高速ランニングフォームについてのエピソード(46)
大江良一選手のランニングフォーム解析データで見る
キックベース速度向上のテニック

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito @ 9621 ANALYSIS)

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 はじめに

 「短距離ランニングフォーム解析 (37) ランニングフォーム概観 / 2013年全日本マスターズ陸上M55クラス100m大江良一(59歳, 滋賀)12秒36」に追加した「(追記)「Cスピード能力3要素の寄与式の三角表示」による検索」の「図2 スピード能力3要素の寄与式の三角表示一覧」を眺め、OE(20)とOE(32)が、いずれも大きな面積の三角形になっていることに気づきました。しかし、これらの、横軸における位置は大きく異なります。OE(20)は左に偏っていて、OE(32)は、大きな三角形のなかでも、かなり右のほうに位置しています(下記図1)。このような、三角形の横軸における位置は、キック脚重心水平速度(キックベース速度)dKの大きさによって決められています。右にゆくほどdKが大きいのです。一方、三角形の面積は、縦軸上側の値となるヒップドライブ速度(ペンジュラム速度)と、縦軸下側の値となる相対スウィング速度に影響されます。このことから、OE(20)とOE(32)では、キック脚重心水平速度(キックベース速度)dKの違いが、どこかに現れているはずだと推測できます。そこで、これらの2つのランニングフォームだけを詳しく比較することにしました。



図1 スピード能力3要素の全速度に対する寄与式の三角表示 (上)OE(20), (下)OE(32)

 この図1は、前提条件の確認のためのものです。p(dT-dK)とq(dS-dB)の値はほとんど変わらないものの、dKの値が大きく異なることにより、結果的に全速度dGの値が変わっています。

 総合解析



図2 総合解析(上)OE(20), (下)OE(32)

 フォーム分類グラフによれば、OE(20)では中腰ガンマクランキックで、OE(32)は腰高ガンマクランクキックです。ガトリン選手や山縣亮太選手のケースでは、腰高ガンマクランクキックより、中腰ガンマクランキックのほうが、全速度dGが大きくなって、より良いフォームとなることが多かったと思います。
 キック軸加速度比aGO/gのMax値を見ると、OE(20)では6.8で、OE(32)では6.5です。これらは、ほぼ同じと見なせます。確かに、ヒップドライブ速度(ペンジュラム速度)dT-dKや、相対スウィング速度dS-dBの、キックポイント(赤い縦点線位置)での値は同じくらいですが、キック脚重心水平速度(キックベース速度, ここではいずれもRLの値)が、OE(20)では3.8で、OE(32)では5.6と、大きく異なっています。

 キック区間の詳細データ



図3 キック区間の詳細データ(上)OE(20), (下)OE(32)

 いろいろなデータが記してあって、すこし分かりづらくなっています。左下のグラフを見ると、トルソ振動の様子を表わしている赤い丸のプロットが違うということが分かります。OE(20)では水平(変化なし)ですが、OE(32)では右下がり(変化あり)となっています。これも関係しているかもしませんが、問題は、キックベース速度dKの違いです。キック脚の、いったい何が違うのか、ということです。

 ランニングフォーム


図4 ランニングフォーム(上)OE(20), (下)OE(32)

 本来ならいちばん最初に表示するランニングフォームを最後にもってきたのは、これを見ることによって違いが分かるということを示したかったからです。
 OE(20)とOE(32)の、いずれも、右から3つのフォームを見てください。OE(20)ではキック脚のすねが、すでに前方へ傾いているのに対して、OE(32)では、もっと垂直に近い状態となっています。そして、その状態から、前方へと膝が動いてゆきます。このような動作ができることによって、キック脚重心水平速度が、より大きな値をもつことができると考えられます。地面に対するキックの力は(aGO/gのこと)同じでした。それでも、このような、姿勢と動きの違いによって、キックベース速度dKが変わるということのようです。
 OE(20)とOE(32)とでは、キック脚の膝下の、前方への「伸びかた」が違うのです。これは、マック式短距離トレーニングでの、スキップBがうまく利利用されているかどうかということに結びつくことです。スキップAの動きをなぞってキックするとOE(20)のようになります。スキップBの動きを意識するとOE(32)のようになるのです。

 まとめ

 これらのことから、マック式ドリルにおいて、スキップBを行う必要があるということが明らかになりました。なぜスキップBを行う必要があるかというと、同じキック軸加速度比のものでも、よりキックベース速度を大きくすることができ、全速度を高めることができるからです。
 A.GEMILI選手のランニングフォームを見て、キック脚の膝から下が前方へとよく伸びているなあと思ったことがあります。今回、大江良一選手のフォームを調べて、このような動作の意味がよく分かりました。
 スキップAで重心直下をキックすることをマスターするだけではなく、スキップBでキックベース速度を大きくすることができる動きを生み出しておく必要があるということなのです。
 (Written by KULOTSUKi Kinohito, Sep 16, 2013)

 

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