コーチング (27) 足首のスナップは効果があるのか?

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)@ 9621 ANALYSIS

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 はじめに

 「コーチング(26) トップスピードのランニングでさらにスピードを増加させるためのトレーニング」の「トレーニングメニューのサンプル」のところで私は、自分自身のことを、「ランニングスピードのレベルについては、私は遅いほうに対応しますが、ランニングフォームのコントロールレベルの視点からは、かなり上級者と見なせます」と書き、さらに「高速ランニングフォームとしての、重心直下でのベータクランクキックや、中ほどでのガンマクランクキックが、まだうまくおこなえず、キック脚の膝上部分が主に動く、メトロノームキックによる、デルタクランクキックが中心的なフォームとなっているランナーは、キック脚全体を、膝が少し曲がったままで振りまわして使えるような、ベータやガンマのクランクキックで走れるようにトレーニングする必要があります」と続けています。ああ、なんという、うぬぼれ。
 このようなことを記したのは、「こうすれば速く走れるはず」と、自信に満ちたアイディアをまとめていたからでした。[3] フォームチェックランニングのところで、フォームを意識してコントロールする順番として、「ビッチアップ」と「ワイドシザース」と「足首スナップ」の3つをあげています。そして、このためのドリルとして、「(A) 足首スナップランニング」と「(B) 足首スナップスキップA」と「(C) 足首スナップスキップB → ワイドシザースランニング」を行うことを提案しています。
 何度か、このようなトレーニングを試みて、「速く走れる(ようだ)」ということを実感していたのでしたが、実際に走ってみて、ビデオに撮影してもらって解析したところ、「まったく速く走れていない」という結果でした。このときのランニングは、トレーニング開始から5時間ほど経過していて、脚や胴体のバネも低調だったという、悪いコンディションだったという、聞き苦しい言い訳もありますが、ランニングフォームを自分のイメージどおりにコントロールすることができていないという点で、自分でも恥ずかしいと思えるものでした。100Mを2本走って撮影してもらったのでしたが、画像をコンピュータで解析する以前に、それを単に観察するだけでも、ワイドシザースフォームがまったく実行できていないということが分かりました。そして、解析してみると、ガンマクランクキックはほとんど現れていなくて、足首キックを意識するあまり、キックポイントが後ろへとずれてゆき、ガンマデルタクランクキックのあと、デルタクランクキックが続いているのでした。これではスピードは高まりません。

 足首のスナップは効果があるのか?

 ランニングフォームを解析したときの、動きの様子を示す値として、∠HOLという角度についての角速度HOLがあります。


図1 キック足のかかと角(∠HOL)の角速度HOL

 Hはキック脚のかかと点で、Oは支点(拇指球位置)で、LはOより後方の地面での任意の点です。∠HOLはスパイクの後半部分の底面が地面とつくる角度となります。HOLは角速度なので、その∠HOLの動く速さを意味します。この角速度HOLは、アルファクランクキックで小さな値となっていますが、足首のスナップを強く意識したときなどでは、1400 [度/秒] もの大きな値として観測されます。つまり、足首のスナップを意識したかどうかは、このHOLという角速度が大きいかどうかで分かるわけです。
 それでは、足首のスナップを意識し、HOLという角速度が大きいというとき、ランニングスピードである、全重心水平速度dGの値が必ず大きくなるか。このような問いに対して、Yesと言えるフォームもあるのですが、Noと言わざるをえないフォームもありました。

 2014年4月12日(土)1本目のランニング(KLO25)における、HOLとdGの値をグラフにしてみると、アルファクランクキック(α)→ベータクランクキック(β)→ガンマクランクキック(γ)→ガンマデルタクランクキック(gd)と、変化するにつれて、HOLとdGがともに大きくなる系列がありました。これだけなら、「足首のスナップは効果がある」と言えるかもしれませんが、そのグラフの右下のほうに、HOL値は大きいけれど、dG値が小さいという一群のフォームがあります。これらの中心的なものはデルタクランクキック(δ)でした。


図2 1本目のランニング(KLO25)におけるHOLとdG

 2014年4月12日(土)2本目のランニング(KLO26)における、HOLとdGの値をグラフにしてみました。こちらも2つの系列があって、HOLとdGがともに大きくなるものと、HOL値が大きくなってもdG値が小さいままというものです。後者のdGが小さいままだというフォームは全てデルタクランクキック(δ)でした。ともに大きくなるものは、ベータクランクキック(β)→ガンマデルタクランクキック(gd)という変化によって結びついています。


図3 2本目のランニング(KLO26)におけるHOLとdG

 これらの解析結果により、アルファクランクキック(α)→ベータクランクキック(β)→ガンマクランクキック(γ)→ガンマデルタクランクキック(gd)のような変化の中で、足首スナップを意識してゆくときはスピードアップへと結びつくものの、足首スナップを意識しすぎてキックポイントの位置が遅れてデルタクランクキック(δ)のフォームとなってしまったときは、足首スナップによってスピードアップの効果は生じない(または、その効果が弱い)ということになります。これは、かなり重要なことかもしれません。
 足首のスナップは、ゆっくり、大きくやっていて、デルタクランクキック(δ)になってしまってはだめなようです。ガンマクランクキック(γ)や、ガンマデルタクランクキック(gd)までにフォームがおさまるようなタイミングと素早さで行うことにより、これが効果をもって、スピードアップができるということになりそうです。
 しかし、図2や図3において、全体についての相関係数を求めると、ほとんど相関がないということになってしまいます。今回、解析プログラムを改良して、このようなスタイルの表示が行えるようにしたので、過去の私のランニングについて、dGとHOLの関係を調べてみました。すると、2014年2月9日に行ったランニングKLO16において、図4のような、HOLとdGの相関係数ρ=+0.65という、比較的強い正の相関がみられました。2014年2月9日に行ったKLO15とKLO16では、身体重心が浮かないキックフォームとすることでスピードアップできるということを検証することができ、それまでのランニングスピードに対して、およそ1.0 [m/s] のスピードアップとなったものです。
 図4では、ベータクランクキック(β)→ガンマデルタクランクキック(gd)→デルタクランクキック(δ)の変化で、上限の変化を生み出しています。デルタクランクキック(δ)は2フォームありますが、右上のものは、身体重心の浮きも抑えられ、力や動きが集中されていて、その上で、キック脚の足首スナップも強く効いて、もっとも大きな速度を生み出しています。


図4 KLO16(2014-02-09)におけるHOLとdG

 KLO25の図2やKLO26の図3に比べて、図4のKLO16のランニングのほうが、足首スナップの効果は強く生み出されていると考えられます。
 KLO16の2月9日はまだまだ寒かったのですが、重心の浮かないランニングというものを試すプロセスの中で、いろいろなことがうまく組み合わさったのだと思えます。足首スナップの感覚は、これだけを強く意識したのではなく、「キック脚のスパイク面が地面にはりついたとたん、これを支点として、全重心をすばやく前方へと送りだすというイメージをもっていたと思います。意識のイメージを、「スパイク面と地面」から「全重心」へと、すばやく移したわけです。
 これに対して、4月12日のKLO25とKLO26では、意識のイメージが「キック脚の足首」に向けられつづけていたようです。ここのところが違うのかもしれません。かかとの動きは角速度のHOLによって計測されますが、これが同じくらい大きな値でも、全重心水平速度dGへと反映されるかどうかは、意識のもちかたによって、大きく異なってくるわけです。おそらく、「キック脚の足首」と「全重心」との間にあるものが、力の伝達をうまくおこなうことができるかどうかというところに影響してくるのかもしれません。

 ここまでのデータを見ると、キック脚の足首スナップは、全体の水平速度を大きくするのに効果があると考えられるかもしれません。ところが、次の図5のデータについて考えると、あらためて、キック脚の足首スナップは効果があるのかということを問いなおす必要があるのではないかと思ってしまいます。
 図5でとりあげたKLO15は、図4のKLO16の前に走ったランニングです。dGとHOLの相関係数はρ=+0.34となっていますが、これでは何とも言えません。
 このKLO15では、ベータクランクキック(β)とガンマクランクキック(γ)の全重心水平速度dGの値が大きく、ガンマデルタクランクキック(gd)とデルタクランクキック(δ)が回帰直線の下方に位置しています。このような速度の分布は、これらのランニングフォーム分類についてのメカニズムに、うまく合っています。
 KLO16では、スパイク面から全重心へと意識を移して、足首スナップの効果を生み出そうとしたようですが、KLO15では、そのような意識はしなかったと思います。考えていたのは、確か、水平に重心が動いていくようにキックするということだけだったようです。それで、重心軌跡が水平から下方へと動くこととなり、やけにピッチが早く、地面がすぐやってくるので、いそいでキックしたと思います。それにより、ベータクランクキック(β)やガンマクランクキック(γ)をうまく生み出すことができて、(私にとっては)比較的大きなスピードが得られたようです。


図5 KLO15(2014-02-09)におけるHOLとdG

 HOL値が800〜1100 [度/秒]のあたりに分布しているということから、このときのキックでは、足首キックを強く意識したのではなく、キック脚を膝と足首でやや曲げて、その形のままで振りまわすというものだったようです。
 回帰直線の上側にあるベータクランクキック(β)とガンマクランクキック(γ)の4フォームにおいては、キックベース速度dKの値が4.0 [m/s] を上回る大きさとなっており、これが、これらのフォームのスピードレベルを引き上げています。
 これらの考察から、キック脚の足首スナップを意識するというテクニックに対して、キック脚の全体を使った真正クランクキックの結果として、ある程度大きめのHOL値となることを目指すというテクニックが存在するということが分かります。


図6 KLO15(8) (HOL, dG)=(905, 7.4)のβ


図7 KLO16(9) (HOL, dG)=(1530, 7.4)のδ

 図6はKLO15の解析8歩目のビデオ画像から起したステックピクチャーです。図5のグラフで最もdG値が大きなベータクランクキック(β)のものです。このときのキック脚は、ワイドシザースフォームというほどの、膝の伸びをしめしておらず、そのためか、相対スウィング速度はdS-dB=3.2 [m/s] と、低調です。このフォームでの利点は、キックベース速度がdK=4.6 [m/s] となっており、これが全体の速度を押し上げています。
 ベータクランクキック(β)ですから、4←3のところでキックポイントを迎えていることになります。キック脚の足底で地面を押した反動でかかとが浮くという動きです。もし、意図的に足首キックを行おうとすれば、5←4のところでキックポイントを迎えることとなり、デルタクランクキックのフォームとなって、キック脚の膝があまり動かず、低調なキックベース速度dKとなるかもしれません。
 図7はKLO16の解析9歩目のデルタクランクキックです。7←6のところにキックポイントがあります。かかとの浮きの変化がはげしく、HOL=1530 [度/秒] もの値となっています。このときのキックベース速度はdK=4.6 [m/s] あって、相対スウィング速度もdS-dB=3.6 [m/s] で、とくに遅くないため、図4でのdG値はトップです。

 考察

 「(全重心水平速度dGに対して)足首のスナップは効果があるのか?」  この問いに対して、足首スナップをやや意識したKLO16では「やや効果がある」、意識していなかったKLO15では「あまり効果がない」と言えます。
 しかし、足首スナップを強く意識したKLO25とKLO26では、「ほとんど効果がない」と言えます。これは皮肉な結果です。このとき、足首スナップを意識しすぎて、デルタクランクキックとなってしまい、キック軸GOのバネなどによるキック軸速度dGOが水平速度dGへと変換されるときの、変換比b/aの値が小さくなってしまうからです。
 これでは「足首スナップ」が逆効果となってしまいます。
 このような問題をクリアーするためには、とにかく、ランニングフォームにおけるキックポイントを遅らせて、デルタクランクキックや、その前の、ガンマデルタクランクキックとしてしまわずに、なんとか、ガンマクランクキックでとどめておけるようにしなければいけません。
 自分の意識で「足首スナップ」を命令しようとすると遅れるのですから、これをもっと早いタイミングで行うためには、末端神経が行う「反射」のメカニズムを利用すればうまくいくかもしれません。
 「TK選手のランニングフォーム解析」のなかで「地面にキック脚を着くとき、足首まわりを固くして、地面を弾く感覚」と記しています。
 足首を自分で動かすのではなく、足首を固定しておき、この状態でキック脚全体のキックを行うことにより、足首のバネが少し押し縮められたあと反発するという、身体の末端部分が自動的に行う「反射」にまかせてしまったほうが、より強く、より連続したキックになるのです。
 このような動きで走ることを、ドリルで習慣づけたあと、コントロールスピードでのランニングによって、しっかりと反復しました。
 そして、あらためて、身体コンディションのよいときに、「反射」にまかせたキック動作によるランニングで、どのようなフォームとなり、ランニングスピードがどのようになるのかをテストしました。
 2014年4月19日(土)に行ったランニングのKLO29において、(私にとって)比較的スピードが大きなガンマクランクキックのフォームが、ランニングの後半に数多く現れました。
 ランニングスピードも、KLO25やKLO26に比べ、KLO29では速くなっています。
 足首は自分の意識で動かすのではなく、出来るだけ固定しておくように意識づけておき、キック脚の全体を使って、スキップ系の動きのなかで、地面を強く弾くようにしました。
 キック脚が自転車のスポークで、スパイク面がタイヤというイメージで、キック脚を振りまわしました。


図8 KLO29におけるdGとスピード3要素

 図8の「KLO29におけるdGとスピード3要素」においては、ガンマクランクキック(γ)がたくさん現れています。とくに、後半では5連続のガンマクランクキックとなっています。ここのところが、スキップB系での、自転車のスポークとタイヤをイメージしたランニングでした。
 デルタクランクキック(δ)が2つ続いたあとに、ベータクランクキック(β)が2つ続いていますが、ここが、フォームを切り替えたところです。
 また、キックベース速度(dK)が4 [m/s] 台に数多く乗っています。
 このような区間は、すでに40mほどの加速区間を経過したあとの、意識としては、トップスピードの(つもりの)区間です。いつもは、このようなトップスピード区間の後半までスピードが維持出来ていることはなく、もっと低下してゆくところです。
 しかし、残念なことに、これらのガンマクランクキックでは、水平に跳び出していず、いくらか上に跳び出そうとしており、このことにより、水平スピードを高めきれていませんでした。

 KLO29におけるHOLとdG

 図9は「KLO29(2014-04-19)の全フォームにおけるHOLとdG」です。相関係数はρ=-0.01となっています。  しかし、図10は「KLO29(2014-04-19)のガンマクランクキックにおけるHOLとdG」ですが、このときの相関係数はρ=+0.56となっています。


図9  KLO29(2014-04-19)の全フォームにおけるHOLとdG


図10  KLO29(2014-04-19)のガンマクランクキックにおけるHOLとdG

 これらの解析結果から、足首スナップを強く意識しない、足首を固定しての、自然なHOLの変化は、KLO29(2014-04-19)のガンマクランクキックにおいて、全重心水平速度dGを大きくする効果があると言えそうです。
 ただし、このような効果をもつガンマクランクキックが、すべてのガンマクランクキックについてあてはまるものであると考えることはできません。
 KLO29のガンマクランクキックは、全重心水平速度dGとキック軸加速度比aGO/gとが正の相関をもつという性質を示しています。これは、山縣亮太選手のガンマクランクキックに見られる性質です。しかし、他の選手や、これまでのKLO選手(私)のランニングにおけるガンマクランクキックのフォームでは確認できなかったことです。
 このことから、形式的に「ガンマクランクキック」と名づけているものは、その力学的な作用に関連して、全重心水平速度dGとキック軸加速度比aGO/gとが正の相関をもつものと、もたないものとに分けることができるかもしれません。
 さて、そのような分類ができたとして、このような、統計的な性質を生み出すものとして、いったい何が具体的に違うのでしょうか。
 これは、新たな研究テーマとなりそうです。

 まとめ

 「(全重心水平速度dGに対して)足首のスナップは効果があるのか?」
 これがタイトルでもあり、このページのテーマでもありました。
 自分自身の実験的なとりくみの結果を振り返り、次のように考えています。
 意識的に足首のスナップを利かせるという動作を組みこもうとすると、キックにおける最大スピードを生み出す、キックポイントの瞬間を遅らせてしまうこととなり、dGO(=a)→dG(=b)のスピード変換の比率(b/a)が小さな、デルタクランクキックとなってしまいます。
 この難点を避けるために、意識的な足首スナップではなく、反射による足首スナップとなるように、意図的に足首を固定するようにしての、キック脚全体によるクランクキックを行うようにしました。
 すると、このようなランニング中のガンマクランクキックにおいては、足首のスナップを意味する角速度のHOLと、全重心水平速度dGとが、正の相関をもつようになりました。
 このように、キック脚による、全体のキック動作の中での、ひとまとまりのキック出力の末端に組み込まれるというスタイルをとることができたとき、足首スナップは全重心水平速度dGに対して効果があると言えます。
 いろいろな条件がついて、特別な状況になったときだけ、効果は生まれるのですが、そうではないとき、効果は生まれないということになります。このような問題の答えというのは、そのようなものかもしれません。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, Apr 24, 2014)

 

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