高速ランニングフォームのためのトレーニングメニュー(8)
高速ランニングフォームの中・上級者が試みてゆくこと

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)@ 9621 ANALYSIS

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 はじめに

 高速ランニングフォームのためのトレーニングメニューを (1), (2), (3)と作ってきましたが、ここ最近、これらの内容ではうまくつたえられていないのではないかと思うようになりました。
 このことを考慮して、新たに高速ランニングフォームを体験して走ろうとする人がやるべきことを、「トレーニングメニュー(7) はじめての人」で説明しました。
 しかし、高速ランニングフォーム(サバンナキック)で走るだけでなく、実際に、もっと速く走るためには、さらに、いろいろなことを条件として満たす必要があります。このことについて詳しく説明しようと思います。

 高速ランニングフォーム(サバンナキック)の本質

 高速ランニングフォーム(サバンナキック)の本質は、身体重心の鉛直直下を真下へと押すようにしてキックするというところにあります。
 高速ランニングフォーム(サバンナキック)では、短い時間に、地面へと力を伝え、同時に、その力を抗力(反作用)として受け取ります。
 高速ランニングフォーム(サバンナキック)においては、GO前傾角が0度のところから始まったキック動作は、GO前傾角が10度あたりまでのフォームで終わることになります。このようなときのキックフォームが、ベータクランクキックやガンマクランクキックです。


図1 ガトリン選手のガンマクランクキック

 まずは、GO前傾角が10度くらいになるガンマクランクキックのフォームの感覚を覚えるため、次のようなドリルを行ってください。

 スキップAによるキック動作の基本

 (a) ハーフスキップA 100m×(3〜5)本  膝を腰の高さあたりまで上げるものをスキップAとすると、このハーフスキップAでは、気持ちとして半分くらいの高さまで上がればよいとします。


図2 ハーフスキップA

 膝を上げるという感覚ではなく、膝が少し前に突き出ると見なしたほうがよいかもしれません。
 重要なのは、膝があがるかどうかということではなく、地面で、足首のバネを使って、ぴょんと弾けることができるかどうかです。
 かかとを地面につけないように意識します。しかし、実際にかかとが地面についてもかまいません。足首のバネをうまくつかえるかどうかということに集中します。
 このときの腕振りは、胸の前方で軽くリズムをとる感じです。ひじを後ろまで引くような、大きな動作でやると、足首でのすばやい反射反応とタイミングが合わなくなります。
 中・上級者は、これに続いて次のドリルをやります。

 (b) ハーフスキップAジャンプ(中・上級) (20m〜60m)× (3〜5)本
 地面におけるキックを、瞬間的にすばやく強く行って、足首のバネだけで上に高く跳ね上がるものです。このとき、膝を高く引き上げようとして、ジャンプの後半での加速をつけないようにします。キック脚で地面を蹴ることを強化するということに集中して行います。


図3 ハーフスキップAジャンプ

 キック脚で地面を強く押すという動きに集中すると、このときの最後の動作のところで、大臀筋の下のあたりが働いていることが分かります。キック脚の足首だけでなく、キック脚の全体をつけ根のところで動かしている筋肉があるということを感じてください。このような作用を使わず、キック脚の足首だけや、スウィング脚の振り上げ動作を加えて、見かけ上同じような動きを生み出すことができるのですが、それではキック脚のパワーを高め、これをランニングスピードへと生かすためのトレーニングとはなりません。

 スキップAから高速ランニングフォームヘ進む

 ハーフスキップAでキック動作の感覚がつかめたら、次はスキップAを行います。  (c) スキップA  (20m〜60m)× (3〜5)本  ハーフスキップAやハーフスキップAジャンプでは、足首のバネを使って、真上のほうへと弾け跳ぶのですが、スキップAでは、この足首のバネをつかって少し前方へと進むようにします。


図4 スキップA

 膝を腰の高さより少し低いくらいまで上げます。このとき膝の角度を小さくして脚を折りたたまないようにします。すると、膝から下が膝の真下にぶらさがります。この下肢をまっすぐ下へと振り下ろします。このような動作で前方へ進む距離は1足長から2足長くらいです。
 キック脚のバネが効いて腰を押すとき、この腰の動きが前方へと弾けて進む感覚をつかんでください。ここのところがスキップAの要点となるものです。

 (d) スピードスキップA  (40m〜60m)× (3〜5)本
 スキップAの運動で(強い)キック動作と(弱い)スウィング動作が組み合わさって、腰がすいすいと前方へと進むことが体得できたら、この動きを少しずつ強調していって、水平スピードが大きくなってゆくようにします。


図5 スピードスキップA

 スウィング動作において、初めは膝を上へと向かわせていたはずですが、この膝を、少し前方へと突きだすようにしてゆくと、水平スピードが大きくなってゆきます。このような動作を意識することが、ここでの要点です。
 膝を前方へと突きだしたあと、膝下部分が、自然と前方へと振り出されるようにしておきます。これを意図的に振り出すのがスキップBという運動ですが、自然と、そのようになってゆくかもしれません。しかし、スキップBでの、下肢の振り出しでスピードアップするのではなく、スキップAからの変化として、スウィング脚の膝でリードしてゆく動きを意識してください。このとき、スウィング脚とつながっているほうの骨盤を少し動かすこともできますが、動きの大きさだけを強調しすぎるとバランスが狂うことがあります。瞬間的に動かすことができれば、うまくゆきます。
 この運動では、スピードをあげてゆくためにスウィング脚の動きを速くしてゆくことになりますが、それでも、キック脚による最後のひと押しを感じるように意識してください。スウィング脚だけで走ってしまっては、ここまでの運動が無意味になってしまいます。スウィング脚の動きをフルに活用するのはトップスピードのランニングのときです。それまでは、キック脚のバネを発達させることを目指してください。
 全体の動きとしてのピッチを速くして行うスキップAは、これとは別の目的をみたすために行います。こちらは「ハイピッチスキップA」と呼ぼうと思います。上記の「スピードスキップA」では、水平スピードを高めるという目的をみたすように心がけてください。

 (e) スピードスキップAからランニングヘ  (60m〜80m)× (3〜5)本
 スピードスキップAによって、ランナーの身体重心直下を踏みつけるキックを続けながら水平スピードを大きくできるようになったら、このままの動作を反復しながら、ランニングへと進みます。自然な変化です。このようにしてランニングへと移ると、自然と、ガンマクランクキックのフォームとなります。
 このような変化を何度も反復して、ガンマクランクキックの動きを覚えてしまいましょう。


図6 ガンマクランクキックのランニングへ

 スウィング脚の運び方と振り出し方について(中・上級)

 このような流れで、前方へと突きだすスウィング脚の動きにつづいて、キック脚として、ランナーの身体重心直下を踏みつける動作に集中して走ってゆくと、ついつい、後方に残った脚を前方へと運ぶ動作をどうするのかということを意識しなくなってしまいます。
 ランナーの身体重心直下を踏みつけるキックができるようになると、その後、スウィング脚は、後方へと流れていないので、そのまま前方へと引きだすことができます。これが「直線引き出し型」です。


図7 スウィング脚の直線引き出し型

 しかし、これだと、スウィング脚を前方へと突きだすとき、スピードがうまく高められないということが分かってきました。それを無理やりスピードアップしようとすると、けっこうエネルギーを使います。すると、やがてエネルギー不足になって、スピードが遅くなってしまいます。
 そこで、スウィング脚を引き出すときに、もう少し膝で折りたたむというものへと変化させると「下方引き付け型」となります。
 これはエネルギーも比較的少なくなって、スピードもあげられやすい形になっています。


図8 スウィング脚の直下引き付け型

 これでよいと思っていたこともありましたが、これには2つの問題点があることに気がつきました。
 その一つ目はタイミングという問題です。最短距離を通って前に運び出しているということと、少し膝で折り曲げることによって、より動かしやすくなったため、キック脚のタイミングと合わせづらくなってしまうのです。つまり、スウィング脚が早く前に出過ぎていて、スウィング脚とキック脚が連動しづらくなり、キックの後半に、スウィング脚の動きだけが強くなってしまうというフォームへとつながりやすくなってしまいます。そうすると、デルタクランクキックやピストンキックへと向かってしまうのですが、これらは力の効率がよくないフォームなのです。また、このように、スウィング脚が先行してしまいがちなので、キック脚とシンクロさせたいとき、前方で、もう動かす余地がないということになりがちです。
 スウィング脚の動きをキック脚の動きと合わせて、力を集中させるためには、このときのキック動作のとき、スウィング脚の重心はキック脚をちょうど追い越すようなポジションにあることが理想的です。
 二つ目はスウィング脚重心の動きから、水平か上向きに動かしやすいということになり、これが問題となるのです。これは、キック脚をうまく使えていないときには問題とはなりませんが、より速く走るために、キック脚の蹴りを強くしたとき、このとき、どうしても、上向きへの加速を生じます。これに同調して、スウィング脚重心も上向きに動いてしまうと、全体が高く跳び出しすぎて、水平速度がうまく上がらないということが起こります。
 このような2つの問題を同時に解決することができるのが「跳ね上げダウンスウィング型」というものです。


図9 スウィング脚の 跳ね上げダウンスウィング型

 ランナーの身体重心直下を真下へとキックすると、脚が後方へと流れず、そのまま前方へと引きだすことができるのですが、ここで一瞬力が抜けて、キック脚からスウィング脚へと変化した脚が、動きを止める状態になります。このあと、まるで、従来の日本選手がやっていた「後方巻き上げ型」に近い動きで、少しだけ、スウィング脚の下肢を上へと跳ね上げます。このとき、膝で完全に折り曲げようとするわけではありません。スウィング脚の重心を少し高くしたまま、少し回り道をしてゆっくり動くようにし、キック脚とのタイミングを合わせるために、ポジションをキープしておくのです。
 そして、キック脚によるパワーを生み出す動作に合わせて、スウィング脚重心の動きをダウンスウィングとしつつ、膝を、腰より低い位置で前方へと突きだすのです。これで、上記の2つの問題が一気に解決します。
 ジャマイカの3選手、アサファ・パウエル選手、ウサイン・ボルト選手、ヨハン・ブレーク選手らのスウィング脚は、みんな、この「跳ね上げダウンスウィング型」です。
 これが理想的な方法だったと考えられますが、おそらく、30年ほど前、ゲラルド・マック・コーチを日本に呼んでランニングフォームの要点などを学ぼうとしたとき、うまく理解できずに、誤った方法が広まったのだと考えられます。
 その誤った方法とは「後方巻き上げ型」というものです。現在の日本のトップランナーの多くも、この方法で走っています。


図10 スウィング脚の後方巻き上げ型

 この「後方巻き上げ型」の何が問題なのかというと、スウィング脚をきょくたんに膝で折り曲げて、お尻の後方へと巻き上げてしまうということで、キック脚のパワーを生み出す動きに対して、遅れがちになってしまうのです。問題点は、まだあります。何名ものトップランナーのフォームを調べてみると、このような「後方巻き上げ型」のスウィング脚のとき、スウィング脚重心の水平速度があまり大きくなっていないのです。また、ダウンスウィングがまったく意識されていないことも多くみられます。
 つまり、「後方巻き上げ型」では、おおよその外観として「跳ね上げダウンスウィング型」と似ているものの、その力学的な本質という観点からは、まったく見当はずれなことになっているのです。

 空手パワーキックと膝げりクイックスウィング(中・上級)

 ハーフスキップAジャンプというドリルを中・上級者に取り組んでもらったのは「空手パワーキック」へとつながるものだからです。
 日本のトップランナーのランニングフォームを調べていて、ほとんどのランナーがスウィング脚を「後方巻き上げ型」としていて、いろいろな問題をかかえているのですが、キック脚のほうでは、ひじょうに強いバネを感じさせる解析結果となっています。
 GO軸の長さの変化(速度)をdGOとして求めたあと、これのさらなる時間変化(加速度)としてaGOというものを調べました。そして、この加速度を重力加速度gで割ったaGO/gをグラフ化したところ、これの(緑がかった水色のキャップ)パターンが、日本のトップランナーでは、とても大きな値で示されていたのです。


図11 各重心(B, G, S, K)やGO軸(GO)と、それらからの速度(d)や加速度(a)

 私自身の体を使っていろいろと試し、ビデオ画像に撮影してもらって解析しました。そして、日本のトップランナーたちが生み出している、GO軸のバネの強さを表わしているaGO/gのキャップパターンがどのようにして生み出されているのかということを突きとめました。
 それを言葉で表現したものが「空手パワーキック」です。
 2005年ごろにガトリン選手と日本のトップランナーとのフォームを詳しく調べ、その結果から、ガトリン選手をモデルとする高速ランニングフォームでは、キック脚において、鉛直下方への動きが強調されており、日本のトップランナーでは水平方向の動きが強調されていることを示しました。この結果から私は、スウィング脚からキック脚へと変化したあと、「まるでハンマーを振り下ろすかのように、地面を強くキックするのだ」と解説しました。 ただし、キック脚を、上のほうから地面に向かって、「まるでハンマーを振り下ろすかのように」動かすというのは、かなり上級者のテクニックのようです。
 そのような動きがうまくできなくても、まさに、地面につく、その少し前からだけ、強く速く動かせば、aGO/gのキャップパターンが大きなものとすることができました。GO軸のバネを意図的に強くできるわけです。
 まるで、空手における「突き」や「蹴り」で、その一瞬だけに力を込める動きになぞらえました。つまり、地面に割るべき板があって、それをキック脚で割るというイメージをもって、瞬間的にパワーをこめるということを、「空手パワーキック」という言葉で表現したわけです。
 このような動作を認識して、私自身で実験したところ、日本の一流スプリンターたちの出力に匹敵する値を生み出すことができました。
 これで、ひとつ、問題をクリアーしました。ところが、私のランニングスピードは、ほんの少し向上しただけでした。
 確かに「空手パワーキック」は重要ですが、ランニングスピードを高めるためには、これだけではうまくいかないようです。なぜかというと、このキック動作だけを強調してしまうと、身体重心が鉛直方向への大きな速度を持ってしまうだけで、水平方向の速度を上げることにつながらないからでした。この問題に対応するのが、スウィング脚をダウンスウィングで動かすというものです。
 しかし、スウィング脚重心の動く向きという要素だけでは、本質的なところをとらえていないということに気がつきました。「空手パワーキック」では、瞬間的に大きな「力」を生み出します。それなら、スウィング脚のほうでも「力」を生み出さないとだめなのです。
 こうして、スウィング脚のほうでも、「空手パワーキック」に対応した「力」を生み出すという観点で、「膝げりクイックスウィング」という要素を同時に加えることにしました。
 ただし、「空手パワーキック」と「膝げりクイックスウィング」は同時に行わなければなりません。これを意識してゆくと、これらが「一瞬のひとつの動作」として行われるようになります。そして、体が動きを覚えてしまったあとは、「力の集中」を意識することになります。
 このように、ランニングスピードを高めるために必要な動きを、キック脚とスウィング脚に分けて追い求めてから、最終的にそれらを「ひとつのもの」としてとらえるようにすると、ガトリン選手の動きについて表現した、「まるでハンマーを振り下ろすかのように、地面を強くキックする」というものに近づくように思えました。
 おそらく、速く走れているランナーたちは、このようなことを複雑に考えているプロセスなどは省略して、最後の「力の集中」だけを意識していることでしょう。私がこのように、いろいろと語るのは、速く走れていないランナーが、どのようにして、速く走れているランナーの状態へと向かってゆくかということを明らかにするためです。

 「力の集中」のためのトレーニング

 ハーフスキップAからスピードスキップAまでのドリルを、やや本数を少なくして行ったあと、上記の課題となる要素を、いろいろなランニングによって反復してゆきます。理解しやすいように、ウォーミングアップから、順をおったトレーニングメニューの一例を示します。

◆ ウォーミングアップ
(1) ジョギングとストレッチ
(2) ハーフスキップA 100m×2
(3) ハーフスキップAジャンプ 50m×2
(4) スキップA 50m×2
(5) スヒードスキップA 50m×2
(6) シューズでのフォームチェックフロート 100m×2
◆ 中心トレーニング
 このあとはスパイクを履いて行います。
(7) フォームチェックフロート 100m×4
 100mの中で@→A→Bの順で、次の要素を意識して走ります。
  @軽いダッシュ → A跳ね上げダウンスウィング → 
  B空手パワーキック(&)膝蹴りクイックスウィング 
(8) ハイピッチスキップA 20m×(2〜4)本
 スキップAの動きで、動きのピッチをできるだけあげて行います。次のスタンディングスタートダッシュのための準備・補助運動となります。
(9) スタンディングスタートのダッシュからの1次加速走 60m×(2〜4)本
 このときの40mから60mあたりのところで、「B空手パワーキック(&)膝蹴りクイックスウィング」の動きを「ひとつのもの」として、「ハンマー(振り下ろし)キック」とし、地面を打つ瞬間に、スウィング脚にもピクッと力を込めます。
◆ クーリングダウン
(10) ジョギングとストレッチ

 このトレーニングプランは一例です。このようなトレーニングにおいては、課題の習熟プロセスに応じて、内容が異なってゆくことになります。
 たとえば、◆ 中心トレーニングの(9)を次のようなものとします。
 (9a) スターティングブロックによるスタートダッシュからの1次加速
   40m×2本、60m×2本、80m×1本
 (9b) 助走(10m)つき加速走 40m、60m、80m、100mなど、
   距離や本数は目的やコンディションによって選択してください。
 (9c) スターティングブロックによるスタートダッシュからの100m
   全速力の70%〜95%のスピード(コントロールスピード)で
   あるいは、100%を目指して
 これに応じて、◆ ウォーミングアップの内容を減らしたり、他のものに置き換えたりしてもよいでしょう。
 ◆ クーリングダウンの前に、◆筋力・筋スピードの補強、◆特殊持続力、などのトレーニングを組みこむこともあります。
 これらのトレーニングメニューは、目的の違いや課題の達成度などによって、いろいろと工夫して変えていってください。
 また、トレーニング時期の違いや、連続したトレーニング日の組み合わせによって、内容や負荷量を調整してゆく必要もあります。
  (Written by KULOTSUKI Kinohito, Feb 2013)

 

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