高速ランニングフォームのエピソード (67)
XTTY選手のトップスピードランニングフォーム解析

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito @ 9621 ANALYSIS)

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 はじめに

 2014年5月11日(日)のトレーニングにおけるXTTY選手のトップスピードランニングフォームについて解析します。
 XTTY選手のトレーニングにおけるランニングとしてXTTY9からXTTY14までをVTR画像で記録しました。いずれもスターティングブロックからスタートしたものですが、今回解析するXTTY14では、およそ40mから60mの区間におけるランニングを取り扱います。

 全スピードとスピード能力3要素の変化


図1 XTTY14の全スピードとスピード能力3要素の変化

 図1は「XTTY14の全スピードとスピード能力3要素の変化」です。
 全スピードdGの変化とフォーム分類を見ると、この区間の前半はベータクランクキックが数多くあらわれており、後半ではデルタクランクキックが支配的です。ガンマランクキックが前半に2つ現れています。
 キックベース速度dKの変化を見ると、前半のベータクランクキックより、後半のデルタクランクキックのほうが優勢です。
 しかし、相対トルソ速度p(dT-dK)の変化では、前半のベータクランクキックでは安定した値で、比較的大きなものですが、後半のデルタクランクキックでは、値が低下して不安定になっています。このような変化は、ベータクランクキックとデルタクランクキックの、一般的な性質として認められるものです。
 相対スウィング速度q(dS-dB)には、あまり目立った変化は見られません。

 キックポイントでのキック軸の姿勢角∠GOL(kp)における全速度dGの分布

 次の図2は「XTTY4-5における∠GOL(kp)とdG」です。
 図2の横軸は「キックポイントでのキック軸の姿勢角∠GOL(kp)」ですが、おおよそ、この角度に沿って、アルファクランクキックからピストンキックまでが分布することになります。
 XTTY4-5においては、データ番号105のガンマクランクキックと115のデルタクランキックのスピードが優れていました。  表は、他のデータも含めて表示したものです。


図2 XTTY4-5における∠GOL(kp)とdG


図3 XTTY14における∠GOL(kp)とdG

 図3が今回の「XTTY14における∠GOL(kp)とdG」です。
 図2のXTTY4-5では、データ番号105(γ)と115(δ)の他は、dGが8 [m/s] 台のところにありましたが、図3のXTTY14では、dGとして9 [m/s] 台が増えてきました。
 XTTY14ではベータクランクキックのスピードベルが高まってきていますが、トップスピードのランニングフォームとして目指してゆけるものとはなっていません。

 XTTY14ではガンマクランクキックが2つ現れていますが、比較的スピードの低い142と高い144に分かれています。これらの違いは、キックベース速度によるもので、dK(142)=4.6 [m/s] , dK(144)=5.6 [m/s] となっています。このような違いとなるものを調べたところ、キック脚の足首におけるバネの使い方におけるタイミングにあると分かりました。キック足底の拇指球からかかとが地面と作る角度の角速度HOLの値が大きく異なっています。HOL(142)=455.8 [度/秒]なのに対して、HOL(144)=1184.6 [度/秒]なのです。


図4 XTTY14(3)のキック区間解析


図5 XTTY14(5)のキック区間解析

 ガンマクランクキックの2つのフォームで見た、足首のバネを利用するタイミングの違いが、フォーム分類の全体にわたって大きく影響しています。
 データ番号145のベータクランクキックXTTY14(6)と、データ番号151のデルタクランクキックXTTY14(12)を見比べることにより、全体のスピード増加に関わっているということが分かります。


図6 XTTY14(6)のキック区間解析


図7 XTTY14(12)のキック区間解析

 一般的には、キック脚のすねの姿勢角が90度に近い状態からキック動作を始めたほうが、キックベース速度dKが大きくなると考えられますが、これは、このようなスタート状態から、キック脚の膝点を素早く前方へと押しだす動きがともなうという条件が満たされたときのプロセスです。
 しかし、XTTY選手のベータクランクキックでは、これまでのフォームにおいて、まだ、そのような条件を満たして、大きなキックベース速度dKを生み出したものは現れていません。
 XTTY4-5やXTTY8を調べたときの考えでは、図2のデータ番号105のフォームを「手がかり」として、足首のキックによるバネが効いたガンマクランクキックを磨き上げてゆけばスピードが高まってゆくと考えていました。
 しかし、今回のXTTY14では、そのようなガンマクランクキックとなったのは、データ番号144のXTTY14(5)だけでした。  ところで、60m付近で現れたデータ番号151のデルタクランクキックXTTY14(12)が、次の「総合水平速度グラフ」のパターンに見られるように、dK=5.9, dT-dK=3.91, dS-dB=4.68と、3つのスピード要素のレベルが高く、優れたフォームとなっています。このときHOL=1387 [度/秒] で、足首のバネが効いています。
 データ番号147と148もデルタクランクキックですが、HOLが1500 [度/秒] くらいで、dKが6.0 [m/s] くらいになっています。


図8  XTTY14(12)の総合解析

 ランナー感覚の動き

 ランナー感覚の動きを見ると、キック脚の重心軌跡と、スウィング脚の重心軌跡のパターンが、ベータクランクキック、ガンマクランクキック、デルタクランクキックにおいて、かなり違っているということが分かります。


図9 フォーム分類ごとに最も速いもののランナー感覚の動き

 ベータクランクキックでは、キック脚の足首のバネがほとんど利用されていません。スウィング脚の重心軌跡は地面と平行ぎみです。レベルスウィングと言えるでしょう。
 ガンマクランクキックでは、キック脚の足首のバネが利用されています。スウィング脚の重心軌跡がやや上向きですから、アッパースウィングとなっています。
 デルタクランクキックでは、キック脚の足首のバネがもっとも強く利用されています。スウィング脚の重心軌跡は明らかに下向きです。ダウンスウィングとなっています。
 キック脚の足首あたりの動きは、ベータクランクキックがもっとも大きく動いているようですが、全重心水平速度dGの値は他のフォームに負けています。このフォームで足首のバネが利用できて、しかも、水平に跳び出せるように、スウィング脚をダウンスウィングぎみに動かすことができれば、大きな速度が得られるかもしれません。


図10 ベータクランクキックでのランナー感覚の動きの比較

 図10は「ベータクランクキックでのランナー感覚の動きの比較」です。向かって左のフォームのほうが速いものです。違いが何かあるかというと、スウィング脚やキック脚の動きでしょうか。


図11 ガンマクランクキックでのランナー感覚の動きの比較

 図11は「ガンマクランクキックでのランナー感覚の動きの比較」ですが、これについては、明らかに違うところがあります。キック脚の足首の動きです。キック脚で地面を押した反動で、キック足のかかとが浮くか(向かって左)浮かないか(同右)ということなのだと考えられます。


図12 デルタクランクキックでのランナー感覚の動きの比較

 図12は「デルタクランクキックでのランナー感覚の動きの比較」ですが、キック脚の線状軌跡による図形のパターンが、かなり違います。向かって左のXTTY14(12)のほうがdG=9.7と速いのは、膝下部分が前方へと傾く動きと合わせて、キック脚の太もも部分が前方へと動くからのようです。
 向かって右のXTTY14(11)のフォームでは、キック脚のすねがさいしょから大きく傾いてしまっています。これに対して、向かって左のXTTY14(12)では、比較的立った状態から始まっているので、「かかとの浮き」が「膝の前方への送り」につながっているようです。
 これらのことから、同じデルタクランクキックでも、「地面を後方へと押す」イメージのXTTY14(11)ではスピードが大きくならないが、XTTY14(12)のような、もっと前のポイントで「地面を後方へと弾く」イメージのものではスピードが大きくなるようです。

 まとめ

 XTTY選手は足首のバネが弱いわけではなく、キック脚全体を使ってゆく高速ランニングフォームとしての、ベータクランクキックやベータクランクキックで、足首のバネで「最後の弾き」を生み出すようなタイミングを、うまくとれずにいるため、ベータクランクキックやベータクランクキックでスピードが高まらないようです。
 キック脚の使い方がかなり変わってきて、キック脚全体を使ってゆくようになったデルタクランクキックで、足首のバネが効いて、大きなスピードが生み出されています。これが、これまでの中心的なトップスピードランニングフォームだったのかもしれません。
 一般的には、デルタクランクキックでは、キック軸の速度dGO(=a)が水平速度dG(=b)へと変換されるときの比率b/aが、一般的には小さなものとなってしまうので、スピードの上限が低くおさえられてしまうことになります。しかし、データ番号151のデルタクランクキックでは、b/a=4.19となっています。このような値なら、キック軸速度dGOが2.5 [m/s] でも10.0 [m/s] を越えることができます。
 ベータクランクキックにも、ガンマクランクキックにも、デルタクランクキックにも、それぞれ、速く走ることができるフォームと、速く走れそうもないフォームとがあることが分かりました。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, May 17, 2014)

 

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