高速ランニングフォームについてのエピソード(50)
ヒールドライブのためのかかとの浮きは目立たないくらいがちょうどよい

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito @ 9621 ANALYSIS)

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 はじめに

 今回のタイトルは、なんとなく、標語のようになってしまいました。
 あいかわらず、データ解析グラフをいっぱい盛り込んで、長いページとなりそうです。ランナーのキック棒に含まれる、ちょうつがいと見なされる関節部分の、動きとしての硬さを調べています。腰の「ゆるさ」について分かるのはTOL/WOLという角速度の比でした。キック脚のクランク構造がうまく固められて利用されているかどうかはKOL/WOLという比を使い、1.0のところで左右を折り返すグラフをつくって調べました。今回は、もう少し下にある、キック脚の足首の硬さです。しかし、ここのところは、単に硬いだけで、なにもかもうまくいくというものではないようです。
 とにもかくにも、かかとの角度∠HOL(HOの姿勢角)と膝の角度∠KOL(KOの姿勢角)との、それぞれの角速度の比であるHOL/KOLを調べてみないと、何も分かりません。
 HOL/KOLの正式名は「キック脚足首硬化比」となりますが、キック脚を記号Kと略して「K足首硬化比」あるいは「Kアンクル硬化比」と呼ぶことがあります。また、これの動きがもたらす効果にむすびつけて「ヒールドライブ比」と呼ぶかもしれません。こうすると、タイトルの別の候補として、「ヒールドライブ比はひかえめに」と、もう少しコンパクトなものとなります。韻も踏んでいますし。


図1 かかとの角度∠HOL(HOの姿勢角)と膝の角度∠KOL(KOの姿勢角)

 角速度HOLとKOLの比HOL/KOLとdG, dK, dT-dK, dS-dB

 次の図2は、全てのランナー(ALL)のキックフォームについて、角速度HOLとKOLの比HOL/KOLを横軸にとり、縦軸を図2(a)では全速度dGとし、図2(b)〜2(d)では、スピード能力3要素の、キックベース速度dK, 相対トルソ速度dT-dK, 相対スウィング速度dS-dBを、それぞれとったものです。


図2(a) ALL(HK dG)all


図2(b) ALL(HK dK)all


図2(c) ALL(HK dT-dK)all


図2(d) ALL(HK dS-dB)all

 縦軸がdGとdKとdT-dKのグラフでは、相関係数ρが-0.33から-0.30の範囲にあって、弱い負の相関があることが分かります。しかし、相対スウィング速度dS-dBのグラフでは、ほとんど相関はありません。今調べているのは、図1に示したように、キック脚の膝下部分における、足首の動的な硬さを示す、HOL/KOLという比です。これは、dGとdKとdT-dKに関係しているということが分かりました。
 このような値のもっとも「根元」にあるのは、キックベース速度dKです。そこで、dKに限定して、次は、フォーム分類のもとで、どのようになるのかを調べます。

 比HOL/KOLとdKでのフォーム分類

 次の図3は、全てのランナーのフォーム(□ALL)から、(a)アルファクランクキック(α)、(b)ベータクランクキック(β)、(c)ガンマクランクキック(γ)、(d)ガンマデルタクランクキック(gd)、(e)デルタクランクキック(δ)、(f)ピストンキック(P)を、それぞれ抜き出して、(x,y)=(HOL/KOL, dK)のグラフを描いて解析したものです。
 x軸でのHOL/KOL値の広がりぐあいが違うということと、上限付近の「屋根」がつくるラインのピーク位置が、それぞれ違うということが分かります。また、プロット重心の位置も異なります。


図3(a) ALL(HK dK)alpha


図3(b) ALL(HK dK)beta


図3(c) ALL(HK dK)gamma


図3(d) ALL(HK dK)gamma-delta


図3(e) ALL(HK dK)delta


図3(f) ALL(HK dK)Piston

 比HOL/KOLとdKでのγクランクキックのランナーごとのプロット重心

 さらに細かく分類して、上記フォーム分類のガンマクランクキックに限定して、全てのランナー(□ ALL)を、ランナーごとに展開して調べました。
 次の図4(a)はYMGT選手(山縣亮太選手)に限定して解析したものです。ここから、代表値として、プロット重心 [+](x,y) = ( 1.52, 6.95 ) などを使います。


図4(a) YMGT(HK dK)gamma

 次の図4(b)は、それぞれのランナーのプロット重心値を使ってグラフを構成したものです。PCはプロットセンター(Plot Center)の意味です。「ランナー個人のプロット重心」を象徴しています。負の相関があって、重心(HOL/KOL)の値が、1から4の範囲にあり、その上限ラインのピークが、YTrunの(1.1, 7.2)にあります。この後のグラフでYTとしているのは、YMGTの簡略記号です。dashはスタートダッシュ(YMGT選手の場合は、その後半)、KI16rとMRTrのrは、YTrunのrunと同じく、中間疾走を意味します。YTlastのlastはラストスパート区間の意味です。ほぼ100mレースのラスト10歩ほどです。そう言えば、FK選手とIZK選手とGML選手のデータは、いずれも、200mのラスト10〜20歩あたりのものでした。他の選手のもので何も記していないものは中間疾走のフォームです。


図4(b) PC(HK dK)gamma

 図4(b) PC(HK dK)gammaの赤い点線で描いた回帰直線の上部と下部とで評価が異なることになります。上部のランナーは、HOL/KOL値で示しているヒールドライブによってキックベース速度を効率よく生み出しています。共通てんとしては、100mのベストタイムが11秒前半以内だということです。それに対して、下部のランナーは効果的にヒ―ルドライブが実行できていません。タイムも、ほぼ12秒以下です。私(KLO)が、ちょうど、それらの中間に位置しています(100mのタイムは最低かもしれませんが)。少し微妙な状態です。下部で、もっとも回帰直線から離れているKI16選手は、(身体の使い方として)足首のキックにはまったく無関心で、もっぱら、ハムストリングスをつかって、キック脚の太ももの姿勢角を変化させてスピードを出すタイプです。あまり速いスピードを使わない中長距離ランナーとしては、このように、太ももの筋肉群にたよって走るほうが、経済的なのかもしれません。

 比HOL/KOLとdKでのδクランクキックのランナーごとのプロット重心

 ガンマクランクキックと対比して、多く使われているデルタクランクキックの状況を調べました


図5 PC(HK dK)delta

 このプロットグラフで、おやっ、と思うものは、YTdash (0.9, 4.6) というものです。山縣亮太選手のスタートダッシュ後半で使われているデルタクランクキックでは、HOL/KOL値がきょくたんに小さいのですが、これは、キック脚の足のかかとをほとんど浮かせていないということです。しかし、山縣選手のdK値としては小さなものです。なるほど、山縣選手は、スタートダッシュ後半あたりでは、キックベース速度にではなく、相対トルソ速度のほうにスピードアップの効果を求めているのです。
 ガンマクランクキックでは上限ラインの最大値は、HOL/KOLが1のあたりにありましたが、デルタクランクキックでは2のあたりにあります。HOL/KOL=1というのは、キック脚の足首あたりの形をまったく変えていないということです。2なら、少しかかとの動きが大きくなって、足首も少し柔らかくなり、このあたりの弾力を生かしてスナップを効かそうとしているということになります。しかし、HOL/KOL値がもっと大きくなってしまうとdK値が小さくなることから、足首まわりに弾力が感じられず、単にかかとが大きく浮いていても、スピードにはつながらないということになります。

 比HOL/KOLとdKでのβクランクキックのランナーごとのプロット重心

 ガンマクランクキックと並んで高速ランニングフォームの「武器」である、ベータクランクキックについても調べることにしました。


図6(a) PC(HK dK)beta

 わずかに負の相関が認められますが、HOL/KOL=1のプラスマイナス1の範囲にプロットがそろっていて、横軸の広がりはほとんどなく、縦に長くのびて分布しています。これでは、ヒールドライブの動きは無いも同然です。
 HOL/KOL=1のプラスマイナス1の範囲にプロットがそろっていることから、キック脚の足首はあまり動かないようにと固定されていることになります。それでは、いったい、どのようなメカニズムで加速されているのでしょうか。
 ベータクランクキックでは、ガンマクランクキックに負けないレベルでの加速が行われていることがあります。それは「上手」なほうのベータクランクキックで、何が違うのか、まだよく分かっていませんが、「下手」なベータクランクキックというものもあって、スピードレベルも低くなっています。
 このような疑問に対して調べるために、この解析プロセスの項目を一つ変えることにより、PC(HK, dS-dK)betaのためのデータを採集しました。このグラフは描きませんが、このときの、PC(HK, dS-dK)betaにおけるdS-dK値をxとし、上記PC(HK, dK)betaのdK値をyとして、次のグラフを構成しました。これをPC HK(dS-dB dK)betaと表わすことにします。


図6(b) PC HK(dS-dB dK)beta

 このようにして構成したPC HK(dS-dB dK)betaでは、相関係数ρ=+0.68と、強い正の相関のもとに、相対スウィング速度dS-dBと、キックベース速度dKとが結びついているということが示されています。
 このグラフを見て私は、そうだったのか、と心でつぶやき、しばらく時の経つのを忘れてしまいました。ベータクランクキックの加速メカニズムが明らかになり、かつ、それが「証明」された(あるいは、証拠づけられた)瞬間だったからです。
 ベータクランクキックでは、キック脚はもっぱら地面を真下に踏みつけるだけです。それなのに、水平方向での加速現象が起こったり、起こらなかったりしていたのですが、その原因は、ベータクランクキックのキックポイントの瞬間前後における、相対スウィング速度の効果にあったということなのです。
 このことから、ベータクランクキックで効果的に走ろうとするランナーは、全速度への寄与率が係数q=1/4によって減らされてしまう(寄与率10パーセント前後の)相対スウィング速度を、少し速くしても、たいして変わらないと考えてしまわずに、全体速度dGへの寄与率が60パーセント前後もある、キックベース速度dKの値を大きくすることに影響するという効果を意識して、ベータクランクキックのキックポイントの瞬間にシンクロさせて、より大きな相対スウィング速度を生み出すべきなのです。
 このような観点から、FK選手、IZK選手、US選手に特徴的な、キック後のスウィング脚を後方で巻きあげ、ヒップの後ろに折りたたんでしまうという、スウィング脚の後方巻き上げタイプでは、効果的なベータクランクキックを生み出すことができないということになります。  YMGT選手も後方巻きあげタイプなのですが、YMGT選手は意図的にスウィング脚の動きを速め、前方へと膝をやや高めに引き出そうとして、このことが、スウィング脚重心軌跡を地面と平行にし、キックポイントでのスウィング脚の速度を高めることとなっています。
 前方で膝を意図的に上げないタイプで、上手なスウィング脚の運びをしているのがGML選手です。

 比HOL/KOLとdKでのαクランクキックのランナーごとのプロット重心

 ベータクランクキックにおけるメカニズムが分かったところで、これよりさらに重心直下でキックポイントを迎えているアルファクランクキックでは、どのようになっているのかを調べることにしました。下記グラフの構成法は、上記グラフにおいてのbetaをalphaに変えることで行えますので、具体的な説明は省略します。


図7(a) PC(HK dK)alpha


図7(b) PC HK(dS-dB dK)alpha

 図7(a)では、HOL/KOLの変化が、ほとんどみんな同じで、ほとんどかかとは浮いていないということになります。アルファクランクキックでは、キック軸加速度比aGO/gの値がマイナスの極値をもっているときにキックポイントを迎えるのです。プラスの極値の少しあとにキックポイントを迎えるガンマクランクキックとは、明らかにメカニズムが異なります。ガンマクランクキックのとき、キック脚の筋肉群は収縮しようしています。しかし、アルファクランクキックのとき、キック脚の筋肉群は伸張しようとしているのです。伸張反射の前段階なのですが、やはり、大きな力が生み出されます。
 このようなアルファクランクキックの状態で、図7(b)に示されているように、相対スウィング速度が大きなものであれば、これを使って水平方向に加速することができるのです。寄与率の影響効果については、上記ベータランクキックと同様です。相対スウィング速度となるスウィング脚の動きは、そのものの寄与率分の値だけではなく、キックベース速度へも影響をもたらすのですから、けっしておろそかにはできません。
 スウィング脚の運び方は、一度軽く見たことがありましたが、このページにおける解析によって、これもまた、無視できない、重要な技術であるということが明らかになりました。

 dS-dBとdKでのγクランクキックのランナーごとのプロット重心

 比HOL/KOLを手かがりとして、ベータクランクキックとアルファクランクキックについての、dS-dBとdKでのプロット重心(PC)を調べることにより、ベータクランクキックとアルファクランクキックでは、相対スウィング速度dS-dBとキックベース速度dKとが、思っていた以上に強く結びついていることが分かりました。
 ここまで調べたら、他のフォームについても調べないわけにはいきません。次に示すのはγクランクキックについての解析結果のPC HK(dS-dB dK)gammaです。


図8 PC HK(dS-dB dK)gamma

 ガンマクランクキックにおいては相関係数ρ=+0.80という高い値が求まりました。アルファクランクキックよりも、ベータクランクキックよりも、ガンマクランクキックのほうが、より強く、相対スウィング速度dS-dBとキックベース速度dKとが結びついていたのです。
 相対スウィング速度というものは、全速度dGに対する(直接的な)寄与率が10パーセントしかないと言って軽んじてしまうのは間違っていたということです。
 ランニングフォームというものを、幾つかの要素に分解して考えることができるようになったのは良いことかもしれませんが、だからといって、それらの要素が完全に独立しているとは言い切れないのです。間接的に、このような強い結びつきを潜めているのですから、ランニングフォームというものを「一つの総合的な動き」としてとらえるべきなのでした。さまざまな動きを同調させ(シンクロナイズ)、統合的に動きの「切れ」を高めてゆくことが、スピード向上につながるということです。そのような統合性がもっとも高いフォームが(下記デルタクランクキックの解析がまだなので)ガンマランクキックだということになりそうです。

 dS-dBとdKでのδクランクキックのランナーごとのプロット重心

 デルタクランクキックについても同様の解析を行いました。


図9 PC HK(dS-dB dK)delta

 デルタクランクキックのこの解析における相関係数ρ=+0.54は、通常の評価をするとしたら、「やや強い正の相関があります」となるかもしれません。相関係数の値だけをとらえれば、アルファクランクキックでのρ=+0.43より大きな値です。
 しかし、「従来型のキックフォーム」と、やや抽象的に表現することもある、このデルタクランクキックは、かつては、日本のトップランナーに常用のものであり、現在においても、グラウンドでランナーのフォームを観察すると、ほとんどの中高校生たちや、大学生や社会人たちも、キックポイントが重心直下から幾分後方へとずれている、このデルタクランクキックで、スパイクのピンをオールウェザー走路にひっかけ、キック脚で後方へと力を加えなれば進まないという、確固とした信念のもとで走っています。
 そして、このデルタクランクキックにおいては、キック脚の膝をやや伸展することにより、キック脚での力のベクトルを後ろの下方へと向けることと対応して、スウィング脚での力のベクトルを前の(かつては)上方へと向けるものだという考えがあって、もちろん、この対応はスタートダッシュのフォームにおいては見事に成立するのですが、ほとんどのデルタクランクキックのランナーは、スウィング脚を意図的に強く前方へと振り出そうとしているのです。
 それがうまくいって、デルタクランクキックにおるシンクロキックが生まれているのは稀なことで、たいていのケースでは、キック脚が(キック脚の太ももとすねの姿勢角で決まるものなので)ガンマデルタクランクキックやガンマクランクキックとなっているにもかかわらず、まるでデルタクランクキックかピストンキックかであるかのように、スウィング動作の勢いを、キックポイントが過ぎても緩めることなく、まったく見当はずれの位置でピークを迎えているというフォームなのです。
 このように、ことデルタクランクキックにおいては、ランナーの意識としては、上記の相関係数ρの値は、ガンマクランクキックでの+0.80を、さらに大きく上回ってもしかるべきものだという思い込みがあるはずなのに、はるかに小さく、関係性が薄れているというわけです。
 つまり、多くのランナーは、デルタクランクキックのフォームで走るとき、キック脚による主推進力と、スウィング脚による補助推進力とを、ちぐはぐな状態で組み合わせているのです。
 デルタクランクキックの力学的な効率がガンマクランクキックなどに比べ悪いということは、キック軸GOの姿勢角が大きいこととによって生じているのですが、上記の「ちぐはぐさ」も、この状況をさらに悪化させているわけです。
 図9におけるランナーのプロット位置と回帰直線との関係を見ると、200mのラスト付近のランニングを解析している、FK選手(福島千里選手)とIZK選手(飯塚翔太選手)とGML選手(A.GEMILI選手)の3つでは、回帰直線の上側に離れて位置しているGML選手に比べ、回帰直線付近のFK選手や、回帰直線の下側にあるIZK選手は、ともに、キックベース速度をじゅうぶん高めたフォームとしてデルタクランクキックを利用できていないということになります。
 回帰直線の上側の領域に位置取りしているフォームの多くはYMGT選手(山縣亮太選手)のものであり、これに続いて、GML選手、OE選手、US選手、そして、もっとも遅いけれども、私(KLO)があります。キックベース速度を大きくする技術に優れているもの、あるいは、優れようと努力しているもの(KLO)などが、ここにあるということになります。

 まとめ

 キック脚の足首まわりの動的な硬さが、実際のランニングにおいて、どのようになっているかを、キック脚の膝(K)、足のかかと(H)、足底の支点(O)、この支点の水平後方の任意の点(L)で構成される、∠KOLと∠HOLの角速度、KOLとHOLから、HOL/KOLという比を求めて、全てのランナーのキックフォームにおけるデータから出発して解析しました。
 詳細な解析結果は繰り返しませんが、スプリントランニングパフォーマンスを向上させるために重要と考えられることをまとめると、HOL/KOL比の値に対応する、キック脚の足のかかとが浮くことにより、キック脚の膝を前方へと送りだす、ヒールドライブ効果は、足首をしっかりと固め、HOL/KOL=1として行うことが効果的だということです。
 このようなHOL/KOL=1のときに上限ラインのピーク値が生み出されていたのは、ガンマクランクキックとベータクランクキックで、デルタクランクキックではHOL/KOL=2あたりが上限ラインのピーク値でした。しかし、デルタクランクキックは、ガンマクランクキックやベータクランクキックに比べ、大きなスピードを生み出す効率が劣ります。スプリントランニングにおいて大きなスピードを生み出す「武器」となるフォームはガンマクランクキックやベータクランクキックです。
 これらと同等の効果をもちながら、まだ、あまり積極的に生み出されていないものとしてアルファクランクキックがあります。アルファクランクキックとガンマクランキック以降のフォームとでは、キック脚の筋肉群の力の生み出し方が異なります。それらの中間状態がベータクランクキックです。
 アルファクランクキックとベータクランクキックとでは、どのように加速現象が生じているのか、これまではっきりとはしませんでしたが、今回の解析により、スウィング脚の動きが重要なファクターとなっていることが明らかとなりました。
 これまで、キック棒重心速度(dB)を基準として、全速度に加味される、相対スウィング速度q(dS-dB)は、解析プロセスの過程で導入される係数q=1/4のため、全速度dGに対する寄与率が10パーセントほどしかなく、あまり重要なものではないと見なしていました。
 ところが、今回の解析により、アルファクランクキックとベータクランクキックでの(寄与率が60パーセント前後の)キックベース速度dkに、この、相対スウィング速度は、大きな影響を与えていたのです。
 このようなことから、とくにアルファクランクキックとベータクランクキックにおいては、スウィング脚重心水平速度dSのピークが、全重心水平速度dGのピーク(キックポイント)と一致する(シンクロする)、シンクロキックのフォームが重要なものとなります。
 また、スウィング脚の動きのパターンということだけではなく、その重心の速さ、つまり、スウィング脚重心水平速度dSの大きさの重要度も高まることになります。そのため、スウィング脚の運び方も、これまで以上に注意深くコントロールしてゆくべきだということになります。

 感想

 ついに、ここまで分かるようになったということに、正直言って感動しています。10年前に試みた、最初の「気づき」は、スプリントランニングフォームは、幾つかにフォーム分類することができるということでした。そして、ここ1年間での、重要な「気づき」の一つは、身体各部の角速度の比を調べることによって、それらの間にあるジョイント部分の、動的な硬さを調べることができるということを見出したことです。それまでの「静的な解析」と対比して、「動的解析」と名づけたものを発展させていったことが、このような、ランニングフォームにおけるメカニズムを詳しく説明できるようになった原因です。それらの間にあった「気づき」として、全重心速度dGを、3つの独立したスピード能力3要素で構成できるというところへと導けたことも、この研究の重要な転換点でした。
 スプリントランニングフォームは「研究」の段階から、(これまでも、やみくもにトレーニングして、もちろん実用的に用いられてきたのですが)「実用」の段階へと突入したと感じています。ランナーのランニングスピードに関する利点や欠点を定量的に評価できるようになったのですから、これからは、「理学」ではなく「工学」へと研究の軸を変化させてゆくことになりそうです。
 (Written by KULOTSUKI Kinohito, Oct 24, 2013)

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