XTTY選手のランニングフォーム解析

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)@ 9621 ANALYSIS

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 はじめに

 2014年1月5日(日)の午後、水口スポーツの森にある甲賀市陸上競技場(青い高速オールウェザー)にやってきたXTTY選手に、高速ランニングフォームの指導をしました。2013年12月22日(日)にも指導しましたので、今回が2回目ということになります。
 XTTY選手は2013年の春先から、たびたび甲賀市陸上競技場にやってきてトレーニングしていましたので、あいさつを交わすくらいの顔見知りではありましたが、もくもくとトレーニングしているので、あまり邪魔をしないでおこうと思っていました。
 しかし、そのトレーニングのランニングフォームを見ていると、100mのスタートダッシュからのランニングフォームと、300mのテンポ走のランニングフォームが、まったく異なっていることが気がかりになり、12月の末になって、ようやく、次のように声を掛けたのでした。
 「300mを走っているときのフォームで100mも走ればよいのに」
 XTTY選手も、スタートダッシュから走りだすときの、だれでもが陥る「落とし穴」に、はまっていたのです。
 そして、私が「高速ランニングフォーム」という言葉を発した瞬間、急に、荷物を置いてあったベンチのところへと向かい、スマートフォンを取り出して、「ブックマークに、このまえ入れたところです」と言って、「高速ランニングフォームのヒント」だったか「コツ」だったかのページを開きました。
 私は、それを見て、ちょっと自慢げに、「志村けん」の言葉遣いとイントネーションを真似て、
 「そうです。わたしがクロツキキノヒトです」
と言ったのでした。
 現場での私の指導は、とてもおしゃべりです。ここに再現しようとしたら、とてもまとめきれません。最近の研究で分かった「ヒント」や「コツ」について、いろいろなエピソードをおりまぜながら、私自身の身体で表現して見せ、それをなぞってもらったあと、「ちょっと違う」とか、「うまいうまい」と言葉をかけ、具体的に何がどう違うのかを見きわめてゆきます。
 指導を受けるランナーのほうは、私が注意することを実行すると、これまでとは違う感覚で、実際にスピードアップして走れるようになります。私自身はどうも、(年齢と体重のせいで)あまり速く走れないのですが、こうやって、比較的若い人に指導すると、かならず速く走ってくれます。そこで私は、こうつぶやくのです。
 「よし、(私が解析した)理論は間違っていない」
と。
 XTTYというコードは本人が決めたものです。どのような意味があるのかは聞きませんでした。XTTY選手は身長1m79です。社会人なのか学生なのかも聞いていません。
 40m区間ほどの加速走を行うというので、それを撮影した(XTTY1)のでしたが、スピードを上げようとして、ハイピッチで走りすぎて、動きが小さなものとなっていました。そこで、そのことを注意して2本目(XTTY2)を走ってもらいました。しかし、まだまだスピードにこだわりすぎているようなので、スピードは目指さなくてもよいから、スキップBの動きを組みこんで、大きくのびのびと走ることを目指して、3本目(XTTY3)を走ってもらいました。
 このあと、これらの、XTTY1, XTTY2, XTTY3について解析します。

 XTTY1, XTTY2, XTTY3の解析

 これまでの解析ページの流れでは、ここで、ランニングフォームをすべて並べてしまうのですが、今回の解析では、中間疾走の部分だけを調べ、XTTY1(5歩), XTTY2(4歩), XTTY3(7歩)となり、総数歩として16歩と、かなり多いので、それらをラインナップするのは「付録」で行うこととして、ここでは、象徴的に、それぞれのランニング(RUN)から一つずつをとりあげておくことにします。これらの画像をクリックすると、解析拡大ページへと進みます。付録の画像も同じです。


図1 XTTY1(3)のランニングフォーム


図2 XTTY2(4)のランニングフォーム


図3 XTTY3(7)のランニングフォーム

 図1のXTTY1(3)では、キック脚を地面に振り下ろすとき、「弓型ハンマーキック」を試みようとしていることが分かります。ひょっとすると、昨年の年末に、そのような動きを指導したかもしれません。
 これに対して、図2のXTTY2(4)と図3のXTTY3(7)では、キック脚を振り下ろす前に、膝の角度が大きくなって、よく伸びています。そして、試みてもらったのは、地面に着く寸前からの、目立たないけども、やわらかく、かつ、すばやく力を込めるキック動作でした。

表1(A) XTTY1解析データ(スピードとキック力)



表1(B) XTTY1解析データ(角速度と角度) 



表2(A) XTTY2解析データ(スピードとキック力)



表2(B) XTTY2解析データ(角速度と角度) 



表3(A) XTTY3解析データ(スピードとキック力)



表3(B) XTTY3解析データ(角速度と角度) 



 表1〜表3の最下部にある平均値だけを取り出して、次の表4(A), 表4(B)とします。

表4(A) RUNごとの解析データ平均(スピードとキック力)



表4(B) RUNごとの解析データ平均(角速度と角度) 



 フォーム分類において、α(1), β(2), γ(3), γδ(3.3), δ(4), P(5)と、数字を対応させておくことにより、形式的な平均フォームを求めることができます。XTTY選手の3つのRUNでは、2回目のXTTY2の平均フォームがδ(3.4)となりました。α(1)より、β(2)やγ(3)のほうが速いランニングフォームが生み出されています。1へと近づくより、2か3へと近づくほうが、スピードアップにつながります。
 歩数に対して必要とされた画像のコマ数を数えて歩数で割ることにより、逆ピッチ(1/ピッチ) [秒/歩] を求めることができます。ここでは、ピッチ [歩数/秒] の逆数を、逆ピッチ [秒/歩] と呼ぶことにします。[速度]×[逆ピッチ]=[ストライド]となります。このようにして求めたストライドは、XTTY2のものがいちばん長くなりました。しかし、XTTY3は少し遅く走ってもよいと意識していますので、このような動きで、もう少しスピードアップして走ることができれば、ストライドは大きくなります。たとえば、XTTY3の逆ピッチ0.271 [秒/歩]で、XTTY1の速度dG=8.1[m/s]が生み出せれば、0.271×8.1=2m20 のストライドとなります。
 XTTY1のピッチは1秒間に4.29歩となりますが、1秒間30コマ撮影するビデオで7コマなのです。XTTY2では8コマで、XTTY3は8.14コマという平均値となります。現実的に1歩を7コマから短縮するのは、とても難しいことです。
 これに対して、逆の戦略としての、ストライドを伸ばすということには、いろいろな要素を加味してゆくことができます。合理的なランニングフォームの習得や、キック力の強化などです。とくに、スプリンターの場合、筋力などを向上させるという方面には、まだまだ余地が残されています。
 ストライドを伸ばすための合理的なランニングフォームの習得のためには、スキップB系のドリルを行うことや、ロングステップスキップBの補強ドリルを行うことが役だちます。
 合理的なランニングフォームの判断には、GO姿勢角[度](終了←KP←開始)や、キック開始フォームにおける、キック脚のすね姿勢角(sune)が、よい指標となります。たとえば、カール・ルイス選手のデータで、次のような観測値があります。

   GO姿勢角[度] G歩目(β, dG=11.2) [ +12 ← +5 ← -7 ] 

 走幅跳の踏切2歩前(G)のベータクランクキックでdG=11.2 [m/s] というスピードのフォームですが、キック開始フォームではGO姿勢角[度]が-7度と、重心直下前のところで接地しているものの、このあと、0度の、重心直下でキック力を加え、+5度のところでキックポイントを迎えています。重心直下を押さえ、接地時間を短くすることを心がけ、短時間に、自分の体重にみあった力を集中させることにより、大きなスピードを生み出すことができるのです。
 XTTY選手の平均値では、XTTY2での、22←16←9を見ても、重心直下の0から遠い位置となっています。角度の変化も、9度から22度ですから、13度です。一流選手との比較で申し訳ありませんが、カール・ルイス選手のデータでは、12-(-7)=19度の変化となっています。ここではスピードの違いの影響が大きいのですが、0度前後で動かすと、より大きく動かすことができるのです。
 XTTY選手は、全体としてのキック力は大きいし(aGO/g値)、足首の動的な硬さ(KOL/HOL値)もうまくいっているのですが、キックのタイミングが遅れがちで、力の集中が甘く、せっかくのキック力が、うまく水平速度の向上へとむすびついていません。
 もうひとつ、表4(B)の項目の中で、WOL/KOLの平均値が、1回目から3回目に向けて、1.79, 1.49, 1.25と、少しずつ1.0へと近づいています。今回の3回のランニングにおいては、この点に関して、進歩していることが分かります。
 WOL/KOLが1.0より大きいということは、WOLのほうがKOLより優勢だということですが、これは、太もも裏側のハムストリングスに依存した走り方です。400mのランナーに多いタイプですが、100mのスピードを大きくするとき、このような、キック脚の一部の筋肉に依存する走り方は、やがて、スピード障害として、スピードの停滞を起こすことになります。
 WOL/KOLが1.0ということは、キック脚の全体の形を固定させて、ほぼ均等に使っているということを意味します。
 ただし、カール・ルイス選手では、WOL/KOL値は0.8くらいで、少しKOLのほうが優勢なのです。これは、大きなスピードのもとでは、脚の末端に近いところの、足首のバネを使うほうが効果を生むからだと考えられます。野球のボールを投げるとき、スピードが大きくなって、最後は、手首の次に、指のスナップがスピードアップにつながるという現象に似ています。加速のための力は身体の中心から、徐々に末端での出力へと移してゆくことが大切になります。ヤリ投でも、この原則を守ることが、記録につながってゆきます。
 高速ランニングフォームにおいては、このような、力の出し方の変化(移動)は、ほんのわずかな時間で行われます。ほぼ同時と感じられるくらいの時間です。
 蛇足になるかもしれませんが、XTTY選手は、上半身をやや前傾させ、お腹を凹ませぎみにしたポーズで走っているので、トルソ振動による減速は、あまりロスとなっていません。TWNの平均値が100前後であるということが、このような技術の現れです。相対トルソ速度dT-dKの値は、比較的大きなものとなっています。一流選手でも、ここでロスしているケースが多々見られます。
 スウィング脚の動きは平均的な値です。とくべつ遅くもないのですが、速くもありません。ここのところは、意図的な心がけで、変えてゆくことができます。スウィング脚の動きは、すべての局面で速くする必要はないのです。キック脚がキックポイントを迎えようとする、その瞬間だけでよいので、そこで速く動かそうと心掛けて、技術をみがいてゆくことです。スウィング脚によるリード効果がうまくゆくと、キック力を水平速度へと効率的に変換できるようになります。そこのところが、カール・ルイスの技術の見事なところですが、微妙なことなので、これをマスターするには、何度もトライアルする必要があります。
 ランニングの画像を見て、あるいは、実際の姿を見て、すぐに分かることですが、XTTY選手は、キック脚の膝下部分が、まだまだ細すぎます。これまで、ここの部分に負荷をかけない走り方をしてきたため、発達していないのだと考えられます。ここにスピードアップの余地があります。細い太いは関係なく、ここのところでの出力が大きくなるようにトレーニングすれば、足首のバネがもっと強くなってゆきます。解析してみて分かったのですが、膝下部分を使ったランニングフォームが、まだ、あまり生み出されていません。もっと、重心直下で、短い時間に力を集中させるのです。
 でも、やりすぎると、故障してしまう可能性が大きくなります。私は何度も(アキレス腱や臀筋を)故障しているので、このような危険については、よく分かっていますが、あまり故障をしたことがない若いランナーは、むちゃなトレーニングや試合の負荷をかけてしまいがちです。自分の身体のコンディションをよく観察して、適度なトレーニング負荷をかけるようにしてください。
 (Written by KULOTSUKI Kinohito, Jan 8, 2014)

 付録

[A] ランニングフォーム(XTTY1)
 これらの画像をクリックすると、解析拡大ページへと進みます。







[B] ランニングフォーム(XTTY2)
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[C] ランニングフォーム(XTTY3)
 これらの画像をクリックすると、解析拡大ページへと進みます。









 

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