WDAさん(マスターズM45クラス)のランニングフォーム解析

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)@ 9621 ANALYSIS

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 はじめに

 WDAさんへの高速ランニングフォームを指導するとき、指導前に、独自にウォーミングアップを行ってもらって、直走路でのスタンディングスタートからのダッシュ走(B1=WDA1)と、曲走路から直線へのテンポ走(B2)を走ってもらい、それを撮影しました。また、高速ランニングフォームのための、走の基本ドリルと、曲走路から直線へのランニングで、いろいろなポイントを説明して、それらを試してもらってから、最後に、直走路でのスタンディングスタートからのダッシュ走(A1=WDA3)と、曲走路から直線へのテンポ走(A2=WDA4, A3)を走ってもらい、それを撮影しました。
 これらのいくつかについて、ビデオ画像をジェーペグ画像へと展開し、さらに、ビットマップ画像へと変換したのち、runa.exeで解析しました。

 解析データ(フォーム指導前のダッシュ)




図1 フォーム指導前のダッシュ(WDA1=B1)のランニングフォーム


図2 フォーム指導前のダッシュ(WDA1=B1)のスピード要素
dG = dK + p(dT-dK) + q(dS-dB), p=2/3, q=1/4

表1 WDAさんの指導前における
直走路でのスタンディングスタートからのダッシュ走(WDA1=B1)



 フォーム指導前の、WDAさんの、これまでのランニングフォームの大きな特徴は、相対トルソ速度p(dT-dK)を大きくすることによって、全体のスピードアップを行っているということです。もっと分かりやすく言うと、キック脚のハムストリングスの筋力によって、上半身を乗せて膝から上だけを前方へと振り出すという動きによっているわけです。表1の右端に「WOL/KOL」という項目がありますが、ここで、Oはキック脚の足底にある支点、LはOから地面後方へと伸ばした任意の点、そして、Kがキック脚の膝点で、Wが腰点です。支点Oを中心とした、膝点Kの角速度(KOL)に対して、腰点Wの角速度(WOL)が何倍かという値を示しています。このWOL/KOLという比が1のとき、キック脚は、膝の角度を変えないまま動いていることになります。これが完全なクランクキックの状態です。これに対して、WDA1(B1)の7歩目では、WOL/KOL=3.52となっています。これは、支点Oに対して、膝点Kの動きより、腰点Wの動きのほうが大きいということになります。このようなキックフォームをハムストリングスキックと呼ぶことにします。スタートでの0歩ではWOL/KOL=4.44と、これも大きな値です。ピストンキックの中でも、かなり、ハムストリングスに頼って動かしていることになります。1歩目や2歩目のピストンキックでは、WOL/KOLの比がかなり1に近づいています。キック脚の全体を使えているフォームということになります。
 しかし、WOL/KOLの値が1に近づくことはなくて、1.3ほどの値となっています。キック脚全体を使っているつもりでも、かなり、ハムストリングスに依存しているということが、これらの解析データから分かります。
 何も指導していない状態でのダッシュですが、スピードが増えているときのフォームが、いずれも、3歩目と7歩目のガンマデルタクランクキックとなっています。デルタクランクキックの中で、ガンマランクキックに近い1/3のところのフォームです。これらの加速源が、相対トルソ速度p(dT-dK)であることが分かります。しかし、ハムストリングスで上半身を速く動かしたとしても、係数p=2/3を掛けた値が全体の速度dGを構成するときの成分となりますから、上半身の速度増加の効果は2/3に減らして見積もらなければなりません。
 ガンマランクキックやベータクランクキックも現れていますが、これらはまだ、速いスピードのフォームとなっていません。

 解析データ(フォーム指導後のダッシュ)





図3 フォーム指導後のダッシュ(WDA3=A1)のランニングフォーム


図4 フォーム指導後のダッシュ(WDA3=A1)のスピード要素
dG = dK + p(dT-dK) + q(dS-dB), p=2/3, q=1/4

 このときは、スタンディングスタートでの、シューズでのダッシュでしたが、スターティングブロックを使い、スパイクを履いて行ったとき、全速度dGの変化は、もう少し「立ちあがり」が急になるはずです。また、そのようになるのが目標となります。
 このときの試みでは、ダッシュから初期中間疾走への変化で、スピードの停滞が少なく、少しずつスピードアップすることができています。
 WDAさんは、デルタクランクキックで大きなスピードを生み出すことができるタイプのようなので、ガンマクランクキックへと変化させるのをやや遅らせぎみにして、(後方へと押す)ダッシュを、2歩とか3歩にするのではなく、4歩くらいと決めて、そのあと、重心直下を足首で弾く、中腰ガンマクランクキックへと移るようにしたほうがよいかもしれません。

表2 WDAさんの指導後における
直走路でのスタンディングスタートからのダッシュ走(WDA3=A1)



 フォーム指導後のダッシュWDA3(A1)を解析しましたが、α・β・γの高速ランニングフォームがほとんど現れていません。参照資料 [1] 黒月樹人のダッシュ(TR1)に示したように、私(黒月樹人)のダッシュフォームでは、α・β・γの高速ランニングフォームが現れており、それらが加速フォームとして使われています。
 @ 1回目のトレーニングで完璧にマスターできるわけではない、と考えることもできますが、他に、A WDAさんが永年ハムストリングスキックで400mを走ってきたベテランである、ということと、B 直線でのスキップAから徐々にランニングへと変化させるドリルをやっていなかった、の3点が原因として考えられます。
 通常、Bのドリルは、スパイクを履いて行うことが多かったので、曲走路からの、中腰ガンマクランクキックの指導へと移ったあと、このドリルへと進む前に時間が迫ってきてしまったようです。
 Bのドリルは、スキップAの次に行うこともできたのでした。
 腰高姿勢でスキップAを何メートルか続けて、少しずつ前進スピードを大きくしてゆくことにより、重心直下を押す感覚で走る、腰高ベータクランクキックのフォームとなります。これは、誰でも出来る、かんたんなドリルです。走るところへ変化するときに、自己流のフォームとしないのが大切なところです。
 このドリルをたくさんやって、腰高ベータクランクキックというフォームが、それまで使っていたデルタクランクキックなどとは異なるものだということを覚えてしまえば、そのあとのランニングの学習も、もっとスムーズに進んだはずでした。
 しかし、WDAさんの指導後ダッシュのフォームで、高速ランニングフォームは、わずかにガンマクランクキックが現れているだけですが、高速ランニングフォームの利点である、キックベース速度(キック脚重心水平速度)dKの値が8〜10歩目のところで大きくなっています。この点は「成功」しているわけです。
 WOL/KOL比が1より大きなハムストリングスキックでは、相対トルソ速度p(dT-dK)を大きくしようとします。これに対して、WOL/KOL比が1あたりの、(完全な)クランクキックでは、まず、キックベース速度dKを大きくしようとするのです。これの寄与率はいちばん大きく、かつ、p(=2/3)やq(=1/4)といった係数を掛ける必要がありません。dKの速度増分が、そのままdGの速度増へとつながるのです。
 10歩目にめずらしくピストンキック(P)が現れていますが、このときのWOL/KOL比は0.90となっています。フォーム分類としての姿勢はピストンキックですが、キック脚の使い方としては、脚全体の筋肉を使おうとしており、クランクキックに近いものなのです。
 4歩目と8歩目のデルタクランクキックも、WOL/KOL比が1に近く、ピストンキックのほうにではなく、クランクキックの仲間として分類できるものです。
 スタート直後のWOL/KOLは大きくなってもよいわけですが、何歩目からかは、中間疾走のフォームへと変化させ、WOL/KOLが1に近いフォームで、脚全体を使って、さらに、足首のバネを利用して、キックの最後のスピードアップが効くようにしようということでした。その意図は、なんとか表現されているように思えます。
 おそらくWDAさんは、永年ハムストリングスキックで走ってきたので、脚の筋肉群が、クランクキックで大きなスピードを生み出せるようになっていないのだと考えられます。

 解析データ(フォーム指導後の曲走路から直走路へ)





図5 フォーム指導後の曲走路から直線へ(WDA4=A2)のランニングフォーム


図6 フォーム指導後の曲走路から直線へ(WDA4=A2)のスピード要素
dG = dK + p(dT-dK) + q(dS-dB), p=2/3, q=1/4

表3 WDAさんの指導後における曲走路から直線へのテンポ走(WDA4=A2)



 曲走路で、歩行からジョッグになるところの解析は割愛しました。カーブ出口あたりから直線にかけてのランニングフォームを調べました。
 この解析で、ようやく、α・β・γの高速ランニングフォームを数多く確認することができました。
 中腰でのガンマクランクキックによる加速フォームをねらってトレーニングしていたわけですが、これはかなりうまく出来ています。さいしょのころは、ねらっていても、フォームはばらついてしまうものです。α(1), β(2), γ(3), γδ(3.3), δ(4), P(5)として、これらの数で重みづけをして平均をとると、2.8となり、ほぼガンマクランクキックです。
 WOL/KOL比(クランクキック比)も、1に近いフォームがたくさん出現しています。
 とくに素晴らしいのは、解析8歩目のガンマクランクキックです。上半身の後ろへの振動を示すTWNの角速度も小さく、これが、相対トルソ速度dT-dK=3.84という値につながっています。また、このときの相対スウィング速度dS-dB=4.43も大きな値です。GO軸に沿ったキック力が6.7と、かなり大きく、これがうまく作用したと考えられます。
 しかし、解析10歩目でも、キック力は(体重の)6.6 [倍] の大きな値ですが、TWNが大きく、上半身で運動量を逃がしたため(地震の免振構造のようなもの)、全体のスピードは高まっていません。
 全般的に大きな力を生み出してキックしているのですが、そのわりに、キックベース速度dKの値が低調です。これはおそらく、キック力の源泉が太ももあたりにあって、足首あたりでは、まだ強いバネとして使えておらず、逆に、免振状態になっているためだと考えられます。
 足首が固めになって、強いバネを感じられるようになったら、もっとフォームが洗練されてゆきます。そのためのコツは、足首をねんざ状態に近いところまで追い込むことです。たまたま、ねんざ状態になってしまったら、回復に時間はかかってしまいますが、回復時に以前より強くなるのです。私の左足首は、夏に棒高跳のトレーニングで、踏切足として、かなり負荷をかけてしまい、ねんざ状態でしたが、秋の試合などは全て無視して回復をまったところ、左足首のほうが強いキックができるということになりました。だからといって、右足首もねんざ状態へと追い込みたいとは思っていません。できれば、1ヶ月ではなく、何日かで超回復できるようにトレーニングしてゆくほうが、全体的にはうまくいくからです。
 また、今回の解析により、WDAさんの接地時のスピード変化グラフが全般的に平坦で、接地時間の長いフォームになっていることが多いということが分かりました。これは、ハムストリングスキックを中心に、接地時に、時間をかけて加速するフォームとしていたからでしょう。400mランナーに特徴的な傾向です。しかし、このようなシステムでは、大きなスピードを生み出しにくくなります。接地後できるだけ短い時間にキック力を集中することで、落下のときに生じるキック脚の筋肉群の伸張反射を利用しての、エネルギーを節約したアルファクランクキックを生み出すことができます。
 ともあれ、走の基本ドリルと、フォームを意識してのランニングドリルをたくさんやってゆけば、高速ランニングフォームに適した強化ができてゆきます。いろいろと工夫し、超回復が起こって身体が変化してゆくようにトレーニングしてください。
 (Written by KULOTSUKI Kinohito, Dec 24, 2013)

 参照資料

[1] 黒月樹人のダッシュ(TR1)


図A 黒月樹人のダッシュ(TR1)のランニングフォーム(一部)

 6歩目と9歩目のフォームはいずれもアルファクランクキックですが、全体の速度dGが異なります。dG(6歩目)=5.1 [m/s] で、dG(9歩目)=6.5 [m/s] です。
 WOL/KOL比は同じくらいだし、aGO/gの値は9歩目のほうが小さくなっています。違いは、接地時のキック脚の姿勢に見出すしかありません。
 キック脚を接地させる前の、スウィング脚の動きが違います。6歩目はスキップA系ですが、9歩目はスキップB系となっています。これらの違いが、dK(6歩目)=2.6 [m/s] で、dK(9歩目)=3.9 [m/s] の違いを生み出しているものと考えられます。

表A 黒月樹人の直走路でのスタンディングスタートからのダッシュ走(KL1)


 

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