高速ランニングフォームについてのエピソード(33)
短距離ランナーがさらに目指すべきスピード能力向上のポイント

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito @ 9621 ANALYSIS)

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 はじめに

 ランニングフォームの特徴を調べるため、ランナーの身体各部の重心がどのような速度を生み出しているのかということを調べました。それらの身体各部の速度が、ランナーの全重心の速度と、どのような関係をもっているのかということを考えてゆき、スピード能力3要素と呼ぶ3つの部分的な速度だけで、ランナーの速度が構成されていることをつきとめました。
 そして、このようなスピード能力3要素が、それぞれのランナーの個々のキックフォームにおいて、どのように生み出されているのかということを調べるための、特殊なグラフを考えました。図1に示したスピード能力3要素寄与式の三角表示というものです。これについての詳しい説明は、準備としての知識を説明したあとで行います。


図1 スピード能力3要素寄与式の三角表示

 スピード能力3要素


図2 身体各部の重心水平速度とスピード能力3要素

 身体各部(上半身T, キック棒B, キック脚K, スウィング脚S)の重心水平速度(dT, dB, dK, dS)は、運動量保存則によって置き換えられ、最後に全重心(G)の水平速度(dG)となります。
 スピード能力3要素は、ヒップドライブ速度dT-dK, 相対スウィング速度dS-dB, キック脚重心水平速度dKです。
   スピード能力3要素(dT-dK, dS-dB, dK)と全重心(G)の水平速度(dG)には、次のスピード能力3要素寄与式が成立します。
  dG = p(dT-dK) + dK + q(dS-dB), P=2/3, q=1/4

 スピード能力3要素寄与式の三角表示

 図1に示したスピード能力3要素寄与式の三角表示の中から、Kryu(2)というキックフォームについての三角表示を取り出し、説明のための記号(A B C D @ A B)を入れたものを図3とします。Bの位置を示す黒点は、説明のために加えたものです。@とAは横線の領域を示しています。Bは縦軸での値が0である横軸の基準線を示しています。


図3  Kryu(2)説明記号付きのスピード能力3要素寄与式の三角表示

 このグラフは、基準線Bの上側のグラフと、基準線Bの下側のグラフを貼り付けたものをベースとしています。
 基準線Bの上側のグラフとは、横軸がdKで、上向きの縦軸がp(dT-dK)であるものです。ABの長さがp(dT-dK)の値となっています。
 基準線Bの下側のグラフとは、横軸がdKで、下向きの縦軸がq(dS-dB)であるものです。BCの長さがq(dS-dB)の値となっています。
 このグラフの横軸は、キック脚重心水平速度dKと、全重心水平速度dGの値を兼ねて表わすことにしてあります。キック脚重心水平速度dKの値は、ABCの位置に反映されています。全重心水平速度dGの座標をDとしたのは、スピード能力3要素寄与式の関係に基づいています。
 dG = p(dT-dK) + dK + q(dS-dB)
 dKはBの基準線でBの座標として表わされています。p(dT-dK)はABで、q(dS-dB)がBCですから、p(dT-dK)+q(dS-dB)はACの長さとなります。そこで、BD=ACとなるようにDを決めました。
 @とAは、p(dT-dK)やq(dS-dB)の値として、まだ観測されていない領域を示しています。p(dT-dK)=3.56やq(dS-dB)=1.40は、これまでに分かっている最大値です。いずれもGay選手のものです。他のランナーのデータにより、これらの値は変更される可能性があります。

 Gay選手のスタートダッシュ後半のランニングフォーム三角表示


図4  Gay選手のスタートダッシュ後半のスピード能力3要素寄与式の三角表示


図5  Gay選手のスタートダッシュ後半1歩目の
スピード能力3要素寄与式の三角表示(上)とフォーム(下)


図6  Gay選手のスタートダッシュ後半7歩目の
スピード能力3要素寄与式の三角表示(上)とフォーム(下)

 日本のスプリンターのランニングフォーム三角表示


図7  Kryu選手中間疾走2歩目の
スピード能力3要素寄与式の三角表示(上)とフォーム(下)


図8  2012年Ost選手中間疾走2歩目の
スピード能力3要素寄与式の三角表示(上)とフォーム(下)


図9  Ymgt選手中間疾走3歩目の
スピード能力3要素寄与式の三角表示(上)とフォーム(下)

 図6のGay選手7歩目の三角表示にいちばん近いパターンとなっているのは、図8のOst選手 [1] のものです。
 図7のKryu選手 [2] のケースも、dKの値が近いものですが、p(dT-dK)やq(dS-dB)の値が、あと少し、Gay選手の観測最大値に至っていません。
 図9のYmgt選手 [3] の三角表示のパターンは、形として、Kryu選手のパターンとよく似ています。しかし、dKの位置が違っています。Kryu選手ではdK=5.90ですが、Ymgt選手ではdK=7.10となっています。これらのdKの値の違いは、その時点でのランナーのスピードdGの違いによるものと考えられます。
 このような三角表示でのパターンの違いを比較すると、ランニングフォームにおける、スピード能力3要素の使われ方の違いがよく分かります。
 (Written by KULOTSUKI Kinohito, March 25, 2013)

 参照資料

[1] 大瀬戸一馬選手 /月刊陸上競技2010年12月号と月刊陸上競技2013年3月号に掲載された連続写真より解析
[2] 桐生祥英選手 / 月刊陸上競技2012年11月号に掲載された連続写真より解析
[3] 山縣亮太選手 / 月刊陸上競技2013年1月号に掲載された連続写真より解析

 

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