高速ランニングフォームについてのエピソード(27) キャップパターン
水色実線キャップパターンはキック脚の伸張反射のレベルを示す

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito @ 9621 ANALYSIS)

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 ガンマクランクキックのスティックピクチャー

 高速ランニングフォーム(サバンナキック)において、主要な加速フォームとして生み出されることの多いガンマクランクキックのサンプルを、KRY選手[1]、TS選手、KL1選手(黒月樹人)のランニングフォームの中から1つずつ選びました。KRY(2)などの (2) は、解析上の2歩目ということを意味しています。今回の原画像では、すべて左に向かって走っていますので、スティックピクチャーの「赤色」は「右」を、「青色」は「左」を表わしています。KRY(2)とKL1(6)は右脚キックで、TS(6)は左脚キックです。




図1 画像コマのスティックピクチャー

 KRY(2)は11m/s、TS(6)は9m/s、KL1(6)は8m/sほどのスピードです。競技レベルはまったく違うわけですが、そのような違いが、いったい何によるのかということを知りたいので、このような比較研究を試みているわけです。
 図1でとくに注目すべきところは、キック脚の足首あたりの動きです。KRY(2)のBとCの、踵がぴょんと浮いています。A→B→Cのフォームで、地面に接地し、GO軸が短くなったあと、キック脚の伸張反射によって、長くなろうとしています。
 このようなキック脚の伸張反射に対応するところをTS(6)で見ると、[2]→[3]→[4]→[5]となります。
 KL1(6)では、3)→4)→5)です。2)は足首あたりだけを見ると地面についているように思えるかもしれませんが、キック脚の膝の角度から見ると、まだ空中にあると分かります。KL1(6)は私のフォームなので、よく分かっているのですが、1)から2)のところでは、青いスウィング脚を早く引きつけないように休ませているのです。3)から4のところで素早く動かしています。
 キック脚の足首のかかとの「浮き」の動作について見ているのでした。観察したことをまとめると、KRY選手に比べ、TS選手では、比較的ゆっくり動いています。しかし、KL1選手はKRY選手の動きに近いものとなっています。
 次にスウィング脚を見ましょう。3選手とも、3から4のところの変化が有効キック区間となり、それらの間にキックポイントのフォームがあります。このようなとき、スウィング脚の重心が、キック脚の横を、素早く横切って、全重心の動きをリードする必要があります。さらには、このときダウンスウィングぎみにして、全重心の鉛直速度成分を0へと導くべきなのです。
 KRY(2)のスウィング脚の動きがもっともよいようです。
 TS(6)では [3] で、すでに、スウィング脚重心はキック脚の太ももを追い越しています。このような位置関係でも全重心をリードすることはできますが、素早く動かしづらいと考えられます。
 KL1(6)も3)で少し前に出てしまっていますが、スウィング脚重心はかろうじてキック脚の太ももを追い越さない位置にあります。KL1(6)では腰の前進力が弱いと感じられます。これはおそらく他の2選手に比べ、腰の上に乗っている上半身が重すぎるからだと考えられます。

 有効キック区間の詳細フォームとキックポイントのフォーム

 図2は有効キック区間の詳細フォーム(左)とキックポイントのフォーム(右)をまとめたものです。それぞれの右側にあるキックポイントのフォームのデータはガンマクランクキックを選んだので、とてもよく似ています。




図2 有効キック区間の詳細フォーム(左)とキックポイントのフォーム(右)

 左側にある有効キック区間の詳細フォームと、それらの重心のパターンは微妙に異なっています。いずれも、上から、キック棒(キック脚と上半身)重心、全重心、スウィング脚重心です。KRY(2)では円弧を描いているように見えますが、このときの左半分は空中に浮き始めているものだからです。他の2つのフォームでも同じことですが、見やすさのため、キックポイントの前後で、詳細フォームが10 [d] となるように選んであります。
 KRY(2)のスウィング脚重心は、やはり、長い範囲で動いています。時間はいずれも詳細フォームで10 [d]なので、1/30秒で、同じです。だから、動く範囲の長さが速度と比例します。
 これらの重心の動く向きも重要な情報となります。KL1(6)のキック棒重心が上向いているのに対して、スウィング脚重心が水平気味なので、全重心が上向きになっています。TS(6)ではほぼ水平です。KRY(2)では、やや上向きになっています。これらのことは、キック脚のバネがうまく水平速度へと変換されるかどうかということに強くかかわってきます。そのことは、次の解析によって、より明らかになります。

 総合詳細重心解析

 図3は総合詳細重心解析です。@ フォーム分類グラフ、A キックポイントのフォーム、有効キック区間において B 終了フォーム、C キックポイントのフォーム、D 開始フォーム、E TGB鉛直速度グラフ、F SK鉛直速度グラフ、G 総合水平速度グラフ。
 これらの解析グラフでは、全重心と、スウィング脚重心と、GO軸(全重心Gとキック足の地面での支点O)の変化についてだけを表示しています。図中の記号の意味は次のとおり。fe(G) 全重心の鉛直加速力、Ve(G) 全重心の鉛直速度、fe(S) スウィング脚重心の鉛直加速力、Ve(S) スウィング脚重心の鉛直速度、Vs(S) スウィング脚重心の水平速度、Vs(G) 全重心の水平速度、dGO GO軸の長さにおける速度、f(dGO) GO軸の変化のための加速力。
 次の画像をクリックすると、拡大画像のページへ進みます。




図3 総合詳細重心解析

 ここで着目してほしいのは、GのdGOのプロットパターンです。GO軸(全重心Gとキック足の地面での支点O)の長さが短くなるときは「濃い黄色」で、長くなるときは「緑がかった水色」で表わしています。
 このdGOの変化を求めてf(dGO)という、「緑がかった水色」の実線が描いてあります。これが「キャップパターン」です。これの高さは、体重の何倍の力に相当するかということを示しています。KRY(2)では8.7倍、TS(6)では5.8倍、KL1(6)では8.1倍となっています。このときのTS(6)での5.8倍や、KL1(6)の8.1倍という値は、これまでになくよいものでした。とくに私は、これまでにも何回かテスト走行し、画像を記録してもらって解析してきましたが、このように高いキャップパターンは初めてです。TS選手も、今回のフォームは特別に良いもので、いつもは、このようにうまく現れることはなく、dGOのプロットパターンも、平らに見えるときがあるくらいでした。
 KRY選手は11m/sものスピードを生み出していることからも分かりますが、日本のトップランナーです。他にも何人か、日本や世界のトップランナーのフォームを調べてきましたが、図3のKRY(2)のf(dGO)のような、とびぬけて高いキャップパターンが現れていたのです。
 私は、いろいろと調べてゆくうちに、キャップパターンを生み出すことのできるランニングフォームというものが分かるようになってきて、さらに、効率の良い加速フォームを生み出す可能性をもつガンマクランクキックも、ほぼ安定して生み出すことができるようになってきました。
 TS選手は高速ランニングフォームを生み出して走ることができるのですが、そのフォームは安定しておらず、ガンマクランクキックのフォームも、他のフォームに混じって現れるだけです。
 キャップパターンのことに戻ります。日本のトップランナーであるKRY選手が8.7倍というキャップパターンを生み出しています。100mで11秒台の記録をもつTS選手が5.8倍のキャップパターンを生み出したということは、なるほどなあと納得できます。ところが、これらの若者とは違って、おそらく100mは13秒台(後半)の私が、かろうじて8m/sの速度となったものの、8.1倍ものキャップパターンを生み出したというのは、不自然でもあり、不思議なことです。
 しかし、私は、意図して、このような現象を生み出そうとして走ったのでした。
 つまり、このような力を生み出すということは、私のような、中古のランナーでも可能だということなのです。
 ただし、上に解析した3人のフォームの中では、TS(2)が最も優れています。Eの全重心鉛直速度が水平になっており、キャップパターンに関連するGO軸のバネがうまく水平速度へと変換出来ているのです。ところが、KRY(2)のEでは、fe(G)が黒いキャップパターンとなっています。全重心の速度として鉛直成分が現れてしまい、せっかくのf(dGO)の大きな値が、水平速度へと変換出来ていないのです。KL1(6)のEでは、fe(G)による黒いキャップパターンがグラフの上へと飛びだすほどになっています。これは、テスト的にやったことなので、このようになってしまいましたが、これらの問題点をクリアーする方法は分かっています。スウィング脚をもっとダウンスウィングで強く使えるようにすればよいのです。すぐに出来るというものではありませんが、トレーニングの方向は見えているわけです。
 このような試みと解析によって、もっと速く走るためにはどのようにすればよいのかということが分かってきました。
 (Written by KULOTSUKI Kinohito, Jan 29, 2013)

 参照資料

[1] 月刊陸上競技2012年11月号「桐生祥英」選手の連続写真より解析

 

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