コーチング (31) 速く走るためのアイディア

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito)@ 9621 ANALYSIS

「スポーツ解析」ブランチページへもどる

 はじめに

 100mから200mの短距離走において、速く走るためのアイディアについて述べようと思います。400mについては、かなり違ってくると思います。800mより長い中長距離走については、成立する項目もありますが、他の要素が強く関わってきます。
 選手の身体的な状況によっても、その効果は違ってくると思われます。
 初心者と上級者でも、問題とすべきことは違ってきます。
 このようなわけで、誰に対しても成立するとは限りませんが、何かがヒントとなって、これまでのスピードの壁を突き抜ける可能性が生まれるかもしれません。

 スキップAやスキップBのドリルとランニングを関連づける

 私がトレーニングしている陸上競技場には、小学生の陸上クラブや、中学や高校の陸上競技部の選手たちもやってきます。(東京とは違って)地方のチームですので、指導者がおられて、細かく指導されています。しかし、スプリントランニングの指導というのは、昔も今も、あまりよく分かっていないもののようです。あるチームの選手たちは、こんなものもあるとばかりに、いろいろなドリルをやっています。それらはいったい、ランニングの何を改善しようとしているのかということが、どうも、私にはよく分かりません。そして、そのような、ありったけのドリルをやった選手たちが、いざ、フロートと呼ばれている、コントロールスピードでのランニングをやり始めると、それぞれが、ほとんど自己流の、これでは速く走れるはずがないというフォームで走っているのです。おそらく、選手たちだけでなく、その指導者たちも、いったいどのように走ったらよいのか、ということがよく分かっていないのでしょう。私もかつてはそうでした。
 私のホームページの中に、ランニングのためのドリルを特集したものがありますが、それは、上記のような状況を見て、何か役だつものを作っておこうと考えたからです。それらのプロセスの中で、いったい、このドリルは、ランニングの何を改善しようとしているのか、それをうまくやりとげるためには、どのようにドリルとランニングをおこなってゆけばよいのかということを考えました。
 私が指導するドリルの原点は「マック式短距離トレーニング」にあります。ただし、それを基本として、応用となるドリル種目を、いろいろと分化させてきました。
 マーチングと呼ばれている、歩いて行うドリルや、片脚だけで行うドリルもありますが、それらは小学生などの初心者のために行うことになります。中学生以上だと、スキップAなどから始めることになりますが、このスキップAの意味を理解して、うまく行っている選手もほとんどいません。また、スキップBを効果的に行っている選手も見当たりません。スキップAでは、もっと足首を固めて、地面の反発を受け止めて、弾けるようにしなければいけません。スキップBでは、前方でのスウィングだけをしっかりとやればよいと考えているのがほとんどですが、それでは意味がないのです。大切なのは、そのスウィングを生かして、地面を強く蹴るということなのです。さらに、これらのスキップAやスキップBは、それだけですませるものではなく、それらの動きですこしずつ前進してゆき、水平スピードを高めるための動きとして組み込んでゆけるということを体得してゆくべきものです。そして、スキップAでも自然とランニングへと変化してゆくのですが、スキップBではどこにドリルとランニングの境があるのか分からなくなるようにしてゆく必要があるのです。
 これらのスキップAやスキップBは、高速ランニングフォームと呼んでいるものの中で、とくに大きなランニングスピードを生み出す、ベータクランクキックのフォームを作り上げるために役立つものなのです。
 そして、これらのドリルからランニングへと変化するものの中に、このページで述べてゆく、いろいろなテクニックを組みこんでゆくのです。
 何も指導しなくても、速く走れるランナーには、このようなドリルを指導する必要がありません。しかし、そのようなランナーはめったにいません。世界のトップクラスである、キューバのスプリンターたちも、おそらく、こんなドリルをやっていることだろうと、いろいろ予想できます。
 スプリントランニングというのは、とても奥深い運動種目なのです。ぱっと見、同じように見えるというのは、理解が進んでいないからです。30年前の私がそうでしたし、2年前や1年前、あるいは、1ヶ月前の私も、まだまだ理解が足りませんでした。ランニングのための基礎ドリルについての理解も、ようやく、ほんの少し分かりだしてきたばかりです。
 これらのドリルは、ランニングフォームを調整するためにあるのです。そのためのドリルを行って、選手たちのランニングがどのように変化してゆくのかということを、しっかりと観察してゆくべきです。そうすれば、ランニングや、その前のドリルを、どのように変えてゆけばよいのかということが分かってくるかもしれません。

 ※このあとのテーマについては、コメントがまとまった時点でホームページに加えようと思います。それらが完成するのを待っていたら、今シーズンが終わってしまうかもしれませんから、このように、タイトルとして、かんたんに記しておくことにします。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, May 3, 2014)

 スキップB系の速いスウィングからのキック

 [→] 空手ガンマ走法

 重心の浮かないキックフォームを目指す

 私自身が重心の浮くキックフォームで、ピョンピョンと山なりの重心軌跡を描きながら走っていたことに気がついたのは、2014年の1月ごろになってからのことでした。1月ごろには、ウェブで探した、カール・ルイス選手とマイク・パウエル選手の、1991年東京世界陸上での、走幅跳決勝スローモーションビデオから、このときの助走の走り方を調べていたのですが、カール・ルイス選手とマイク・パウエル選手のランニングスピードの違いがどこにあるのかという疑問の答えとして、マイク・パウエル選手がピョンピョンと弾むように走っていたのに対して、カール・ルイス選手がほとんど水平に進んでいるということにたどり着いたのでした。このあと、雑誌に載っていた桐生祥英選手のキックフォームも調べたところ、カール・ルイス選手と同じように、ほぼ水平に跳び出すキックフォームでした。
 これらの知識をイメージして、私自身で、これまでの走り方を修正し、重心の浮かないキックフォームを目指して走ってみたところ、ランニングスピードの平均値が、ほぼ1 [m/s] も高まったのです。
 このようなテストランニングのフォームを詳しく調べ、キックポイントとなるときに、鉛直速度成分dyを0にするかどうかで、水平速度成分dx(=dG)が大きく変わるということを調べました(未公開データ)。
 かつてから、ゴム紐やロープなどで、他のランナーやバイクの力を借りて、対象となるランナーを引き、自己のランニングスピードを越えるランニングを無理やりさせるというトレーニングがあります(トウ・トレーニング)。これにより、自分だけではできなかったハイピッチのランニングや、ロングストライドのランニングを行うことができて、その後、対象となるランナーが、平地において自力で走るとき、これまでより速く走ることができると、(検証もされているかもしれませんが)考えられてきました。
 このような、自己のスピードを、何らかの外力によって超えるトレーニングの一種として、なだらかな勾配での坂下り走というものもあります。こちらは、そのようなトレーニング環境さえあれば、かんたんに行うことができます。
 トウ(引く)・トレーニングや坂下り走が、その後の平地のランニングで、なぜ効果をもつのか、その理由が(仮説としてですが)分かりました。このようなトレーニングによって、対象となったランナーが、それまで上に跳び過ぎていたフォームを、水平に跳び出すフォームへと修正したからと考えれば、すべて理解できることです。ランニングスピードはもちろん向上しますし、水平に跳び出せば、すぐに落下するので、自然とピッチも高まります。
 これまでは、結果的に速く走れるようになるということで、詳しい理由も分からないまま、トウ(引く)・トレーニングや坂下り走をやってきたかもしれませんが、このような仮説のストーリーが明らかになってみると、紐で引っ張ったり、坂下り走を行ったりする必要は何もなく、シンプルに平地で走るというランニングにおいて、重心の浮かない、水平に跳び出すキックフォームを心がければよいのです。
 それは、けっこうむつかしいことなのですが、繰り返し、そのことをイメージして、実際に走ってみれば、次第にフォームが磨かれてゆきます。
 このときのコツは、スプリントランニングだけに限ったものではありません。最近、陸上競技の記録会があって、私が指導しているスプリンターのパフォーマンスを観察したのですが、それらの種目の合間に行われた、1000mや1500mの中距離ランナーのランニングフォームを見たところ、比較的遅いグループの選手たちが、明らかに、ピョンピョンと、キックフォームにおいて、上に弾んでいたのです。それに比べ、トップを走るランナーは、たいてい、重心の浮かない、地面をうまくとらえて、水平速度を生み出しているものでした。
 中長距離ランナーのばあい、ランニングスピードが、全速力で走るものの何割かという、コントロールスピードと言ってもよいものなので、このときのフォームの良し悪しということが見逃されてきたのかもしれません。しかし、ごくわずかな、トップランナーを除き、ほとんどのランナーは、無駄にピョンピョン弾んで走っているか、キック力をうまくランニングスピードへと変換できていないかという状況なのです。
 短距離でも中長距離でも、水平に跳び出すようにキックできていないときは、キック軸のスピードが、水平なランニングスピードへと変換されるときの効率が、みなさんが思っている以上に落ちます。スピードそのものも損していますし、エネルギーも損するので、中長距離走のケースでは二重の損となるわけです。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, May 8, 2014)

 胴体をしっかりと固めておき上半身を腰に乗せて前方へと送る

 これは重要なポイントです。胴体がゆるいと、キックによって生み出された運動量の一部を、上半身が無駄に使ってしまって、全体のスピードが小さくなってしまうことがあるのです。キックのパワーを有効に使うためには、体幹をしっかりと鍛えておく必要があるということです。

 ランニングスピードの基礎はキック軸のスピードにある

 ここのところは、あまり重要なアイディアではありません。キック軸というのは、キック足における地面との接点(支点O)と、身体重心(G)とを結んだ線のことです。しかし、これは研究のための定義としては役だちましたが、ランニングスピード向上のためには、直接役だつものではありません。

 ワイドシザースフォームで接地のキック脚膝下部分をしっかりと立てる

 ここのアイディアはランニングスピードがあるていど大きくなってからのことです。コントロールスピードで走っている、フォームチェックフロートなどでは、さいしょのダッシュのあとは、すべて意識しておくほうがよいかもしれません。
 これは高速ランニングフォームの必須条件だともいえます。
 (キック区間でのスピードが最大値をとるときの)キックポイントを身体重心直下に近いところで生み出すためには、キック脚の足底スパイク面を、身体重心直下より少し前で地面に接地させておく必要があります。この動きだけを意識していると、まるで、地面に何か突起があって、それに、つまづく感じとなることがありますが、やがて、そこでは力がうまく抜けるようになって、違和感がなくなります。
 キック脚を地面に接地させるとき、キック脚膝下部分が前に傾いているとき、つまり、キック脚のすねの姿勢角が90度よりずうっと大きいというとき、このあと、キック脚の膝が前方へと動く余地がなくなってしまいます。すると、キック脚重心水平速度(キックベース速度)dKを大きなものとして生み出すことができないことになります。このキックベース速度dKの値が小さいというとき、あと、上半身やスウィング脚の動きをどれだけ速くしようとしても、全体のスピードは大きくなりません。全重心水平速度(ランナーのスピード)dGに対して、キックベース速度dKの寄与率は、およそ60パーセント前後もあり、上半身やスウィング脚の動きが、残りの40パーセント前後だからです。このようなわけで、まず目指すべきなのは、できるだけ大きなキックベース速度dKを生み出すということなのです。
 このためのテクニックとして有効なのが、接地のときの、キック脚膝下部分を、斜めに傾けてしまわないで、しっかりと立てておくということです。
 そして、自然と、このような状況へと導いてくれるのが、空中で、前方のキック脚は長くのばしておいて、後方のスウィング脚は膝で折りたたんでおきながら、両方の脚を前後に広げておくという、ワイドシザースフォームを意識しておくということなのです。
 コントロールスピードのランニングでは、比較的、このワイドシザースフォームは行いやすいのですが、スピードをもっとあげて走ろうとすると、なかなかうまくできないものです。でも、それでは効果がありませんから、トップスピードのランニングでも、ワイドシザースフォームができるように、スピードが遅いときには、少しオ―バ―に見えるくらい、強調してやっておくべきです。
 そして、ワイドシザースフォームをとって、前方のキック脚の膝をしっかりと伸ばしておくだけではなく、スキップB系の動きの中で、キック脚を振り出して振り戻すスピードを高め、キックでのスピードとパワーのレベルを大きくすることが大切です。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, May 10, 2014)

 もっと太ももを柔らかくしスウィング脚をしっかり折りたたんで運ぶ

 太もものストレッチが不足していると、スウィング脚をうまく折りたたむことができにくくなってしまいます。膝をやや開いたままのスウィング脚では、これを動かすときの回転モーメントが大きくなってしまい、前方へ運ぶときのエネルギーがたくさん必要になります。そのため、時間もかかってしまいます。

 メトロノームキックではなく真正クランクキックへ向かう

 メトロノームキックというのは、キック脚の膝上部分が中心となってキックの動きを生み出すものです。キック脚の膝の角度が大きくなろうとするときのキックフォームです。
 真正クランクキックとは、キック脚の膝の角度がほとんど変化せず、キック脚が膝で曲がったままのキック動作です。

 真正クランクキックでは臀筋のパワーが重要となる

 キック脚の膝を曲げたままでキック脚全体を回転させぎみに後方へと動かすときの、パワーの源泉は臀筋にあります。

 ダウンスウィングよりもレベルスウィングとなるように

 これはあまり気にするほどのことはありません。より本質的なことは、全体の重心がうまく水平に加速されてゆくということです。そのことをイメージしてキックしてゆき、空手ガンマ走法のところで説明しているように、真下を強く押す空手パワーキックを行っているにもかかわらず、水平方向へのスピードが大きくなるような動きを求めてゆけば、そのとき、スウィング脚もうまく動いているはずです。

 スピードが大きくなるにつれて中腰フォームから腰高フォームへ

 [→] 空手ガンマ走法

 固い足首のバネを反射作用として無意識に使えるように組み込む

 このところのアイディアは、かなり重要なものです。
 私自身のランニングフォームだけでなく、最近調べたXTTY選手のランニングフォームにおいても、スピードアップのための「最後の決め手」は、キック脚全体のバネによる動きと、スウィング脚の動きをシンクロさせて、キック軸の速度を高めるとき、同時に、固い足首のバネを使えているかどうかということにあるということが分かってきました。
 さらに、このときの足首のバネは、ランナーが意図的に使おうとするのではなく、足首を固めて地面を押すことにより、押しつぶされようとする足底が反射的に反発するという方法をとらないと、タイミングが遅れてしまって、大きな速度を生み出す可能性が高い、ベータクランクキックやガンマクランクキックの動きとして間に合わないのです。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, May 17, 2014)

 ガンマクランクキックとベータクランクキックの中間をねらう

 ここのところのアイディアは、上記の「固い足首のバネを反射作用として無意識に使えるように組み込む」ということを行うためのノウハウです。
 ガンマクランクキックよりベータクランクキックのほうが、キック脚のすねを、より立てた状態からキックを始めることができるので、キックベース速度を大きくする条件が良いものとなります。
 しかし、同時に行うべき「固い足首のバネを反射作用として無意識に使えるように組み込む」ということに関しては、ベータクランクキックよりガンマクランクキックのほうが、うまくやりやすいということになっています。
 これらの利点のほうだけを、うまく組み合わせて利用しようとするなら、「ガンマクランクキックとベータクランクキックの中間をねらう」ことになるというわけです。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, May 17, 2014)

 空手ガンマ走法

 空手ガンマ走法をめざすのは、地面を強く蹴るという空手パワーキックが水平スピードとうまく結びつくのが、ガンマクランクキックだけだからです。しかも、ただのガンマクランキックではだめで、上手なガンマクランクキックだけに生じることです。このときの注意点として、首のバネを反射作用として無意識に使えるように組み込むことや、メトロノームキックではなく真正クランクキックへ向かうことが役だちます。スキップB系の速いスウィングからのキックも、空手パワーキックと上手なガンマクランクキックへとつながるポイントです。ワイドシザースフォームで接地のキック脚膝下部分をしっかりと立てるというところは、ガンマクランクキックのための基本的なことがらです。
 上手なガンマクランクキックというのが、少し抽象的で、むつかしいのですが、ランナーの感覚として、身体重心直下を強く真下にキックしているにもかかわらず、上に跳ぶことなく、水平スピードが大きくなってゆくような動きを追い求めることが、かんたんだけれど、確実なポイントとなります。このような感覚がつかめたとき、おそらく、真正クランクキックとなっていて、足首の反射的な使い方ができているはずです。
 真下へと力を加えているはずなのに、水平スピードが増してゆくという、このような動きができたら、真下へのキックを意図的に強くしてゆく、空手パワーキックと組み合わせます。このことにより、リラクセイションの意味が分かり、力の集中と解放の感覚がつかめてゆくことになります。

 スピードの源泉はFG速筋線維

 すぐれたスプリンターは、すぐれた速筋線維をもっているはずです。これは遺伝的なファクターにも左右されますが、トレーニングの方法によっても違いがでてきます。あとひとつ、年齢によっても影響がでてきます。これらの中でコントロールが可能なのはトレーニングの方法のところですが、ここのところのポイントは、外力によって筋肉が引きのばされようとするときに、その筋肉が大きな力を生み出せるようにするということです。リバウンドジャンプなどの運動が、このようなメカニズムの代表例です。腕立て伏せでは、上に持ち上げるときではなく、下へと落ちる動きを止めようとするときの負荷が、速筋トレーニングとして役だちます。
 すぐれたランナーを育てておられるコーチなどは、おそらく、これらの効果を実感していることでしょう。そして、もうひとつ大切なことは、トレーニング全般で、効果をうまく引き出しつつ、故障をさけてゆくということです。ここのところのバランスは、選手そのものや、その発育過程、トレーニング負荷の経過などによっても違うので、経験的な知識がものをいいます。
 ランニングスピードを高めるために、スピード練習ばかりをやっていると、筋肉のコンディションが低下してゆくことになりがちです。技術的なトレーニングと体力的なトレーニングを、どのように組み合わせてゆくのかということが、効果を生むためには、もっとも大切なこととなるはずです。

 

「スポーツ解析」ブランチページへもどる