高速ランニングフォームのエピソード (77)
空手ガンマ走法(Karate γ)のトレーニング法

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito @ 9621 ANALYSIS)

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 はじめに

 スプリントランニングスピードを高めるための空手ガンマ走法(Karate γ)というものをマスターしてゆくためのトレーニング法について、やさしいところから、難しいところまでの、いろいろなことについて語ろうと思います。

 [A] 中腰ガンマウォークでスピードを上げてゆく

 まずは「中腰ガンマウォーク」がどのようなものかということを説明する必要があります。
 実際に、この運動「中腰ガンマウォーク」を指導したのは、わずか一人だけです。そして、そのことは、次のページに説明してあります。

 高速ランニングフォームのためのトレーニングメニュー(15)オフシーズンの短距離トレーニング (B) 初心者R10さんへの指導

 スタートダッシュの効果的な技術から、トップスピードランニングで心がけることまで、次に説明するGTGというコードで、ひとつひとつ具体的にまとめています。
 そこから、今回のテーマである「空手ガンマ走法(Karate γ)」に関連するところを抜き出しておきます。

 (前略)この問題を除き、当日の現場で私が技術指導したことの内容を、帰ってからメモしました。それを、解説を加えながら記します。記号のGTGは「技術指導する(Give technical guidance)」の頭文字です。(中略)

 GTG(8) スタートダッシュの何歩かに続いて、さいしょに目指すべきフォームは、ガンマクランクキックです。その中でもとくに、中腰ガンマクランクキックが役だちます。この中腰ガンマクランクキックのフォームを覚えるためには、まず、中腰で速く歩く、ウォークゴーオンという運動を行います。
 R10さんには、私の隣のレーンで、私の運動を見ながら、いっしょに動いて真似てもらいました。
 まず、脚の膝を少し曲げて、中腰の姿勢をとります。腰の位置を少し下げるわけです。そして、その腰の高さのまま、前方へと歩きます。このとき、真下を押すようにしつつ、どんどん歩くスピードを上げてゆきます。
 私がどんどんスピードを上げて歩く、その横についてゆこうとして、身体の小さなR10さんは、いつしか、ウォークゴーオンではなく、少し空中に浮く、 ジョッグゴーオンになっていました。これは偶然のことですが、おかげで、ジョッグゴーオンをあらためて教える必要がなくなりましたし、中腰ガンマクランクキックというのは、このジョッグゴーオンのスピードをランニングレベルへと変えたものなので、これで、中腰ガンマクランクキックの動きを覚えたことになり ます。
 重心を少し下げた状態で、真下を押すということを心がけて走るのが、ダッシュの後に目指す、中腰ガンマクランクキックのフォームです。
 あとの解析で分かりますが、R10さんは、これだけのドリルで、見事な中腰ガンマクランクキックのランニングフォームを生み出すことができました。
 (中略)

 GTG(10) 全習法として、スピードを追い求めるのではなく、動きに着目し、@脚に力を入れておくスタートから、A 3歩だけの太ももに力をこめたダッシュ、B 続く何歩かは足首に力をこめて、そして、中腰で地面をしっかりと真下に押して走る、中腰ガンマクランクキック、Cスピードが高まってきたら、膝下を振り出して、すねを垂直にして接地したフォームへと変えてゆきます。

 GTG(11) 動きに慣れてきたら、地面を真下に押すところで、地面に割るべき板があるようにイメージして、それを割るような、「空手パワーキック」を意識的に行います。これも、私がやって、実際にスピードがどんどん高まるところを見せて、真似てもらいました。


 わずか10歳の女子選手に、わずか1時間で、ここまで高度なことを指導したということを思い出しましたが、おそらくR10さんは、これらのことを全て理解し、覚えているわけではないと思われます。それから、自分の所属チームでのトレーニングに戻り、ときどき、試合で活躍するところを見ていると、「ああ忘れているな」と思うこともあって、いかにもはがゆい気持ちもするのですが、これが、私の指導の「ゆるさ」なので、しかたがありません。

 補足をしておきます。
 「中腰」というのは、両脚の膝を少し「ゆるめて」立つポーズのことです。「ゆるめる」というのは感覚的なもので、膝の角度を180度で直立するのにくらべ、150度から160度くらいにすると、膝の上下の腱や筋肉が強く引っ張られて緊張します。
 たとえば、バーベルのシャフトを腰にかかえて、両脚の力で持ち上げるとき、もっとも大きな力を生み出す瞬間が、このような「中腰」のポーズなのです。
 キック脚が「中腰」の状態をつくっているとき、もっとも大きな力を生み出すことができるのです。中腰ガンマクランクキックは、このことを巧みに利用するための動きだと言えます。
 「ガンマクランクキック」という言葉を小学生に使って指導するわけではありません。
 重心直下でのキックから、キック脚の膝をしっかり伸ばして後方へ蹴るキックまでを5つに分類したときの、「前から3番目のキックフォーム」だと言いました。
 私が実際にゆっくり動いて、どのようなものかを見せるので、分かるのでしょうが、言葉でさらに説明すると、キック脚の膝を少し曲げたまま、地面を強く弾くというものです。このとき、さいしょは垂直に立っていた膝下部分が、上から押されることにより、すねを前方へと傾け、スパイク面を後方へと送るようになります。
 このような動きのなかで、地面をしっかりととらえておくためには、「中腰」である必要があるのです。
 「中腰ガンマウォーク」でとくに心がけることは、「できるだけ重心直下に近いところで地面を真下に押す」ということです。
 スピードを上げようとして、もっと後方を押そうとしてはいけません。それでは「中腰デルタウォーク」や「中腰ピストンウォーク」になってしまいます。
 やってみれば分かることですが、「中腰デルタウォーク」や「中腰ピストンウォーク」より、「中腰ガンマウォーク」のほうが速く移動できるのです。このあたりのコツを、走る前に、歩くことによってつかんでおきます。
 私の「中腰ガンマウォーク」に追いつこうとして、R10さんが「中腰ガンマジョッグ」をやってしまったように、両脚が地面から離れてしまってもかまいません。
 大切なのは、「中腰」の高さをキープするということと、「できるだけ重心直下に近いところで地面を真下に押す」ということです。そして、これらの条件を守って、水平移動スピードを高めてゆくということです。

 [B] さらにスピードを上げて中腰ガンマクランクキックのランニングへ

 「中腰ガンマウォーク」から「中腰ガンマジョッグ」へと変化できれば、「中腰ガンマラン」もしくは「中腰ガンマクランクキック(のランニング)」を試みます。
 これまでのランニングフォームとして、スプリントランニングにおける、初心者の、たいていの選手は、スタートダッシュで使いやすい、地面を後方へと蹴る、デルタクランクキックで走るクセがしみこんでいますので、そのようなランナーに、私が「中腰ガンマラン」を見せて、それを真似させようしても、なかなかうまくなぞれないようです。
 マック式ドリルのスキップAを行って、水平スピードを高めてゆくという方法もあります。デルタクランクキックのクセをとるため、スキップAを100mで何本も繰り返します。スキップAという運動は、身体重心直下を真下に蹴るというものだからです。
 マック式ドリルのハイニースキップBをこなせるようにして、そのときの上半身を、少しずつ前傾させてゆくという、難度の高い方法で、うまく指導できたこともありました。しかし、これはかなり遠回りの方法です。
 このように、いろいろと試みてきたのですが、もっとも簡単で確実なのは、「中腰ガンマウォーク」から「中腰ガンマジョッグ」へと変化し、そこから自然と「中腰ガンマラン」へとたどるというものです。
 これらのプロセスにおいて、@「中腰の高さをキープする」ということと、A「できるだけ重心直下に近いところで地面を真下に押す」ということを、きちんと心がけて反復するようにしてください。

 [C] 重心直下を真下に押しているのに水平スピードを高めることができるという感覚をつかむ(真正クランクキックでのガンマクランクキック)

 フロートやウィンドスプリント、あるいは、コントロールスピードでのランニングなどで、もちろん、「中腰をキープしながら」のことですが、地面を後方へと押すのではなく、「重心直下を真下に押す」という感覚で走っているにもかかわらず、ピョンピョンと上に跳ぶのではなく、水平スピードが大きくなって行くという現象を生み出してください。
 これは、キック脚を膝で曲げたまま使うということと、足首で意図的にスナップをかけるのではなく、足首はバネを感じたまま固めておき、膝と足首を幾分か曲げた、キック脚全体として、いっしょに使うことによって実現できます。
 キック脚を曲がった「草刈り鎌」のようにイメージして、それを振りまわす感じです。そのとき、真正クランクキックと呼んでいる、(足首あたりが自然と変わるものの)キック脚全体の形がほぼ変わらない動きで、もっとも大きな力を生み出すことができて、巧みに、水平スピードの変化へと利用することができるのです。
 次のページでは、「キック脚全体の形がほぼ変わらない動き」というのを「ブリキの脚で」と表現して説明しています。

 高速ランニングフォームについてのエピソード(49) クランクキックはブリキの脚で―― クランクレッグ比WOL/KOLで見るキック脚の硬化

 [D] 地面をとらえる瞬間に力を込める空手パワーキックを意識して走る

 上に述べた [C] の動きがうまくできるようになったら、地面をとらえる瞬間に力を込める空手パワーキックを意識して走ってください。
 「空手パワーキック」というのは、地面にキック脚の蹴りで割るべき「板」があるとイメージして、地面を踏みつける瞬間に動きのスピードをあげ、同時に力を込めることにより、スピード×力としてのパワーを高めたキックを行うことです。
 おそらく、スタートダッシュのときは、このような、意図的な強いキックをおこなっていることがあるのでしようが、スピードが高まったあとでの、中間疾走では、平均的な動くスピードを高めてピッチアップしようとして、あまり動きの変化が見られない、「一様な動き」になってしまっているものです。
 10年ほど前の研究で、ガトリン選手のスローモーション画像でのスピード変化を調べていたら、瞬間的に大きなピークが現れて驚いたことがあります。
 今から思えば、これがトップランナーの秘密だったということが分かります。
 スプリントランニングのキックフォームの中で、すべての動きを速くする必要はないのです。もっとも速くすべきところは、地面をとらえる瞬間だけなのです。

 [E] ガンマクランクキックと空手パワーキックを組み合わせる

 これは[C]と[D]の、まとめの表現です。
 ガンマクランクキックではなく、アルファクランクキックやベータクランクキックだと、地面を強く蹴ろうとすると、どうしても高く跳び上がってしまうことになり、水平スピードへとキック軸に沿った動きを利用することができません。  次のページに「アルファクランクキックのメカニズム」について説明してありますが、アルファクランクキックでは、水平スピードの増加は、おもにスウィング脚の動きで行われます。

 アルファクランクキックのメカニズム

 高速ランニングフォームの研究で分かったこと(11)アルファクランクキックやベータクランキックの加速メカニズム

 デルタクランクキックやピストンキックでは、スピード変換を行うときが重心直下から離れてしまうことになり、幾何的な理由から、効率よく水平スピードを大きくすることができません。このことは、次のページで説明しています。

 高速ランニングフォームについてのエピソード(12) GO前傾角の統計調査 ランナーの身体重心直下でキックすることの効果を検証する

 高速ランニングフォームのエピソード(52)ランニングスピード生成のメカニズム

 ガンマクランクキックと空手パワーキックを組み合わせることにより、地面を強くキックすることで大きな水平速度を生み出している解析結果が次のページにあります。

 高速ランニングフォームのエピソード(76)スプリントランニングスピードを高める空手ガンマ走法(Karate γ)の勧め

 [F] 空手ガンマ走法におけるピッチとストライドとリラクセィションの意味

 ここのテーマに関連した内容が次のページにあります。

 短距離ランニングフォーム解析 (44) YG選手のランニングフォームについての問題点

 (前略)スプリントランニングで、大きなスピードを生み出すために必要な条件が2つあるということが理解できるようになりました。
 一つ目の条件は、効率よく大きなスピードを生み出すことができる、ガンマクランクキックのフォームをしっかりと覚えるということです。
 二つ目の条件とは、「効率」の前に生み出されるべきもののことで、できるだけ大きな力を生み出すということです。このようなことを意図的に行うため、ずいぶんと前から、空手パワーキックという動きを見出していました。これは、走路に、足蹴りで割るべき「板」があるとイメージして、地面をキック脚で踏みつけるとき、集中的に力を生み出すというものです。本来キック脚にバネをもっているスプリンターは、ほぼ無意識にやっていることなのですが、平凡なバネしかもっていなくても、意図的に力を込めるということをやってゆけば、大きな力を生み出せるようになってくるものです。
 かなり前に、この「空手パワーキック」というコツを見出していたものの、だからといって、ただやみくもに「走路の板」を割ろうとしても、速く走れないという問題が起こってきたのです。しかし、この問題は、ランニングフォームを幾つかに分類し、それぞれについて調べることにより、答えを見出すことができました。
 その答えというのは、「空手パワーキックが有効なのはガンマクランクキックだけ」というものです。地面を真下に強く押すというところを、さらに強調して、地面を真下に強く蹴るというのが、「空手パワーキック」なのですが、このような方向の動きを、うまく水平方向の動きへと変換してくれるのが「ガンマクランクキック」なのです。
 このような組み合わせによるランニングをマスターするため、最近私は、「空手ガンマ(Karate γ)」とメモして、ドリルやランニングを行うことにしています。
 「空手ガンマ(Karate γ)」のドリルというのは、ハーフスキップAくらいの動きから始めて、足首を固めた状態で、地面を鉛直下方に蹴るということに集中し、そのとき、身体重心が上へと浮くのではなく、ほぼ水平に前進するように、全体のいろいろなことを調整するのです。足首やキック脚の膝の角度も固定して、真正クランクキックとなるようにします。とにかく、「下に蹴っているのに前進スピードが上がってゆく」という条件がみたされれば成功です。
 このような感覚がつかめてきたら、スキップB系の軽いランニングの動きのなかで、「空手ガンマ(Karate γ)」のキックをイメージして、より大きな力を生み出し、その一回ずつの蹴りによって、水平スピードが大きくなってゆくことを確認します。このため、このランニングは遅めのスピードから始め、100mか110mのラストでトップスピードが感じられるようにします。
 「空手ガンマ(Karate γ)」のランニングができるようになると、これまで、ほぼ一様な脚の回転スピードで動いていたものが、キックの瞬間だけ速く感じられるようになるので、その他の時間の動きが遅く感じられるようになります。これが、40年前から唱えられていた、「リラクセィション」の極意なのだということが分かります。


 ピッチというのは1秒あたりの歩数 [歩/秒] です。ストライドとは1歩の長さ [m/歩] です。これにより、ピッチ [歩/秒] × ストライド [m/歩] = スピード [m/秒] となります。
 地面を後ろの方まで押す、デルタクランクキックやピストンキックに比べ、重心直下あたりでのキックで終わってしまう、アルファクランクキックやベータクランクキック、それとガンマクランクキックでは、ピッチが大きくなる傾向にあります。
 しかし、このようなピッチの値は、どこまでも大きくできるというものではなく、あるていどの値におちつくことになります。1秒間に30コマ撮影できるビデオにおける、1歩のコマ数で表わすと、6コマくらいが限界です。ピッチに読み替えると、30÷6=5.0 [歩/秒] です。
 このようなとき、スピードが大きくなるための要素は、残っているストライドのみとなります。
 ここで空手パワーキックという「呪文」が役だちます。スピードがより大きくなるように、パワーをこめて地面を蹴ることにより、ストライドが大きくなるわけです。
 ピッチという言葉にまどわされて、1秒あたりの歩数を大きくしようと、より長い距離を脚が動くこととなるデルタクランクキックで、その動き全体のスピードをあげようとしても、キックの瞬間でのパワーが不足していれば、ストライドが伸びなくなるのです。
 たとえ、少々ピッチが遅いデルタクランクキックであっても、キックの瞬間のパワーを大きくすれば、ストライドが伸びるかもしれません。
 しかし、スタートダッシュのときなら、そのような関係も成立するようですが、もっとスピードが大きくなってきた、中間疾走のレベルでは、デルタクランクキックでの強いキックと、ランニングスピードとには、あまり強い相関がみられませんでした。
 トップスピードとなっているころに、強いキックとランニングスピードとで強い相関がみられるのは、上手なガンマクランクキックをマスターしたスプリンターだけでした。
 1歩に要する時間が同じであったとしても、キックの瞬間での動きがとくべつに速ければ、のこりの動きのところで時間的な余裕が生まれることになります。
 このような、1歩のキック動作において、動きの感覚の違いを感じられるということが、リラクセィションという言葉にこめられた意味だったのだと考えられます。つまり、1歩の動きが「一様なもの」である状態から、「速いところ」と「遅いところ」とに分けることができたとき、速く走ろうとしているのに、力を抜いて遅く動く局面があるということを、リラクセィションという言葉で表現したわけです。

 [G] FG速筋線維を強化しておく

 ここのところの解説はページのタイトルを変えて行うこととします。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, Oct. 6, 2014)

 

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