コーチング (28) TK選手のトップスピードランニングフォーム

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)@ 9621 ANALYSIS

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 はじめに

 2014年1月4日にTK選手のランニング画像を記録しました。そのときの解析コードをTKとします。
 その後しばらくして、4月19日にTK選手といっしょにトレーニングする機会がありましたので、ランニングフォームの変化などを確認するため、TK選手のランニング画像を記録しました。このときの画像のコードはTK2〜TK7となります。
 今回解析したのは、その中のTK5のランニングです。
 TKもTK5も直線を走ってもらったものです。スタンディングスタートからの、さいしょの加速区間ではなく、ほぼトップスピードのランニングの区間を、少し遠めの横から撮影しました。次のグラフの下にある数字は [解析歩数] です。およそ、スタートから10歩目あたりからを、解析1歩目としています。

 全重心水平速度とスピード能力3要素

 次の図1は「TKとTK5におけるランニングの全重心水平速度とスピード能力3要素の変化」です。全重心水平速度dGはランナーのスピードとみなせます。スピード能力3要素とは、キックベース速度dK(キック脚重心水平速度)、相対トルソ速度dT-dK(ここで、dTは上半身重心水平速度)、相対スウィング速度dS-dB(dSはスウィング脚重心水平速度、dBはキック棒重心水平速度、このときのキック棒とは、キック脚と上半身をあわせて棒とみたてたもの)の3つです。p=2/3, q=1/4は運動量保存則から導かれる係数です。このような係数を掛けて、全重心水平速度とスピード能力3要素は、次の式を満たします。
   dG = p(dT-dK) + dK + q(dS-dB)



図1 ランニングの全重心水平速度とスピード能力3要素の変化

 ランナーのスピードdGについて考えると、4月のTK5より、1月のTKのほうが、大きな値が出ています。しかも、TKの解析3歩目のガンマデルタクランクキック(gd)で9 [m/s] に近い値を出した後、ピストンキック(P)でスピードを落としていますが、後半はガンマクランクキック(γ)でスピードを盛り返しています。
 TK5では、解析5歩目のガンマデルタクランクキック(gd)で、このときのトップスピードを生み出したあと、デルタクランクキック(δ)とガンマデルタクランクキック(gd)で、じわじわとスピードを低下させています。
 キックベース速度dKは、TKで 5 [m/s] 台の値が生み出されています。TK5ではやや値が低くなっていますが、比較的大きな値を続けられるようになっています。
 相対トルソ速度dT-dKの変化では、TKの後半で大きくなっているのに対して、TK5の後半では低下したままです。
 相対スウィング速度dS-dBは係数q=1/4を掛けて見積もることになりますので、全スピードdGの成分としては、あまり大きな影響は直接およぼしません。しかし、水平に跳び出す動きを調整するために重要なはたらきをしています。

 TK選手のトップスピードランニングフォームはガンマデルタクランクキック(gd)

 TK選手のトップスピードはガンマデルタクランクキック(gd)で生み出されています。TK選手のトップスピードランニングフォームを調べると、100mよりも200mや400mで成果を生み出しやすいものとなっていることが分かります。スプリントランナーは、このような、ある距離にみあったランニングフォームを発達させて、それぞれの種目に分化してゆくようです。
 100mを得意とする、大きな絶対スピードを生み出すランナーは、太ももとお尻に、大きな質量の筋肉群を発達させています。ベン・ジョンソン選手、モーリス・グリーン選手、ジャスティン・ガトリン選手、マイク・パウエル選手、タイソン・ゲイ選手、ヨハン・ブレーク選手の体形を見ると分かります。キック脚の全体をつけ根のところから振りまわす、真正クランクキックや、スキップB系キックによってランニングスピードを高めようとしているかどうかによって分化してゆくからだと考えられます。なぜなら、そのようなランニングを試みてゆくと、太もも(のとくに前側)やお尻の筋肉が大きくなってゆくからです。
 ところが、200mのほうが得意なランナーでは、もう少し細身に見える体形となっています。これは、曲走路でのランニングにおける力学的な効率が、直走路でのものと異なるから、と考えられます。
 TK選手の体形や走り方を観察すると、やはり、TK選手は200m向きだと分かります。200mの記録に対して100mの記録が悪かったそうですが、これは逆に考えるべきで、100mの記録に対して200mの記録が優れていたのです。

 TK選手のガンマクランクキック(γ)はメトロノームキックが優勢なタイプ

 100mが得意なスプリンターのガンマクランクキックは、ほとんどが、真正クランクキックと判断できるものとして、大きなスピードを生み出しています。真正クランクキックというのは、キック脚の全体を、伸ばすなり曲げるなりしていますが、ほぼ固定して、全体をつけ根のところから振りまわすものです。
 ところが、TK選手のガンマクランクキックはメトロノームキックが優勢なタイプなのです。メトロノームキックというのは、キック脚の膝から上の動きが大きなものとなるものです。キックベース速度dKが比較的大きくないときでも、相対トルソ速度p(dT-dK)が大きくなるので、全速度dGの値をあるていど押し上げることができます。

  TK選手のトップスピードランニングフォームのガンマデルタクランクキック(gd)では、キックベース速度dKと相対トルソ速度p(dT-dK)がともに大きい

 TK選手のトップスピードランニングフォームのガンマデルタクランクキック(gd)では、キックベース速度dKと相対トルソ速度p(dT-dK)がともに大きくなっています。
 私は「キック脚のすねをしっかりと立てて、その膝の上に乗ってゆく」ことでスピードアップの効いたランニングになると、TK選手に述べ、そのようなフォームを生み出すべきだと説明しましたが、TKとTK5を解析したところ、TK選手は、すでに、そのようなフォームを生み出しつつあるということが分かりました。ただ、そのことをTK選手は、あまり意識していないようでした。
 ワイドシザースフォームを意識的に行うと、「キック脚のすねをしっかりと立てる」ことができやすくなります。「その膝の上に乗ってゆく」ということの方法として、私は、これまで、真正クランクキックというメカニズムのことしか考えていなかったのですが、TK選手のガンマデルタクランクキック(gd)のフォームに見られるように、「メトロノームキックを使う」という方法もあるようです。
 TK選手は、このような方法をみがきあげてゆけばよいのです。
 TK5の後半では、ワイドシザースフォームがうまくできないということにまどわされて、よいところが何もないというガンマデルタクランクキック(gd)のランニングフォームとなっています。
 TK選手が意識してゆくことは、「ワイドシザースフォーム」→「キック脚のすねをしっかりと立てる」→「メトロノームキック」→「その膝の上に乗ってゆく」のような流れではないでしょうか。しかし、これらも、ごくごく短い時間でぱっとやりとげなければならないものですから、むつかしいこととなりそうです。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, Apr 25, 2014)

 

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