高速ランニングフォームについてのエピソード
(12) GO前傾角の統計調査
ランナーの身体重心直下でキックすることの効果を検証する

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito @ 9621 ANALYSIS)

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 ランナーの身体重心直下でキックするとなぜ速く走れるのか

 ランナーの身体重心直下でキックすることが、速く走るための重要なコツであることは広く知られるようになりました。ところが、このことがなぜ重要であり、実際に速く走れるランナーを生み出すのかということは、謎であったように思われます。
 1991年に東京で行われた陸上競技の世界選手権のとき、日本の体育関係の専門家たちによって、「世界一流スプリンターの疾走フォーム」が調べられ、その報告書が1994年ごろに記されました。このときに注目されたのは、「世界の一流スプリンターはキック脚の膝を曲げたままでキックを終了している」という現象でした。ここから、このようなフォームが「膝をロックしたキック」と名づけられ、それの優位性が説明されました。その説明とは、「膝を曲げたままのフォームのほうが、膝をのばしぎみにしたときより、足が大きく(速く)後方へと動く」というものでした。しかし、この説明は、現象の原因について述べたものではなく、現象の結果について述べているだけです。このようなとき、なぜ足が大きく(速く)動くようになるのかということに関して、何も説明していません。

 ランナーの身体重心直下でキックすることが効果的な理由

 私の研究には試行錯誤がともない、同じように、正しくない説明を思いついたこともありましたが、このページのシリーズにおける「エピソード(9) クランクキックの効率 / クランクキックの全重心前傾角の違いによる水平速度への変換効率」において、ようやく、この問題に対する答えを見出すことができました。次の図1を使って説明します。


図1 GO前傾角とキックの水平変位変換効率

 全身における重心を全重心(G)とします。キック足の地面における支点(O)と全重心(G)のつくる線分をGO軸とします。図1においてLは、Oの真上にあって、Gと同じ高さにあります。この三角形GOLの角GOLをGO前傾角と呼びます。
 図1の左は、GO前傾角が20度のフォームで、右は30度のものです。
 図1の中央に、これらのフォームにおけるGO軸の関係についての模式図があります。図の中に記してあるような、長さについての関係が成立しています。つまり、身体重心Gの直下にキック足の支点Cがあったときの長さGCに対して、GO前傾角20度のGBとなったときには、DEの長さだけ伸びたということになります。これに対して、右のフォームでは、GO前傾角20度から30度へと変わるときに、GBの長さがGAとなって、このときに、DBと同じ長さのDEがのびたとします。これらは、GO前傾角のどのあたりで、キック足の長さを伸ばして加速しようとしているかということです。
 キック脚がのびる長さを同じにして考えています。これは、キック脚の出力を同じとして考えたモデルです。ですから、このようにキック脚が同じ長さだけのびる時間は同じだとしています。このとき、CBとBAの長さは、明らかにCBのほうが大きくなっています。すると、同じ時間における距離が大きいほうが、より大きな速度となります。
 このとき、キック脚の膝の角度はおもてに出てきません。直接的に関係しているのは、GO軸の前傾角です。もし、キック脚の膝の角度がもっと大きなものだとしても、GO前傾角が小さなものであれば、CBの距離をかせぐことができます。
 ランナーの身体重心直下でキックすることが効果的な理由は、「ランナーの身体重心直下でキックすること」の意味を「GO前傾角が0度に近いところでキックすること」と読み替えて説明することができます。それは、「GO前傾角が0度に近いところでキックするほうが、GO軸を伸ばす動きを、水平な動きへと変換する効率が高い」からです。

 GO前傾角の統計調査

 それでは、「GO前傾角が0度に近いところでキックするほうが、GO軸を伸ばす動きを、水平な動きへと変換する効率が高い」ということが、ほんとうにそのようになっているのかということを、実際のランナーのフォームを調べて検証します。
 このページのシリーズにおける「エピソード(10) 重心軸GOの変化 / サバンナキックはキック脚の伸張反射抗力を利用している」において、「GO前傾角」と「GK比」を比べたグラフを提示しました。
 しかし、このあと、「GO前傾角が0度に近いところでキックするほうが、GO軸を伸ばす動きを、水平な動きへと変換する効率が高い」ということを調べるためには、「GK比」より「BK比」のほうがよいのではないかということに気がつきました。
 「GK比」というのは、「キック脚重心(K)水平速度(dK)に対して、全重心(G)水平速度(dG)が何倍かという比(dG/dK)」です。しかし、全重心の水平速度には、スウィング脚の効果も影響しています。そこで、この影響を取り除くとしたら、「BK比」を考えたほうがよいということになります。「BK比」というのは、「キック脚重心(K)水平速度(dK)に対して、キック棒重心(B)水平速度(dB)が何倍かという比(dB/dK)」です。キック棒というのは、キック脚と上半身を組み合わせたものです。
 図2として、ALL(全員の)フォームについてのGO前傾角に対するGK比とBK比の相関を調べたグラフを並べました。ALLというのは、男女ともあわせた解析したランナーのフォームの全てということです。横軸はともに「GO前傾角」ですが、縦軸は(a)が「GK比」で(b)が「BK比」です。これらの相関係数(r)を調べると、(a)「GK比」は-0.44で(b)「BK比」は-0.53です。(b)「BK比」のほうが、相関係数の絶対値が大きくなっていますので、より関係が強いということになります。


図2 ALL(全員の)フォームについてのGO前傾角に対するGK比やBK比

 このあとは「BK比 / GO前傾角」についてのグラフだけを示します。


図3 MenとWomenについてのBK比 / GO前傾角

 GO前傾角とBK比の関係において、相関係数の絶対値が大きく、回帰直線が右下がりになっていると、「GO前傾角が小さいほどキック軸の水平変位変換効率が高い」ということになります。
 図3でMenとWomenを比較しましたが、「GO前傾角とキックの水平変位変換効率」の関係は、Womenのほうに強く作用していることが分かります。
 このあと、Gatなどとした個人ごとのフォームについて調べたグラフを示します。この、個人ごとのフォームについて調べたものでは、相関係数の大きなものが多く見られます。これは、「GO前傾角とキック軸の水平変位変換効率」の関係が、ランナーごとに強く関与していることを表わしています。


図4 GatとGayについてのGK比 / GO前傾角


図5 ErgとFKについてのGK比 / GO前傾角


図6 FJとDoiについてのGK比 / GO前傾角


図7 NobとDauについてのGK比 / GO前傾角

 (Written by KULOTSUKI Kinohito, Dec 9, 2012)

 

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