コーチング (25) XTTY選手の曲走路(カーブ)スタートダッシュの解析

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)@ 9621 ANALYSIS

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 はじめに

 2014年3月9日(日)の、曲走路におけるXTTY選手のスタートダッシュを、曲走路の円の中心あたりに位置して撮影しました。
 このビデオ画像を写真画像に展開して、ランニングフォーム解析プログラムruna.exeで解析しました。
 このときのXTTY選手の曲走路後半のスタートダッシュを、記号として、XTTY7と呼びます。

 ステックピクチャー(XTTY7)

 解析した0歩(スタート)から13歩目までの、ビデオ画像からおこしたステックピクチャーを並べます。これらは、身体重心の高さをそろえて描いたものです。


図1 XTTY7の上からスタート(0), 1歩目(1), 2歩目(2)
(1秒間に30コマのビデオ画像から構成したステックピクチャー,
身体重心の高さが同じで描かれている)




図2 XTTY7の3歩目(3)から13歩目(13)のステックピクチャー

 重心高解析(XTTY7)

 0歩(スタート)から4歩目までの、重心高解析の図を示します。
 0歩(スタート)において、上半身が上に浮こうとして動く動作が目立っており、身体重心が急に上へと浮いてしまっています。頭の動きを見ると、このことが良く分かると思います。ここのところは、頭がもっと前へ進みながら上がってゆくべきです。青い線で描いてある左腕で肩や頭を引きあげすぎています。






図3 重心高解析(XTTY7)

 スピード能力3要素による解析

 次の図4は、スターティングブロックを押して走りだすスタート(0歩目)から13歩目までの、全重心水平速度dGと、スピード能力3要素(キックベース速度dK、相対トルソ速度dT-dK、相対スウィング速度dS-dB)の関係を調べたものです。これらの部分速度は、p=2/3, q=1/4 という係数を使って、次式の関係を満たします。
   dG = p(dT-dK) + dK + q(dS-dB)      スピード能力3要素寄与式


図4 XTTY7(曲走路でのスタートダッシュ)における
全重心水平速度とスピード能力3要素

 図4のグラフから気がつくことをコメントします。

 (A) スタートで生み出された水平速度dG=3.3 [m/s] のレベルは悪くないのですが、それに続く1歩目と2歩目のピストンキックでは、相対トルソ速度p(dT-dK)の値が低すぎます。また、全体の速度も低いものです。これは、スタートで上半身を上のほうへと起こす動作が強すぎることが原因だと考えられます。また、このときの相対スウィング速度q(dS-dB)の値も低いようです。

 (B) 1歩目と2歩目のピストンキックは、あまりスピードに乗れていないようですが、3歩目と4歩目のガンマデルタクランクキック(gd)でスピードを上げることができています。ここの2歩でピストンキック(P)やデルタクランクキック(δ)ではなく、ガンマデルタクランクキック(gd)へと進んだことで、スピードをうまく上げることができているようです。ここの3歩目と4歩目では、上半身を腰に乗せて、うまく前方へと押すことができており、相対トルソ速度p(dT-dK)の値を引きあげています。

 (C) 5歩目のピストンキック(P)のところで、何かが変化したようです。6歩目から13歩目までは、9歩目のデルタクランクキック(δ)を除き、アルファクランクキック(α)とベータクランクキック(β)が生み出されています。身体重心直下でのキックポイントを意識していることがうかがえますが、この段階では、アルファクランクキック(α)やベータクランクキック(β)はあまりよい効果を生み出しません。キックベース速度(dK)の値が少しずつ大きくなっていますが、ここのところは、ガンマクランクキック(γ)やガンマデルタクランクキック(gd)で、もっと地面を後方へ弾いて、全体の速度を引きあげるところです。
 これらのアルファクランクキック(α)とベータクランクキック(β)のフォームにおいては、全重心水平速度dGのグラフパターンが、ウマの背のように、肩と尻のところが上がって、背中の真ん中が下がっているような形になっています。


(a) ベータクランクキック


(b) ガンマクランクキック


(c) デルタクランクキック

図5 13歩目の馬の背のようになっている全重心グラフの
(a)「肩」(b)「背」(c)「尻」に対応する3つのフォーム

 アルファクランクキック(α)やベータクランクキック(β)は肩に対応しますが、尻に対応するデルタクランクキック(δ)のところにも小さなピークがあるのです。
 これまではデルタクランクキック(δ)のピークに合わせていたのでしょうが、そのパターンとは違えようとして、重心直下のところを狙いすぎて、アルファクランクキック(α)やベータクランクキック(β)のフォームとなっているものと考えられます。
 これらの、幅広い峰のちょうど中央のあたりで集中して力をこめることができれば、ガンマクランクキック(γ)となるのです。曲走路の中間疾走では、ガンマクランクキック(γ)かガンマデルタクランクキック(gd)のほうが、スピードがでると思われます。いろいろと試してみてください。

 目指すべきスピード曲線

 XTTY7でdGの値は3.3(0) → 3.9(1) → 4.8(2) と推移していますが、ロケットスタートを行っているR10選手 [1]の身長(ほんとうの身長は1m48ですが)を(XTTY選手と同じ)1m79としたときのスタートダッシュでは3.4(0) → 5.8(1) → 6.9(2) となります。
 次の図での0歩目(スタート)から2歩目の赤い点は、この値をプロットしたものです。3歩目以降は、このカーブを延長したものです。もっと上にあがってゆければよいのですが、いろいろ観察したデータでは、このような、教科書的な速度パターンを生み出しているランナーはまだ確認できていません。
 ロケットスタートの技術をマスターして走れるようになれば、0歩目(スタート)から2歩目のスピードはもっと大きくなると思われます。3歩目と4歩目のガンマデルタクランクキック(gd)は、かなりうまくいっているようです。5歩目からの加速フォームで、キックポイントのフォームをガンマクランクキックとし、そこでの力とスピードの集中を試みてゆくことで、さらに大きなスピードのランニングへと変えてゆけるかもしれません。


図6 目指すべきスピード曲線の一例

 まとめ

 XTTY選手の曲走路におけるスタートダッシュの画像から調べて、いくつかの技術的な問題点を見出しました。
 スタートダッシュで後方をしっかりと押すのは、XTTY選手も、2歩目まででよいようです。
 スタートの姿勢や動き方については、いろいろと調整することがあるようです。
 1歩目と2歩目のところで、ロケットスタートのテクニックを応用すべきです。
 3歩目からの、低い姿勢での加速フォームは、工夫のしどころです。
 5歩目からのフォームでは、接地の中間で力を集中させて、ガンマクランクキックとし、もっとスピードを高められるように目指すとよいでしょう。おそらく、重心直下でのキックという感覚をためして、これまでのものとは違って、軽く走れることにとらわれているのでしょう。曲走路では、もっと強くキックしてゆける、ガンマクランクキックやガンマデルタクランクキックのほうが、スピードが出ると思われます。スピードが出るのなら、これらに近いデルタクランクキックでもかまわないと思います。自分にとって、いちばんスピードが出そうなフォームを探してください。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, Mar 24, 2014)

 参照資料

[1] R10選手のスタートから2歩目まで
 R10選手の1歩目と2歩目はロケットスタートです。それぞれのキック脚を少し外側についています。こうすると、上半身を前方に出して低い姿勢にしても、倒れにくくなるので、思い切って突っ込んでゆけます。


図A  R10選手のスタートから2歩目まで


図B R10選手の全重心水平速度とスピード能力3要素


図C R10(0)の動き(水平に展開したもの)


図D R10(0)の動き


図E XTTY7(0)の動き

[2] MRT選手のスタートから2歩目まで


図F  MRT選手のスタートから2歩目まで


図G MRT選手の全重心水平速度とスピード能力3要素

 MRT選手も0歩から2歩までのところは見事です。3歩目から5歩目で停滞していますが、6歩目でのデルタクランクキックで大きな速度に達しています。しかし、このあとのスピードアップのためのフォームの切り替えがうまくいっていません。

 

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