WDAさん(マスターズM45クラス)へのスプリントランニング指導

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)@ 9621 ANALYSIS

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 はじめに

 WDAさんからメールがあり、スプリントランニングの指導を受けたいとのことでした。WDAさんはマスターズM45クラスのスプリンターで、400mと800mを専門種目としているそうです。しかし、ここのところ、スプリントスピードが低下してきており、400mで、納得のいく走りができていないということで、何かヒントのようなものをつかみたいということだそうです。
 水口スポーツの森にある甲賀市陸上競技場へ来てもらえる人には、「トレーニング仲間」と見なして、もし希望されれば、いっしょにトレーニングする中で、私が知っていることをいろいろと説明します。それは、一人でトレーニングするより、仲間がいたほうが楽しいからです。また、私が知っていることを学んでもらって、役立ててもらえるということに、喜びも感じます。ただし、他の場所へ行くことになると、移動時間や指導の手間が増えてしまうので、まるまるボランティアでよいということにはなりません。かつて教師だったときは、まるでボランティアでやっているかのように、時間をいっぱいつかっていましたが、それは、いちおう教師としての給料をもらっていたからです。現在の私は完全に民間人で、生活のための仕事もあります。新たな知識を見いだすという、研究のためにも時間をとりたいという一面もあります。
 トレーニング日は2013年12月14日(土)の午後2時からでした。現地での時間を節約するため、あらかじめ知っておきたいことをメールで送ってもらいました。それは、これまで、どのようなトレーニングをやってきたかということです。かつて、私が40歳代だったころ、休日を利用して、棒高跳のピットを使わせてもらうという交換条件のもとで、某大学の陸上競技部を、ボランティアとしての立場で指導しましたが、もっとも重要な指導は、どのようにトレーニングメニューを構成するかということでした。具体的なトレーニング内容は、パートリーダーが作って、彼ら(彼女ら)が、そのパートの選手を指導するわけです。そして、私は、それらのパートリーダーの相談を受けるというスタンスでした。例外的にもっときちんとコーチをしたのは、対校戦に出場するため、まったくやったことのない選手に、棒高跳を指導するというときです。これは、経験者がこまかなところまで指導してゆかないと危険がともないます。
 WDAさんの(シーズン中の)トレーニングメニューを見たところ、400mのスピードが低下してゆく要因が、ここにたくさんあるということが分かりました。また、スプリントスピードを高めるための身体づくりがおろそかになっていることもうかがえました。
 12月14日(土)のトレーニング前に、ベンチに座って、かんたんなミーティングを行い、次のような内容(C#)を説明しました。

 (C1) アキレス腱やふくらはぎの筋肉群の強化がすすまないと、高速ランニングフォームの効果はうまれません。
 (C2) この冬季トレーニングでは、そのような、スプリント能力のための体力づくりを中心にして行ってください。
 (C3) 急激に成果を求めようとして大きなスピードを出そうとすると、アキレス腱を痛めてしまう可能性があります。はじめは、低い負荷で、数量×日数をこなすことにより、基礎的な身体の強さを追い求めていってください。
 (C4) 本日のトレーニングでは、あまりスピードを求めないものとしますが、いろいろなドリルを中心として説明します。これらの内容を理解して、WDAさんが、このあと行うべきトレーニングメニューを、自分の生活場所を考慮して考えてください。これを「宿題」としますから、あるていどまとまったら、メールで教えてください。何か注意点があればコメントします。

 具体的なトレーニング内容

[1] まず、WDAさんの、これまでのスタイルでウォーミングアップしてもらいます。そして、スピードは控えめでよいので、@スタンディングスタートからのダッシュ(20mほど)、A曲走路から直線へと出てゆくスプリント走、これらを試みてもらい、これをビデオ撮影しました。
 私の感想としては、マスターズで競技に出場してこられているので、初心者というようなランニングフォームではなく、よく洗練されているもののように感じ取れました。400mや800mを走るための、エネルギーロスの少ない、なめらかなフォームのようでした。

[2] 高速ランニングフォームを中心とした、スプリントの5つの基本フォームを理解し、その動きなどをマスターするため、次の「(黒月式)走の基本ドリル」を説明し、WDAさんにも実行してもらいました。これらは、ランニングシューズで、芝生の上で行いました。
 (a) ハーフスキップA
 (b) スキップA
 (c) スキップAゴーオン
 (d) ロングステップスキップA
 (e) ハーフスキップB
 (f) スキップB
 (g) スキップBゴーオン
 (h) ロングステップスキップB
 この、ロングステップスキップBにより、強いキックと、前進するための動きと、ストライドを伸ばす効果など、スプリントランニングに必要な要素を、まとめて発達させることができます。このように、順をおって、このメニューへとたどり着くと、ランニングにうまく結びつけることができるのです。マック式短距離トレーニングの中に、「ランニングスタイルのバウンディング」というものがありますが、これと同じものとなってゆくと考えられます。
 この日は行いませんでしたが、これらのドリルを、スパイクをはいて、オールウェザーの走路の上で行うと、さらにレベルが高くなります。また、腰にウェイトベルトをつけて行うことで、この荷重をとったときの、身軽に感じる状態を生み出してスピード練習へと進むことがあります。
 しかし、WDAさんは、これらのドリルに関しては初心者なので、本数や距離はかなり抑えました。WDAさんは、これらのドリルをあまりやったことがないらしく、さいしょは力をずうっと入れて真似る状態でした。そこで、力を入れるときと力を抜くときの使い分けを意識してもらいました。また、地面をとらえるときに、シューズの底で「音」を立てることが目立ち、これは、力を加えるときの足の使い方がぎこちないからで、うまく力を地面に加えたときは、ほとんど「音」がしないということを説明し、私の動きで示して、もっとやわらかく力を地面に加えることを意図してもらいました。また、力の集中がうまくできると、走幅跳や走高跳の踏切のように、ふわりと浮くことができるということを示しました。
 このあと、次の3つのドリルについて説明しました。これらはランニングスピードに直接つながるというよりも、そのためのベースとなる能力を強化するものです。
 (i) ハイステップスキップA
 (j) ハイステップスキップB
 (k) ハイニースキップB
 かつて400mランナーのシェビンスカさんが(k)を100mでこなしたという、マック氏のコメントを紹介しました。

[3] 中腰ガンマクランクキックや標準(高)ベータクランクキックの動きを理解しやすいので、曲走路から直線へと出る設定で、これらのフォームの動きや感覚を説明し、それを実行してもらいました。次のような動きを段階的に進めてゆきました。
 (l) 中腰ウォークで、真下を押さえつつ、できるだけ速く移動する。
 (m) スピードがやや大きくなり、「中腰もも上げジョッグ」へと変化させる。
 (n) 前で脚をさばくようにして、やや「もも」をあげての、中腰ガンマクランクキックや標準(高)ベータクランクキックの走りへと変化させる。
 (o) スキップB系のフォームへの変化により、ストライドを伸ばす。
 (p) 空手パワーキックを意識してスピードアップを試みる。
 (q) スピードが高まってきたら、重心をあげぎみにして、腰高ベータクランクキッくや、アルファクランクキックのフォームへと移り、ピッチアップすることにより、スウィング脚を速く動かして、加速条件を満たす。
 これらの、ランニングドリルで気になったのは、400mランナーの多くがもっている欠陥のようですが、上半身を腰の上に、力を抜いて置いておくことにより、結果的に「トルソ振動」により、キックによって生み出した運動量を失っていることです。このことを避けるには、お腹を少し凹ませておくというテクニックがあります。これについて、何度か注意して、意識してもらいました。しかし、これはすぐに身につくものではないようです。何度か意識して凹ませるようにしてゆくと、自然と身につくのですが、それには、時間や回数を重ねる必要があります。

[4] まとめのビデオ撮影
 トレーニング可能な時間の終わりもせまってきましたので、当初にビデオ撮影しておいた、次の2種のランニングを試みてもらい(ここまでのトレーニング内容は、私も同量やっていますし、次も、です)、それを撮影しました。
 @スタンディングスタートからのダッシュ(20mほど)
 A曲走路から直線へと出てゆくスプリント走
 このAについては、私自身の走りが納得いかなかったので2本走りました。それに応じて、WDAさんにも2本走ってもらいました。
 これらの解析については、ページタイトルを変えてまとめたいと思います。

[5] 補強運動の撮影
 私が補強運動をやって、それをWDAさんにビデオ撮影してもらいました。WDAさんには、まったくやってもらっていませんが、見ておけば、必要だとおもったときに、やることができることでしょう。
 おおよそ、上記のドリルや、各種のランニングフォームと、その動きや力の入れ具合のことを意識しての、100Mから200Mのランニングを行ってゆくことで、スプリントランニングのための強化はできると思いますが、これらの補強運動は、室内などでも出来るものなので、故障時の補強や、外に出てトレーニングすることができないときに、気晴らし気分で行うことができます。

 「宿題」について

 スプリント能力を高めるための、動きや筋力などを強化してゆく、シーズンオフのトレーニングメニューを工夫して作ってください。
 ドリルやスプリントランニングは、アスファルトやコンクリート道路などでは禁物です。アキレス腱や膝の腱群などの故障につながりかねません。
 芝生、土、オールウェザー走路、体育館のフロアーの順で強度が高まります。できるだけ順をおって負荷をかけていってください。
 強度の高いトレーニングとなるはずですから、専門的なトレーニングは週に3〜4日ぐらいまでにして、間にきちんと休養するべきです。補強の幾つかは、休養日などにやってもかまいませんが、毎日行う必要はありません。
 トレーニングメニューは、固定しておく必要はありません。さいしょは何度か繰り返し、もっとレベルアップできるとか、別のテーマについて追い求めようと考えたら、工夫して、もっと良いものへと変えてゆくべきです。
 私の、英語の単語をびっしり並べたメニューは、そのようにして、一年ほどかけて整理してきたものです。かつてたくさん組みこんでいたエネルギーシステムのトレーニングがまったく組みこまれていませんが、これは、この後の課題として導入してゆくつもりです。
 試しに、すこしやって見て、まとまったトレーニングメニューができたら、メールでお知らせください。
 (Written by KULOTSUKI Kinohito, Dec 16, 2013)

 

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