高速ランニングフォームのエピソード(57)
ランニングスピード生成の拡張メカニズムの応用(3)
重心が浮かないキックフォームのお手本(桐生祥英選手)

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito @ 9621 ANALYSIS)

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 はじめに

 「エピソード(55)…… もっと速く走るためには重心の浮かないキックフォームを目指す」において、「重心の浮かないキックフォーム」のサンプルとして、カール・ルイス選手の走幅跳助走のフォームをとりあげました。
 また、「エピソード(56)……重心が浮かないキックフォームへの改良」では、私自身のランニングフォームで、重心が浮いてしまっているもの(KT)と、重心が浮かないようにと心がけたもの(KLO15)を調べました。
 これらのキックフォームを解析するため、私が独自に開発しているランニングフォーム解析プログラム(runa.exe)に、新しい機能を加え、ランニングフォームを撮影したビデオ画像から構成したステックピクチャーによるフォームで、地面を想定して、これらのフォームのキック足の接地部分の表示位置を微調整することができるようにしました。さらに、ランナーの身体重心を求め、これの鉛直方向の変化を調べられるようにしました。
 このような技法を使って、重心が浮いてしまって速く走れていないフォームや、重心が浮かずに速く走れているフォームの違いを、さらに詳しく調べようと思います。
 このような目的に沿ったランニングフォームの、重心が浮かないキックフォームのお手本として、桐生祥英選手の2歩を調べます。これらは「短距離ランニングフォーム解析 (28) 桐生選手 桐生祥英選手のスプリント中間疾走の詳細重心解析」においてとりあげたもので、Kry1LとKry2Rと名づけてあります。その解析に用いた画像は、月刊陸上競技2012年11月号に掲載されていた、洛南高校の桐生祥英選手の連続写真です。これらは(画素数の拡大にともない、最近とくに画像の質が悪くなった)ビデオ画像ではなく、カメラによる連写によるもので、速く動いている末端部分までとらえられているものです。

 ステックピクチャーの重心高解析

 図1は「桐生祥英選手のステックピクチャーの重心高解析」です。接地時におけるキック足と地面の関係を微調整したあと、空中での重心高を、離陸時の鉛直速度と、作用する重力を考慮して微調整したものです。横座標におけるフォームの間隔も、実際のスピードにおおよそ対応したものとなっています。
 画像をクリックすると拡大画像ページへと進みます。


図1 桐生祥英選手のステックピクチャーの重心高解析
(画像をクリック → 拡大画像ページ)

 地面を示す点線の下にあるh(G) [m] は重心高で、dy [m/s] は鉛直速度です。
 2つのキックフォームの中間にある空中部分での重心高の最大値はフォーム7などの0.98 [m] で、接地時での重心高の最小値は、フォーム15での0.95 [m] となっています。わずか 3cm の違いしかありません。
 鉛直速度dy の変化を見ると、フォーム9からフォーム10の重心高の変化を時間(△t=1/30 [秒])で割って、-0.58 [m/s] となっています。このあと、フォーム11へと変化するところで、+0.46 [m/s] となっています。0.46 - ( - 0.58 ) = 1.04 [m/s] の増加分です。
 重力は常に作用しています。しかし、地面に足がついているときは、これを打ち消すための抗力を生み出していますから、鉛直速度成分として加えられてゆくのは、身体重心が純粋に空中にあるときだけと考えられます。このときの2歩間の時間は、1秒間に30コマ撮影するビデオによるステックピクチャーフォームとして7つに相当しています。1歩が7コマだとも考えられます。仮に、7コマにわたって重力が加わって鉛直速度として積み重ねられるとしたら、2.29 [m/s] となるはずですが、このような値とはなっていません。およそ1 [m/s] ほどです。この問題は、「身体重心が純粋に空中にあるとき」のコマ数が3〜4であると仮定すれば解決します。このとき積算される鉛直速度は0.98〜1.31 [m/s] となります。上記の観測値をうまく含んでいます。フォーム5あたりからフォーム8あたりまでのところに、「身体重心が純粋に空中にあるとき」が含まれていそうです。
 なるほど、ランニングフォームの1歩がビデオで7コマ分のとき、およそ4コマ分が空中にあって、およそ3コマ分が接地状態だというのは、妥当な見積もりでしょう。このとき、鉛直速度の変化分は、0.98〜1.31 [m/s] なのですから、離陸時に半分をプラス値として生み出し、接地時に半分をマイナス値として受け止めればよいわけです。すると、離陸時に、およそ+0.5 [m/s] ほどの鉛直速度を生み出しておけば、図1のような、重心高が3cmくらいしか変化しないランニングフォームとなるわけです。
 計算してみると、4コマ分が空中フォームだというときの重心高変化はおよそ9cmですが、3コマ分が空中フォームというときはおよそ5cmです。上記の3cmというのは、低く見積もりすぎたかもしれません。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, Feb 28, 2014)

 

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