高速ランニングフォームのためのトレーニングメニュー
(10) 短距離走で速く走るためのトーニングプラン構成の流れ

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)@ 9621 ANALYSIS

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 はじめに

 これまで「高速ランニングフォームのためのトレーニングメニュー」として、幾つかのページを構成してきました。とりあえずとして「高速ランニングフォーム」という体の動かし方を、どのように体得してゆくのかということを記そうとしてきました。
 そもそも私が何故「高速ランニングフォーム」と名づけて、世界の一流スプリンターのランニングフォームを調べようとしてきたのかというと、このようなフォームで走ることができなかったため、何年も、あるいは十何年かそれ以上の間、ほとんど、短距離走のレベルを引き上げることができなかったからです。
 私のことを振り返ると、いわゆる「スピード障害」におちいったまま、ずるずると、走高跳や十種競技のランニング種目以外のレベルを引き上げることで、なんとなく、スポーツをやってきました。もし、私が若いころ、もっと短距離走が速かったなら、走幅跳や三段跳、あるいは十種競技そのものでも、もっと良い成果を生み出せていたはずです。
 自分自身のことだけでなく、指導者としてやっていたころ、指導している選手たちのランニングスピードをうまく引き上げることができないという問題に、いつも悩んでいました。
 短距離走でもっと速く走ろうとするとき、具体的に、どのようなことに注意して、どのようにトレーニングしてゆけばよいのかということを述べたいと思います。

 走ることができる体をつくる

 スプリントランニングトレーニングの前に注意しておくことがあります。 それは、走ることができる体をつくるまでは、大きな負荷をかけないということです。
 おそらく、体育の授業なども受けているような、若い人たちには、このような注意はいらないと思いますが、社会人になって、仕事を続けてゆくと、何年も全速力で走ったことがないという状態になることがあります。そのようなとき、ふと走りたくなって、スパイクを探し出し、陸上競技場へ行ってトレーニングを始めるとします。しかし、たとえ1年間でも、速く走ったことがないという期間があるときは、少しずつ体を作ってゆかなければなりません。

 私の体験ですが、40歳代のころ、ほぼ10年ぶりにトレーニングしようと、陸上競技場へ行って走りだしたところ、アキレス腱に痛みが生じるようになりました。そのときの陸上競技場はオールウェザーでしたが、一周200mで、カーブが急なものだったということ、アキレス腱が弱っていたこと、さらには、私の体重が10キロ以上も増えていたこと、これらのことが重なったため、アキレス腱に痛みが生じたと考えられます。
 同じころ、グラウンドにいた高校生に、ハードルの技術を示そうとして、低いハードルを跳んで見せたところ、着地した脚の膝が「バキッ!」と鳴り、膝の中で何か(おそらく、軟骨部分)が壊れました。あっと言う間に走れなくなって、ハードルの指導は、言葉と簡単なポーズを示すだけということになりました。このときの膝の故障は、(幸いにも、あるいは、大変なことに)ほぼ一カ月をかけて治すことができました。治療の方法のことですが、まず、膝に大きな負荷がかかって、壊れた部分がひどくなるようにならないように心がけましたが、ただ単に安静にしていただけではなく、休日はもちろん、勤務日も、会社から帰る道を長時間歩いて、可能な範囲での小さな負荷を、できるだけ数多くかけるようにしました。歩く距離は、10キロメートルから20キロメートルくらいだったでしょうか。このような負荷を1カ月間続けたところ、故障していた膝のまわりの靭帯がとても強くなって、膝をしっかりと支えるようになっていました。しかし、あまりに強くなりすぎたので、膝の関節の可動範囲が小さくなりました。そこで、これらの靭帯をストレッチで静かに伸ばすようにしました。まるで膝がクルミで、それを割ろうとしているかのような気分でしたが、膝は壊れないで、まわりの靭帯が少しずつ柔らかくなって、ふつうの人のように、膝を折りたたむことができるようになりました。すると、もう何の不安もなく、走ったり跳んだりできるようになりました。このあと、陸上競技場へゆき、あらためてハードルを跳べるようになったとき、「安心してハードルを跳べる喜び」というものを味わい、口先だけで指導していた高校生たちに、実際のハードリングを見せることができるようになったのでした。

 50歳代後半の最近のことですが、ほぼ毎日の仕事では、立って歩いてという状態でした。体重が減ってきて少し喜んでいたのでしたが、ふと気がついてみると、この体重減は、脚の筋肉が落ちて細くなってきたことに由来していたと気づきました。そこで私は、日曜日を利用して、軽く走るトレーニングや、脚力を高めるための補強を行いました。しかし、あるとき、「今日は脚の調子もよい」と思って、「高速ランニングフォームでうまく走れるだろうか」と、少しスピードを上げて走ろうとしたとき、左のアキレス腱に痛みを覚えました。高速ランニングフォームはアキレス腱がじゅうぶん強くないとできないものです。そのためには、ハーフスキップAやスキップAの運動を、弱い刺激として、長い距離で、何本も繰り返すというところから始めなければならないのでしたが、ついつい、そのような地道なトレーニンングを省略してしまったのです。
 この左アキレス腱の故障を乗り越えるのに何カ月か必要となりました。休養を続けるだけではなく、アキレス腱に軽い負荷が生じるような、やや速く歩くという試みから始めて、やがて走れるようになると、ジョギングより少し速いくらいのスピードで、アキレス腱にも軽く負荷をかけて、遅いスピードのものでしたが、200mなどを何本も反復して走りました。もちろん、これ以上負荷をかけると状況が悪くなるというところまできたらトレーニングを打ち切ります。このようなトレーニングは、負荷日と休養日の組み合わせで、少しずつ状況が良い方向へと向かうように調整してゆくことになります。故障しているのが自分自身であり、治療しようとしているのも自分自身なので、痛みのあるなしが体験的に分かるということと、アキレス腱の故障というものについては、これまでに何度も体験しているので、このような、積極的な負荷を加えての治療という方法がとれるわけです。このような治療と強化のプロセスがうまくいって、現在は、アキレス腱に違和感なく自由に走ることができる喜びというものを感じてトレーニングしています。

 スプリントランニングは、アキレス腱や膝などに強い負荷をかけることになります。何カ月も何年も、全速力で走ったことがないという人は、いきなり速く走ってはいけません。少しずつ刺激を加えていて、体の弱い部分を強化してゆかないと、けっきょくは、遠まわりしてしまうことになります。

 速く走ることができるための基礎能力を高める

 私が中学生を指導していた(20歳台の)ころ、女子の短距離選手の100mのベストタイムは13秒0くらいだったと思います。どのように指導すれば12秒台の選手を育てることができるのか、まったく分かりませんでした。そのころ、兵庫県のある中学校の女子短距離選手が、何人も12秒台の選手を生み出し、リレーでも全国で活躍しているということで、陸上競技の雑誌に特集記事が掲載されました。そこに記されてあった、12秒台の女子スプリンター育成の秘密は、何種類かの種目で構成されたサーキットトレーニングなのでした。そのサーキットトレーニングの種目の中に、短距離走のために必要な脚筋力を発達させるものが幾つか含まれていたのです。
 男子については、100mで11秒台の選手が何人かは育っていたと思います。中学生のころの男子生徒は、骨格や筋肉の発達の違いがかなりあって、それらの中で、とくに発育の早い生徒が、そのようなスプリンターとして育っていました。中には、中学生のころは、チームの中でも遅い方だった生徒が、大学生のころにになって、ようやく筋肉が発達し始め、100mでは10秒台、三段跳で15m台を出せるようになったというケースもあります。
 私は十種競技をやっていたので、フィールド種目を指導するのが得意で、生徒たちには、いろいろな種目を体験させるというトレーニングを試みていましたし、下半身から上半身まで、バランスのとれた体づくりが行われるように心がけていました。中心的なトレーニングについては、それほど特異なものはやっていなかったと思われますが、補強トレーニングについては、いろいろと工夫していました。試合などで見る他校の選手に比べて、私が指導していたチームの生徒たちには、棒高跳のために必要な鉄棒種目がこなせるものが数多くいましたし、平均的に違うということが明らかだったのは、足首のバネが強いということでした。足首のバネが効いている走り方をしているのです。これはなぜかということは、よく分かっていました。週に2回ほどやらせていた補強トレーニングの成果でした。その補強トレーニングの名称は「おんぶ かかと スクワット」というものでしたが、正しい呼び方をすると、「荷重負荷つきの、ヒールレイズ」です。生徒はたくさんいましたので、同じくらいの体重のものを背負わせ、段差のあるところで、かかとを少し角から出して、上げ下げさせます。このときの回数にコツがあって、40回を1セットとするのです。たいてい、30回あたりで動かなくなってきますが、この、最後の10回で、ふくらはぎの筋肉をオールアウトにさせます。1日のセット数は3セットでした。私もやっていましたが、生徒を二人背負ってやりました。
 最近私は、スプリントのトレーニングで左のふくらはぎを痛めてしまいました。その日のトレーニングの [5] 特殊持続走150m×4本の、3本目のとき、カーブでのダッシュにおいて強く蹴りすぎ、内側の左ふくらはぎが「つり」そう(痙攣の一歩手前の状態)になったのです。しかし、トレーニングメニューで4本と書いておいたので、4本目も走ってしまったところ、痙攣にはいたらなかったし、肉離れというほどの痛みではないのですが、ふくらはぎ全体に痛みが残って、走ることができなくなってしまいました。これが「歳をとる」ということかなあとも思いました。あとから考えると、これは、必要以上に強いキックをしてしまったということが、一つ目の条件で、もう一つ、ここしばらく、ふくらはぎの強化をおろそかにしていた、ということに由来するようです。ここしばらくというのは、高速ランニングフォームの研究と、自分自身の体を使っての、実験的なトレーニングメニューを試していた、何カ月かのことですが、ランニング中心のトレーニングをしていると、ふくらはぎにあまり負荷がかからず、なんだかスマートな状態へと向かっていると思ってしまっていたのでした。どこかの資料で、スプリント研究を得意としている研究者が、「ふくらはぎが細く軽いほうが脚の回転が速くなって、スピードが高まる」と述べていたことを記憶のどこかにプールしてあったということも影響していました。上記の左ふくらはぎの故障をやってみて、これらのことを思い起こし、なんてバカバカしいことだと分かりました。ふくらはぎが細いほうが脚の回転が速くなるというのは、膝をあまり折り曲げないでスウィングするときのことです。一般に短距離走では、膝を適度に折り曲げて脚を前に運びます。その折り曲げ方によって、回転スピードは調整できるのです。しかも、大部分のスプリンターは、膝で折り曲げすぎて、スウィング脚を早く引き出し過ぎていたり、小さなパワーしか生み出せていなかったりしています。スウィング脚を動かす速さが、全体のスピードに寄与する割合は、わずか10パーセントにすぎないのです。また、ほとんどのランナーが、同じくらい速い、相対スウィング速度を生み出すことができるということも分かりました。ふくらはぎの使命は、スウィング脚の回転を速くするために細くなるということではなく、より大きな、キック脚重心水平速度dK を生み出し、全体のスピードレベルを高めるために、より強くなるべきだったのです。そのために、少々太く、重くなってもしかたがないことでしょう。すくなくとも、トレーニングで痙攣をおこしかけてしまうほど、やわなものとしてしまってはいけなかったのです。このときの故障は5月3日のものでした。それから、痛みがひくまで、歩くことも苦労する状態でしたが、負荷つきの大股歩行などで、他の筋肉群のトレーニングを続け、痛みが軽くなってからは、片脚ヒールレイズ(40回を1セットとするもの)を、少しずつ行いました。(12日を経過した)5月15日になって、ようやく、荷重15kgを背負っての片脚ヒールレイズを、かつて、中学生たちといっしょにトレーニングしていたころと同じようにやることができるようになりました。足首にバネを感じられる走りをするためには、ふくらはぎを細く弱くしていてはだめだったのです。今回の故障は、いい勉強になりました。
 速く走ることができるための基礎能力というのは、これだけで終わりというものではありませんが、説明のために語るのは、ここまでということにしておきます。

 ランニングフォームをチェックする

 「マック式短距離トレーニング」において、理想的なランニングフォームのことが力学的に述べられていないで、ただ単に、「正しいランニング技術」のための補助運動について述べられているということを知ったときは、少し考えてしまいました。でも、それは、そうだったのかもしれません。ランニングフォームというものを、力学的に、あるいは、もう少し現実的に運動力学的に説明するということが、1970年代に成しとげられていたと考えるのには無理があります。2013年の現在ですら、どこまで突き止められているのかは疑問です。しかし、マック氏の指導は全世界にわたっていますし、成果という点では、間違っているわけではないということは確かです。
 まるで科学史研究の一種のような取り組みとして、30年ほど前のマック氏理論が、どのように日本の短距離走に影響を与えたのかということを、私は調べたことになるのかもしれません。現在に至っても、マック氏の短距離トレーニング理論は、間違って解釈されているようです。
 たとえば、私がトレーニングしている陸上競技場で見かけることですが、ランニングを始めるとき、スキップAのドリルを何回かやって、それに続いてランニングへと進んでいる人がいますが、これらの運動が、見事にかけ離れたものとなっているのです。
 「スキップA→ランニング」と記すべきトレーニングを、私自身でやってみました。最初、スキップAの運動をやってゆき、少しずつ上半身を前傾させてゆき、重心直下をキックするランニングフォームへと変化してゆきます。このようにしてゆけば、私が定義しているガンマクランクキックへと移ってゆけます。しかし、たいていの人たちは、スキップAと、そのあとのランニングをつなげてゆくことなく、ぱっと変えて、デルタクランクキックのフォームで走ってしまうのです。いったい何のためにスキップAという運動をやっているのかということが、まったく理解されていません。
 別の日のことですが、地域の小学生たちにランニングが指導されていました。月に1度か2度くらいの取り組みのようです。参加者の数が多く、学年別に分けられており、3年生、4年生、5-6年生と分けられていたようです。これらの小学生の中に、ランニングフォームの要点がつかめていて速く走れる選手がいました。私は、指導しているコーチに、そのことをコメントしたのですが、そのコーチは、何故その小学生が優れているのかということを理解していないようでした。もし、その理由が分かっているとしたら、他の小学生たちにも、速く走れている小学生の、速く走るための動きを教えると思われるのですが、どうも、そのようには行われていないのです。他の小学生たちは、効率の悪いランニングフォームのままでした。
 小学生だけに限って言えることではありません。同じグラウンドでトレーニングしている中学生たちや高校生たちを見ていると、指導者たちが、どのようなランニングフォームのほうが、力学的に効率の良いものなのかということを知っていないと思えてきます。もし、何かをつかんでいたとしたら、そのことが生徒たちのランニングフォームに表現されているはずでしょうが、そうはなっていません。
 そう言えば、かつての私も、そうだったように思います。どのように走れば速く走ることができるのかということは、かんたんには説明できない難問のひとつだったのです。速く走れている生徒と、そうではない生徒との違いが分かっていなくて、的確な指示を出せないまま、形式だけのトレーニングを進めていたように思います。
 しかし、いろいろと研究してゆくことにより、ランニングフォームの何が何の役に立って、何が意味のあることで、何が無意味なことかということが幾らか分かるようになると、もっといろいろなことをチェックしてゆくことが、いかに重要なことであるかということが分かってきます。ここのところの表現は、とても抽象的になっていますが、全体的な状況について述べようとすると、どうしても、このようになってしまうものです。もう少し具体的な問題について述べてゆくことにしましょう。

 ガンマクランクキックと跳ね上げダウンスウィングを目指す

 あちらこちらの文献を調べてゆくと、現在においては、重心直下を真下にキックすることによって、ランニングスピードが高まるということが、かなり知られてきていることが分かります。しかし、何故、そのようなことが起こるのかということは正しく理解されていないようです。
 いろいろと調べてゆき、キック動作における身体重心の水平速度が最大値となる瞬間のフォームについて、アルファクランクキックから、ベータクランクキック、ガンマクランクキック、デルタクランクキック、そして、ピストンキックという分類を行ったところ、ガンマクランクキックが、いろいろな面で効率のよいものだということが分かってきました。


図1 ガンマクランクキックのキックポイントのフォーム

 このような分類は、もっぱら、キック脚についてのものでした。
 ランニングにおいては片脚だけで走っているわけではありません。もう一方の脚をスウィング脚として作用させています。このことに気づいてみると、このスウィング脚の動かし方も、けっこう重要になってくるということが分かってきました。
 スウィング脚の扱い方をおおまかに分類し、幾つかのパターンを調べました。この中で、「跳ね上げダウンスウィング」と名づけたものが、世界のトップランナーたちに数多く採用されており、その物理的な理由も存在するということが分かってきました。


図2 跳ね上げダウンスウィング

 このようなわけで、ランニングスピードを高めるための、おすすめのフォームは、キック脚については「ガンマクランクキック」で、スウィング脚については「跳ね上げダウンスウィング」ということになります。
 ところが、さらに研究をすすめてゆくと、ランニングスピードを構成する要素として、上記のとらえかたとは異なる、さらに特徴的なものが見つかってきました。
 「ガンマクランクキック」や「跳ね上げダウンスウィング」という視点は、ランニングフォームの「形」についてのものです。これに対して、次の「スプリント3要素」というのは、ランニングフォームにおける「動きのパワー」ということに着目して見出したものです。
 ランニングフォームとしての「形」をチェックしたあとは、ランニングスピードを高めるための「動きのパワー」を追い求める必要があるということなのです。これは、ごくごくあたりまえのことでした。

 スプリント3要素のレベルやバランスを知る

 「スプリント要素」として、どのようなものを考えたらよいのかということが、大きな難問のひとつでした。この「スプリント要素」というのは、ランナーの全重心水平速度(dG)を構成する、幾つかの「動き」というものです。
 ランニングというものは、まとめてみると「ひとつの動き」なのですが、このようにとらえてしまうと、何をどのようにして発達させてゆけばよいのかということがとらえにくくなります。そこで、この「ひとつの動き」を組み立てている、「幾つかに分類できる動き」に分けるということが、ランニングを理解するうえで重要となります。
 この問題に対してスピード能力3要素というものを見出しました。  このスピード能力3要素とは、@キック脚重心水平速度(dK)とAヒップドライブ速度(dT-dK)とB相対スウィング速度(dS-dB)です。


図3 スピード能力3要素

 これらの3要素は、ある係数をもって、全身の水平速度dGを構成することができます。これは、次のような関係式によって表わされます。

   dG = p(dT-dK) + dK + q(dS-db) , p=2/3, q=1/4

 ここにpやqの係数がかかっているというところが要点です。これは、力学的な運動量の保存則から導かれるものです。このような係数があるので、スピード能力3要素は対等な重みをもっているものではないということになります。これは重要な発見でした。
 @キック脚重心水平速度(dK)とAヒップドライブ速度(dT-dK)には、ある程度の、正の相関があります。しかし、中間疾走においては、これらと、B相対スウィング速度(dS-dB)との相関は、あまり認められません。

 これらのことと、B相対スウィング速度(dS-dB)にq=1/4という係数がかかるということから、このB相対スウィング速度(dS-dB)に対する重要度は低いものとなります。スウィング脚の動きは、キック脚による加速力を水平方向へと調整するということのほうが重要であり、全体の速度を高めるための役目は、それほど期待できないと考えておくべきです。
 @キック脚重心水平速度(dK)とAヒップドライブ速度(dT-dK)のセットに、より重要性があるということになりますが、それでは@キック脚重心水平速度(dK)をどのように高めればよいかということになると、これは難しい問題となります。強いキックで大きくなるのかと考えて調べてみましたが、中間疾走のランニングにおいて、そのような相関は認められませんでした。

 これに対してAヒップドライブ速度(dT-dK)のほうは、意図的に大きくできるノウハウがありそうです。このような能力を高めるトレーニングも、幾つか見出すことができるかもしれません。

 これらのことは中間疾走についてのことですが、スタートダッシュの加速局面においては、事情が少し違ってきます。
 スタートダッシュの加速局面においては、いろいろな要素が、互いに正の相関をもっているのです。かんたんに述べると、スタートダッシュの加速局面においては、あるていどの力強いキック動作によって、あらゆる要素が、大きな値へと変化することになります。

 このことにより、スタートダッシュの加速局面において、できるだけ大きな速度を獲得するということが、中間疾走における、ベースとしての@キック脚重心水平速度(dK)を大きくしておくことへとつながります。おそらく、体験的に、このことは知られてきたことでしょう。

 スプリント要素を強化するためのトレーニングへ

 スプリント要素を3つに絞り込んで、全重心の水平速度dGに対する寄与率を調べたところ、キック脚重心水平速度(dK)がもっとも重要な要素となっていることが分かりました。しかし、このキック脚重心水平速度(dK)を大きくするには、どのようなことを意識すればよいのかということが、なかなかはっきりとは分かりませんでした。
 2番目の要素はヒップドライブで、3番目の要素が相対スウィングです。ヒップドライブは「キック時にしっかりと腰を入れる」と表現されていた動作のことです。ハードルを越えた接地1歩目のフォームにおいて、この動きが強調されると、スピードが失われず、インターバルのストライドをかせぐことができます。相対スウィングというのは、ランナーの体をスウィング脚と、それ以外の部分(キック棒)に分け、このキック棒の重心に対して、スウィング脚の重心がもつ、相対的な動きのことです。ランナーの感覚として、スウィング脚を速く動かしているというものに対応しています。これは、ランナーとしては、意図的に操作しやすいものとなっています。ランナーを外から観察したときの、スウィング脚重心水平速度dS は、やはり、速く走るランナーのほうが大きな値となっていますが、ランナーの感覚としての、相対スウィング速度dS-dB は、ランナーの速度にあまり影響されず、速く走れるランナーも、そうではないランナーでも、同じくらいの動きをすることができています。  相対スウィング能力については、とくにトレーニングすべきものというものではないようです。これに対して、ヒップドライブ(dT-dK)能力と、キック脚重心水平速度(dK)のための能力を高めるということが、速く走ることができるためには重要なこととなります。
 これらについての問題は、かなり難しくなりますので、ページのタイトルを新たに設けて、詳しく議論したいと思います。
 (Written by KULOTSUKI Kinohito, May 16, 2013)

 

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