走幅跳でもっと記録をのばすには? / 仮ページ(E)

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)@ 9621 ANALYSIS

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 はじめに

 走幅跳はとてもシンプルな競技種目です。単に走ってゆき、踏切板のところで地面をけって、水平にできるだけ長い距離を跳ぶ、たったこれだけのことです。
 ところが、このように、一見シンプルに見えるものほど、その奥底に潜んでいる技術やメカニズムが分かりにくいため、この種目で記録をのばすために、いったいどのようなことをすればよいかということが、よく分かっていなかったかもしれません。これよりもっとシンプルな競技種目である、スプリントランニングの状況によく似ています。
 このページでは、走幅跳について、幾つかのポイントに的をあてながら、詳しく説明してゆこうと思います。

 (1) スピードの出るランニングフォームを身につける

 走幅跳の助走のフォームを、まるで、スタートダッシュのえんちょうだと思っている人がいるかもしれません。最近、中学生や小学生の走幅跳の試合やトレーニングを見る機会が何回かあって、助走のフォームも観察しましたが、スピードがよく出るものではありませんでした。スタートダッシュのえんちょうだと思って走っていると、いかにもスピードが高まっているように感じてしまうかもしれませんが、実際の100mレースでトップスピードになっているときの、すぐれたランナーのフォームは、そのような、スタートダッシュのえんちょうではありません。
 走幅跳の助走では、踏切の何歩か前には、100mレースでの、トップスピードとなるフォームで走れているようにしておくべきなのです。
 さらに具体的なことは、難しくなりますし、説明が長くなって、それだけで何ページにもわたってしまいますので、高速ランニングフォームについての、他のページを参考にしてください。
 もちろん、現地で私が指導するときは、いろいろと細かく説明することとなります。一般的に少し説明すると、走幅跳の助走では、地面を真下にける、高速ランニングフォームの、中腰から標準(高)のガンマクランクキックやベータクランクキックが、スピードや、踏切動作のために役立ちます。踏切1歩前で現れることのあるイプシロンクランクキックというフォームは、中腰ガンマクランクキックの重心を、もっと低くしたものです。
 キックするときに、膝の角度を最後まで大きくするピストンキックや、その動作に近いデルタクランクキックでは、トップスピードを生み出すことができません。
 キックした後の足のかかとをお尻の後ろに巻き上げるフォームは、踏切動作のタイミングを遅らせてしまい、振りあげ脚のポーズを効果的におこなうことができにくくなってしまいます。

 (2) 助走の長さをケチってはいけない

 中学生や小学生の助走では、どうも、「踏切のところでトップスピードとなるように」と考えて助走距離を設定しているように見うけられます。結果的に「踏切のところでトップスピードとなる」のが理想ですが、それは、踏切準備の何歩かのところの技術がすぐれたものとなった、とてもうまい、一流選手のなかでもめったにいないジャンパーだけに通用することです。(これにぴったりあてはまる選手がいました。世界記録をもっているマイク・パウエル選手です。パウエル選手はカール・ルイスほど速く走れるわけではありませんが、踏切1歩前のところで、踏切のための沈み込みをしながら、そこでさらにスピードアップしているのです。これは理想的な動きです。)
 トップスピードに達するのは、踏切板のところではなく、このあと説明する、踏切4歩前の中間マークのところです。そこからの4歩では、すこし複雑な動きをするので、トップスピードから少し遅くなるのは、しかたのないこととして、ここのところの減速ができるだけ少なくなるように、技術をみがいてゆくという方針をとるのです。
 私が十種競技などで走幅跳をやっていた現役のとき、助走距離は36mでした。三段跳で30mにしたことがありましたが、そのときは「ぎっくり腰」からの回復期で、36mの全助走ではむつかしいと感じて、「短助走」として、やむなく、その距離としたのです。もっと強い選手だと、40mくらいの距離をとっています。中学生や小学生で、20mくらいでやっていることがありますが、これらは明らかに、「踏切のところでトップスピードとなるように」と考えて助走距離を設定しているはずです。しかし、トップスピードになるのは踏切4歩前の中間マークのところだと考えると、少なくとも、あと6m以上は距離をのばしておく必要があります。 

 (3) 助走のスタートの「おおすめ」はラテン系スキップ

 踏切をぴったり合わせるためには、いつも同じスタート速度で走りだすべきだと考えてか、助走のスタートを、スタートマークのところから、スタンディングスタートの姿勢をとって、静止状態から走りだすことが、初心者によく見られます。おそらく、そのように指導されているのでしょう。
 しかし、現実には、そのように指導されている初心者の踏切位置は、1回ずつバラバラで、踏切板からおおきく離れていたり、逆脚で踏みきったりしています。
 踏切板にぴったり足を乗せて踏みきるためには、このあと説明する、「中間マーク」や「1歩前で踏切板をちらっと見て、ねらう」という技術を身につけることにより、かなりうまくできるようになります。
 実は私は現役時代、走幅跳や三段跳で一度もファールをしたことがないのです。これには少し秘密があって、あっヤバイ(当時の言葉では、まずい)と感じたとき、私はとっさに逆脚で踏み切っていたということがあり、それでも、同じくらいの記録を出せていたからです。とくに、逆脚で三段跳をやって、自然なよそおいで、砂場に着地したというのは、ちょっとめずらしいことです。もちろん、記録は平凡なものでした。走幅跳では、どちらの脚で踏み切っても、同じくらいの記録でした。これは、三段跳をやっていて、どちらの脚の筋力も発達していたからです。
 走幅跳は100mなどとは違って、助走そのもののタイムを問われません。とにかく、踏切までにトップスピードになっていればよいのです。
 このような考え方で、私は、現役時代、歩いてスタートマークを踏む方法をとっていました。このほうが、リラックスしたランニングフォームへと進めると感じたからです。
 世界の一流選手を見ていると、もっとリラックスしたスタート法をとる人がいます。私が「ラテン系ステップ」と呼んでいるもので、まるで、ダンスのステップのような、いかにも楽しげな動きです。それで、すこしリズムをとって、スタートマークのところから、早めのピッチで、スタンディングダッシュのフォームへと変化するのです。私の現在の「おすすめ」は、この方法です。

 (4) 中間マークは踏切4歩前がよい

 私が36mの助走距離をとっていた現役時代のころ、確か、16mのところに中間マークをとっていました。助走を16mと20mに分けていたわけです。
 中学校で理科の先生をしながら陸上競技部を指導するようになってから、県の合宿で、7mを跳んだこともある先輩教師の方から、「中間マークなぞ置かずにスピードを追求して走るものだ」と聞かされたことがあります。それで、強い選手を育てておられたので、説得力があります。
 それから時間もたち、40歳代のころ私は、東京で地質調査の仕事をしていたときのことですが、休日に、ボランティアで、指導者のいない高校生や大学生を指導していました。このとき、指導していた女子学生の技術と比較するため、他校の選手のフォームも撮影して調べていました。そのとき、たしか、中央大学の女子3選手が、いずれも、踏切4歩前に中間マークを置いていることに気がつきました。
 走高跳のばあい、中間マークは、3歩前か5歩前に記しておきます。これは、背面跳のカーブ助走のとき、外側の脚が3歩前や5歩前になるからです。
 棒高跳の指導では3歩前にマークを置くことにしています。これは、ポールを突っ込む動作に関連しています。
 さて、走幅跳での、踏切4歩前の中間マークについてですが、これは、マークを踏んで、1、2、3と数えたところが踏切1歩前になるので、その2歩前の、マークの次の1での、リズムの変化を意識づけやすいものだと考えられます。
 4歩前のマークでは、うまく足を合わせます。その後の「1」で、少しランニングフォームの動きを変えて、「2」では、次の「3」のための準備動作をします。「3」は踏切1歩前なので、少し沈んだ状態で走ることとなります。この1歩前の姿勢とスピードが、とてもたいせつな要素となります。
 踏切脚と同じ脚で、4歩前のマークを踏み、2歩前の、1歩前の重心高を決める大切な準備動作を行って、0歩前としての踏切に入ります。このようにして、アクセントとして使う脚を同じにしておけるわけです。
 走幅跳のばあい、踏切3歩前のマークではきゅうくつになり、複雑な動きとなってしまいます。踏切5歩前だと、間のびしてしまいます。
 踏切4歩前にマークをおくという方法の良さは、ひょっとすると、次のようなことかもしれません。

  踏切(0) ← 1歩前 ← 2歩前 ← 3歩前 ← 4歩前(中間マーク)
   4       3      2      1       0
   シ      サン     ニー    イチ  

 4歩前の中間マークを踏んで、心の中で、「イチ」「ニー」「サン」「シ」と数えるとき、言葉が少し伸びる「二―」の2歩前で、ストライドをわずかに広げるのが、「サン」の1歩前での沈み込みに役立つのです。最後の「シ」の踏切動作は、意図的に速くすることとなります。
 踏切4歩前のマークには、自然にちょうど入るのが理想ですが、その次によいのは、スピードがよく乗って、マークの前で、すこし歩幅を小さくするのが、かんたんにできるケースです。4歩前までが遠かったら、ここで無理をして4歩前のマークに合わせてしまうより、続く3、2、1の3歩のストライドを少し伸ばすようにして調整したほうが、よい結果を生みます。
 「中間マークなぞ置かずにスピードを追求して走る」ということの前に、「中間マークのところでいつも自然に足があって」かつ「踏切板にぴったり足があう」という状態を生み出すべきだと私は思います。
 かつて、棒高跳の指導をしていたときのことです。選手の助走を観察していると、中間マークのところにぴったり足が合っていないので、選手にそれを話したところ、その選手は「自分ではぴったり合っていると感じている」ということでした。それで、踏切も跳躍もうまくいっているのです。この選手にとって、この中間マークは、「うまく走れている」という、確信のためにあるもので、もう、このような中間マークがなくても、ぴったりと踏切を合わせることができるのだと判断して、私は「そうか」と言って、外から見た「中間マークのズレ」のことは、それ以上追及しませんでした。
 走幅跳においても、中間マークで何も調整することなく、自然に走ってゆくことができて、踏切前の動作もうまくやれ、踏切板にぴったり足が乗って、うまい踏切ができたら、その中間マークは、あってもなくても関係ないものとなるのです。
 しかし、そうなるまでは、中間マークを置いてトレーニングをくり返していったほうがよいでしょう。
 カール・ルイスとマイク・パウエルの、1991年世界選手権(@東京)での対決についてのビデオをYouTubeで見ると、その中でコーチたち(カール・ルイスのトム・テレツと、マイク・パウエルのランディ・ハンティントン)が、カール・ルイスもマイク・パウエルも踏切4歩前に中間マークを置いていて、ルイスはぴったり踏んでいたのだけれど、パウエルは少し前のところを踏んでていて、これはファールになるかもれないと思っていたところが、ぴったりと踏み切ることとなって、パウエルの世界記録が生まれたというエピソードを述べています。
 ひょっとすると、パウエルにとっては、そのような状態で、うまく中間マークを踏めていると感じていたのかもしれませんし、少し前に踏み出したということを意識していて、最後の一歩を短めにこなしたのかもしれません。いずれにしても、パウエルはうまく踏み切ることができて、世界記録を生み出したのです。

 (5) 踏切まえの沈み込みにはいろいろなやりかたがある

 まっすぐに走って行って、踏切のところに、踏切板や(低い跳び箱のような)踏み台があるとか、階段の1段か2段くらいの段差があって、それらを踏んで跳ぶと、速い助走スピードのまま、高く跳ぶことができて、大きな距離を進むことができます。
 実際の走幅跳では、そのような段差はないので、同じような効果を生み出すためには、踏切前に、少し沈みこんでおく必要があります。このためにやることとして、いくつかの方法があります。

 (a) ひとつ目は、踏切2歩前の1歩を少し高く跳んで、その落下速度を大きくすることにより、踏切1歩前に沈み込むという方法です。私が若いころ(高校生だったころ)に取り組んだのが、この方法でした。「少し高く跳んで」というところが、かなりびみょうなところです。高く跳び過ぎてしまうと、距離がのびてしまい、踏切位置が狂ってしまいます。また、沈みすぎてしまうということにもなりかねません。
 何度もトレーニングで試してみて、「少し高く跳んで」というところを、自分なりに調整してゆくことになるわけです。この方法は、かくじつなものですが、かなりむつかしいものです。

 (b) ふたつ目は「踏切1歩前でキック脚の力を抜く」という、シンプルなものです。上の(a)の方法では、踏切2歩前を強くキックすることにより、踏切1歩前で、重力に対して「力負け」をして沈み込むというアイディアでしたが、この方法では、そんなややこしいことをしなくても、ちょくせつ踏切1歩前で「キック脚の力を抜けばよい」ということなのです。
 実際に、うまくやっている選手は、(a)と(b)を組み合わせているかもしれません。踏切2歩前で、ほんの少しだけ、ストライドを伸ばすような動きで、わずかに高く跳んで、次の1歩前で、キック脚の力を抜いて、私がイプシロンクランクキックと名づけた、重心の低いフォームを生みだすわけです。


図1 カール・ルイス選手の踏切4歩前から踏切への動作

 ※ カール・ルイス選手も、じつは、踏切2歩前で、少しストライドを伸ばすような動きをやっているようです。Lewis (-2) の後半とLewis (-1) の前半の空中動作をつづけて眺めると、そのことが分かります。すこし空中で伸びている感じです。そして、Lewis (-1) のキック動作では、見事に、腰を下げて移動しています。(このときは、画像を左右反転して解析したので、赤色が左脚と左手となります。)

 (c) みっつ目の方法は、もっとかんたんなものです。私は「カール・ルイスの方法」と呼んでいます。かつて100mで世界チャンピオンだったカール・ルイスは、走幅跳でも優れた記録を出していました。
 「カール・ルイスの方法」は、踏切2歩前までは、何もややこしいことをしないで、おもいっきり速く走ることだけに気をつけて、踏切1歩前に、その足を、すこしだけ外側に踏み出すというものです。
 このような動作だけで、踏切1歩前の沈み込みは、じゅうぶん行うことができて、しかも、スピードをほとんど失うことがありません。
 この方法の問題点は、踏切1歩前を、すこし外側で踏んで踏切に進むため、跳び出すときの方向が、わずかに斜めになってしまうということです。実際に、カール・ルイスの跳躍を調べて見ると、砂場の中央ではなく、少し外枠に近いところに着地しています。しかし、砂場の外に出るとか、外枠にぶつかってしまうというところまではいきません。斜めに跳ぶための、まっすぐに測る距離のロスは、ほんのわずかで、数センチくらいのものです。8mいくらか跳ぶときの数センチですし、このような動きを組みこまないで跳ぶときは、8mどころか、7mも跳べないかもしれません。このような、距離についてのわずかなロスは、「ややこしい動きをして助走スピードを減らすこと」を避けるという利点でおぎなうことができます。これは、初心者から上級者まで、おすすめの方法です。
 カール・ルイスとマイク・パウエルの、1991年世界選手権(@東京)での対決についてのビデオをYouTubeで見たら、カール・ルイスのコーチであったトム・テレツが、カール・ルイスの跳躍方向が曲がっているということに気づき、もっとまっすぐに跳ぶようにと指示したとありました。そのことにより、結果的にカール・ルイスが、技術的なことを考えすぎて、おもいきって跳躍することができなかったとも述べています。
 おやおや、私は、この「カール・ルイスの方法」は、てっきり、コーチのトム・テレツさんが教えたものだと思っていたのでしたが、どうやら、それは、カール・ルイスが独自に生み出したもので、たんなる、「カール・ルイスのクセ」のようなものだったようです。


図2 カール・ルイス選手の踏切1歩前動作(正面から)

 ※ 青色の左脚を、やや外側につくことにより、腰を下げる動作をやりやすくしていることが分かります。この、1歩前のキックが強いものであるため、ここでカール・ルイス選手は、さらなるスピードアップを行うのですが、このため、踏切へは、斜めに進むこととなってしまいます。そして、カール・ルイス選手は、砂場の中央にではなく、あと10センチか20センチを残して、砂場の外わくに近いところへと着地するのです。

 (6) 1歩前で踏切板をちらっと見て「ねらう」

 この技術を知らないでいるジャンパーがほとんどではないかと思えるほど、みんな、踏切板から足を踏みだしてファールを繰り返しています。
 私が現役時代、三段跳や走幅跳で一度もファールをしなかったのは、この技術のおかげだったと思います。
 踏切1歩前で「近い」と感じたら、この1歩をすばやく運ぶことで、踏切板にうまく乗ることができます。
 反対に「遠い」と感じたら、少し大きく跳んで踏切板へと向かうことになります。この実例は、1968年のメキシコオリンピックで8m90という大記録を出したときの、ボブ・ビーモン選手(アメリカ)の踏切動作です。このとき、ビーモン選手は「遠い」と感じたはずで、最後の1歩のストライドが、なかり長めのものでした。ふつうは、一歩前に沈んでおき、階段を駆け上るように、身体重心を下から上へと向かわせるのが正論です。ところが、ビーモン選手は、このときの踏切では、身体重心を上から下へと向かわせたことになります。
 ビーモン選手は1m90くらいの身長がありながら、70kg台の体重だったと思いますが、とても軽い身体と、強い脚力があったようで、このような、上から跳びこむ踏切で、リバウンドジャンプするときの、筋肉群が引きのばされるときに大きな力を生み出す現象を(偶然に)利用できたらしく、そのときのニュース画像を見て私は驚いたのでしたが、ビーモン選手は、砂場の横に立っていた審判の頭の高さまで重心をあげて跳んでいたのです。そのあたりでの空中フォームがカッコよくて、前方にやや膝を曲げて持ち上げてある両脚の間に上半身をかぶせ、両腕はジェット機の後退翼のように、後ろに伸ばしていて、まるで、人形ドラマの「サンダーバード2号」のようでした。中学生だった私たちは、学校の練習で、それを真似て跳ぼうとしましたが、5mそこそこの距離しか跳べない滞空時間では、そのまま胴体着陸してしまうこととなり、どう考えても距離を損するので、この空中フォームを真似るのはやめて、平凡な「そり跳び」にもどしました。
 話がかなり流れましたが、ビーモン選手も、きっと、踏切1歩前に、踏切板をちらっと見て、ぴったり踏切板に乗ろうとしていたはず、というエピソードでした。
 中学生を指導していたときのことですが、ある女子選手が何度もファールをするので聞いてみたら、踏切板の前にある緑の粘土板まで踏んでもよいのだとかんちがいしているということが分かりました。「粘土板を踏んだらだめ」ということを説明したあとは、きちんと踏切板に足を合わせて跳べるようになりました。この女子選手も、踏切1歩前で、ちらっと踏切板(はじめは、粘土板もふくめて)を見ていたと思います。
 私が三段跳をやっていたときの、私がホップの踏切を行っている瞬間の写真を見たことがあります。その画像の中で私は、頭をやや傾けて、下の方を向いていました。どうやら、踏切板をきちんと踏んでいるか、見ていたようです。ここまでやるのは、やりすぎだと思います。踏切の瞬間には、頭はきちんと胴体の真上に乗せておいて、前方を見ていたほうがよいでしょう。しかし、考えて見ると、上のほうを向き過ぎて、頭を後方へと傾けている人もいますから、顔の向きは、それほど記録に影響しないようです。
 踏切の最後まで踏切板を見るという、私のクセは真似る必要がありません。白い踏切板をちらっと見るのは、踏切1歩前だけでじゅうぶんです。

 (7) 踏切動作はランニングフォームのえんちょうで

 かつて、小野勝次という数学者がいて、陸上競技の雑誌で技術論をいろいろと語っておられました。ランナーの墨絵も上手でした。その方が、走幅跳の踏切では、助走スピードにすこしブレーキをかけるようにして、踏切でつっぱったほうが、記録がよくなるというシミューション計算したとありました。
 そのようなことに刺激され、若かった私は、走高跳の踏切についてのシミューションモデルを組みたて、力学的なしくみを研究し始めたのでした。そして、跳躍の踏切における「かかし抗力」と「スプリング抗力」の違いを発見したのでした。この「かかし抗力」が、水平な助走スピードを利用して、鉛直方向のスピードを生み出すものでした。走高跳では、かんぜんに変換することを目指しますが、走幅跳では、水平スピードもあるていど残しておきたいので、一部を変換するということになります。
 話を走幅跳に戻して、40歳代のころの私は、東京で、指導者のいない高校生や大学生に走幅跳を指導することになって、自分なりにコンピュータシミューションを行うことを再開し、当時の走幅跳の選手である、キューバのペドロソ選手や、フランスのメイ選手などのフォームを詳しく調べました。
 すると、ペドロソ選手やメイ選手は、ほとんど「かかし抗力」を利用していないときに好記録を生み出しているということが分かりました。水平スピードにブレーキをかけない「スプリング抗力」だけを利用して跳ぼうとしているのです。
 そう言えば、私が現役選手だったころ、走るのが遅くて、走幅跳では6mをわずかに超えるくらいしか跳べなかったのですが、ある日のトレーニングで、6m30以上を跳ぶことができたのです。そのときの踏切の感覚が、きっと、ペドロソ選手やメイ選手が試みた、「スプリング抗力」だけを利用したものだったと思われます。そのときの踏切の感覚というのは、自転車に乗っていて、地面に落ちている木の枝を踏んでしまったときの、ゴツンと上に弾けるということに近いものでした。「瞬間的に真上にゴツン」です。
 「かかし抗力」を使うか「スプリング抗力」だけに頼るかという、踏切のメカニズムに関して、もうひとつエピソードがあります。
 東京で教えていたとき、ある女子高校生(2年生)が「走幅跳を教えてください」といって、私に指導を願ったことがあります。彼女の暗号名はOZです。さいしょは、なかなか記録を伸ばせてあげることができませんでしたが、ハードルを教えることとなり、それによる記録が東京都の20位以内に入ったので、3年生になって七種競技に出られることとなり、物語が長くなってしまいますので途中をカットしますが、彼女には、私が感じとっていた「高速ランニングフォーム」の動きを教えておいたところ、体育系の大学に進んだ彼女から、「きゅうに速く走れるようになりました」という手紙をもらったのです。このあともずいぶん省略しますが、やがて、七種競技で日本のトップクラス(のはしっこ)に位置するようになったOZ選手のランニングフォームや走幅跳を調べるため、ビデオカメラをもって、OZ選手の出場する試合を見に行き、それについて調べました。
 走幅跳に関して、OZ選手と比較したいのは、OZ選手のライバルだったMIHO選手です。MIHO選手は高校生のときから七種競技はトップクラスの選手で、走幅跳は、高校生のころすでに、5m80ほどを跳んでいました。OZ選手は高校生のとき5m前後しか跳べていません。しかし、大学生の4年のころ、MIHO選手はあいかわらず5m80くらいの記録でしたが、OZ選手は5m70くらいまで記録を伸ばせるようになってきました。
 MIHO選手の走幅跳は、上手だなあと感心するほどの、よくまとまったものでした。小野勝次流に、踏切ですこしブレーキをかけて、ほどよく高く跳ぶものです。「かかし抗力」を少し利用するタイプです。
 これに対してOZ選手の走幅跳は、良く言えば「荒削り」で、悪く言うと「下手」なものと見えてしまうもので、踏切で「かかし抗力」を利用することができず、低い跳躍で、空中フォームも、あの「サンダーバード2号」のスタイルで、「胴体着陸」(尻もちをついての着地)をしていました。空中フォームや着地のことについて何も指導しなくて、助走のランニングフォームと踏切準備の動きのことしか教えていなかった私の責任でもあるのですが、結果的には、そのことによって、OZ選手は、私が教えたであろう、MIHO選手のスタイルを真似ることなく、独自に、ペドロソ選手やメイ選手のフォームのほうへと向かっていたのです。
 OZ選手は助走スピードが、他の選手より、驚くほど速く、そのため、踏切での、(MIHO選手らがやっている)「かかし抗力を使った、つっぱり踏切」ができず、まるで、ランニングフォームの動作を少しオーバーにしたような動きで、「スプリング抗力だけをつかった、踏切板の真上へと伸びあがる踏切」をやっていたのです。
 このようなエピソードを語った後ですが、走幅跳の初心者におすすめなのは、やっばり、MIHO選手がやっていた、「すこし踏切でつっぱる」ことにより、スピードは少し減りますが、少し高く跳び出すというスタイルです。しかし、このままでは、やがて記録の伸びが停滞します。助走スピードを大きくする努力を続けつつ、少しずつ、「踏切のさいしょで、つっぱらずに、踏切位置の真上で伸びあがり、瞬間的にゴツンと感じる」というスタイルを追い求めてゆくべきです。
 YouTubeによる、カール・ルイスとマイク・パウエルの、1991年世界選手権(@東京)での対決についてのビデオから、彼らのフォームを解析してみると、踏切における、パウエル選手の「のびあがりかた」が異常なほどの動きだと分かりました。二人の身長はどちらも1m88なのですが、体重は、カール・ルイスが88kgなのに対して、マイク・パウエルは79kgと軽く、また、パウエル選手はかつてバスケットボールをやっていたそうで、ジャンプ力に優れていたようです。
 踏切板の上で、瞬間的に「のびあがる」能力が、とても重要なものとなるということが、これによって分かります。

 (8) 空中フォームはうまい着地のための準備

 昔の走幅跳の連続写真は、踏切から着地までの、空中フォームの違いばかりを記録していました。「そうじゃなくて、踏切前の助走後半の動きを見たいのに」と何度思ったことか。
 昔の走幅跳の解説書も、空中フォームの違いは、図解入りで詳しく述べられていました。中学生だったころの、走幅跳を専門種目としていたチームメイトは、空中で歩くような動作をする、「シザース(はさみ)・ジャンプ」をなんとかやっていました。私は走高跳を専門種目としていましたし、高校生になってからは、走高跳と三段跳で得点をかせぐという選手でしたから、三段跳の最後の(スピードも小さくなっている)ジャンプでは「反り跳び」以外に選択肢はなく、私の空中フォームのスタイルは「反り跳び」でした。7mとか8mを跳ぶ選手なら、「シザース(はさみ)・ジャンプ」も意味があるかもしれませんが、6mそこそこ以内だと、「反り跳び」くらいしかやることができません。
 まってください。東京で色々と調べていたときの、走幅跳選手の空中フォームを思い出すと、「反り跳び」と名づけることができないものがあったということに気がつきました。ひょっとすると「反り跳び」の一種として分類されてきたかもしれませんが、あまり「反ること」を意識しない空中フォームがあります。「横座り跳び」とか「ハードル跳び」と名づけることができそうなものです。
 この空中フォームは、後ろに残したキック脚を、膝で折りたたんで、腰の横を回して前方へと運ぶというものです。
 「反り跳び」の場合は、両脚を一度、やや膝で曲げて、後方へと反らせ、これを、下方を通して前方へと運ぶものです。このとき、全体の回転をつりあわせるため、(両腕を大きく使うことも利用できますが)上半身が前へと傾くことになります。ところが、理想的な着地フォームのためには、上半身を前へと向かわせず、できるだけ垂直に立てておくべきなのです。
 「横座り跳び」もしくは「ハードル跳び」の空中フォームでは、後ろに残っていたキック脚を、横から回して前へと運ぶので、上半身は前屈するひつようがありません。横での回転を打ち消すのは、はじめから前へと伸ばしてある、振りあげ脚だと考えられます。

 (9) しりもちをつかない効果的な着地をめざす

 着地の前の理想的なポーズは、上半身を垂直に立てておいて、飛行曲線にそって、やや下方へと角度をつけて、両脚を前に伸ばし、両腕は後方へと伸ばしておくものです。
 この姿勢のまま、砂場に足がついたら、膝をゆるめて、足がへこませた砂場の穴へと入ってゆき、両腕を、砂場に触れないようにして、前方へと振り出して、上半身を前へと向かわせ、しりもちをつかないようにするというものです。
 両足が前にそろっていないと、砂場のもっと手前に触れてしまって、距離を損します。
 上半身をかぶせすぎていると、「胴体着陸」のようになってしまいます。

 (10) 走幅跳のための体力アップのトレーニング

 かつて、東京で指導した(走幅跳を専門種目としていた)女子学生に、私がまず何を教えたのかと言うと、「走幅跳のための体力アップのためのトレーニングをどのようにやっていけばよいのか」ということでした。しかも、具体的なトレーニングメニューをまるまる示すのではなく、「それを組みたててゆくときの考え方」を中心に教えて、実際のトレーニングメニューは、その選手自身がつくるということにしていったのです。
 さいしょ、その女子学生の姿を見たとき、脚の長さと、その細さから、まるでファッションモデルのようだと感じました。そして、まず、この脚を、もっと速く走ることができて、さらに、そのスピードで走幅跳の踏切ができるように変えてゆく必要があると感じたのでした。
 走幅跳のための体力アップのためのトレーニングを組みたてるときのコツとして私がまず説明したのは、「速筋トレーニング」ということです。「速筋トレーニング」というのは「速筋を発達させるためのトレーニング」という意味です。
 速筋を発達させるためにやることは、「筋肉に外から力を働かせ、筋肉が伸ばされる状態で力を生み出すようにする」ということです。このため、リバウンドジャンプという運動などが中心となります。
 もうひとつ、小さな負荷でもよいので、筋肉群のエネルギーを絞りとる、「オールアウトという状態へと追いこむ」というコツも説明しました。「オールアウト」というのは、「これ以上はムリ」という状態です。そのとき、故障することのないトレーニングを考えてゆく必要があります。
 一般によく行われている、ハードル(やミニハードルなど)を両脚や片脚でぴょんぴょん跳びこえてゆくトレーニングは、オールアウトになったとき、ハードルが越えられなくて故障する可能性があります。だから、これでは、オールアウトまで追い込むことができません。
 私のおおすめのひとつは、その場で垂直に跳び続ける、「サバンナジャンプ」と名づけているものです。「両脚連続リバウンドジャンプ」と呼べば分かりやすいかもしません。60回を1セットとして、何セットかくり返します。腰に2キログラムほどのウエィトベルトをつけて行うこともあります。
 平地でおこなう100mや200mでの片脚跳躍走も、オールアウトにもってゆくことができて、故障の危険も少なく、速筋トーニングとなります。昔からあるトレーニングですが、これは確実に力がつきます。
 彼女が思いついて、たくさんやっていたのは、大学から少し離れたところにある、都会ではめずらしい、土がまる出しとなっている公園の、木の丸太で土どめをしてある階段を、片脚でぴょんぴょんと上がってゆき、同じ脚で、ぴょんぴょんと降りてゆくというものです。これは、土の階段だったので、オールアウトでも、そんなに危険はないものでした。また、上がるだけでなく、降りることによって、速筋トレーニングとしての条件がみたされます。
 ハムストリングスを発達させる、「ゴリラジャンプ」も教えたと思います。この「ゴリラジャンプ」というのは、いわゆる、砲丸投のバックグライドの姿勢で行うものです。最近思いついた言葉で「恐竜のポーズ」という表現もあります。「ゴリラジャンプ」と名づけたのは、ゴリラが両手をグーにして歩く、「ナックルウォーク」を片脚跳躍走としたものだからでした。この運動の条件は、両手で地面にさわるところまで支持脚の膝を曲げ、前に伸ばした上半身と、後ろに伸ばした「しっぽ脚」で、支持脚のハムストリングスをひっぱるというとにあります。
 その場で上下に高く跳ぶものは、最近知ったのですが、「ボルゾフジャンプ」と呼ばれているそうです。ボルゾフ選手はミュンヘンオリンピックとモスクワオリンピックで100mと200mでチャンピオンとなった、ソビエト連邦のスプリンターです。
 「ゴリラジャンプ」は前方や後方へと水平に進むのが、どこでもやれるスタイルです。少し危険ですが、低い跳び箱があったら、それに跳び乗ったり、跳び下りたりすると、効果はバツグンです。
 腕と胸の筋肉群を発達させる、ベンチ2つを並べて、その間に上半身を下す「正式な腕立て伏せ」も、下がるときの運動が速筋トレーニングとなります。各種の腹筋運動でも、起こすほうにではなく、下ろすほうで「止める」運動のほうが速筋トレーニングとなるわけです。
 速筋トレーニングがうまくいったら、翌日ではなく、二日後に、筋肉に痛みが生じて、まるで、おもちゃのロボットのようにしか歩けなくなります。通常の仕事や学習はこなせますが、身体をつかう現場仕事や、学生なら体育の授業があったら、最悪です。だから、このようなことをあらかじめ考えておいてトレーニングすることになります。
 彼女は、100mが14秒前後で、走幅跳は4m70くらいからスタートしたのでしたが、ひと冬トレーニングした翌年には、100mは13秒0に、走幅跳のベストは5m55にまで伸びました。
 ひと冬、しっかりと速筋トレーニングをすると、これくらい伸びるということなのですが、多くの人たちは、中途半端なトレーニングしかやっていないため、ここまで伸びることは、めったにないようです。
 また、彼女がすでに大人の年齢に達していたということも、このような発達につながったということも考えられます。発育過程の小中学生では、ここまで変化しないかもしれませんが、「速筋トレーニング」や「オールアウト」に注意してトレーニングしてゆけば、それなりに変わってゆけると思われます。

 「仮ページ」について

 いろいろと説明してきましたが、理解を深めてもらうためには、よく分かる図解があるとよいでしょう。しかし、そのような図解となるものを準備するには時間がかかります。それらが準備できるまで、このページを「仮ページ」としておきます。
 (Written by KULOTSUKI Kinohito, Dec 1, 2013)

 

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