高速ランニングフォームのためのトレーニングメニュー(16)
オフシーズンの短距離トレーニング (C) R10さんの100mB決勝レース

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)@ 9621 ANALYSIS

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 はじめに

 2013年11月17日(日)にR10さんのスタートダッシュと中間疾走についての技術指導を行いました。
 このとき、スタートダッシュの技術において、R10さんは、スターティングブロックの、前のほうに置いた脚(左脚)から動かしはじめるという、ちょっとユニークなクセがあるということに、現地で私は気がつかなかったのですが、家に帰ってから、撮影しておいたビデオ画像をジェーペグ静止画像へと変換して、それを1枚ずつチェックしてゆくときに分かりました。
 R10さんとは、競技場で出会っただけの関係でしたので、連絡手段を確認していませんでした。そこで、ビデオ撮影したものを解析するということや、私のホームページのことを知らせていましたので、「R10さんへのお知らせ」というページをつくって、お母さんがチェックすることを期待しました。しかし、翌週に試合があると聞いていたものの、その前日まで、そのページを見たという確認のメールは届きませんでした。
 「翌週の試合」というのは、近畿の小学生を対象とした陸上競技クラブの交流試合で、奈良県の鴻池陸上競技場で、11月23日(祝)におこなわれるもののようです。
 17日の指導のときに、R10さんのスタートダッシュのクセを見抜いて修正しておいたなら、心残りはないのですが、このことを知らせておかないと、私の指導に手落ちがあったことになります。
 幸い、奈良県の鴻池陸上競技場へは、私が住んでいる甲賀市信楽町からは車で50分ほどの距離です。そこへ行って、直接説明するということにしました。
 ただし、現在の私の仕事は、夕方の18時から翌朝の3時ごろまで続くものでしたから、土曜日となる23日の朝は、4時に帰ってきて、かるく食事(夕食に相当するもの)をとって、5時ごろから眠り、7時に起きて、朝のいろいろなことをこなして、なんとか8時半に出発しましたので、鴻池陸上競技場へは、9時20分にたどり着いたのでしたが、投擲練習場の臨時駐車場へと回って、車から自転車を下して、100mのスタート地点へとたどり着いたとき、R10さんの予選レースは、すでに終わっていました。
 このあと、R10さんのお母さんを見つけて話しはじめたところ、お母さんも、今着いたばかりで、予選レースは見ていないとのこと。お母さんにR10さんを呼び出してもらい、スタートのとき、前にある脚から動かし始めるのは不自然なことで、ふつうは後ろに置いた脚から動かすことで、しっぽで頭部とのバランスをとっている「恐竜のポーズ」の「しっぽ」のやくわりを「動かしはじめて空中に浮く、後ろ脚」がとるということを説明しました。そして、R10さんは左脚から動かすクセがあるので、こちらのスターティングブロックを後ろ側に置けばよいということを述べました。
 予選レースは見逃がしましたが、午後のB決勝に出られるということなので、うまくスタートして走るチャンスがあるわけです。その間に、4×100mリレーの予選も出るということなので、これらを見ることにしました。
 目的のレースまで時間があったので、自転車を持ってきていることもあって、奈良市内を自転車で散策することにし、奈良公園のシカを見て、いつも仕事帰りの3時ごろに見る、夜の道路を横切る自然のシカより、毛並みが汚れていると感じました。また、興福寺にも迷い込んで、外国の人が藤棚にぶら下がっている「豆」を写真に撮っているのを見て、「あんなものが珍しいんだなあ」と思いました。近鉄奈良駅から伸びる商店街のにぎやかさを見て、競技場へと戻る道にあったコンビニで弁当などを買って、競技場のバックストレート側の芝生スタンドで昼食をとりました。
 R10さんの4×100mリレーの予選は、あまりぱっとした「走り」ではなかったのでしたが、そういえば、17日(日)の指導日に、直線での、スタートダッシュと中間疾走について教えたものの、曲走路の走り方については何も教えなかったということを思い出しました。これらは微妙に違うのです。R10さんは、直走路でのフォームを曲走路でも行おうとして、重心を上げすぎていましたし、加速しているつもりでも、加速できていないという様子でした。
 これは、中学校や高校で理科(物理)を習っている人には説明できるのですが、曲走路を走るときには、カーブを曲がってゆくための加速度が必要となって、それに力を使ってしまうことにより、カーブにそった方向での加速が難しくなってしまうのです。だから、曲走路で速く走るためには、直走路のときより、よけいに力を込めて走る必要があるということになります。
 リレーの予選のすぐあとに100mのB決勝がありました。R10さんのお母さんとお父さんは正面スタンドで見ることにして、そちらに向かいましたが、私はレースを真横から撮影するため、ほとんど誰もいないバックストレート側のスタンドの中央に陣取りました。
 100mのAB決勝ではスターティングブロックが使えるようです。それをセットしてレ―ス前の練習をするR10さんを双眼鏡で観察したところ、R10さんは、スターティングブロックの位置をいろいろと変え、両方を同じ位置にしたりしてテストを繰り返したのち、17日のと同じ、左脚が前で、右脚が後ろの配置とし、17日とは違って、後ろの右脚から動かすテストをして、後ろに下がりました。とりあえず、「恐竜のポーズ」をとってスタートすることができるようです。
 R10さんの100mB決勝のレースをビデオ撮影しました。これを持ち帰って分析しましたが、その内容については、後で詳しく説明します。
 100mB決勝のあと、4×100mリレーもB決勝に残ったようです。そのレース前に、曲走路の走り方について、少し説明したのですが、すぐには身につかないようで、あまりうまくは走れていないようでした。これについては、また、後日、私が走って見せ、説明を加えて、さらに、そのためのドリルをやって、R10さんの小脳に理解してもらう必要がありそうです。

 R10さんの100mB決勝のレースの解析

 R10さんの100mB決勝のレースの解析を行いました。
 次の図1は「R10さん100mB決勝の(上から)0(Start), 1, 2歩目」です。スターティングブロックから出るものを0歩として、14歩目まで解析しました。それらについての詳しいテータを示すこともできるのですが、専門的になりすぎるので、それらから分かったことを、グラウンドでR10さんや(マネージャー役の)お母さんに説明するような言葉で述べようと思います。




図1 R10さん100mB決勝の(上から)0(Start), 1, 2歩目 右の表示は「歩目(スピード)フォーム分類」

 図1の中に記してあるフォームのところには、これまでギリシャ文字で記していたアルファクランクキック(α)などを、英語の頭文字(alphaのa)などで記して、アルファクランクキックからピストンキックまでを順に数えて何番目かという数を添えました。アルファクランクキック(a, 1)、ベータクランクキック(b, 2)、ガンマクランクキック(g, 3)、ガンマデルタクランクキック(gd, 3.3)、デルタクランクキック(d, 4)、ピストンキック(P, 5)となります。
 図1の最上段が、0(Start)歩目のフォームです。自然なフォームとなっており、これまで、まるく縮こまっていた上半身も、よく伸びています。17日の指導前と指導後の2本における平均値として、この0歩目のスピードは1.7 [m/s] だったのですが、このB決勝では2.7 [m/s] となっていました。
 さらに驚いたことに、1歩目のスピードが、とても大きくなりました。17日の平均値では3.0 [m/s] だったのですが、図1の1歩目(中段)でのスピードが5.0 [m/s] にもなっています。さらに、2歩目(下段)では5.7 [m/s] です。これまでいろいろと調べてきた、マスターズで100mを12秒前後で走る55歳前後のクラスのランナーより、ずうっと速いレベルです。
 このように、見事なスタートダッシュの跳び出しとなりました。
 このあと、R10さんの3歩目から10歩目までは、6.0 [m/s] 前後のスピードで停滞して、11歩目に7.3 [m/s] を出すのですが、これが続かず、14歩目まで、スピードが低下してゆきます。


図2 R10さん100mB決勝スタートダッシュのスピード変化

 今後のトレーニングのための注意点

 スタートの0歩〜2歩までは、スピードの変化について、非常に優れたものとなっていました。フォームも、ピストンキック(5番目のフォーム)、ピストンキック(5)、デルタクランクキック(4)となっており、これでよいでしょう。腕振りも、とてもよくなっています。
 17日の指導では「ダッシュは(0歩を数えず)3歩目まで」と言ったと思いますが、これだけのスピードが出せるのですから、「2歩目まで」と直すべきです。ここまでは、「少し外に足を置き」、「かかとをつけても良いので、キック脚の太ももあたりに力を込める」という方針でした。
 17日には、「4歩目から、足首に力をこめて、ここのバネも使う」と言いましたが、これを「3歩目から」に変えるべきです。
 100mB決勝レースでの3歩目から10歩目では、「中腰ガンマクランクキック(3)」を目指すべきでしたが、残念なことに、ガンマデルタクランクキック(3.3くらい)が8歩中5歩も出現していて、ここで、キックポイントが後ろにずれ気味で、また、重心も高めとなって、さらに加速することができていません。
 11歩目に現れたのはベータクランクキック(2)ですが、このあと、デルタ(4)、ガンマ(3)、ガンマ(3)となります。これらは、上手なものではなく、形だけガンマ(3)というものでした。いずも、接地時のキック脚のすねが、かなり前方へと傾いていました。
 キック脚のすねをもっと垂直に立てるのは、レースのもっと後半で、最初から10歩とか20歩のところでは、スキップA系のランニングフォームでよいのですが、接地時に、できるだけ早く、キック脚とスウィング脚に力を込めるように意識します。それが、「上手な」ガンマクランクキック(3)やベータクランクキック(2)へとつながってゆきます。
 このことと関連して、R10さんは、17日のときは目立っていなかったのですが、このレースでは、スウィング脚のかかとを、お尻の方へと巻き上げる動きが目立つようになってきました。このような動きは、スウィング脚の水平速度を遅らせ、キック脚とのタイミングを狂わせて、キックポイントを後ろへとずらせてしまいます。かかとを意図的にお尻へと巻きあげるドリルをやるかもしれませんが、それは悪影響をおよぼします。お尻の後ろへと巻き上げるのではなく、お尻の下へと進めるように心がけてください。
 スキップAや、スキップAゴーオン(前進スピードを大きくしたスキップA)のドリルをしっかり行うと、スウィング脚を巻き上げているヒマがなくなります。キックポイントをもっと前に持ってくるフォームを体に染み込ませてください。
 接地とともに、キック脚の膝を曲げたまま、力をこめて重心直下を踏むように心がけます。このとき、このタイミングに合わせて、瞬間の動きでよいので、スウィング脚の動きにも力を込めます。全体にわたってスウィング脚が速く動く必要はないのです。タイミングの早いキックポイントの瞬間のときだけ、全身の力を集めることです。
 すこし上級の技術となりますが、ときどき、キックの動きとは、反対の方向へと、上半身が後ろに揺れてしまって(トルソ振動と呼んでいるもの)、スピードが低下していることがあります。キックによって腰が前進するとき、その上に乗っている上半身は、前に傾く角度を変えずに、そのまま前へと送りだされるべきなのです。このようにするとスピードのロスが減ります。
 このために取り組むこととして、「お腹を少し凹ませぎみにして緊張させておく」という技術があります。これは、男子100mの日本記録を出したときの伊藤孝司選手が語っていたものです。何度か意識して走るとクセづきます。また、腹筋を鍛えておくと、あまり意識しなくても、上半身と腰が強く結びつきます。
 このような現象と関連して、腕振りにも、微妙なコツがあります。腕振りについては、17日のとき、肘から下が後ろへと流れていました。23日の100mB決勝のスタートあたりで、このクセは消えていましたが、10歩目以降での中間疾走で、腕を後ろへと振りすぎていて、これが、上半身の重心を後ろへとずらせることとなっているときがあります。アメリカのトム・テレツさんが述べていることですが、後ろへの腕振りは、腰のところあたりまで振るところで反転させるのです。つまり、腰から前の方だけで腕振りをするのです。
 曲走路での走り方は、言葉だけではむつかしいので、あらためて、グラウンドで指導します。あえて言葉で述べると、中腰アルファクランクキック(または、中腰ベータクランクキック)となるかもしれません。モーリス・グリーン選手が得意としていたフォームです。中腰で重心直下をキックしたとき、その反動で、膝が前方へと弾けて上がるというものです。これがうまくできると、へその下の奥にある腹筋に負荷がかかり、筋肉痛になって、脚が持ちあげにくくなります。しかし、一度回復すれば、そこからは、ほとんど痛まないようになります。
 速く走るためにトレーニングすべきことは、このように、たくさんあります。直走路といい、曲走路といい、100mレースというものには、とても奥深い技術がひそんでいるのです。
 (written by KULOTSUKI Kinohito, Nov 25, 2013)

 付録

 図Aは「100mB決勝レースにおけるR10さんの、3歩目から14歩目のフォーム」です。フォームのところには、これまでギリシャ文字で記していたアルファクランクキック(α)などを、英語の頭文字(alphaのa)などで記して、アルファクランクキックからピストンキックまでを順に数えて何番目かという数を添えました。アルファクランクキック(a, 1)、ベータクランクキック(b, 2)、ガンマクランクキック(g, 3)、ガンマデルタクランクキック(gd, 3.3)、デルタクランクキック(d, 4)、ピストンキック(P, 5)となります。










図A(1) 100mB決勝レースにおけるR10さんの、3歩目から11歩目のフォーム

 この11歩目のところに腰高ベータクランクキック(b, 2)のすぐれたフォームがあります。おそらく、右から数えて4つ目のところで、真下に向けて瞬間的に力をこめることができたため、5つ目のフォームのような、キック脚の膝から下が大きく前方へと傾くことになったのでしょう。このとき、キック脚重心水平速度(キックベース速度)が大きくなって、全体のスピードを押し上げることになるのです。
 腰高ではなく、標準(高)や中腰でのフォームについても、このように、キック脚のすねが垂直に立っている状態で、真下に向けて、できるだけ短い時間に、力を込めることが重要なポイントとなります。おそらく、腰高フォームがいちばんやりやすいと考えられますが、標準(高)や中腰でのフォームで行えるようになると、もっと力強いフォームとなって、さらにスピードが高まります。




図A(2) 100mB決勝レースにおけるR10さんの、12歩目から14歩目のフォーム

 13歩目のガンマクランクキック(g, 3)は、キック脚の膝を曲げたままで、ほとんど形を変えることなく、地面を押すことができていて、「クランクキック」の見本となるものです。やや中腰ぎみの標準(高)ガンマクランクキックなのですが、地面に接地したときの、キック脚のすねが、前方へと傾いた状態だったので、11歩目のもの(4.6m/s)ほど大きなキックベース速度とはならず、3.9m/sにとどまりました。
 むつかしいとは思いますが、スウィングB系の膝下を振り出す動きが自然と組みこまれるようになれば、このようなガンマクランクキックなどでも、さらにキックベース速度が大きくなって、全体のスピードが高まります。
 キック力の値は、1〜2では力があまり入っていないことになりますが、R10さんのケースでは、3〜5くらいの力のときにスピードアップできるようです。7倍などのときもありますが、力を大きく加えたほどスピードは高まっていません。地面に力を加えるときには、すこし「やわらかい感じ」にするのがコツです。走幅跳の踏切のときや、(私は持っていないので使わせていませんが)メディシングボールを脚のバネも使って投げるときの、脚から生み出す力の感覚に似ています。
 ただし、11歩目のベータクランクキックで1.6だったように、ベータクランクキックや、今回解析したR10さんの100mB決勝14歩目までには現れなかったアルファクランクキックだと、1〜2の、もっと軽い力でも、大きなスピードを生み出すことができるのです。
 ですから、スタートダッシュの2〜3歩の後は、やわらかい感じのキックによる、中腰ガンマクランクキックを目指し、スピードがついてきたら、標準(高)ベータクランクキックを生み出せるようにして、レース後半では、もっと早いタイミングで、短く、軽い力を込めて走ることができる、アルファクランクキックを使って、さらにスピードアップしてゆくのが、理想的なランニングです。もっとも、私も、こんなにかんぺきなランニングは、一度もやったことがありませんが、目指すべきものとしては、そのようなことです。
 このように、ランニングフォームの使い分けについては、いろいろとむつかしくなります。まず、はじめは、このような、いろいろなランニングフォームを使い分けられるようにトレーニングして、力をどのように加えたらスピードが増してゆくのかということを、自分の身体でテストしてゆくことです。


図B 17日(日)R10さんへの指導後3本目のスタートダッシュのスピード変化

 

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