高速ランニングフォームのエピソード(63)
トップスピードのランニングフォームとして注意してゆくこと

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito @ 9621 ANALYSIS)

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 はじめに

 「エピソード(62) トップスピードのランニングでさらにスピードを増加させるには?」の「まとめ」において、「ランニングフォームの調整として注意してゆくこと 」と「ドリルによる動きの強化を目指すもの」についてのメモを記しましたが、これについての詳しい説明をのべることはしませんでした。
 このページにおいては、これらのメモについての説明を補足しようと思います。

 ランニングフォームの調整として注意してゆくこと


 (A) 跳ね上げダウンスウィングによる重心の浮かないキックフォーム
 (B) 真正クランクキックとなるキック脚のツール化(ブリキでできたかのような、一体化したキック脚の使い方)
 (C) ワイドシザースフォームでキック脚とスウィング脚を効果的に利用する
 (D) 空手パワーキックから地面をひっかくように弾く
    <×→○> キック脚の足首を固めてスキップB系の動きで地面を弾く
 (E) 臀筋によるキックパワーの発達
 (F) お腹を凹ませた姿勢で上半身を前方へ腰で押して走る
 (G) 腕振りは前方に強く振り、後方へ肘をあまりつきださないようにする
 (H) ランニングスピードが大きくなるにつれて、中腰ガンマクランクキックから腰高ベータクランクキックへと変化させる

 これらの注意点を自分自身のランニングフォームに取り込むためには、コントロールスピードと呼ばれている、全速力より少しスピードレベルの低いランニングを利用します。フロートと呼ばれていることもありますし、ウィンドスプリントと呼ばれていることもあります。タイムトライアルや試合などの、全速力となる状況でも意識してゆけるように、コントロールスピードのランニングで何度も反復して、このようなプログラムを小脳の中に書き込んでおくのです。
 一度に幾つも意識して行うことはできませんが、一つずつ意識して行うことによって、小脳の中にプログラムのようなものができて、あまり意識しなくてもできてゆくようになります。自転車に乗るのが、さいしょは難しいものであっても、いつしか、何も意識しなくてもよいようになるのと同じです。
 どれからマスターしてゆくかというのはいろいろなのですが、私のケースでは(A)から(D)へと順に進んでいったと思います。(E)から(G)については、思い出したようにチェックしています。(H)の変化について意識して走るのは、かなりランニングフォームが仕上がってからのこととなります。
 一つずつ、さらに詳しくコメントしましょう。

 (A) 跳ね上げダウンスウィングによる重心の浮かないキックフォーム

 後方に残されたスウィング脚をどのように前方へと運び出すかというテクニックは、走ることが始まったときからつきまとっていたはずです。でも、私が子供や学生だったころは、ほとんど何も意識していなかったと思います。
 私が中学校の教師となって陸上競技部の指導をしていたころ、先輩の指導者の先生たちから、スウィング脚をしっかりと膝で折りたたみ、かかとがお尻につくようにするテクニックがあることを学びました。「後方巻き上げ法」です。
 膝で折りたたむことはするのですが、かかとをお尻の後ろにではなく、お尻の下へと運ぶというテクニックのほうがいいという話も聞きました。「直下引き付け法」です。
 それでは、指導している生徒には、それらをきちんと指導したのかというと、どうやら、そんなことはやらずに、エネルギーシステムや筋スピードや筋力による、キック脚のバネのレベルをひきあげるためのトレーニングばかりを工夫してやらせていたと思います。しかし、生徒の中には、キックした後のスウィング脚を膝で折りたたむことなく、直線的に前へと運ぶスタイルで、当時のチームのエースとして走る生徒も現れていたのです。「直線引き出し法」です。
 今から10年ほど前のことですが、地質調査の会社で働きながら、休日に、陸上競技場で知り合った、高校生や大学生たちをボランティアで指導していたことがあります。このとき強く勧めたのは、「直下引き付け法」だったと思います。
 「跳ね上げダウンスウィング」という動かし方があるということに気がついたのは、ごくごく最近のことでした。
 モーリス・グリーン選手は「直線引き出し法」に違いないと思っていたのは私の思い込みでした。はっきりと確認したのは、ウサイン・ボルト選手のフォームを調べたことによるかもしれません。
 スウィング脚のとりあつかいかただけではなく、ただ漠然と動かしているものであっても、その特徴や程度の違いを見出して、このような名称をつけるというのは、理解のための重要なテクニックなのです。
 「跳ね上げダウンスウィング」という用語は、後方で跳ね上げておくという動きと、前方で膝をあまり上げずに、引き出すとき、膝から下を自然に振り出すことにより、スウィング脚の重心軌跡が下方へと向かうということを表現しています。
 そう言えば、「後方巻き上げ法」と「直下引き付け法」と「直線引き出し法」というのは、いずれも、スウィング脚の、後方から重心直下あたりまでの、後半の動きだけしか表わしていません。
 重心直下あたりから前方へと向かうときの、スウィング脚重心の軌跡について着目するなら、「ダウンスウィング(下向きの動き)」と「レベルスウィング(水平な動き)」「アッパースウィング(上向きの動き)」があることになります。
 私が教師だった30年ほど前は、「アッパースウィング(上向きの動き)」を理想として、せっせと、ももを上げ、膝をあげようとしていたのかもしれません。
 「レベルスウィング(水平な動き)」という用語があてはまる動きは、山縣亮太選手のフォームの中にありました。これはこれで、合理的なものと考えられます。キック脚の重心も、スウィング脚の重心も、ともに水平に動いているのですから、無駄がないということになります。これはかなり高級なテクニックです。
 より一般的で、効果があるのが、「ダウンスウィング(下向きの動き)」なのですが、これは、キック脚の重心が上向きに動きくことが多いということと組み合わさって、身体重心の動きが水平になるようにするためです。
 「重心の浮かないキックフォーム」を目指す必要があるということが分かったのも、ごくごく最近のことでした。とくに、私のように、走るのが遅いほうに分類されるランナーは必要以上に上へと跳び出して走っているという欠陥があるということが分かったのです。このようなランニングフォームを固めてしまったら、ランニングスピードは、ほとんど伸びなくなると考えられます。昔から使われていた「スピード障害」という「スポーツにおける病名」の、ほんとうの原因は、ここにあったのかもしれません。
 いろいろなランニングのトレーニングによって、自然に速く走れるようになるランナーと、身体の成長が終わったとたんに走るスピードが向上しなくなったランナーの違いが、「重心の浮かないキックフォーム」にあるのかどうかということを調べるべきだと思います。

 (B) 真正クランクキックとなるキック脚のツール化(ブリキでできたかのような、一体化したキック脚の使い方)

 「クランクキック」は、「膝をロックしたキック」と表現されたものを、もうすこし短く表現するために作った言葉です。「膝を伸ばすキック」あるいは「膝を伸ばしきるキック」をピストンキックと表現していたような気がしたので、ピストンと区別出来る言葉を探したわけです。
 最近の研究でたどり着いた表現法の一つに、身体各部のいろいろな角速度の比を調べるというものがあり、このようなものの中に、WOL/KOLという比があります。これは、腰とキック足の支点の軸WOが地面OLに対してつくる∠WOLの角速度WOLと、キック脚の膝と同支点の軸KOが地面に対してつくる∠KOLの角速度KOLの比です。この比がWOL/KOL=1のとき、いつもWOL=KOLとなって、∠WOLと∠KOLは違っていても、それらの角度の変化の様子が同じなので、腰と膝が、互いの位置関係を変えずに動いているということになります。これが、完全に「膝をロックしたキック」の定量的な表現なのです。
 WOL/KOL=1のとき、キック脚は膝や足首がある程度曲がったままの状態で、ほぼその形を変えずに、大地にくわ(鍬)を振り下ろすように、地面に叩きつけられ、オールウェザー走路を後方へと押しやります。もし、地面が土であるなら、尖ったスパイクをぐさりと刺して、グイッと足首でスナップをかけて、掘り起こしてゆくことでしょう。
 WOL/KOL=1のときのランナーの動きを、ランナーの身体重心を固定して描くと、キック脚のスパイク面は、地面を長く、水平にひっかいているように見えます。これが真正クランクキックの重要な利点なのです。「長く」だけではなく「水平に」地面を押しているのです。このとき、地面からの反作用で、ランナーの身体重心は、「長く」かつ「水平」に力が加わることになり、これが水平スピードの変化を生み出します。

 (C) ワイドシザースフォームでキック脚とスウィング脚を効果的に利用する

 「ワイドシザースフォーム」という言葉も私の造語です。キック脚とスウィング脚を、前後に大きく広げておいて、前方のキック脚は膝をしっかりと伸ばしておき(大きなモーメント)、後方のスウィング脚は膝でしっかりと折りたたんでおくことにより(小さなモーメント)、それらをシザース(ハサミ)する(ハサミのように閉じる)ことで、空中においては角運動量保存の法則が作用するため、これが効いて、小さなモーメントのほうの、折りたたまれたスウィング脚の重心速度が大きくなるという、ここまでの現象を言いくるめた言葉です。
 ランニングにおいて、前方にあるキック脚の膝をできるだけ伸ばしておくということにどのような意味があるのかということが、ひょっとすると、これまでは正しく理解されていなかったかもしれません。私自身も、ヨハン・ブレーク選手のトップスピードランニングフォームを調べるまでは、あいまいな理解のままでとどまっていました。しかし、かんぺきなまでに、この動作を試みようとしているヨハン・ブレーク選手の動きを見て、ああ、そうか、と解釈し、コメントとして書きすすめてゆくうちに、上記のメカニズムが潜んでいるということに気がついたのです。そして、自分の身体を使って、実験的に「ワイドシザースフォーム」を試み、ヨハン・ブレーク選手のイメージを思い浮かべて走ってみたところ、もちろん、ランニングスピードは半分近くなのですが、スウィング脚重心の水平速度のレベルがあがり、重心の浮かないキックフォームもやりやすくなり、ランニングスピードが向上したのです。
 スウィング脚をスピードアップさせるためには、スウィング脚は膝で折りたたんでおくことだけでよく、キック脚のほうの膝をしっかりと伸ばしておき、それを下方へと勢いよく振り下すということが重要だったのです。それらをむすびつけるのは角運動量の保存則です。ハードルや棒高跳の技術などでは、あちこちで使ってきた法則を、ランニングにおいて使うのを忘れていました。

 (D) 空手パワーキックから地面をひっかくように弾く
  <×→○> キック脚の足首を固めてスキップB系の動きで地面を弾く

 「ワイドシザースフォーム」では、前方に伸ばしたキック脚を、膝がのびきった後、振り戻しながら、地面へと振り下ろすことになりますが、このとき、まるで、地面に割るべき板があるかのように意識して、瞬間的にスピードアップをして、力を込めようとするのが、「空手パワーキック」という言葉の定義でした。
 しかし、このような動きだけではスピードアップしないということが、実験的な取り組みによって分かってきました。それでは、「空手パワーキック」というテクニックは無意味なのか。何カ月もの間、このような問いの答えを探して、色々なデータを調べていたところ、山縣亮太選手のガンマクランクキックでは、地面を強く蹴る力に対応する「キック軸加速度比aGO/g」と「全重心水平速度dG」とが強い正の相関をもつということを見出し、「空手パワーキック」と「山縣亮太選手のガンマクランクキック」とを組み合わせて考えれば、この問いの答えが分かるかもしれないと考えました。
 そして分かったことは、分かってみればかんたんなことだったのですが、キックの最後に地面をしっかりと後方へ送るということでした。「地面をひっかくように弾く」とタイトルに表わしていますが、「足首のスナップを利かせる」という表現でもよいかもしれません。
 ただのパワーだけではスピードにつながらなかったのです。パワーの内容を変えてやる必要がありました。パワー(Power)は、力(Force)とスピード(Speed)の積なのです。同じパワーといっても、力が大きくてスピードが小さいものや、力が小さくてスピードが大きいものもあるわけです。
 ランニングにおいて「空手パワーキックから地面をひっかくように弾く」というのは、力が大きくてスピードが小さい状態から、力が小さくてスピードが大きい状態へと変化させるということなのです。
 最初は太ももや臀筋などでパワーを生み出し、最後はふくらはぎによるパワーを利用して、足首のスナップでスピード優位のパワーとするわけです。

 追記(修正コメント)
 上記のアイディアによる走り方が、どれだけ効果をもつのか、ということを調べるため、自分自身で実験してみたのですが、「空手パワーキックから地面をひっかくように弾く」と意識したとき、「力が大きくてスピードが小さい」キック脚全体でのキックと、「力が小さくてスピードが大きい」キック脚の足首スナップキックとが、微妙に分かれてしまって、ランニングフォーム分類として、デルタクランクキックばかりが続いてしまい、それが悪影響をおよぼして、けっきょくスピードが低下してしまうということになりました。
 このような問題点をクリアーするため、「力が大きくてスピードが小さい」キック脚全体でのキックと、「力が小さくてスピードが大きい」キック脚の足首スナップキックとを、もっと連続したものとすべきだと考え、「足首スナップ」を意識して行っていたドリルを、もっとマック式ドリルの原点へと戻し、ハイピッチスキップBからランニングへと変化してゆくものへと変えることにしました。
 「TK選手のランニングフォーム解析」のなかで「地面にキック脚を着くとき、足首まわりを固くして、地面を弾く感覚」という表現をとって説明しているというところを見返しました。そして、足首を自分で動かすのではなく、足首を固定しておき、この状態でキック脚全体のキックを行うことにより、足首のバネが少し押し縮められたあと反発するという、身体の末端部分が自動的に行う「反射現象」にまかせてしまったほうが、より強く、より連続したキックになると気づいたのです。
 このような動きで走ることを、ドリルで習慣づけたあと、コントロールスピードでのランニングによって、しっかりと反復しました。
 そして、あらためて、身体コンディションのよいときに、このような「伸張反射」にまかせたキック動作によるランニングで、どのようなフォームとなり、ランニングスピードがどのようになるのかをテストしました。
 2014年4月19日(土)に行ったランニングのKLO29において、(私にとって)比較的スピードが大きなガンマクランクキックのフォームが、ランニングの後半に、続いて現れるという結果が得られました。このとき、山縣亮太選手のガンマクランクキックでは、地面を強く蹴る力に対応する「キック軸加速度比aGO/g」と「全重心水平速度dG」とが強い正の相関をもつという現象を確認するかのように、このKLO29におけるガンマクランクキックで、「キック軸加速度比aGO/g」と「全重心水平速度dG」とが強い正の相関をもつということが分かりました。私のガンマクランクキックのフォームが、表面的な形だけでなく、力学的な内容においても、「ほんもの」に近づいてきたようです。
 このようなわけで、ここに記した(D) 空手パワーキックから地面をひっかくように弾くというのは、テクニックとして適切な表現ではないということになります。代わりに提案すべきタイトルとしては、次のような表現がよいかもしれません。  (D) キック脚の足首を固めてスキップB系の動きで地面を弾く
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, Apr 21, 2014)

 (E) 臀筋によるキックパワーの発達

 これは、(C)と(D)の間に組み込まれる要素だったようです。
 また、臀筋を発達させて、これのパワーを使うというのは、(B) 真正クランクキックとなるキック脚のツール化、という要素が強く関わってきます。このような、キック脚が、まるでブリキのおもちゃのような、形を変えない、一体化したものであって、その、くわやカマのような道具としての曲がったキック脚を、つけ根のところから振りまわしているとしたら、それをやりこなしているのは何かというと、臀筋なのだと考えられます。
 真正クランクキックによるランニングを繰り返してゆくと、臀筋が発達するのです。
 もとジャマイカのマリーン・オッティ選手(現スロベニア)や、現ジャマイカのヨハン・ブレーク選手の臀筋は見事です。
 たとえば、ウマの後脚のキックは、巨大な臀筋によって生み出されています。げんみつにシミュレーションモデルを作って調べたわけではないのですが、後脚キックはクランクキックのどれかにあてはまります。ウマの前脚キックは、膝をしっかりと伸ばしていますので、腰高のアルファクランクキックかベータクランクキックに対応しているのかもしれません。
 ヒトのランニングのメカニズムにもどることにしましょう。

 (F) お腹を凹ませた姿勢で上半身を前方へ腰で押して走る

 ランナーの身体要素を、おおきく、キック脚とスウィング脚と、頭と両腕を含んだ上半身の3つに分けて考えることができます。
 ランニングのメカニズムを、キック脚の動きだけで考えてゆくのではなく、スウィング脚の動きも考慮することにより、スウィング脚による「跳ね上げダウンスウィング」の意味が分かってきます。また、「重心の浮かないキックフォーム」の重要性も、これらの組み合わせによって理解できます。
 3つ目の身体要素である上半身は、3つの身体要素がつながっている腰のところで、ちょこんと腰に乗っているわけですが、げんみつに調べてみると、いつも同じ姿勢を保っているというケースはめずらしく、多くのランナーにおいては、キックのとき、上半身が後方へと揺れています。これを私は「トルソ振動」と名づけて、詳しくしらべてみました。
 すると、上半身が後方へと揺れる「トルソ振動」が強いとき、上半身重心の水平速度dTから、キックベース速度dKを引いた、相対トルソ速度dT-dKが小さくなって、全体の速度dGを減らすということが分かりました。これは、げんみつな定義に沿って述べているので、むつかしそうな表現となっていますが、あたりまえのことです。腰が前方へと進む速度に対して、上半身が後方へと反ってしまえば、上半身の速度は遅くなるに決まっています。
 せっかく、キック脚とスウィング脚とで推進力を生み出しているのに、上半身でロスをしてしまったら、全体のスピードが高まりきることができません。
 このようなロスを生み出さないコツが、お腹を凹ませぎみにして、上半身を少し前傾させておくというテクニックです。このようなポーズで走るには、腹筋や背筋をしつかりと鍛えておく必要があります。胴体を鍛えておくことの意義としては、このようなこともあったのです。

 (G) 腕振りは前方に強く振り、後方へ肘をあまりつきださないようにする

 上記の、後方へのトルソ振動には、腕振りも関わってきます。かつては、後ろへ強く腕を振ることによって、強いキックを生み出すと考えられていたかもしれません。しかし、最近は、前に強く振るほうが効果的だと考えられています。
 腕振りの前後でのバランスをとる必要もあります。このとき、バランスをとるべきなのは、角運動量なので、前に振る腕は肘で曲げぎみして、後ろに振る腕は肘で伸ばしぎみにすると、上半身の重心を後方へと振動させずにすませることができます。

 (H) ランニングスピードが大きくなるにつれて、中腰ガンマクランクキックから腰高ベータクランクキックへと変化させる

 中腰ガンマクランクキックと腰高ベータクランクキックの違いが分からないと話がすすまないかもしれませんが、もっとシンプルに「身体重心を高めにして走る」と意識すればよいでしょう。ランニングスピードが高まっていないときは、「身体重心を低めにして走る」ことで、(A)から(D)のテクニックが実行しやすくなります。しかし、これらのテクニックでは、ここまでがスピードの限界かと思われたら、少し身体重心を高くして、脚の回転でイメージしている車輪の径を大きくするのです。すると、もっと速く動かす余地が生じます。
 ある角運動量で脚を動かしているとき、その脚を伸ばしぎみにするということは、その脚のモーメントを大きくしたということなのです。すると、同じ角運動量では、角速度が小さくなります。このとき、脚の先っぽの速度は、理論的には変わらないことになりますが、角速度が小さくなるので、これをもっと大きくしようとする可能性が生じ、そのための力を加えることで、角運動量を大きくすることとなり、これらの結果として、脚の先っぽの速度を大きくすることができます。これらのことが、地面に接して行われたとすると、地面からの反作用で、ランナーの重心が速く動くことになります。
 これによく似た、角運動量とモーメントと末端の速度の関係は、円盤投や走高跳やハードルなどのあちこちで、いろいろと利用されていることです。もっとシンプルなランニングという運動でも、これらの視点を利用すれば、もっといろいろなことが分かるわけです。

 これらのテクニックのトレーニング方法として

 これらのテクニックのトレーニング方法として、たとえば、私が行っているのは、いろいろな距離における、コントロールスピードにおけるランニングです。
 スタンディングダッシュから走りだす60m〜110mのランニングを、歩く休息をはさみながら、何本も繰り返すというだけのものです。トレーニングメニューとしては、110m×8本とか、60m×4本と記すことになるだけなのですが、このような枠組みのなかで、上記のテクニックに取り組んでゆき、ほぼ自動的にできるようになったら、別の課題を加えてゆくわけです。
 新しい取り組みとしては、一つずつ意識してゆくことになりますが、身体に染み込んでいったら、同時に幾つものことを意識して走れるようになります。
 「(A) 跳ね上げダウンスウィングによる重心の浮かないキックフォーム」については、2月末ごろから3月の中ごろあたりまで、110mの距離でしたが、土日連続でトレーニングできるときは、スピードなぞ、どうでもよいので、何十本も繰り返して、神経機能が、このような動きだけを覚えて、それまでやっていた、ピョンピョンと上に跳び上がるフォームを忘れてしまうようにしました。このため、平日の仕事日において、脚の筋肉はカチカチで、しゃがむのも一苦労というほどの状態でした。
 このあと、ヨハン・ブレーク選手のランニングフォームを解析して、ワイドシザースフォームの意味に気づいてからは、前方へ伸ばすキック脚をとことんまで伸ばしておくことと、そのあとに、空手パワーキックへと続けることを、神経機能のシステムに刷り込みました。このとき、スウィング脚を膝でよく折りたたむことにより、ピッチアップが進むということを、あわせて組みこみました。
 これらの動作に続くものとして、真正クランクキックの動きと、足首のスナップによる、最後の加速が、うまくできるかどうかを試すようにして走りました。
 臀筋の発達、上半身のトルソ振動の減少、腕振りのコツなどについては、もっと前から継続してトレーニングしています。
 「(H) ランニングスピードが大きくなるにつれて、中腰ガンマクランクキックから腰高ベータクランクキックへと変化させる」というテクニックは、休日があまりとれなかったり、とれても天気が悪かったりして、トレーニングができない時期があって、それが幸いして、脚の長期的な疲れをとることとなり、ふと気がつくと、ランニングスピードが高まってきているということを感じとれるようになってから、思い出すように導入しました。

 ドリルによる動きの強化を目指すもの

 次の3つのドリルをメモ書きしておきましたが、上記のことと、これらのドリルとがどのように関係してゆくのかということを説明しなければなりません。

 (1) ハイニースキップB
 (2) ロングスキップB
 (3) スピード片脚跳躍走

 しかし、かなり書き込んできましたので、これらのテーマについて考えてゆこうとすると、さらに時間がかかります。
 また、現在私は、これまでのドリルに、さらに工夫を重ねて、上記のトレーニング課題の習得がうまく進めてゆけるような、新たなドリルを試しています。
 たとえば、スキップBゴーオンの足首スナップバージョンとか、中腰ガンマクランクキックを歩いてイメージしながら、足首のスナップでスピードアップしてゆくものなどです。これらの取り組みは、まだ始めたばかりなので、どのようにすれば効果があがってゆくのかは、もうすこし試してゆかなければ分かりません。
 これらのドリルや、そのあとのメイントレーニングと、テーマの取り組み方などをどのようにすればよいのかということについては、もう少し、実際にやってから説明したいと思います。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, Apr 8, 2014)

 

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