高速ランニングフォームについてのエピソード
(15) フォームの比較
SO-GO角で選んだ、速く走れているフォームの要素

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito @ 9621 ANALYSIS)

「スポーツ解析」ブランチページへもどる

 SO前傾角とSO-GO角

 スウィング脚重心(S)とキック足支点(O)がつくるSO軸の前傾角(SO前傾角)を規定し、さらに、これまでに求めてあるGO前傾角との差、SO-GO角を考えることにします。そして、全重心(G)の水平速度がキック中に最大値をとるフォームとしての、キックポイントフォームにおけるSO-GO角が、いろいろな選手のフォームにおいて、どのようになっているかを調べます。


図1  SO前傾角とSO-GO角(∠SOG)

 速く走れているときのSO-GO角

 多くのランナーのキックポイントフォームにおける、全重心(G)の水平速度(dG)とSO-GO角の関係を調べました。このあと、Womenとしてあるのは、FK(福島千里), FJ(藤巻理奈), Doi(土井杏南), Nob(野林祐実)の4選手です。ALLとしてあるのは、MenとWomenをまとめたものです。  図2は、Womenについての「dGとSO前傾角の関係」をプロットしたグラフに、それらのプロットの上限と下限を示す線を入れたものです。  このグラフのプロットの中から、A〜Dの4つのフォームについて、このあと詳しく調べます。これらはいずれもFK(福島千里)選手のフォームです。


図2 dGとSO-GO角の関係(Women)と上限の線

 FK(福島千里)選手のA〜Dのフォーム

 図3はAのフォームについての解析結果です。
 左に有効キック区間の主要なフォームを描いています。その左側の2つのフォームは、有効キック区間の開始フォーム(右)と終了フォーム(左)です。それらの右にある1つのフォームは、キックポイントのフォームです。キックポイントは、全重心(G)の水平速度(dG)が最大値をとる瞬間を示しています。
 図3の右側には「総合水平速度グラフ」を描いてあります。ここには6種類の速度情報と、1つの比をプロットしました。
 6種類の速度情報は、有効キック区間では塗りつぶされた丸で表わされています。上から、
  @「スウィング脚重心(S)水平速度(dS)」(ここでは紺色)
  A「全重心(G)水平速度(dG)」(黒色)
  B「キック棒重心(B)水平速度(dB)」(ここではオレンジ色)
  C「キック脚重心(K)水平速度(dK)」(ここでは濃い赤色)
  D「dSとdBの差(dS-dB, S-Bと略す)」(ピンク色)
  E「GO軸の変化(dGO)」(負値で濃い黄色、正値で黄緑がかった水色)
の順です。
 比は中心に点のある丸で描写してあります。ここでのBK比の色は濃い緑色です。


図3 FK(福島千里)選手のAのフォーム

 Aのフォームはベータクランクキックです。図3(右)の総合水平速度グラフを見ると、@スウィング脚、A全身、Bキック棒、Cキック脚の、4つの基本的な速度パターンにおいて、ピークの位置がそろっています。また、DdS-dBのピンク色のプロットパターンのピーク位置も、赤い点線(キックポイント)に近く、山なりになっていて、スウィング脚の動きが、うまくキック脚の動きとシンクロしていることが分かります。
 BK比も赤い点線(キックポイント)に向かって大きくなっており、1.79という値を生み出しています。これはキックの効率がとてもよいことを示しています。
 Eのパターンも、負値から正値へと変わってから、詳細フォームの4つめでキックポイントを迎えていて、この立ちあがりぐあいも良好で、キック脚の筋肉などにおける伸張反射をうまく利用できているものと考えられます。
 ひとつ問題があるとすれば、このように優れたベータランクキックのフォームを、ランナーが自ら意図して生み出していないかもしれないということです。他にもベータクランクキックは認められますが、これほど優れた効率を生み出すものではありません。そして、全体としてのフォームの出現率が、SO-GO角の、5度から10度あたりのところで高くなっています。このAのフォームは「まぐれ」だったのかもしません。


図4 FK(福島千里)選手のBのフォーム

 このBのフォームでは何が良くなかったのかというと、C「キック脚重心(K)水平速度(dK)」(ここでは紺色)のパターンが、他の速度パターンに比べて異質な形状をしているということでしょう。かんたんに言えば、キック脚のタイミングが合っていないのです。
 E「GO軸の変化(dGO)」(負値で濃い黄色、正値で黄緑がかった水色)のパターンも、赤い点線の時間的な位置はよいのですが、このプロットパターンの立ちあがりのようすが弱いものとなっています。おそらく、キック脚の足首あたりに力がこめられていなかったのだと考えられます。BK比が低下していることからも、このことが推測できます。


図5 FK(福島千里)選手のCのフォーム

 おそらくFK(福島千里)選手が理想として目指しているフォームは、このCのフォームではないでしょうか。このCフォームに近いものが数多く認められますし、大きな速度も、これらによって生み出されています。
 しかし、総合水平速度グラフを見ると、幾つもの問題点があることが分かります。キックポイント位置の赤い点線に向かってBK比が減少しています。これでは、せっかくキック脚で生み出した動きを、キック棒の速度として利用する効率が悪くなります。このようなBK比の減少傾向は、GO前傾角の増加によって生み出されます。このときのGO前傾角は16度となっています。AのフォームのGO前傾角は4度でした。この4度は「まぐれ」のようですが、これらのことが分かっていれば、10度前後のフォームを体得することは可能です。
 スウィング脚の動きを示すD「dSとdBの差(dS-dB, S-Bと略す)」(ピンク色)のパターンも良くありません。これは、スウィング脚のことが忘れ去られているというときのパターンです。
 E「GO軸の変化(dGO)」(負値で濃い黄色、正値で黄緑がかった水色)のパターンも良くありません。GO軸の変化速度がピークになっているときでは、キック脚の筋肉などの伸張反射のタイミングを逃しています。伸張反射は起こっているかもしれませんが、うまく利用できていないと考えられます。


図6 FK(福島千里)選手のDのフォーム

 このDのフォームでは、上記のCのフォームで見た、悪いところが全て現れています。BK比の減少傾向、dS-dBの平坦なパターン、dGOの立ちあがりを逃している、などです。このように、ピストンキックには、ほとんど良いところがないのにもかかわらず、このフォームが目指されがちであるという現実が、現在でも、たくさん見られます。
 ただし、スタートダッシュにおいては、このピストンキックが役に立ちます。このフォームについての能力を高めた選手は、スタートダッシュで優位に立つかもしれません。
 (Written by KULOTSUKI Kinohito, Dec 12, 2012)

 

「スポーツ解析」ブランチページへもどる