高速ランニングフォームのエピソード (66)
ランニングフォーム分類の中で見るスキップB系ベータクランクキック

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito @ 9621 ANALYSIS)

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 はじめに

 「高速ランニングフォームのエピソード (65) ランニングスピードを高めることができるスキップB系ベータクランクキック」では、KLO27(5)として、たまたま出現した、スキップB系ベータクランクキックのストーリーを、スピード解析のグラフからスタートして述べました。
 このあと私は、このフォームの特性をいろいろと調べ、どのようなことを心掛ければ、これによく似た、効率よく大きなスピードを生み出すフォームで走ることができるかを、自分の身体で試すことにしました。ビデオ撮影の記録がないので、分析的なコメントはできませんが、走ってみた感覚としては、これまでのランニングとは違って、すいすいとスピードが乗ってゆきます。わずかなスピード練習でも負荷が大きく、臀筋に疲労が生じて、せっかくの連休の休日をもてあますことになっています。
 走るコンディションに戻るための時間つぶしもかねて、これまでの解析では取り扱ってこなかった指標の組み合わせを調べることができるように、解析ソフト(runa.exe)を改良しました。
 この新たな解析法により、KLO27(5)として現れたスキップB系ベータクランクキックや、他のフォームの関連性や、特性が明らかになってきました。

 新しい解析法の概要

 新しい解析法でとりあつかう指標は、次の7つです。
 1) フォーム分類(α, β,γ, gd, δ, P)
 2) (キックポイントでの)キック軸速度dGO
 3) 全重心水平速度(ランニングスピード)dG
 4) スピード変換比(b=dG, a=dGOとしたときのb/a)
 5) キックポイントでの∠GOL(GO軸の前傾角)
 6) キックポイントでのキック脚のすねの姿勢角sune
 7) キック脚硬化比WOL/KOL


図1 ∠GOL, sune WOL/KOL

 次の図2は「スピード変換比b/aとキック軸速度dGO(分類ALL, □ALL)」ですが、ここに、数学で学ぶ「反比例のグラフ」のパターンが現れています。これには少し驚きました。


図2 スピード変換比b/aとキック軸速度dGO(分類ALL, □ALL)

 スピード変換比b/aというのは、ランナーの全重心Gとキック足の支点O(スパイク面の後ろ、足の拇指球のあたり)とを結ぶキック軸GOに沿った、全重心Gの速度dGO(=aとおく)と、ランナーのスピード(全重心水平速度)dG(=bとおく)から構成した、dG/dGO(=b/a)のことです。この定義式から、図2が反比例のグラフのパターンであるのは明らかです。仮にdGを同じ値とすれば、完全な反比例のグラフとなります。
 分類ALLというのは、フォーム分類を行っていない、全てのキックフォームをとりあつかっているということです。
 □ALLというのは、解析の母集団として、調べた全てのランナー(この時点ではKLO, TK, XTTYの3名)のものを使ったということです。▽は男性を△は女性を示す記号として、(今回は男性だけですが)混合したものを□の記号で示すことにしています。
 凡例のところに、フォーム分類と、キック脚の左右(L,R)の区別を示してあります。空白があるほうが左脚キックで、塗りつぶされているほうが右脚キックです。

 図2をフォーム分類ごとに分けたものを図2としてまとめます。図2の右外にある黒いプロットはベータクランクキックのものですが、図3ではこれを無視してあります。これらの、あまりにb/aが大きなフォームも存在するのですが、そのとき、キック軸速度dGOは小さなものとなり、スピードdGもあまり大きなものとなっていません。積極的な加速フォームではなく、スピードを維持する慣性フォームとして現れます。




図3 フォーム分類ごとのスピード変換比b/aとキック軸速度dGO(□ALL)

 ガンマデルタクランクキック(gd)とデルタクランクキック(δ)の分布パターンはよく似ています。b/aが3から6の範囲で、dGOは3.0あたりから1.0あたりにかけて分布しています。dG=dGO×(b/a)=dGO×(dG/dGO)という関係がありますから、キック軸速度dGOとスピード変換比b/aの組み合わせで、ランニングスピードが決まるわけです。デルタクランクキック(δ)では、キック脚の膝を伸ばしぎみにして、スウィング脚の動きも合わせて、大きなキック軸速度dGOを生み出し、それによって速く走ろうとするのですが、このとき、スピード変換比b/aは、それに合わせて小さなものとなってゆきます。このようなわけで、身体の動きはせいいっぱいがんばっているはずなのに、スピードは頭打ちになってくるのです。  このことが、いつまでも、スタートダッシュで使っているデルタクランクキック(δ)のフォームで走ろうとしても、スピードが大きくなって行かないで、100mの後半、外国選手などに抜かされてゆくということの、根本的な理由でした。
 静止状態からスタートする少しばかりの間は、キック脚の膝をしっかりと伸ばして、大きな力を生み出す、ピストンキック(P)やデルタクランクキック(δ)が役だつのですが、これらのスピードは、キック軸速度dGOの大きさによって決まってくるので、キック脚にバネがあって、垂直跳びや立ち三段跳びなどのジャンプ能力にすぐれているという、とくべつな才能がないかぎり、デルタクランクキック(δ)のままで、100m最後まで走って、後半もラストも、どんどんスピードアップしたいというのは無理な相談です。
 図3のグラフによれば、ガンマデルタクランクキック(gd)も、デルタクランクキック(δ)と同じパターンとなっています。ガンマデルタクランクキック(gd)もデルタクランクキック(δ)と同じ運命を背負っているわけです。
 図3のグラフパターンで、ガンマクランクキック(γ)とベータクランクキック(β)は少し違います。ガンマクランクキック(γ)の左のほうは、ガンマデルタクランクキック(gd)やデルタクランクキック(δ)と同じ運命ですが、スピード変換比b/aで6を超える領域にも幾つか存在しています。ベータクランクキック(β)ではスピード変換比b/aで6を超えるものばかりです。ただし、これらのフォームでは、キック軸速度dGOが、それなりに小さくなってしまいます。
 最終的に知りたいのは、ランニングスピードdGが大きいかどうかということです。そこで、グラフの縦軸に全重心水平速度dGをとって調べます。ここまでは□ALLとして、3名のデータを使ってきましたが、ランナーのタイプによって、これらの関係は大きく異なってしまいますので、まず、私のデータ ▽KLO27-29 を取りあげることにします。

 ▽KLO27-29の解析

 次の図4は「スピード変換比b/aと全重心水平速度dG(分類ALL, ▽KLO27-29)ですが、実は、ベータクランクキック(β)のフォームで、この枠から遠く離れてしまったものが収まっていません。それらは図5の表示でもどってきます。
 図4でdG=8.47 [m/s] , b/a=7.24 のところに位置している、黒いプロットの、ベータクランクキックが、スキップB系ベータクランクキックのKLO27(5)です。


図4 スピード変換比b/aと全重心水平速度dG(分類ALL, ▽KLO27-29)

 もっと分かりやすい解析が、次の図5です。横時が「GO軸のキックポイントにおける前傾角∠GOL(KP)」で、縦軸が「全重心水平速度dG」です。このとき(分類ALL, ▽KLO27-29)と注釈さているように、全てのフォームで私のKLO27, KLO28, KLO29のランニングのものです。∠GOL(KP)=4で、dGが7.5から8.0の間にある、黒いプロットが、図4では遠くに離れ過ぎていたベータクランクキックです。


図5 GO軸のキックポイントにおける前傾角∠GOL(KP)と 全重心水平速度dG(分類ALL, ▽KLO27-29)

 図5の横軸∠GOL(KP)は、キックポイントの(左)早い(右)遅いに対応した指標です。完全な重心直下にキックポイントがあると、∠GOL(KP)=0.0となるわけですが、そのあたりのフォームでは大きなスピードdGとはなっていません。
 図5のプロットの上限線を(想像で)描いてみると、富士山のような、山頂から左右にスロープがあるパターンとなります。このときの山頂に位置しているのが、KLO27(5)です。∠GOL(KP)の小さな、向かって左のスロープに、やや速いベータクランクキックが、∠GOL(KP)の大きな、向かって右のスロープに、やや速いガンマクランクキックがあります。ベータクランクキックやガンマクランクキックなら何でもよいというわけではなく、dGの小さな「ふもと」あたりに、黒や青のプロットもちらばっています。
 実は、∠GOL(KP)の大きな、向かって右のスロープにあるベータクランクキックが、スキップB系ガンマクランクキックです。
 私のフォームの場合、ガンマデルタランクキック(gd)やデルタクランクキック(δ)は失敗フォームです。また、アルファクランクキック(α)も、たんなる「つなぎ」のフォームでしかありません。
 この解析結果から、私が目指すべきなのは、スキップB系ガンマクランクキックではなく、スキップB系ベータクランクキック(図6)なのだということが明らかになりました。そのためには、∠GOL(KP)として、4度から8度あたりをねらう必要があります。重心直下ではありませんが、そのあたりで接地して力を加え始め、4度から8度あたりで力とスピードのピークを生み出すというフォームです。もちろん、スキップBの動きを意識して接地へと向かう必要があります。このようなポイントのもとで、空中を飛んでバイクがタイヤを回転させながら接地するような、あるいは、バレーボールなどでのドライブボールの接地のようなイメージをもって、キック脚で地面を素早く強く弾くわけです。それがスキップB系ベータクランクキックとなってゆくはずです。また、このときの足首は自分からスナップをかけて動かそうとするのではなく、足首を固めたままキックすることで、足首のバネが反射的に生み出されて、キック最後のパワーとなるようにします。全体的に、このような動きにおいても、身体重心が水平に跳び出してゆくようにコントロールします。ここ最近のトレーニングでの感じですが、やや身体重心が高い状態でのランニングとなるようです。つまり、接地のときに、あまり沈み込まず、キック脚を膝で比較的伸ばしたまま、前方から後方へと振りまわし、接地とともに、キック棒が全体として前方へと振られるようにイメージします。


図6 スキップB系ベータクランクキックのKLO27(5)

 次の図7は「キック脚硬化比WOL/KOLと全重心水平速度dG(分類ALL, ▽KLO27-29)」です。「キック脚硬化比WOL/KOL」はWOL/KOL=1.0のとき、キック脚全体が形を変えず使われていることになります。このようなフォームを真正クランクキックと呼びます。
 WOL/KOLの値が1.0より大きくなるということは、キック脚の膝点Kより上の太もも部分が目だって大きく動くことを意味します。そのようなフォームをメトロノームキックと呼んでいます。


図7 キック脚硬化比WOL/KOLと全重心水平速度dG(分類ALL, ▽KLO27-29)

 私はWOL/KOL=1.0の真正クランクキックをイメージして走るようにしています。一般に、メトロノームキックより真正ランクキックのほうが、キックベース速度dKが大きくなるという傾向があります。これを大きくしようと思っているわけです。
 WOL/KOLが1.0にならなければ速く走れないというわけではないので、おおよそ、そのような走り方を目指しているというだけです。
 キック脚の全体を固めて、一体化して振りまわすというキックをくり返していると、そのような動きのエンジンとなる、臀筋が発達します。スプリントランニングのトレーニングのあと、臀筋の疲れがどのように取れてゆくのかということを、いつも気にすることとなります。太ももの前部や、後部のハムストリングスには、あまり疲れは残りません。走り始めた最初のころは、痛めたアキレス腱を回復させて、強いものへと「修理する」のが中心的な課題でした。

 ▽TK1-5の解析

 新しい解析法でTK選手のランニングがどのように表わされるのかを見ることとします。TK選手のランニングデータとしては、(2014-01-04の)TKと(2014-04-19の)TK5があります。▽TK1-5は▽TKと▽TK5を合わせたものです。


図8 GO軸のキックポイントにおける前傾角∠GOL(KP)と 全重心水平速度dG(分類ALL, ▽TK1-5)

 TK選手のランニングフォームの中心は、ガンマデルタクランクキック(gd)のようです。キック脚の膝上の太もも部分がよく動くフォームです。


図9 ガンマデルタクランクキックのTK(3)


図10 キック脚硬化比WOL/KOLと全重心水平速度dG(分類ALL, ▽TK1-5)

 TK選手のキック脚硬化比WOL/KOLと全重心水平速度dGを調べたものが図10です。全重心水平速度dGとして突出したフォームが見当たらないので、どのようなフォームを目指してゆけばよいのかということは、よく分かりません。このため、TK選手には、スピードが大きくなるフォームを、いろいろ試して探すようにとコメントしてあります。
 最近のTK選手は、ここでのデータより、もっと速く走れているようです。ランニングフォームのパターンはどのように変化しているのでしょうか。

 ▽XTTY1-8の解析

 ▽XTTY1-8は2014-01-05の▽XTTY1〜3と2014-03-02の▽XTTY4〜5と2014-03-09の▽XTTY8を合わせたものです。
 最初のころの▽XTTY1〜3では主にデルタランクキック(δ)を中心として走っていました。キック軸のバネが優れていることはすぐに分かりました。もったいないなあと思って、声をかけ、もっと速く走れるフォームがあることを説明しました。
 ワイドシザースフォームで、キック脚の膝下部分をできるだけ垂直に立てて接地し、身体重心直下に近いところでキックポイントを生み出すということを説明してトレーニングしてもらったところ、身体重心直下にきょくたんに近いところと、これまでのデルタクランクキックで親しんでいる後方との、2つのところでスピードのピークが現れるという、中途半端なものが見られるようになりました。運動神経が発達しているので、身体重心直下をとらえることができるのでしょう。おそらく、それらの中間あたりに力とスピードのピークをもってくるのがよいとコメントしたと思います。
 このようなわけで、次の図11には、多様なフォームのプロットが、ほぼ真横に広がって分布することになっています。


図11 GO軸のキックポイントにおける前傾角∠GOL(KP)と 全重心水平速度dG(分類ALL, ▽XTTY1-8)

 図11の∠GOL(KP)=10, dG=9.22 [m/s] のところにある、青色のガンマクランクキックのフォームが図12です。また、∠GOL(KP)=18, dG=9.25 [m/s] のところにある、緑色のデルタクランクキックのフォームが図13です。


図12 ガンマクランクキックのXTTY4(6)            図13 デルタクランクキックのXTTY5(9)

 図13のデルタクランクキックでは足首のキックが効いていますが、図12のガンマクランクキックでは、足首のキックが弱いようです。まだ、ガンマクランクキックのフォームは、うまく仕上がっていないようです。


図14 キック脚硬化比WOL/KOLと全重心水平速度dG(分類ALL, ▽XTTY1-8)

 XTTY選手はキック脚の膝上部分もよく動くので、ガンマクランクキックもデルタクランクキックも、WOL/KOLとして広い範囲に分布しています。ベータクランクキックではWOL/KOL=1.0あたりになっています。
 XTTY選手もシーズンインしてスピードが大きくなってきたようです。ランニングフォームがどのように変化しているか調べてみたいところです。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, May 5, 2014)

 

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