コーチング (30) スキップB系ガンマクランクキックでもっと速く走ろう

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)@ 9621 ANALYSIS

「スポーツ解析」ブランチページへもどる

 はじめに

 スプリントランニングにおいて、キック脚の接地状態の、どのあたりで、そのときの最大速度を生み出すことができるかということが、ランニングスピードを大きくするためのポイントとなります。
 接地時での最大速度を生み出す瞬間に対して「キックポイント」という言葉を用いることにしています。
 そして、このキックポイントの瞬間における、キック脚の、太もも部分と、すねの部分の、姿勢角の組み合わせにより、アルファクランクキックから始めて、ベータ、ガンマ、デルタまでの4種類のクランクキックと、最後にくる、膝を伸ばしきるピストンキックをあわせて、1〜5のフォーム分類を行っています。
 これらの分類の中に、デルタクランクキックの中で、ガンマクランクキックに近い、ほぼ1/3のものを、ガンマデルタクランクキックと呼ぶようになりましたが、原則としては、まさに重心直下でキックポイントをむかえる(1)アルファ(クランクキック)から始めて、(2)ベータ、(3)ガンマ、(4)デルタ、(5)ピストン、と数えてゆきます。
 このように分類して研究をすすめてゆくと、優れたスプリンターが大きなスピードを生み出しているフォームとして、ベータクランクキックとガンマクランクキックが認められるということが分かってきました。
 これらのうち、ベータクランクキックは、かなりスピードが高まってきてからでないと、その効果を生かすことができません。しかし、ガンマクランクキックは、そのフォームの特性から、初期の加速段階からトップスピードの段階まで、効果的にスピードを高めてゆくことのできるものです。
 ただし、そのようにして使っている、優れたスプリンターのガンマクランクキックのフォームを真似ようとしても、なかなかうまく効果を生み出すことができませんでした。ランニングフォームの「フォーム(形)」だけを真似ようとしても、速く走ることはできないのです。
 他のフォームでも、そうなのかもしれませんが、ガンマクランクキックというフォームにおいては、スピードの出るガンマクランクキックと、スピードの出ないガンマクランクキックとが、まじって存在しているようです。
 これらの違いについて考察してゆこうと思います。

 ランナー感覚によるランニングフォーム分類

 次の図1は、ランナーの重心を固定して描いた、ランナー感覚による、ランニングフォーム分類のサンプルです。いずれも、私のランニングフォームから探してきたものです。これらの動きの中央のところにキックポイントのフォームがあります。


図1 ランナー感覚によるランニングフォーム分類

 KLO28とKLO29のランニングデータの比較

 2014年4月19日(土)のトレーニングにおいて、KLO27〜KLO29とした3本のランニングをビデオ撮影して、それらのKLO28とKLO29について解析した結果を図2としてまとめました。
 dGは全重心水平速度、dKはキックベース速度(キック脚重心水平速度)、dT-dKは相対トルソ速度(上半身重心水平速度dTからキックベース速度dKを引いたもの)、dS-dBは相対スウィング速度(スウィング速度dSから、キック脚と上半身を組み合わせたキック棒の水平速度dBを引いたもの)です。
 これらのスピードは、係数p=2/3, q=1/4を掛けて、次の式を満たします。
   dG = p(dT-dK) + dK + q(dS-dB)


図2 KLO28とKLO29におけるスピード変化

 全重心水平速度dGについて見比べると、KLO28では、解析4歩目のβからあとは、じわじわとスピードを減らしていますが、KLO29では、解析6歩目のγのあと、2歩のδでスピードを落としたあと、βやγで盛り返しています。
 ガンマクランクキック(γ)の現れ方を見ると、KLO28では、スピードが高まったり低下したりと、ランダムな効果として生み出されていますが、KLO29では、おおよそ、比較的スピードを高めるために生み出されています。



 表1はすべてのフォーム(ALL)についての平均速度と平均キック軸加速度比で、表2はガンマクランクキック(γ)についての平均速度と平均キック軸加速度比です。左右の値を比べて、大きいほうを赤文字にしました。
 相対スウィング速度dS-dBは係数q=1/4を掛けて見積もるので、全速度dGへの寄与の違いが、あまり強く現れません。すべてのフォーム(ALL)についての平均速度と平均キック軸加速度比では、KLO28で相対スウィング速度dS-dBがわずかに上回っていますが、ガンマクランクキック(γ)についての平均速度と平均キック軸加速度比では、すべての項目についてKLO29のほうが上回っています。
 すべてのフォーム(ALL)についての全重心水平速度dGの平均値は、ave[dG(KLO28, ALL)] = 6.63 [m/s], ave[dG(KLO29, ALL)] = 6.85 [m/s] となっており、KLO29のほうが速く走れています。
 ガンマクランクキック(γ)についての全重心水平速度dGの平均値は、ave[dG(KLO28, γ)] = 6.54 [m/s], ave[dG(KLO29, γ)] = 6.99 [m/s] となっています。
 これらのことから、KLO29のランニングにおいては、ガンマクランクキック(γ)が全体のスピードを引き上げており、KLO28のランニングでは、逆に引き下げているということが分かります。
 スピードの出るガンマクランクキックと、スピードの出ないガンマクランクキックが、このように、KLO29とKLO28の、同じ日に行った、連続したランニングにおいて、見事に分離して出現しているのです。

 統計解析による要因分析

 それでは、KLO29とKLO28において生み出されたガンマクランクキックは、具体的に何が違うのでしょうか。
 まずは、ランニングスピードである全重心水平速度dGに対して、スピード能力3要素やキック軸加速度比が、どのような関係にあるのかを、KLO29とKLO28でどのように違うのかを調べます。


図3 dG と dK 

 全重心水平速度dGとキックベース速度dKに関しては、回帰直線の傾きが違いますが、相関係数ρを見比べると、KLO28ではρ=+0.78で、KLO29ではρ=+0.83となっており、ほとんど違いはないと考えられます。
 データのプロット重心におけるdGの位置が大きく異なっていますが、dKの位置はあまり違いません。


図4 dG と dT-dK

 全重心水平速度dGと相対トルソ速度dT-dKに関しては、違いがあります。KLO28では相関係数ρ=+0.84となって正の相関があるのに対して、KLO29では相関がありません。KLO29のガンマクランクキックのほうがスピードが出るのですが、これでは、マイナス効果となっています。KLO29のガンマクランクキックでは、相対トルソ速度に関してプラスの要因をもっていないにもかかわらず、よりスピードが出ているのです。


図5 dG と dS-dB

 全重心水平速度dGと相対スウィング速度dS-dBに関しても、違いはあります。しかし、ここでも、KLO29のガンマクランクキックは、相対スウィング速度が大きくなったとき、全重心水平速度dGが小さくなるという、負の相関なのです。ここでも、KLO29のガンマクランクキックはプラスの要因をもっていません。


図6 dG と aGO/g

 全重心水平速度dGとキック軸加速度比aGO/gに関してKLO29のガンマクランクキックは明らかにプラスの要因を示しています。全重心水平速度dGとキック軸加速度比aGO/gが相関係数ρ=+0.92という、非常に強い正の相関をもっているのです。
 統計的なグラフは準備できていませんが、キック軸加速度比aGO/gに関係して、キック軸速度dGOが異なると考えられます。これについて調べたところ、キック軸速度dGOの平均値は、KLO28で1.59 [m/s]、KLO29では1.72 [m/s] と、KLO29のほうが優れています。同じガンマクランクキックなので、dGO(=a)→dG(=b)の変換比b/aは、あまり違わないはずです。
 キックポイントにおける全重心Gの鉛直速度dyがゼロに近いほど変換比b/aの効率が良くなります。このことに関して鉛直速度dyの平均値を調べたところ、KLO28ではave(dy, KLO28)=+0.39 [m/s] で、ave(dy, KLO29)=+0.65 [m/s] でした。KLO29のほうが不利な条件となっています。それにもかかわらず、キック軸速度dGOが上回っているし、全重心水平速度dGも上回っているのです。

 次に、全重心水平速度dGに影響している、身体各部の角速度について調べます。このような角速度や、それらの角速度の比については、いくつか調べたのですが、統計的な差異が認められないものについては省略して、明らかに有意な違いが認められるものだけをとりあげました。


図7 dG と WKL

 WKLというのはキック脚太ももの姿勢角に関する角速度です。かんたんに言うと、キック脚の太ももが大きく動くかどうかを示すものです。
 dGとWKLに関して、KLO28のガンマクランクキックでは、相関係数ρ=+0.97と、非常に強い正の相関を示しています。KLO29では相関係数ρ=+0.49であり、弱い正の相関です。
 このことは、KLO28のほうがメトロノームキックぎみになっているということです。キック脚の膝から上の動きが目立って大きいということです。
 このことを裏返して、KLO29について考えれば、KLO29では、キック脚の膝から下の部分の動きが目立って大きいということになります。これは、KLO29のガンマクランクキックにとってプラス要因となります。


図8 dG と HIP

 HIPはヒップ角についての角速度です。ここでの傾向は、上記のWKLと同じようになっています。共通の要因から生じている現象のようです。


図9 dG と HOL

 HOLはキック脚の足底の動きを示します。かかとの動きと見なすこともできます。
 KLO28ではかかとの動きがスピードにむすびついていないのに対して、KLO29では相関係数ρ=+0.56と、正の相関をもっています。

 まとめ

 上記の解析により、KLO29のガンマクランクキックでは、まず、キック軸加速度比の作用から始まり、キック脚のかかとの動きと膝下部分の動きがうまくかみあって、効果的にキックベース速度を高め、それが主要因となって、全体のスピードを大きくしたと考えられます。
 もうすこし具体的なイメージで述べると、キック脚の膝下部分が、より大きな速度で、地面を後方へと弾いたということになります。
 やはり、最後の「決め手」は「速度」なのです。
 KLO29では、解析9歩目のβからあと、意図的にスキップBの動きを強くイメージして、前方から後方へと足を振り戻しつつ、しかも、地面に強く力を加えるということ心がけました。
 KLO28では、とくに、そのような意識はもっておらず、いろいろなフォームの中で、結果的にガンマクランクキックも現れたという感じがします。
 キック前にキック脚の膝下部分を前方へと伸ばす、ワイドシザースフォームは、どちらでも試みたと思いますが、強く振り戻して強く踏みしめるというイメージをもったのはKLO29だけでした。
 このようなことから、KLO29では、スキップB系のガンマクランクキックとなっていたと考えられ、これがスピードを高める要因となったと考えられます。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, Apr 29, 2014)

 

「スポーツ解析」ブランチページへもどる