高速ランニングフォームについてのエピソード
(14) 速く走れているフォーム
SO前傾角やSO-GO角で見る、速く走れているフォーム

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito @ 9621 ANALYSIS)

「スポーツ解析」ブランチページへもどる

 SO前傾角とSO-GO角

 スウィング脚の膝の角度は、ランニングスピードを高めるための要素とはなっていないようです。スウィング脚を膝でしっかり折りたたもうと、適度に広げておこうと、ランニングスピードを高めるためには、ほとんど違いがないということです。
 スウィング脚を膝で折りたたむかどうかということは、スウィング脚の回転軸方向の要素です。このようにとらえたとき、スウィング脚の回転に沿った方向の動きが、まだ残っています。このとき、回転の速度である角速度が大きいほうが良いということは無条件で成立します。もうひとつ、この回転方向での要素としてタイミングの問題があります。ここでは、スウィング脚重心(S)とキック足支点(O)がつくるSO軸の前傾角(SO前傾角)を規定し、さらに、これまでに求めてあるGO前傾角との差、SO-GO角を考えることにします。そして、全重心(G)の水平速度がキック中に最大値をとるフォームとしての、キックポイントフォームにおける、これらの指標、SO前傾角とSO-GO角が、いろいろな選手のフォームにおいて、どのようになっているかを調べます。


図1 SO前傾角とSO-GO角

 速く走れているときのSO前傾角

 多くのランナーのキックポイントフォームにおける、全重心(G)の水平速度(dG)とSO前傾角の関係を調べました。このあと、Menとしてあるのは、Gay(ゲイ), Erg(江里口匡史), SU(蘇炳添/ス・ビンティアン/中国), Lmt(ルメートレ/フランス), Nas(梨本真輝), Kuk(九鬼 巧)の6選手についてのデータです。Womenとしてあるのは、FK(福島千里), FJ(藤巻理奈), Doi(土井杏南), Nob(野林祐実)の4選手です。ALLとしてあるのは、MenとWomenをまとめたものです。
 図2は、Menについての「dGとSO前傾角の関係」をプロットしたグラフに、それらのプロットの上限と下限を示す線を入れたものです。まるで「天の川」のように、これらの上下間に、プロットの「星」が含まれています。


図2 dGとSO前傾角の関係(Men)と上限と下限の線

 図2の関係で相関係数を求めると、r = -0.02となっており、相関はほとんどないということになります。しかし、このような「帯」を想定してみると、これが曲がっていて、上限のラインが、SO前傾角の16度でピークをもっていることが分かります。
 図3は横軸を「SO-GO角」として同様の操作をしたものです。ここでのピークはSO角とGO角の差が5度のところにあります。


図3 dGとSO-GO角の関係(Men)と上限と下限の線

 これらのグラフで同じ色は、同じ選手を示しています。プロットの丸い図形のパターンはクランクキックやピストンキックの違いを示しています。全て塗りつぶされているのがガンマクランクキックで、中空はデルタクランクキックです。右端にある、太い線で小さな中空のものがピストンキックです。左にある、中に点があるものがベータクランクキックです。あまりないのですが、アルファクランクキックは、ピストンキックと同じパターンで、色を濃くしてあります。ピストンキックは右のほうだけですし、アルファクランクキックは左のほうだけです。
 A〜CはErg(江里口匡史)選手のフォームです。このあと、これらのフォームについて何が違うのかということを詳しく調べます。

 Erg(江里口匡史)選手のA〜Cのフォーム

 Erg(江里口匡史)選手のA〜Cのフォームについての解析結果を示し、それらについて説明します。


図4  Erg(江里口匡史)選手のAのフォーム

 図4はAのフォームについての解析結果です。
 左に有効キック区間の主要なフォームを描いています。その左側の2つのフォームは、有効キック区間の開始フォーム(右)と終了フォーム(左)です。それらの右にある1つのフォームは、キックポイントのフォームです。キックポイントは、全重心(G)の水平速度(dG)が最大値をとる瞬間を示しています。
 図4の右側には「総合水平速度グラフ」を描いてあります。ここには6種類の速度情報と、1つの比をプロットしました。
 6種類の速度情報は、有効キック区間では塗りつぶされた丸で表わされています。上から、
  @「スウィング脚重心(S)水平速度(dS)」(ここでは濃赤色)
  A「全重心(G)水平速度(dG)」(黒色)
  B「キック棒重心(B)水平速度(dB)」(ここでは水色)
  C「キック脚重心(K)水平速度(dK)」(ここでは紺色)
  D「dSとdBの差(dS-dB, S-Bと略す)」(ピンク色)
  E「GO軸の変化(dGO)」(負値で濃い黄色、正値で黄緑がかった水色)
の順です。
 比は中心に点のある丸で描写してあります。ここでのBK比の色は濃い緑色です。
 Erg(江里口匡史)選手のAのフォームは、ひとつの問題点をのぞいて、大きなスピードを生み出すことのできる、すぐれたものです。その問題点というのは、D「dSとdBの差(dS-dB, S-Bと略す)」(ピンク色)のピークが、赤い縦線のところにきていないということです。これは、キック棒に対するスウィング脚の動きが、うまく合っていないということを示しています。しかし、@「スウィング脚重心(S)水平速度(dS)」(濃赤色)のピークは、ほぼ赤い縦線のところにありますから、シンクロキックとなっています。
 このAフォームにおいては、E「GO軸の変化(dGO)」(負値で濃い黄色、正値で黄緑がかった水色)のパターンが、かなり良いものとなっています。この速度値だけ、左の速度目盛の0値の位置が異なります。負の値でのふるまいも知っておくべきだからです。このときのパターンでは、負の値から正の値に変わってから、詳細フォーム単位(1/300秒)で6つくらいのところでキックポイントを迎えています。このことは、キック脚の筋肉や腱の「伸張反射」が利用されていることを暗示しています。このときの、時間的な経過や、Eのプロットの立ちあがりぐあいにより、このことを判断することになります。
 キックポイントにおけるBK比は1.43となっています。これは、キック脚重心水平速度(dK)に対して、キック棒重心水平速度(dB)が何倍になっているかというものを意味します。この比は小さめなのですが、これは、このときのキック脚重心水平速度(dK)が7.6 [m/s] という、なかり大きな値となっているためだと考えられます。


図5  Erg(江里口匡史)選手のBのフォーム

 Erg(江里口匡史)選手のBのフォームにおけるD「dSとdBの差(dS-dB, S-Bと略す)」(ピンク色)も、Aのフォームと同じように、キックポイントの赤い縦線のところにピークが合っていません。このBのフォームにおいては、@「スウィング脚重心(S)水平速度(dS)」(紺色)のピークも合っていません。
 E「GO軸の変化(dGO)」(負値で濃い黄色、正値で黄緑がかった水色)のピークが赤い縦線のところにあっていますが、これは悪い兆候です。負の値から正の値へと変わってから、詳細フォームで6つくらいまでの時間で伸張反射が起こるものです。このBのフォームでは、有効キック区間のはじめのあたりに相当します。キック脚の伸張反射が起こっていたとしても、全重心の水平速度に対してうまく作用していないと考えられます。


図6  Erg(江里口匡史)選手のCのフォーム

 このCフォームでは、E「GO軸の変化(dGO)」(負値で濃い黄色、正値で黄緑がかった水色)のピークを終えたあとで、キックポイントを迎えています。キック脚の伸張反射はうまく利用されていないものと考えられます。
 C「キック脚重心(K)水平速度(dK)」(紺色)の値が低く、BK比も比較的小さいため、キック棒の速度も高まっていません。さらに、これに加えるスウィング脚の効果も、うまく利用されていません。このことは、D「dSとdBの差(dS-dB, S-Bと略す)」(ピンク色)のパターンによって分かります。

 まとめ

 スウィング脚重心の水平方向の指標として、SO前傾角やSO-GO角を使って、Wenのフォーム群から、Erg(江里口匡史)選手のフォームを3つ選んで詳しく比較したところ、速く走れているフォームと、そうではないフォームについての違いが幾つか認められました。それらのもっとも重要なものは、キック脚における伸張反射をうまく利用するということでしょう。さらに、スウィング脚の動きをうまく合わせるということも効果をもつようです。
 Womenについての解析は、あらためて行うことにします。
 (Written by KULOTSUKI Kinohito, Dec 12, 2012)

 

「スポーツ解析」ブランチページへもどる