(2013年2月ごろ)私が、新たに高速ランニングフォームを指導するとしたとき、どのようにするかということをまとめたいと思います。

 高速ランニングフォーム(サバンナキック)の本質

 スプリントランニングというものは、おおよそ、キック動作とスウィング動作の組み合わせによって成立します。
 高速ランニングフォーム(サバンナキック)の本質は、身体重心の鉛直直下を真下へと押すようにしてキックするというところにあります。
 図1(左)で身体重心がG0にあるとき真下を踏みしめ、力を地面に加えて、それを受け取っている間にG1へと進むことになります。


図1 (左)身体重心(G)とキック足の支点(O)、(右)GO前傾角

 図1(右)GO前傾角について説明します。
 身体重心をGとし、キック足の地面における支点をOとします。この支点は、もっと具体的に言うと、キック足のスパイク面です。1点を決めておくためには、拇指球のところを指定することにしています。これらの記号によりGO軸というものを考えます。そして、このGO軸が、支点Oに立てた鉛直線からどれくらい前に傾いているかを求め、これをGO前傾角と呼ぶことにします。
 「身体重心の鉛直直下を真下へと押す」といっても、このような動作を始めることができるのは、GO前傾角が0度のところからです。
 そのような位置を正確につかむため、最初は、もうすこし前の段階でキック足を地面につけることになるでしょう。このとき、キック足がつっかかってしまう感覚を覚えることになりかもしれません。最初は、そのように感じるものです。しかし、慣れてゆくうちに、すこし前で接地したとしても、力を抜いておくようになるので、つっかかる感じは消えてゆきます。
 GO前傾角が0度の、ちょうどランナーの身体重心直下で力を入れ始めることができたとしても、この力は、わずかですが、ある時間は加え続ける必要があります。いろいろと観測したところ、高速ランニングフォーム(サバンナキック)では、この時間はおよそ1/60秒です。1秒間に30コマ撮影するビデオ画像の2コマ間の時間の、ほぼ半分です。他のフォームでは、これの2倍から3倍となることが多いようです。
 高速ランニングフォーム(サバンナキック)では、短い時間に、地面へと力を伝え、同時に、その力を抗力(反作用)として受け取るのです。
 このような結果、GO前傾角が0度のところから始まったキック動作は、GO前傾角が10度前後のところで終わることになります。このようなときのキックフォームが、ガンマクランクキックです。GO角がもっと小さなとき、ベータクランクキックとなることもあります。これは、力がもっと瞬間的に生み出されたときのフォームです。
 GO前傾角が10度くらいになるガンマクランクキックのフォームの感覚を覚えるため、次のようなドリルを行ってください。

 スキップAによるキック動作の基本

 かつて、スキップAを「地面で弾む連続ももあげ」と記していましたが、このような表現によって誤解が生じていたかもしれません。スキップAでは「もも上げ動作」ではなく「もも下げ運動」のほうに力点をおくのです。すばやく脚を振り下ろし、地面で弾むことができるように、足首に力を入れておきます。うまく地面で弾けることにより、自然な動きとして、膝も上がります。このような動きが、キック動作の基本となります。このことをしっかりと意識するため、最近は、次のドリルから始めることにしています。

 (a) ハーフスキップA 100m×(3〜5)本
 膝を腰の高さあたりまで上げるものをスキップAとすると、このハーフスキップAでは、気持ちとして半分くらいの高さまで上がればよいとします。
 膝を上げるという感覚ではなく、膝が少し前に突き出ると見なしたほうがよいかもしれません。
 重要なのは、膝があがるかどうかということではなく、地面で、足首のバネを使って、ぴょんと弾けることができるかどうかです。
 かかとを地面につけないように意識します。しかし、実際にかかとが地面についてもかまいません。足首のバネをうまくつかえるかどうかということに集中します。
 このときの腕振りは、胸の前方で軽くリズムをとる感じです。ひじを後ろまで引くような、大きな動作でやると、足首でのすばやい反射反応とタイミングが合わなくなります。
 上級者は、これに続いて次のドリルをやります。

 (b) ハーフスキップAジャンプ
 初めての人は、これを行う必要はありません。これについての解説は「トレーニングメニュー(8) 中・上級者へ」で行います。

   スキップAから高速ランニングフォーム(サバンナキック)ヘ
 ハーフスキップAでキック動作の感覚がつかめたら、次はスキップAを行います。

 (c) スキップA  (20m〜60m)× (3〜5)本
 ハーフスキップAやハーフスキップAジャンプでは、足首のバネを使って、真上のほうへと弾け跳ぶのですが、スキップAでは、この足首のバネをつかって少し前方へと進むようにします。


図2 スキップAの動き

 膝を腰の高さより少し低いくらいまで上げます。このとき膝の角度を小さくして脚を折りたたまないようにします。すると、膝から下が膝の真下にぶらさがります。この下肢をまっすぐ下へと振り下ろします。このような動作で前方へ進む距離は1足長から2足長くらいです。
 キック脚のバネが効いて腰を押すとき、この腰の動きが前方へと弾けて進む感覚をつかんでください。ここのところがスキップAの要点となるものです。


図3 スキップAの要点

 図3に沿ってスキップAの要点を詳しく説明します。
 @は空中から地面へと落ちてくる途中です。このとき、キック脚の足首に力をこめておきます。
 Aは地面に接地した瞬間です。かかとを地面につけないように足首に力をこめて抵抗しておくのですが、かかとを地面につけないことにこだわりすぎてしまう と、キック脚のアキレス腱や筋肉群をうまく伸ばせないということにもなってしまうので、瞬間的にかかとが地面につくことを感じるようにします。ほんとうに 一瞬だけですが、キック脚の足底は地面にぴたっとつくのです。このように試みることにより、キック脚の内部にある腱や筋肉が引っ張られ、伸張反射により、 これらが縮み、大きな力が、ほぼ無意識のうちに生み出されます。
 Bは、このような伸張反射の結果として、キック脚のかかとがふわっと上がったところです。このときの、地面から受ける抗力を全身で受け取ります。このよ うな力を受け取る前に、キック脚の力を緩めてはいけません。力を受けとることにより、体は上に跳ぶか、スウィング脚の動きとキック脚のクランク構造が組み 合わさって水平へと加速されるか、それらの中間の動きが起こります。
 Cは、すでに空中へと浮かんだ状態です。

 (d) スピードスキップA  (40m〜60m)× (3〜5)本
 スキップAの運動で(強い)キック動作と(弱い)スウィング動作が組み合わさって、腰がすいすいと前方へと進むことが体得できたら、この動きを少しずつ強調していって、水平スピードが大きくなってゆくようにします。
 スウィング動作において、初めは膝を上へと向かわせていたはずですが、この膝を、少し前方へと突きだすようにしてゆくと、水平スピードが大きくなってゆきます。このような動作を意識することが、ここでの要点です。
 膝を前方へと突きだしたあと、膝下部分が、自然と前方へと振り出されるようにしておきます。これを意図的に振り出すのがスキップBという運動ですが、自然と、そのようになってゆくかもしれません。しかし、スキップBでの、下肢の振り出しでスピードアップするのではなく、スキップAからの変化として、スウィング脚の膝でリードしてゆく動きを意識してください。このとき、スウィング脚とつながっているほうの骨盤を少し動かすこともできますが、動きの大きさだけを強調しすぎるとバランスが狂うことがあります。瞬間的に動かすことができれば、うまくゆきます。

 (e) スピードスキップAからランニングヘ  (60m〜80m)× (3〜5)本
 スピードスキップAによって、ランナーの身体重心直下を踏みつけるキックを続けながら水平スピードを大きくできるようになったら、このままの動作を反復しながら、ランニングへと進みます。自然な変化です。このようにしてランニングへと移ると、自然と、ガンマクランクキックのフォームとなります。
 このような変化を何度も反復して、ガンマクランクキックの動きを覚えてしまいましょう。


図4 ガトリン選手のガンマクランクキック

 スウィング脚について

 スウィング脚を後方から前方へと引きだす方法については何も説明していませんでした。これについてのおすすめは、「跳ね上げダウンスウィング型」というものです。


図5 跳ね上げダウンスウィング型のスウィング脚の動き

 後方にあるスウィング脚を少し上へと跳ね上げます。そのあと、キックの動きと合わせるようにして、キック脚の横を通り過ぎるところで、スウィング脚の動きを速くして、キック脚の膝を、前方へと突きだすものです。このときの膝の高さは、腰よりかなり低くなります。このあと、スウィング脚の膝を腰まで引き上げる必要はありません。
 (Written by KULOTSUKI Kinohito, Feb 15, 2013)

 

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