ej07 日本選手権100m決勝
川上哲也とサニブラウン・ハキームの違い

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito) 本名 田中 毅(TANAKA Takeshi)

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 はじめに

 2019年日本選手権100m決勝では、サニブラウン・ハキーム(フロリダ大)が10秒02で優勝しました。こんな深夜でなく、気温も高い日中の午後だと、9秒台も出たことでしょう。テレビ放映の関係かもしれませんが、まったく馬鹿げたスケジュールです。
 これまでにも、サニブラウンのランニングフォームが、典型的な高速ランニングフォームであることは、画像なども示して説明してきました。
 今回のレースでも、その見事なランニングフォームは示されています。
 ところで、今回のテーマは、日本選手権の100m決勝レースに出場し、サニブラウン選手の隣で走った、川上哲也(大阪ガス)のランニングフォームです。
 予選のときも、サニブラウンと一緒で、彼に「日本の選手はスタートが速くて驚いた」と印象付けました。
 今回の100m決勝ではどうだったのか。
 全員がうまくスタートして加速したので、川上哲也の走りは目立ちませんでした。
 そして、サニブラウンがどんどん抜け出してゆくのと反対に、川上哲也や坂井隆一郎(関西大)は、後半、スピードがあがらず、じわりじわりと、相対的におくれてゆきます。
 いったい何が違うのか。
 ランニングフォームを見れば明らかです。

 日本選手権100m決勝レース

 日本選手権100m決勝レースの画像を次のYouTubeから採取しました。

 決勝 男子100m 日本選手権陸上2019
 風:-0.3 1) サニブラウン 10.02 NGR 2) 桐生祥秀 10.16 3) 小池祐貴 10.19 4) 飯塚翔太 10.24 5) 多田修平 10.29 6) 坂井隆一郎 10.31 7) 川上拓也 10.31 8) ケンブリッジ飛鳥 10.33

 図1から図6は、このビデオの速度を0.25にして、再生→停止 を繰り返し、重要な特徴が記録されているシーンを取り出したものです。
 コードとして数字が添えてありますが、4250と4251は、いずれも4.25/7.11と表示されていることを示します。ただし、末尾の数字の0と1は前後の違いを区別するためのもので、時間についての情報ではありません。
 このレースの画像では4.19/7.11のあたりでスタートが切られています。今回の100mの勝者サニブラウンの記録は10秒02です。そのゴールの瞬間は4.29あたりでした。4.19とはビデオの4分19秒のことですから、これらの値からおおよその距離が推定できます。

図1 コード4240(スタートから50m)

 図1で確認してほしいのは、サニブラウンの左脚が一本の棒のように、しっかりとのばされているところです。


図2 コード4250(スタートから60m)

 図2では、桐生祥秀の右脚の膝の伸び方。少し曲がっていて、中途半端です。
 サニブラウンの接地フォームは高速ランニングフォームの理想像です。この瞬間に地面に対して大きな力が加えられ、大きな加速度を生み出しています。

図3 コード4251(スタートから60mと数メートル)

 図3の見どころも、サニブラウンのよく伸びた左脚です。サニブラウンは脚を長い棒のようにして振り回し、地面を強く打とうとしているのです。

図4 コード4270(スタートから70m)

 図4では、サニブラウン、桐生祥秀、小池祐貴の、ランニングフォームの局面がほぼ同じです。このあとキック足が地面をとらえようとします。3人のキック足の使い方が微妙に違っていることが分かります。

図5 コード4271(スタートから70m台の終わりごろ)

 この図5と次の図6は、川上拓也のキック足が前方にどこまで伸びて振り下ろそうとされているかをとらえたものです。
 ビデオを何回も調べましたが、これ以上右脚の膝が伸ばされている局面はなく、この状態から地面に振り下ろされています。
 ビデオを0.25のスピードでスロー再生すれば分かりますが、後半の走りで、すべてこのようになっており、高速ランニングフォームとは言えないフォームです。
 これでは、接地ポイントが身体重心直下より後方に移ってしまい、大きなスピードが生み出せません。そして、膝を曲げた状態でキック脚を振り回しているので、野球のバットで例えれば、グリップいっぱいではなく、少し短めに握って、単打をねらっているようなものです。サニブラウンはホームランを狙う大振りをしているというのに…
 桐生祥秀と小池祐貴は、かろうじて高速ランニングフォームです。しかし、多田修平、坂井隆一郎、川上拓也など、後半のスピードが遅れがちになってしまう選手は、このような、共通の欠点を持っています。速いランニングスピードを生み出せないフォームで走ってしまっているのです。
 こんな簡単な技術的欠陥を直そうとしないで、見当はずれのトレーニングばかりやっていては、自分を罠におとしいれているようなものです。

図6 コード4280(スタートから80m台のあたり)

 最後にもう一つ加えておきます。
 サニブラウンがするすると飛び出してゆくのは、ランニングフォームの形だけがすぐれているからではありません。
 ひとつひとつの大きな動きを生みだしつつ、自然と大きなパワーをこめてキックできるようになっているからです。
 意図的に指導するときに空手パワーキックという言葉で表現していますが、桐生祥秀も、あの、リレーでバトンをお手玉したあとの走りで、これが何歩かできていました。しかし、今回の決勝レースでは、形だけの高速ランニングフォームです。
 中盤から後半にかけて爆発的な加速をする と言っていましたが、どのようにして行うか分からないで、ただ単に言っているだけです。それができるかどうか、予選でテストすればよいのに、中盤も普通の動きで走り、小池祐貴に先行され、まさにテストすべき後半で、力を抜いて流しているではありませんか。
 これでは、もっと緊張する決勝レースで、自分の体をコントロールして、思う通りの走りができるはずはありません。
 小池祐貴は、このような空手パワーキックが少しできるようになり、200mの前半や、100mで力強く走れるようになってきました。しかし、ラストの局面で、さらにスピードを高めるための技術をマスターしていません。
 サニブラウンが一歩跳び出しているのは、このような技術のことをよく知っている、アメリカのコーチに指導されているからでしょう。
 ほんとうに、見事なまでのコーチングです。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, June 29, 2019)

 

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