高速ランニングフォームについてのエピソード(47)
スピード能力3要素寄与率マップの
ガンマクランクキック重心位置で見るランナーのフォームタイプ分類

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito @ 9621 ANALYSIS)

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 はじめに

 ランナーの色々な身体重心の水平速度を調べ、運動量保存の法則を考慮して、全速度dGが、次の3つの速度で構成されることを明らかにしました。

   dG = p(dT-dK) + dK + q(dS-dB),  p=2/3, q=1/4

 ここで、dTは(頭部と両腕と胴体で構成される)上半身重心の水平速度、dKはキック脚の重心水平速度、dSはスウィング脚の重心水平速度、dBは(上半身とキック脚で構成される)キック棒の重心水平速度で、pとqは身体各部の質量比率から導かれた係数です。
 これまでp(dT-dK) もしくはdT-dKをヒップドライブ速度と名づけてきましたが、最近の研究により、上半身の(腰を中心とした)振動(トルソ振動)や(背中からヒップを回ってキック脚の膝へと測る)ヒップ角の変化とは、ほぼ無関係だということが分かり、この名称のままでは誤解が生じるので、そのメカニズムを知って、新たにペンジュラム速度(→ 相対トルソ速度)と名づけることにしました。ペンジュラムとは振り子のことです。上半身は、腰を中心としてではなく、キック脚の膝もしくは足首(これに近い支点の拇指球あたりと考えることもあります)を中心として、振り子のように前方へと振られるのです。このような違いは、ランナーのフォームによって生じます。また、このときの振り子は、完全な剛体として動くのではなく、少し「ゆるい」ものとなっているようです。
 dKの正式名称はキック脚重心水平速度ですが、これについての愛称のようなものとしてキックベース速度という呼び方を用いることがあります。
 q(dS-dB) もしくはdS-dBの呼名は相対スウィング速度です。キック棒重心水平速度dBを基準とした、スウィング脚重心水平速度dSです。
 上記の式の両辺をdGで割って100を掛けると、右辺の3項は、スピード能力3要素の全速度dGに対する寄与率となります。

   100 = 100×p(dT-dK)/dG + 100×dK/dG + 100×q(dS-dB)/dG, p=2/3, q=1/4

 合計すると必ず100となりますので、ここでの独立変数は2つと見なせます。
 そこで、

   X = 100×dK/dG      (ペンジュラム速度(相対トルソ速度)寄与率)
   Y = 100×p(dT-dK)/dG  (キックベース速度寄与率)

 これらの(X, Y)空間に、ランナーの各キックフォームにおける値をプロットすると、ランナーごとに、それぞれの分布状態が違うということが分かってきました。
 今回の解析では、このような知識を利用して、ランナーのキックフォームには、いろいろなタイプがあるということを示します。

 スピード能力3要素寄与率マップのガンマクランクキック重心位置

 各ランナーのキックフォームについて、ペンジュラム速度(相対トルソ速度)寄与率(X)とキックベース速度寄与率(Y)をプロットすると、あるていどのまとまりをもって分布します。このままで眺めると、具体的な違いを指摘しづらいので、これらのプロット値の重心を求めることにしました。
 次の図1において、重心位置に大きな十字を描き、その座標を、右上に、[+] = (X, Y) として表示しました。ランナー記号の▽は男子を、△は女子を、□は混合を意味します。ランナー記号の意味は次のとおりです。
 YMGT(山縣亮太), OE(大江良一), FK(福島千里), IZK(飯塚翔太), KI16run(16歳の某中長距離高校生の中間疾走), US(32歳のスプリンター), GML(A.GEMILI), SO(マスターズ陸上M60クラスの短距離ランナー), Y57(同M55クラスの中距離ランナー), KLO(*)(黒月樹人, *はKLO, KLO2, KLO3を合わせたことを意味するもの)






図1 スピード能力3要素寄与率マップのガンマクランクキック重心位置

 ランナーのフォームタイプ分類

 上記図1のデータから重心位置を取り出して、次の図2としてプロットしました。


図2 各ランナーのガンマクランクキック重心

 図2における、各ランナーのガンマクランクキック重心は、おおまかに眺めるとしたら、左上から右下へと分布していると判断することができます。(図1の薄い背景としてある)全体のプロットが、このような「軸」に沿って分布しているので、このことは、ごく自然なことです。
 細かく眺めて、これらを、おおまかにまとめるとすると、おおよそ3つのタイプに分けることができます。
 1つめのタイプはFK選手で代表される、左上のグループです。ここには、FK, OE, SO, KI16, Y57の5選手が含まれます。これをFKタイプとします。
 2つめのタイプは、GMLとIZKの、中央の2つによるものです(KLOはさらなるフォームを調べて加え、SASAは新たに解析して、この2つの傍に位置することとなりました)。これをGMLタイプとします。
 3つめのタイプが、YMGT選手で代表されるもので、他にUSが含まれます。これをYMGTタイプとします。
 YMGTタイプはキックベース速度dKが優勢となっています。しかし、これは、YMGT選手について表現できることで、US選手ではペンジュラム速度(相対トルソ速度)dT-dKが乏しいという欠陥が目立つことになります。
 これとは逆に、FKタイプでは、ペンジュラム速度(相対トルソ速度)dT-dKが優勢だと見なせますが、裏を返せば、キックベース速度dKがじゅうぶんに生み出せていないということになります。
 GMLタイプは、これらの欠陥を意識させない、バランスのとれた状態となっています。GML選手とIZK選手の強さの秘密は、ここにあるのかもしません。
 (Written by KULOTSUKi Kinohito, Sep 24, 2013)

 

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