コーチング (24) XTTY選手の曲走路(カーブ)中間疾走の解析

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)@ 9621 ANALYSIS

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 はじめに

 2014年3月9日(日)のトレーニングにおいて、XTTY選手が200mのランニングを意識して曲走路の後半部分を走るというので、曲走路の円の中心あたりに位置して撮影しました。このような撮影状況では、ランナーを常に真横から撮影できるという利点があります。
 このビデオ画像を写真画像に展開して、ランニングフォーム解析プログラムruna.exeで解析しました。およそ30歩近くのランニングフォームを記録しましたが、静止位置からの、最初の数歩は解析せず、ある程度スピードが高まった状態のものから解析しています。
 このときのXTTY選手の曲走路後半のランニングを、記号として、XTTY8と呼びます。

 スピード能力3要素について

 次の図1は、解析1歩目から解析22歩目までの、全重心水平速度dGと、スピード能力3要素(キックベース速度dK、相対トルソ速度dT-dK、相対スウィング速度dS-dB)の関係を調べたものです。これらの部分速度は、p=2/3, q=1/4 という係数を使って、次式の関係を満たします。
   dG = p(dT-dK) + dK + q(dS-dB)      スピード能力3要素寄与式


図1 XTTY8における全重心水平速度とスピード能力3要素

 キックポイントが身体重心直下にあるアルファクランクキック(α)から、キック脚の膝の角度を大きくしきったときのピストンキック(P)までを、α→β→γ→gd(γδ)→δ→P の6段階に分けています。図1の全重心水平速度dGのグラフのそばには、これらのフォーム分類の記号が添えてあります。
 白抜きのプロットは左脚キックで、塗りつぶされたプロットは右脚キックです。
 XTTY8のランニングで注目すべきランニングフォームは、解析5歩目と解析13歩目のデルタクランクキック(δ)と、20歩目のベータクランクキック(β)でしょう。解析5歩目と解析13歩目のデルタクランクキック(δ)では、いずれも、キックベース速度(キック脚重心水平速度dK)の値が大きくなっています。また、いずれも左脚キックです。これは、曲走路の内側の脚ということになります。
 ランニングフォームを次のように数量化して平均値を求めることができます。
   α(1), β(2), γ(3), gd(3.3), δ(4), P(5)
 XTTY選手の解析初期の3本のランニングでの、このような処理によるフォーム平均値はXTTY1 → δ(3.9), XTTY2 →δ(3.4), XTTY3 →δ(3.6) でした。
 これに対して、今回解析したXTTY8ではγ(2.9) となりました。XTTY選手はガンマクランクキックのフォームねらって走っていることが、このような処理によって分かります。
 XTTY1〜XTTY3のランニングでは圧倒的にデルタクランクキックのフォームが多く、キック軸速度dGOのピーク位置でキックポイントをむかえるものとなっていました。このようなフォームでスピードアップを目指すには、キック軸速度dGOの値を大きくする必要があります。かんたんに言うと、キック脚のバネに依存するということですが、これには限界があります。また、ランニングにおけるエネルギー消費の効率もよくありません。
 これに対して、「高速ランニングフォーム」と呼んできたシステムでは、キック軸速度dGOのピーク位置ではなく、その立ちあがりの途中のところで最大速度を生み出すことになります。キック脚のバネをフルに使わなくても大きなスピードで走ることができるのです。
 このようなメカニズムは、XTTY選手のXTTY1〜XTTY3のランニングフォームのデータを詳しく調べることによって明らかになりました。これらや、私のランニングフォームなども比較して、「ランニングスピードの詳細なメカニズム」が分かったのです。
 図1の解析グラフで、p(=2/3)をかけた相対トルソ速度p(dT-dK)の変化を見ると、色つきプロット(右脚キック)と白抜きプロット(左脚キック)とが、上下にジグザクしていることが分かります。
 相対トルソ速度dT-dKは、上半身水平速度dTからキックベース速度dKを引いたものです。上下にジグザクしているということから、上半身の動きとして、右脚キックに対して、左脚キックではスピードを減らしてしまっているということになります。おそらく、内側のキック脚である左脚キックのとき、上半身を必要以上に後方へと動かしているものと考えられます。このクセを修正することができて、相対トルソ速度dT-dKを右脚キックのレベルにそろえることができれば、1 [m/s] 近く、全重心水平速度を大きくすることができるかもしれません。
 図1の解析グラフの、q(=1/4)を掛けた相対スウィング速度q(dS-dB)の変化を見ると、解析13歩目において、これが大きくなったとき、キックベース速度dKも大きくなっていることが分かります。これはうまくいったケースです。
 解析18歩目から同21歩目まででも相対スウィング速度q(dS-dB)が大きくなっていますが、このとき、全重心水平速度への効果はあったのかどうかというと、これはよく分かりません。
 このように、スウィング脚の動きは、かならずしも、速ければよいというものではないのですが、解析13歩目のように、うまく作用することもあるということになります。スウィング脚の効果は、水平速度への寄与より、全重心を浮かせないということのほうが強く影響するようです。

 キック脚についてのWOL/KOL比

 記号としてW(腰点), K(キック脚の膝点), O(キック脚の足底にある支点), L(支点から地面後方への任意の点)としたとき、∠WOLの角速度をWOLとし、∠KOLの角速度をKOLとして、比WOL/KOLを求めると、この値で、キック脚の使い方の違いを知ることができます。


図2 ∠WOLと∠KOL

 WOL/KOL=1.0 となるとき、キック脚は図形としてのかたちを変えずに動くことになります。これが真正クランクキックです。1.0より大きいということは、WOLのほうが速く動いているということなので、キック脚の膝より上の動きが優勢となっていることになります。これをハムストリングスキックと呼びます。逆に1.0より小さいときは、膝下部分の動きのほうが優勢です。このような値は、アルファクランクキックのときのように、空中からの落下でキック脚の筋肉が引っ張られているときに生じます。これをリバウンドキックと呼びます。
 XTTY1〜XTTY3のランニングでのWOL/KOL比の平均値は、XTTY1→1.79, XTTY2→1.49, XTTY3→1.25でした。このときのランニングでも、ハムストリングスキック優勢の状態から真正クランクキックへと近づいていたのですが、今回のXTTY8における平均値はWOL/KOL=1.30でした。
 WOL/KOL比についての値を表1にまとめます。

表1 XTTY8における解析歩(Form)dGとWOL/KOL



 表1の解析歩(Form)dGとWOL/KOLについて見ると、ガンマクランクキック(γ)も数多く出現していますが、このフォームに関する利点が生かされていないようです。解析13番目のデルタクランクキックでは、WOL/KOL=1.48と、かなりハムストリングスキックですが、これは、これまでのランニングによって発達した脚筋肉群の影響なのだと考えられます。XTTY選手は、現時点での身体のバランスから、真正クランクキックでただちに大きなスピードが得られるようにはなっていないのかもしれません。後に詳しいデータで観察しようと思いますが、解析13歩目のデルタクランクキックでは、相対トルソ速度が3.00 [m/s] と、やや小さいという点を除けば、かなり良いフォームとなっています。ベータクランクキックやガンマクランクキックにこだわらず、これまで得意としてきたデルタクランクキックの内容を優れたものにしてゆくことでスピードを大きくしてゆけばよいのかもしれません。

 ランニングフォームの重心高解析






図3 XTTY8のいくつかのランニングフォームの重心高解析

 XTTY8のいくつかのランニングフォーム重心について重心高解析を行いましたが、キック脚のスパイク面が地面にすいつくように接地した状態で、身体重心が前に進もうとしている様子がうかがえます。

 キック区間解析








 左下の全重心グラフで、緑色の鉛直速度dyのパターンが理想的なものとなっています。赤色の∠TWNが大きく右下がりになっていますが、これは、上半身が後方へと反る動きとなっていることを示しており、運動量をロスしていることになります。




図4 XTTY8のいくつかのキック区間解析

 総合解析








 スウィング脚の動きを示すRL(右脚)やS-B(dS-dB)のグラフが高いピークとなっています。これに対して、上半身の速度を示すT-K(dT-dK)が低くなっています。




図4 XTTY8のいくつかのキック区間解析

 解析13歩目のパターンを除き、総合水平速度グラフのパターンが平坦なものとなっています。これは、キックポイントのところでの力の集中(あるいはスピード動作の集中)が不十分であることを意味しています。

 速度ベクトル解析












図6 XTTY8のいくつかのベクトル解析

 重心の浮かない、水平に進もうとするキックフォームとなっています。

 XTTY8の統計による解析


図7 XTTY8におけるdGとdK

 一般的にキックベース速度dKは全重心水平速度dGと比較的強い正の相関をもちます。しかし、このXTTY8の解析では、背景にあるデータの仮想軸に対して、回帰直線の勾配がゆるいものとなっています。このことは、キックベース速度dKの利用がじゅうぶんなものではないということを意味しています。このような結果は、キック脚の足首のスナップがうまく作用していないためだと考えられます。


図8 XTTY8におけるdGとdT-dK

 図8では白抜きプロット(左脚キック)と塗りつぶされたプロット(右脚キック)とがデータのプロット重心の十字の左右に分かれて分布していることが分かります。しかし、縦軸の全重心水平速度dGの分布を見ると、それほど左右で異なっているわけではありません。曲走路における左脚キックフォームと右脚キックフォームとでは、上半身の動きが異なっているということが示されていますが、その違いは、全体の水平速度にあまり影響していないようです。
 背景の仮想軸に比べ、回帰直線の勾配が小さいことから、塗りつぶされたプロット(右脚キック)での全重心水平速度dGの値が、背景データより小さめであるということになります。曲走路での、外側のキック脚によるフォームの宿命なのかもしれません。


図9 XTTY8におけるdGとdS-dB

 スウィング脚の相対的な速さは、わずかに全重心水平速度dGの速さと正の相関をもつように示されていますが、これは右上に少しはなれて位置しているデータ(解析13歩目のもので、dS-dB=5.81)の影響と見なせ、これを除いたものでは、ほとんど無相関のように分布しています。


図10  XTTY8におけるdGとaGO/g

 この図10に示されているように、キック軸加速度比aGO/gは、横に広がって分布しています。これは、キック軸加速度比aGO/gと全重心水平速度dGとが無関係だということを示しています。


図11  XTTY8におけるdGとWOL/HOL

 この図11でも、曲走路における左脚キックフォーム(白抜きプロット)と、右脚キックフォーム(塗りつぶされたプロット)とが、大きく異なる分布パターンを示しています。左脚キックフォーム(白抜きプロット)ではWOL/HOLが1に近いものとなっており、キック脚の全体が固まっているように使われています。これに対して、右脚キックフォーム(塗りつぶされたプロット)では、横に広がっていますが、これは、HOL(かかとの動き)が小さいということを意味しています。曲走路でのランニングというものは、このようなものかもしれません。

 ランニングスピード生成における4つの要素

 ランニングスピード生成における4つの要素についてコメントします。

 (A) 重心の浮かないキックフォーム
 今回の解析では、この要素はかなりうまくできているようです。
図3に「XTTY8のいくつかのランニングフォーム」について、重心高の解析を示しましたが、キックにおいて、大きな鉛直速度成分が生み出されることはなくなり、キック軸のバネが水平速度を生成することへと向けられるようになりました。

 (B) キック力が水平速度増加へ影響するガンマクランクキック
 この要素には、一つの仮定が加わります。ガンマクランクキックと言っても、山縣亮太選手が行っているものに似る必要があるのです。それがどのようなものであるかというのは、まだ詳しく説明することができませんが、おそらく、このような効果を生み出すためには、それなりの適度な重心高でのキックが重要になると想定されます。
 図4の「XTTY8のいくつかのキック区間解析」で、XTTY(12)とXTTY(19)はガンマクランクキックですが、キック脚のかかとの浮きが小さな動きとなっています。山縣亮太選手のガンマクランクキックでは、これがもっと大きな動きだったように思います。XTTY選手は、XTTY(5)やXTTY(13)のデルタクランクキックでは、キック脚のかかとの動きが大きなものとなっています。
 このような、デルタクランクキックでのかかとの動きをガンマクランクキックで行うためには、キック脚の膝の角度をもっと小さな状態で使う必要があります。つまり、もう少し重心を下げてキックするようにして、キック脚の足首のスナップを利かせても、身体重心が浮かないようにするということだと考えられます。
 そのような、もう少し低い重心高でのガンマクランクキックが行えて、水平スピードを増すことができるかどうか試してみることをお勧めします。このようなテクニックが実行可能で効果があるかどうかは、やってみなければ分からないものです。

 (C) 空手パワーキックからの前進への一連の動き
 もっと強いパワーとなる「弓形ハンマーキックからの前進への一連の動き」が有効なものとなるかどうかは、上記の(B)のテクニックがうまくいったあとでのストーリーとなります。キック脚の動きを「弓形ハンマーキック」と呼ぶか「空手パワーキック」と呼ぶかは、動きの大きさや強さのレベルの違いということになります。これは、ランナーの身体能力の違いにもとづくことかもしれません。

 (D) キック軸速度の増大
 キック軸速度が大きいほど、言い換えれば、スウィング脚の動きも利用しての、キック脚のバネが優れたものであるほど、走るのに有利であることは、かなり古い時代から知られています。たとえば、ランナーの立三段跳や立五段跳を計測して、加速走のタイムなどとの相関をとれば、強い正の相関がみられます。
 このような脚のバネのレベルを評価するためのコントロールテストとして、上記の立三段跳や立五段跳のほかに、50mや100mでの片脚跳躍走のタイムをとるというものを利用することができます。

 おそらく、ランナーの身体的な状況によって、得意とするランニングフォームは微妙に異なってくるものと思われます。私が述べていることは、一般的な考え方にすぎません。いろいろなランニングフォームがあるということを知って、自分にとって、スピードが高まるとか、より楽に走れるなど、うまくゆくものを、自分の身体で調べながら見出していってください。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, Mar 16, 2014)

 

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