高速ランニングフォームのエピソード (75) スタート区間において
(山縣亮太選手のような)ハイピッチクランクダッシュが有利な理由

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito @ 9621 ANALYSIS)

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 はじめに

 「エピソード (74) 山縣亮太選手は なぜスタートで先行できるのか」では、山縣選手をY選手とし、隣で走っているランナーをX選手[1] として、この二人のダッシュ区間について調べました。
 ところで、「エピソード (74) 山縣亮太選手は なぜスタートで先行できるのか」では、あいも変わらず、ごちゃごちゃと、細かい比較や計算を繰り返しており、いかにも、私の研究ノートといった内容で、要点が分かりにくいものとなっています。
 要点というのは、「空中での動きの無駄が節約されることにより、ハイピッチとなって、距離における先行状態を生み出すことができる」のところだと考えられますが、このことが、なぜ、有利な理由となるのかという「理論的な説明」が分かりやすくされていません。
 この「エピソード (74) 山縣亮太選手は なぜスタートで先行できるのか」をウェブで公開してから4日ほど、私は仕事と生活の多忙さのため、コンピュータも立ちあげなかったのでしたが、久しぶりに見ると、迷惑メールの多さにうんざり。それと、へたな構成であったものの、「エピソード (74) 山縣亮太選手は なぜスタートで先行できるのか」のページが爆発的に読まれていることを知ったのでした。
 迷惑メールを廃棄するフィルター設定を終えたあと、少しポカーンとしていたら、上記の「理論的な説明」というところが、突然浮かんできました。
 次に、忘れないうちにと記したノートを記録します。

 スタート区間でハイピッチダッシュが有利となる理由

 スタート区間においては、n歩目の全スピード dG(n) より、n+1 歩目の全スピード dG(n+1) のほうが、(ほぼ)常に大きなものとなっている。△G(n) を正として、
   dG(n+1) = dG(n) + △G(n)     ‥‥‥ (式1)
が成立する。
 このため、X選手とY選手の、歩数に対応する全スピード曲線が同じでも、△t 秒早く、次の dG(n+1) の全スピードで走りだしたY選手は、
   △G(n) × △t = △s      ‥‥‥ (式2)
の距離 △s という「差」を生み出すことができる。
 しかし、ほとんど同じ速度で推移する中間疾走においては、全スピード曲線が同じレベルであるとき、ピッチの違いは距離の差とならない。

 シミュレーションモデルランナーによる考察

 X選手とY選手の0歩はいずれも(1秒間に30コマのビデオ画像で)10コマを要しており、この0歩における平均全スピードも dG(0) = 2.0 [m/s] で、同じとします。
 1歩目の平均全スピードは二人とも 3.0 [m/s] とします。このあとも、歩数が進むにつれ、△G = 1.0 [m/s] ずつ、8歩のところまで、平均全スピードが上がってゆくものとします。8歩目の平均全スピードは、二人とも 10.0 [m/s] です。
 ただし、1歩目から8歩目まで、Y選手は1歩を(1秒間に30コマのビデオ画像で)6コマ、X選手は7コマで走ったとします。
 (問1)Y選手が8歩目を終えたとき、X選手は何歩目の何コマ目を終えた状態ですか。
 (説明)Y選手は0歩目で10コマ、1歩目から8歩目までで、8×6コマ、合計58コマの時間をかけています。X選手は0歩目で同じ10コマで、58コマから10コマを引いた48コマを7で割ると6余り6となりますから、6歩と7歩目の6コマ目を終えた状態となります。
 (答え)7歩目の6コマ目を終えた状態

 (問2)Y選手が8歩目を終えたとき、Y選手とX選手の距離(差)は何メートルですか。
 (説明)Y選手やX選手の0歩は同じ条件なので、1歩目以降に進んだ距離を求めます。ビデオ1コマの時間は1/30秒です。
 Y選手が1歩目から8歩目までに進んだ距離S(Y)は、[距離]=[速度]×[時間]に基づいて、次のように求めることができます。
 S(Y)={3+4+5+6+7+8+9+10}×6×(1/30)=52×6×(1/30)=10.4 [m]
 X選手が1歩目から7歩目の6コマ目までに進んだ距離S(X)は、次のように求めることができます。
 S(X)={3+4+5+6+7+8}×7×(1/30) + 9×6×(1/30)
   =33×7×(1/30) + 9×6×(1/30)
   =(231+54)×(1/30)
   =285×(1/30)
   =9.5 [m]
 よって、Y選手とX選手の距離(差)は10.4-9.5=0.9 [m]
 (答え)0.9 [m]

 (補足)このように、1歩ずつで生み出す全スピードが同じであっても、1歩ずつに要する時間(ピッチに対応)が異なれば、(全スピードが徐々に大きくなるというスタート区間の性質により)先に大きな速度で走ることとなる効果が積み重なって、距離の差が生み出されることとなります。

 (Written by KLOTSUKI Kinohito, Jun. 29, 2014)

 参照資料

[1] 「高速ランニングフォームのエピソード (74) 山縣亮太選手は なぜスタートで先行できるのか」の解析元となった画像は次のところにあります。
 山縣亮太 男子100m予選1組目 織田記念陸上2013
 上記ビデオを見れば分かることですが、X選手というのは、平慎士選手のことです。

 

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