ej04 シルベスターとダネクの円盤投

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito) 本名 田中 毅(TANAKA Takeshi)

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 はじめに

 円盤投選手のジェイ・シルベスター(アメリカ)とルドヴィク・ダネク(チェコ)は、東京オリンピック(1964)・メキシコオリンピック(1968)・ミュンヘンオリンピック(1972)のころに活躍しました。
 こんなに古い時代の円盤投の技術について説明するのは、ちょうどこのころの雑誌に載っていた連続写真のコピーが残っていたからです。そのころ刊行されていた雑誌は、買って読んでいましたが、実家を出るときに整理(廃棄)したので、その後、国会図書館で調べてコピーしたものです。
 2019年の今から数えると、最新のミュンヘンオリンピック(1972)でも、47年前となります。メキシコオリンピック(1968)のとき、私は中学2年生でしたから、その4年後というと、高校3年生でした。当時の私は走り高跳びしか眼中にありませんでしたが、やがて大学生になって十種競技をやるようになり、同じ王子のサブグラウンドで練習していた、神戸製鋼の円盤投選手にコツを教わりました。


 ミュンヘンオリンピック(1972)のジェイ・シルベスター(アメリカ)

 まずは、ミュンヘンオリンピック(1972)のジェイ・シルベスター(アメリカ)から。右の解説文についての著者名がありませんが、私の記憶では、織田幹雄さんだったと思います。
 この連続写真は何度も見ました。私が最初に理想としたフォームが、これでした。

図1 ミュンヘンオリンピック(1972)のジェイ・シルベスター(アメリカ)
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 Gのフォームを見てください。図2の1972シルベスター(8)です。
 シルベスターは、後ろ向きの姿勢から回転を始めるとき、右脚のひざをのばして、より大きな角運動量を生み出そうとしています。(あまり強くはありませんが)私のフォームは、このタイプです。

図2 1972シルベスター(8)

 神戸製鋼の円盤投の選手から習ったポイントの1つ目は、図3の1972シルベスター(10)のところでダッシュするということだったと思いますが、このときの撮影ではよく分からないと思います。ダネクのフォームのほうが分かりやすいので、そこで詳しく説明します。

図3 1972シルベスター(10)

 ポイントの2つ目は、図4の1972シルベスター(11)における、右脚のひざの捻り込みです。ここがうまくできないと、次のKから始まる、最後の振り出しのフォームとの、運動量などのつながりが切れてしまいます。

図4 1972シルベスター(11)

 次の図5は、最後の振り切りのところです。Pで少し右に傾いていますが、このときのフォームは、シルベスターとしては失敗となるものです。あとで示す、もう少し若いころのほうが、見事なものとなっています。
 PとQの腕と円盤の位置関係から、やや右の方向へ投げ出そうとしているかに見えますが、PとRに写っている円盤の位置を、背景の二人の人物の位置を基準にして見ると、正面方向から左に10度ほどの方向へ投げ出しています。やや左に引っ張って投げ出しています。これでは、円盤を振り回すときの回転半径を短くしてしまうことになるので、円盤の初速を限界まで高めることができません。悪くても、円盤が跳び出す方向は、真正面までです。理想的には、回転の半径をやや伸ばすようにして振り切り、右に何度か角度をつけて投げ出すべきです。70m38もの記録を持つシルベスターのことですから、63m50しか投げられていない、この日のフォームが良くなかったことは分かっていたかもしれません。
 このフォームのQとRを見ると、シルベスターが宙に浮いていることが分かります。これは、空中に浮いてから円盤を投げているというこではなく、PからQの最後の瞬間で、脚力によって、円盤の速度における鉛直成分を大きくしようとしているからです。投げ出す瞬間にジャンプするのです。

図5 1972シルベスター(17-19)

 ミュンヘンオリンピック(1972)のルドヴィク・ダネク(チェコ)

 右の解説文にありますが、ミュンヘンオリンピックでのダネクは、前評判を裏切って、まんまと優勝をさらっていった、いわば、ダークホースです。
 私ははじめ、シルベスターのフォームを記憶することに夢中だったので、ダネクの技術のすばらしさのことが、よく分かりませんでした。
 なぜシルベスターではなく、ダネクのほうが優勝したのか。このような疑問をもって、この連続写真を見て、その秘密を盗もうとしました。

図6 ミュンヘンオリンピック(1972)のルドヴィク・ダネク(チェコ)
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 ダネクは後ろ向きで回り始めるとき、シルベスターのようには、右脚のひざをのばしていません。これが古いスタイルと言われる所以(ゆえん)なのかもしれません。
 次の図7を見てださい。Gでの左脚のひざの曲がり具合と、Hでの伸び具合を見ると、ここでダネクは1歩だけのダッシュを行っているということが分かります。

図7 1972ダネク(7-9)

 こうすることで、サークルの直径の多くをダッシュのために使い、残されたスペースは小さくなって、ちょこんと両脚で立つような構えとなります。これは悪いことではありません。
 ダネクの、一見地味で古典的にも見えるフォームでの、圧巻部分が、次の図8です。
 若いころ私は、ここで右足のかかとが大きく浮いており、意識してつま先立ちをしていることに気がつきました。これは、右足に力がこもっていることを示しています。投げるまえ、べたっと かかとを地面につけてはいないのです。世界の一流選手は、ただの立ち投げのフォームへとつなげているのではないということを知りました。
 円盤投の試合にも出なくなっている40歳台の後半に私は、このフォームのときに、右ひざの力を一瞬抜いて、重心を下げておくという技術があるということに気づきました。
 1972ダネク(13)のフォームでは、右脚のひざの角度が90度に近くなっています。
 ここにダネクの技術のすばらしさが隠れていたということが、50歳の手前でやっと分かりました。
 若いころ私が十種競技をやりながら中学生たちを指導していたころの、指導者としての先輩(でもあり友人でもある人)に、この技術のことを話しに行ったら、一言
 「遅いわ」
と、からかわれてしまいました。
 十種競技をやっていたころに分かっていたら、もっと記録が伸びていたことは確かです。
 二人で大笑いしました。

図8 1972ダネク(13)

 図9は最後の振り切り部分です。
 左腕を肘で曲げて胸にくっつけています。このことにより、左足→左腰→左の腋の直線のところに、体を独楽と見たときの回転軸が移ります。若い選手などは、この技術のことが分からず、右足→臍→首のところに回転軸を置いてしまうので、回転軸から円盤までの半径が最小となって、円盤の離陸時の速度を小さくしてしまっています。
 図9では、撮影の角度の影響で、この回転軸の移動のことが分かりにくいことでしょう。この技術は、次の、もう少し若いころのジェイ・シルベスター(アメリカ)で、うまく表現されています。
 図9での、もう一つの見どころは、(17)で円盤が離れるときの、右肩と右手の高さです。ジャンプはしていませんが、左脚全体がしっかりと伸び、胴体もすっと伸び、肩が可能な高さまで上げられ、さらに、右腕がやや角度をつけて上に伸ばされています。
 ダネクは身長が194センチメートルもあるので、(15)の姿勢と円盤の位置から、(17)の位置まで引きあげれば、それで十分な鉛直速度が得られたのでしょう。

図9 1972ダネク(15-17)

 もう少し若いころのジェイ・シルベスター(アメリカ)

 詳しい年代の記録はありませんが、1972シルベスターで 身長191cm 体重114kg 35歳とあるところ、この図10のときは、身長190cm 体重105kgとなっており、60m56の記録を出したときのものとあったので、大学生くらいのときの記録会か対抗戦のものではないでしょうか。
 アーノルド・ガウツィ(スイス)の解説文が記されていました。誰だかよく知りませんが。

図10 もう少し若いころのジェイ・シルベスター(アメリカ)
(画像をクリック → 拡大画像のページ)

 このころからシルベスターは最後にジャンプしています。はじめの回転で右脚のひざをのばして振り込んでいます。中央へのキックはあまり強くありません。中央での右脚のひざの角度は大きく、ここで腰は高めのまま推移しています。だから、最後のジャンプで、円盤の鉛直方向での移動を確保しなければならなかったということになります。
 このフォームでの圧巻は、次の図11です。回転軸が 左足→左腰→左肩 にあって、やや右に傾いていて、(17)では写っていないが、円盤までの回転半径を可能な限り大きくしようとしています。図5のフォームより、ずうっと素晴らしい。
 しっかりとイメージしてほしいものです。

図11 若いころのシルベスター(17-18)

 まとめ

 (1) 後ろ向きでの回転で脚のひざをのばして振り込み、大きな角運動量をつける。
 (2) 後方から中央(やや前方)へ1歩だけのダッシュを力強く行う。
 (3) 中央軸で、支持脚の膝の力はやや抜き、足首では力を入れ続けておき、脚全体の力は抜かない。
 (4) 振り切りでの前へ突進しつつ、肩を引き上げるとき、回転軸を左へ移動させ、回転半径を大きくすることで、より大きな角運動量を生みだす可能性を広げ、ここで力を集中させたあと、この瞬間に体が生み出した角運動量を、最後の腕の振り切りによって、できるだけ円盤へ移しきる。

 (※) 上のポイントの(1)と(2)については、両方行ってもかまいませんが、時間がない場合は、(2)だけに集中するだけでも大きな効果が得られます。
 (3) はかなりむつかしい技術です。
 (4) で、シルベスターのようにジャンプするのは、体が小さい選手は、ぜひ試みる技術ですが、軸の移動と回転半径の増加、肩や手の引きあげは必修です。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, June 4, 2019)

 

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