ej03 サニブラウン アブデル・ハキーム 9.99 は
見事な高速ランニングフォーム

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito) 本名 田中 毅(TANAKA Takeshi)

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 はじめに

 2019年の5月11日(土) この日朝から夕方近くまでボランティアで審判を手伝ったが、弁当が出るというのを断った(ガンをもつ私にとっては、世の中の多くの食事が毒になる)ので、試合が終わるやいなや、車で自宅へもどり、生存可能な食事を摂って、再び、同じグラウンドへ。
 この日は朝から、グラウンドで自分のトレーニングをするため、専用のスパッツやランニングシャツを着ていたので、そのまま洗濯するのは忍びなかった。何かトーニングしないと。
 5時半ごろから始めたが、この日の試合に出場していなかった高校生が4人トレーニングに来ていた。3人は短距離で1人は円盤投げ(あとで指導した)。
 私はマック式トレーニングのスキップAを100mでやっていたが、彼らがフロートをしているときのランニングフォームを見ると、完全なデルタクランクキック。古典的な、足を後方に払うフォームである。
 高校名を聞き、指導者名を聞き、ランニングフォームについて指導者が何か指導しているのかをたずねた。もしそうであれば、よけいなことをして嫌がられる。
 ランニングフォームについては、各自自由な動きをしているという。
 ここから私は、高速ランニングフォームの説明を始め、導入のための基礎運動から、どのようにして身につけてゆくのかを指導した。
 このとき私が驚いたのは、スキップAとはこういうものだと、やって見せても、ほんとうのところ、ポイントがまったく決まらず、単なる似た運動しかできないということだった。
 まず足首が弱く、バネがない。地面をたたいた反動で自然とももが上がるという動きができない。
 スキップBになると、さらにひどい。これは歩いて行うバージョンから、ていねいに指導することになった。スキップBができないのだから、私がスキップCと呼んでいる、さらに膝を高く上げて大きく前方へと振り出す運動なぞ、まったくできない。
 さて、高速ランニングフォームを身に着けるトレーニングについて、ここであらためて語り始めると、終わりが見えなくなってしまう。
 このような指導の中で、私自身は、完全なスキップAの100mを高校生と並んで行うことで、コンディションに自信をもつことができた。いきなりの100mで彼らは、途中から、きつい、などと声を上げていたが、無視して最後までやらせた。なぜ100mもやるのかというと、無駄なところでの力が抜けて、力の集中ができるようになるから、と説明した。それができると、こんな老人(自分の都合で歳をとったりする)でも、きちんとできるのだと、やって見せて示した。
 さてさて、その夜だったか翌日か、アメリカでトレーニングしているサニブラウンが100mで9秒99を出したというニュースをウェブで知った。
 5月13日の朝、ウェブを調べて、このときの映像がYouTubeで上がっていた [1] ので、ここから何枚かを取り出して、その画像に記録されているサニブラウンのランニングフォームの意味を説明したい。

 サニブラウン アブデル・ハキーム 9.99のレース画像

 このときの撮影は、スタンドからではなく、フィールドの中からである。ただし、100mの直線レーンと撮影者の間に棒高跳びのピットがあって、しかも、選手が休むところにベンチだけでなく、小さな屋根までついているので、それらの陰に入ってしまい、断片的にしか取り出せない。画像の解像度も低く、おそらくスマホの動画モードでの撮影だろう。どんなものでも、専用のビデオ撮影機なら、もう少し解像度が高いものだ。でも、ランニングフォームの特徴をつかむには、これくらいでも大丈夫。
 図1はスタートから7.9秒の地点(サニブラウンは100mを9.99秒で走っているので、ほぼ79m地点)である。先頭の上下白のユニフォームの選手がサニブラウンである。この画像で見てほしいポイントは、重心直下に青い左足のスパイクがぺたりとついているところである。これは意図的にぺたりと着いているのではなく、ちょうどこのとき、キックポイントとなっていることを示している。アルファクランクキックなのかベータクランクきっなのかは、この前後何枚かの画像を分析しないと決められないが、いずれにしても、力をスピードへ変換する効率が、とても高いフォームの一断面である。
 図2のフォームでは、身体重心直下より、やや前気味だ。高速ランニングフォームの、まさにアルファクランクキックでは、このような瞬間がある。ランナーとしては、すこし前に足をついているが、慣れているのでブレーキを感じてはいない。このあとのわずかな瞬間に力のピークを迎えようとしているのだ。


図1 スタートから7.9秒の地点


図2 スタートから8.8秒の地点(1)

 次の図3と図4は、距離が違うものの、前方へと下肢を大きく振り出しているときのフォームである。距離としては図3→図4だが、フォームとしては図4→図3で、図4の方が前方振出しのピークで、図3はもう力を抜いたあとのフォームである。
 このように、前方振出しの大きなフォームは、山縣選手がマスターしている。コマーシャルで流れている桐生選手のフォームでは全然だめであるが、世界リレーでバトンをお手玉したあとの、必死のパッチで(関西人しか分からない表現)スピードアップしたときのフォームが、これだった。レースは失敗したが、大きな収穫だと思う。桐生選手は、そのときの感覚を思い出して、自由にそのような走りができるようにすれば、自分でもびっくりするほど速く走れるはずだ。(でも、できるかな?)


図3 スタートから8.8秒の地点(2)


図4 スタートから9.3秒の地点

 もうひとつ。図5はゴール直前なので、ランナーみんなが、少し重心を落として、ゴールに飛び込もうとしている。このときの、先頭サニブラウンのフォームが、高速ランニングフォームに特有のもので、地面に接しているほうの左脚の、膝から下が、こんな角度で、大工道具のバールのような形になるのだ。このときはもう、キックポイントから時間がたっているが、このフォームが見えたら、間違いなく高速ランニングフォームである。レース初期の加速段階で、このフォームが現れているはずであるが、棒高跳びのピットが邪魔して、うまく取り出せなかった。この最後の一歩で、サニブラウン選手は、最後のダッシュを行おうとしているのである。ふつうなら走りぬけてもよいところなのに、どん欲な走りをしている。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, May 13, 2019)


図5 スタートから9.7秒の地点

 参照資料

[1] サニブラウン アブデル・ハキーム 9.99 (+1.8m) 日本人2人目の9秒台

 

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