高速ランニングフォームのエピソード (65)
ランニングスピードを高めることができるスキップB系ベータクランクキック

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito @ 9621 ANALYSIS)

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 はじめに

 「コーチング (30) スキップB系ガンマクランクキックでもっと速く走ろう」では、スキップB系ガンマクランクキックがランニングスピードを高めるために役立つということを述べましたが、その結論にいたるまでの解析的なプロセスが、かなり論証的で解析的であったので、これまでの「コーチング」とは異質なものとなってしまいました。しかし、そのような手順を踏んでゆくのは、ほんとうのことを確かなものとして述べたいと思っているからです。ランニングスピードを高めるために必要な条件をコツやテクニックとして述べる前に、そのことが効果をもつということを確信しておく必要があります。
 「コーチング (30) スキップB系ガンマクランクキックでもっと速く走ろう」における中心的なノウハウは、スキップB系のドリルによる動きを組みこんだ、初期スピードとパワーをともなったガンマクランクキックが、形だけのガンマクランクキックより確実に大きなスピードを生み出すということでした。
 ここのところの「はじめに」で「優れたスプリンターが大きなスピードを生み出しているフォームとして、ベータクランクキックとガンマクランクキックが認められる」と記しました。「コーチング (30) スキップB系ガンマクランクキックでもっと速く走ろう」ではガンマクランクキックについて調べたわけですから、次の解析テーマは、残されているベータクランクキックということになります。
 これまでの解析データから、どのようにしてベータクランクキックの性質やテクニックについて構成しようかと思いつつ、とりあえず、KLO29, KLO28と解析したものの、この日の1本目のKLO27については、まだランナー部分の切り取りやBMP画像への拡大変換も行ってない状態だったので、これを解析して、KLO27〜KLO29のデータとすれば、ある日の一人についてのランニングデータとして、かなり詳しく多様なものをそろえることができると考えました。
 KLO27〜KLO29のランニングは2014年4月19日に試みたものでしたが、この前に直線で軽く1本走って調整してから、KLO27を走りました。前半の加速部分であまりピッチアップしておらず、中盤でスピードアップしていったのですが、臀筋に違和感があって、後半では力をやや抜き気味にしたと思います。そのあと2本目のKLO28では前半からピッチアップして加速しましたが、中盤からのワイドシザースフォームが納得のいくものではなかったため、撮影してもらっていたTK選手のランニングを撮影する側へとまわって少し休み、KLO29で、中盤から後半にかけて、ワイドシザースフォームに加え、スキップB系の動きを組みこんで、トップスピードに達した後もスピードが落ちてゆかないランニングを実現できたという充実感のもと、この日のトライアルを終えたのでした。
 このようなストーリーから、1本目のKLO27には目だって良いところは無いだろうと思いこみ、先に行ったKLO29とKLO28の解析結果から、これらにおいて出現しているガンマクランクキックの性質が異なっていそうだということに気づき、これを詳しく調べ、「コーチング (30) スキップB系ガンマクランクキックでもっと速く走ろう」をまとめたのでした。
 残っていたKLO27を解析して、これまでの解析データと見比べ、統計的なデータ解析を行ってみると、ベータクランクキックというフォームの、ほんものの実力が現れ、私にとっては、ほぼ10年前のコンディションに戻る手がかりであった、8 [m/s] 台のランニングスピードを、このベータクランクキックで再現することができていたことを知ったのでした。

 KLO27, KLO28, KLO29のスピード解析

 2014年4月19日(土)のトレーニングのKLO27, KLO28, KLO29のランニングを解析した結果を図1としてまとめました。
 dGは全重心水平速度、dKはキックベース速度(キック脚重心水平速度)、dT-dKは相対トルソ速度(上半身重心水平速度dTからキックベース速度dKを引いたもの)、dS-dBは相対スウィング速度(スウィング速度dSから、キック脚と上半身を組み合わせたキック棒の水平速度dBを引いたもの)です。
 これらのスピードは、係数p=2/3, q=1/4を掛けて、次の式を満たします。
   dG = p(dT-dK) + dK + q(dS-dB)


図1  KLO27, KLO28, KLO29のスピード解析

 KLO27の解析結果を他と見比べて、大きく目立っているのは、KLO27の解析5歩目のベータクランクキック(β)が、全重心水平速度(ランナーのスピード)dGとキックベース速度(キック脚重心水平速度)dKにおいて突出しているところです。このKLO27(5)における、これらの値は、dG=8.5 [m/s] , dK=5.2 [m/s] でした。
 KLO27の全重心水平速度dGのグラフでは、解析5歩目のβ、7歩目のγ、9歩目のβが上に突出しています。塗りつぶされたプロットは右脚キックです。私の臀筋は右のほうが強く、また、そのため、違和感も生じやすいのですが、このときの3歩のときの負荷が強かったため、11歩目以降では力を抜いたようです。KLO28やKLO29でも、塗りつぶされたプロットの右脚キックのほうがスピード優勢なフォームとなっていますが、これらの2本では、臀筋による出力にあまり頼らない走り方を試みたようです。
 KLO27のキックベース速度dKのグラフでは、解析5歩目のβと9歩目のβが上に突出しています。KLO28の解析4歩目のβでも、dGとdKがそろって突出しています。これらは、スピードが高まるベータクランクキックの代表です。これに対して、あまり突出して目立っていない、スピードがあまり高まらないベータクランクキックのフォームというものもあって、たとえば、KLO27の解析6歩目のβは、かなり低調なスピードです。
 KLO27のランニングにおいては、スピードアップの切り札となるフォームは、ガンマクランクキックではなく、ベータクランクキックでした。KLO28では、これらの二つのフォームが同じくらいの寄与となっています。KLO29では(スキップB系の)ガンマクランクキックが主役を演じています。
 ガンマクランクキックとベータクランクキックとでは、ガンマクランクキックのほうが、よりコントロールしやすく、このようなレベルにあって、さらにスピードが出る、スキップB系ガンマクランクキックを意図的に生み出すように心がけることにより、全体のスピードレベルを高めることができます。
 これに対して、ベータクランクキックのほうは、うまくコントロールして生み出すというレベルにまで至っていません。スピードが高まるベータクランクキックとスピードがあまり高まらないベータクランクキックとの違いがどこにあって、何をどのように心掛ければ、これらのフォームを使い分けられるかということが、よく分かっていないからだと思われます。
 このような、ベータクランクキックの性質についての理解を深めるため、これまでに生み出したベータクランクキックのフォームを、(すこし前の時期に行った)KLO15-26と(2014年4月19日の)KLO27-29に区分して、それらの統計的な違いを見ることにします。

  統計解析によるベータクランクキックの性質 (1) 全速度とスピード要素やキック軸加速度比

 このあとの幾つかの図では、(a) KLO15-26 と (b) KLO27-29 の統計解析結果を比較します。(a) KLO15-26 には、2014年2月9日に走ったKLO15, KLO16と、2014年3月29日に走ったKLO20, KLO22と、2014年4月12日に走ったKLO25, KLO26が含まれます。(b) KLO27-29 には、2014年4月19日に走ったKLO27, KLO28, KLO29が含まれます。


図2 全重心水平速度dGとキックベース速度dK

 図2は「全重心水平速度dGとキックベース速度dK」に関する比較です。
 一般に、キック脚重心水平速度であるキックベース速度dKは、全重心水平速度dGと、強い正の相関をもっています。これらの解析図にある薄い色の背景プロットは、これまでに調べた多くのスプリンターのデータです。この背景プロットが斜めに細長く分布しているということが、正の相関の強さを示しています。
 (a) KLO15-26と(b) KLO27-29の相関係数ρを見ると、(b) KLO27-29ではρ=+0.93 と、非常に強い正の相関を示しています。とくに、緑色のKLO27の2つのベータクランクキックのフォームが、このような強い相関を導いています。回帰直線の軸も、背景プロットの仮想軸によく合っています。


図3 全重心水平速度dGと相対トルソ速度dT-dK

 図3は「全重心水平速度dGと相対トルソ速度dT-dK」に関する比較です。
 (a) KO15-26と(b) KLO27-29 とで相関の様子が大きく異なっています。(a) KLO15-26 では相関が無いのに対して、(b) KLO27-29 ではρ=+0.51 と、弱いながらも、正の相関となっています。
 相対トルソ速度dT-dKというのは、キック脚によるキックベース速度dKを引いた、上半身重心水平速度dTのことですから、キック脚の上にある腰に乗っている上半身の動きを考えていることになります。これが全重心水平速度dGと正の相関があるということは、上半身が腰のところでキック脚とある程度強く連結していることを意味しています。
 薄い色の背景プロットの分布も、比較的細長く、斜めに集まっていますから、(b) KLO27-29 のほうが、他のランナーの状況に近いものとなったということです。
 (a) KLO15-26 のほうが不自然だったと考えられます。おそらく、これらのランニングの時期に私は、仕事の影響で、上半身の筋力をかなり低下させていていたからかもしれません。
 このように、胴体の筋力が低下して、キック脚と上半身がひとつの棒のようにふるまうことができないとき、上半身は勝手に動いてしまい、地震の免振構造のように、ランニングにおける運動量の一部を無駄に使ってしまうことになります。そして、全体のスピードが低下するわけです。


図4 全重心水平速度dGと相対スウィング速度dS-dB

 図4は「全重心水平速度dGと相対スウィング速度dS-dB」についての比較です。
 ここでは顕著な違いが現れています。(a) KLO15-26 では相関が無いのに対して、(b) KLO27-29 ではρ=+0.88 と、強い正の相関が示されています。背景プロットの分布は、主軸が斜めになっているものの、それほど細長いものではありません。これに対して、(b) KLO27-29 の分布はかなり細長く、また、斜めの形となっています。
 (b) KLO27-29におけるベータクランクキックでは、キック棒を基準としたスウィング脚重心の動きが速いことが、ランニングスピードと強く結びついているのです。
 スウィング速度とランニングスピードとが強く関係しているというのは、ひょっとすると、他のフォームでも成立していると思われているかもしれませんが、これまでの観測と解析によれば、ガンマクランクキック、ガンマデルタクランクキック、デルタクランクキックでは、ほとんど無関係な状態となっていて、スウィング速度が大きくても、ランニングスピードが大きくなるとは限らないのです。
 スウィング脚重心水平速度dSからキック棒重心水平速度dBを引いた、相対スウィング速度dS-dBは、全重心水平速度dGの成分として組み込まれるとき、q=1/4という係数をかけて、q(dS-dB)という値にしておかなければならないということが影響していると考えられます。相対スウィング速度を1 [m/s] 大きくしたとしても、全体のスピードとしては0.25 [m/s] しか大きくならないのです。
 このような係数の影響はベータクランクキックにおいても成立します。しかし、ベータクランクキックにおいては、相対スウィング速度dS-dBの影響が、より強く、全重心水平速度dGへと及ぶというのです。これはなぜなのでしようか。


図5 全重心水平速度dGとキック軸加速度比aGO/g

 図5は「全重心水平速度dGとキック軸加速度比aGO/g」です。
 ここでの違いはわずかなものですが、(b) KLO27-29のほうが、弱い正の相関を示しています。
 実は、KLO27を示す緑色のプロットだけで相関をとると、非常に強い正の相関となっていました。このことから、KLO27のランニングにおいて出現したベータクランクキックのフォームでは、キック軸で生み出された力が、全体のスピードに強く影響したと言えます。

 統計解析によるベータクランクキックの性質 (2) 全速度と角速度や角速度の比

 上記の解析で、KLO15-26のベータクランクキックでは、とくに目立った性質のようなものは見出されていませんが、KLO27-29のほうでは、ランニングスピードを大きくするための要素が何かしらあるということが分かりました。
 そこで、ここからの統計解析データはKLO27-29として、ここに含まれるベータクランクキックのフォームがどのような性質をもっているものなのかを調べます。


図6 全重心水平速度dGとキック脚太もも姿勢角(の角速度)WKL


図7 全重心水平速度dGとスウィング脚太もも姿勢角(の角速度)EWL


図8 全重心水平速度dGとヒップ角(の角速度)HIP

 図6から図8の、それぞれの角速度と全重心水平速度dGとの相関を、次のように表わすことにします。

   @ dG <ρ=+0.44> WKL(キック脚太もも姿勢角)
   A dG <ρ=+0.59> EWL(スウィング脚太もも姿勢角)
   B dG <ρ=+0.71> HIP(ヒップ角)

 これらの中でAの関係は、図4の「全重心水平速度dGと相対スウィング速度dS-dB」における、dG <ρ=+0.88> dS-dBの関係から派生してくるものと考えられます。つまり、スウィング脚太ももの動きよりも、スウィング脚重心の動きのほうが、より本質的なものであるということです。
 @とBの関係も、キック脚の太ももの動きという共通部分を持っているので、相関係数の大きなヒップ角の動きのほうが、より本質的なものと見なせるようです。
 このヒップ角の角速度HIPの変化というのは、もっとかんたんに言うと、ランナーの腰が前進するということにつながっているようです。このとき、後ろに傾いていたキック脚の太もも部分が、垂直に立って、前方へと傾きを変える動きです。どうやら、このような動きを生み出しているものの中心が、臀部の筋肉だと考えられます。
 図8のランナーのキック脚の形を見ると、膝の角度はあまり変わっていません。足首の角度は少し変化していますが、膝から下の部分が、大工道具のくぎ抜き(バール)のように固まっていて、くぎを抜くときのような動きをして、かかと部分を浮かせ、膝部分を前方へと送っています。
 ここで説明してしまいましたが、このようなキック脚の膝下部分がバールのように使われているということが、次の図9から図11の解析結果によって示されています。


図9 全重心水平速度dGとキック脚かかと姿勢角(の角速度)HOL


図10 全重心水平速度dGとKO姿勢角(の角速度)KOL


図11 全重心水平速度dGと
キック脚のかかとの角速度HOLと膝の角速度KOLとの比HOL/KOL

 図9から図11の、それぞれの角速度と全重心水平速度dGとの相関を、次のように表わすことにします。

   C dG <ρ=+0.59> HOL(キック脚かかと姿勢角)
   D dG <ρ=+0.78> KOL(KO姿勢角)
   E dG <ρ=+0.32> HOL/KOL(かかとの角速度HOLと膝の角速度KOLとの比)

 これらの中でDは、図2の「全重心水平速度dGとキックベース速度dK」における、dG <ρ=+0.93> dK から派生していると考えられます。もうすこしつきつめて考えるならば、キックベース速度dKは、Dのキック脚の膝の動きと、@のキック脚の太ももの動きによって生み出されると考えられます。もっとも本質的なキックベース速度dKを、Dのキック脚の膝の動きと、@のキック脚の太ももの動きにわけて調べると、相関が弱くなってしまうということのようです。
 他のベータクランクキックの性質と組み合わせて統計的な処理を行っていますので、CやEでの相関係数はあまり大きくないのですが、それぞれのグラフで、右上に離れている緑のプロットが、KLO27(5)のベータクランクキックのもので、実は、グラフ横に描いたサンプルフォームが、これなのです。
 このようなことから、dG=8.5 [m/s], dK=5.2 [m/s] という値を生み出した、KLO27(5)のベータクランクキックにおいては、キック脚の膝下部分のバール効果が強く作用したことが認められます。このとき、キック脚の足首は、接地によって少し曲げられたあと、反発して、かかとを強く押し上げる動きをしています。このことの証拠が、図11のグラフでの横軸プロットの重心HOL/KOL=1.02より、KLO27(5)の緑のプロット(HOL/KOL=1.89)が右上に位置しているということに示されています。
 KLO27の解析12歩において、WOL/KOL(キック脚硬化比)の平均値を求めると、WOL/KOL=1.07となっています。ほとんど1.0に近く、真正クランクキックとなっています。つまり、キック脚の膝の角度をほとんど変えずに、一体化したキック脚を、腰のところで振りまわしているのです。
 そして、KLO27(5)を除く他のベータクランクキックでは、HOL/KOLの値も1.0に近く、腰の付け根から足先までを、完全に固定したものとして使っていました。
 ところが、KLO27(5)のフォームでは、HOL/KOLの値が1.89と、少し足首のバネを使っていたのです。このことにより、キック脚の膝がさらに前に出て、dK=5.2 [m/s] を生み出したと考えられます。
 図2の (b) KLO27-29におけるdKのプロット重心の値がdK=4.20 [m/s] であるところ、KLO27(5) ではdK=5.2 [m/s] なのですから、全体のスピードdGが大きくなるのは当然です。
 たった1歩のベータクランクキックのフォームですが、このように詳しく調べることにより、スピードアップのために、何を心がけてゆけばよいのかということを、明確に示してくれています。

 スピードが高まるベータクランクキックとスピードがあまり高まらないベータクランクキックのフォームの違いは?

 上記の解析によって、スピードが高まるベータクランクキックの性質を調べてきました。このあと、さらに具体的な解析法により、スピードが高まるベータクランクキックであるKLO27(5)のフォームが、どのような性質を示しているのかを見ることにします。
 ここでとりあげるサンプルは、KLO27で生み出された3歩のベータクランクキックのフォーム、KLO27(5), KLO27(9), KLO27(6)とします。全重心水平速度の値はdG(5)=8.5, dG(9)=7.8, dG(6)=6.9 [m/s]で、キックベース速度の値は、dK(5)=5.2, dK(9)=4.7, dK(6)=4.4となっています。
 KLO27(5)はスピードが高まるベータクランクキックで、KLO27(6)はスピードがあまり高まらないベータクランクキックで、KLO27(9)は中間だと見なせます。


図12 KLO27(5)のキック区間解析

 次の図13や図14の「キック区間」のフォームと見比べると、キック脚のかかとがよく動いていることが分かります。
 「キックポイント」での上半身の前傾角であるT角(∠TWN)は+10.2 [度]で、図13や図14の角度より2度ほど大きくなっています。
 ∠GOL[+14← +8← -3] の値により、キック開始時にやや重心の前で接地していますが、+8の角度まで動いてキックポイントを迎えています。キックポイントでの∠GOLは、KLO27(9)では+4で、KLO27(6)では+3となっており、接地からキックポイントまでの動きが小さなものとなっています。
 sune [128 ← 120 ← 112] の値は、キック脚のすねの姿勢角の変化を示しています。KLO27(9)やKLO27(6)での変化より、やや前方へと傾いていますが、それでも、dK=5.2 [m/s] と大きな値を生み出しているわけです。これはやはり、キック脚の膝下がバールのようにふるまって、かかとを上げ、膝を前方へと送ったからだと考えられます。


図13 KLO27(9)のキック区間解析


図14 KLO27(6)のキック区間解析

 次の図15から図17は総合解析です。左上に「フォーム分類グラフ」、右に「総合水平グラフ」があります。
 「フォーム分類グラフ」でのプロットを見ると、KLO27(5)ではガンマクランクキックに近いところに、KLO27(9)とKLO27(6)ではアルファクランクキックに近いところに、それぞれ位置しています。このことから、KLO27(5)はガンマクランクキック系のベータクランクキックで、KLO27(9)とKLO27(6)はアルファクランクキック系のベータクランクキックであることが分かります。


図15 KLO27(5)の総合解析

 キックポイントにおけるキック軸速度はdGO=+1.05 [m/s] です。また、このときのスピードはdG=+8.5 [m/s]です。これらの値から、dGO(=a), dG(=b)としたときの変換比b/aを求めることができますが、これは、b/a=8.5/1.05=8.1となります。
 このように大きな変換比b/a=8.1を利用できるというのが、ベータクランクキックというフォームの利点なのです。ガンマクランクキックではb/aは5〜6くらいで、デルタクランクキックでは2〜3くらいになります。キック脚のバネやスウィング脚の動きによって生み出すことのできるキック軸速度は、大きくても3 [m/s] くらいです。これをデルタクランクキックで目いっぱい利用できるとしても、6〜9 [m/s] のスピードが得られるだけです。ベータクランクキックでは、キック軸速度を目いっぱい利用するということにはなりませんが、その何割かのバネのところをうまく使って、大きなスピードを生み出すことができるわけです。


図16 KLO27(9)の総合解析


図17 KLO27(6)の総合解析

 「総合水平グラフ」を見比べると、図15にあるKLO27(5)のパターンがとても優れたものであることが分かります。それぞれの水平速度のするどい立ちあがりが目立っています。エンジ色のdK、桃色のdS-dB、灰色のdT-dKの、いずれもが、高いピークを生み出して、キックポイントにピークをそろえています。
 そして、キック軸速度dGOの立ちあがり方と、赤い縦点線で示したキックポイント位置の関係が、KLO27(5)では、ちょうどこのdGOカーブの中腹部分にあります。これは大きなスピードの出るベータクランクキックのパターンとしては理想的です。
 図16や図17のような、dGOカーブのふもとでは、キック軸での動きが全体のスピードへと変換できないことになります。おそらく、KLO27(9)やKLO27(5)のフォームでは、空中でもっていた運動量による慣性スピードのままで走ろうとしているものと考えられます。エネルギーを節約して走るには役立つものかもしれませんが、ランニングスピードを高めるためには消極的なフォームということになります。

 まとめ

 これまでの解析により、スピードが高まるベータクランクキックとしての、KLO27(5)のフォームにおいては、次のような性質が認められます。

 (A) キック脚の膝の角度をほぼ固定して、一体化したキック脚を、腰のところで後方へと振りまわす、真正クランクキックの動きを行っています。
 (B) キック脚の足首を固くして地面をとらえ、このときに、足首のバネに蓄えられたエネルギーを反射的に使って、キック脚全体のバネの一端として利用しています。このことがうまく作用して、キック脚の膝を前方へと大きく動かしています。
 (C) キック脚とうまく連動して、スウィング脚が速く振り出されています。
 (D) ガンマクランクキックに近い性質をもつ、ガンマクランクキック系のベータクランクキックとなっています。
 (E) キック軸で生み出されている力は、きょくたんに大きなものではないのですが、あるていど大きなものであり、ベータクランクキックのフォームとしての幾何的な利点を利用して、この力によって生み出されたキック軸速度dGOが、有効に全重心水平速度dGへと変換されています。

 今回の解析で現れたのは、わずか1歩ということになりますが、このKLO27(5)の性質や条件が明らかになったので、このような、スピードが高まるベータクランクキックのフォームの出現率を高めるようにトレーニングしてゆけば、さらにスピードアップして走ることができると思われます。
 スキップBというドリルの要点が誤解されていると、このような表現は理解されにくいと思われますが、KLO27(5)のベータクランクキックの強いキックと効果的なスウィングに関連して、これをスキップB系ベータクランクキックと呼ぶことができそうです。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, May 2, 2014)

 

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