高速ランニングフォームのエピソード
(80) 「山縣亮太 10.03 男子100m 決勝 全日本実業団陸上2016」
から学ぶこと

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito @ 9621 ANALYSIS)

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 はじめに

 本屋さんで陸上競技の雑誌の表紙を見て、山縣選手が10秒03で走ったことを知り、さっそく、家のコンピュータで検索して、そのときのレースを見ました。次のサイトのものです。
 山縣亮太 10.03 男子100m 決勝 全日本実業団陸上2016

 「用意」(セット)の構え

 ケンブリッジ飛鳥選手の腰の位置が高すぎる。
 顔をやや上げ、レーンの前のほうを見ているのは、山縣選手と馬場選手のみ。この二人のスタートが、やはりよい。
 馬場選手の腰の位置がいちばん低く、両脚の膝の角度も、かなり良い状態となっている。
 ケンブリッジ飛鳥選手の両脚の膝の角度は開きすぎている。これでは、低く出てゆくことはできない。
 その次によくないのは、高瀬選手で、腰の位置が高く、膝の角度が大きい。

 一歩目の姿勢

 上半身という、ロケット本体と、腰から下の、ロケットの推進部が、うまく組み合わさっているのが、やはり山縣選手で、それに次ぐのが馬場選手。9レーンの猶木選手は、ここの姿勢はよいように見えるが、やや上半身が浮きすぎている。
 ケンブリッジ飛鳥選手の姿勢では、上半身の重心を、下半身がうまくとらえられていず、いわゆる「腰が入っていない」フォームとなっている。

 ロケットスタートからダッシュ数歩のところ

 やはり、山縣選手と馬場選手がとてもよい。
 この二人についてよく見てほしいのは、顔がいつまでも前方の下を向いているというところ。このような、顔の向きで頭と胴体部分のつながりをコントロールすることにより、上半身の前傾を、理想的な状態にもってゆける。
 スタート直後の2歩から4歩の、足をつく位置をやや外側にする、ロケットスタートの原則は、ほとんどの選手がやっているように見えるが、ロケットスタートの力学的な本質をきちんと実現して、後ろに力を加え、身体を前方へと押す感覚のことが分かっているのは、この二人だけのように見える。
 ここのところで、山縣選手と馬場選手に、少し違いがでており、山縣選手は「腹が凹んでいる」が、馬場選手は「まっすぐ」になっている。ここのところで、山縣選手のほうが、より水平に進むことができているとみなせる。
 他の選手は、上半身が、すでに起きていて、後方からのロケットブースターの押し、というイメージが感じ取れない。

 ガトリンダッシュのフォーム

 ガトリンダッシュと私が呼んでいるフォームは、日本語に変換すると、山縣ダッシュとなるもので、この二人は、地面をとらえた後の、足の引き出す動きが早いのである。
 地面に力を加えたことを感じ取ったら、その足をいつまでも後方へと送らず、ただちに、膝でリードして、前方へと運ぶ。
 この動きは、かなり意図的にやろうとしないと、出来ない。
 もちろん、この二人は、何度もそうやっているので、レースのときは、自然に、そのような動きとなっていることだろう。
 すでにダイナミックステレオタイプとして、小脳にプログラミングされているのだ。
 この動きを、私は小学生に教えたことがある。ちょうどその前に、他のコーチが、ラダーを使って小走りをするトレーニングをやっていたので、その動きと同じだと指導したら、多くの選手が、かなりできるようになった。
 しかし、何度も繰り返して指導できなかったので、身体で覚える(ダイナミックステレオタイプの形成)というところまでゆかず、すぐに忘れてしまったようだ。
 山縣選手は、他の選手が無駄に使っている時間を節約して、ここのところで、少しずつリードを広げてゆく。
 同時に、ここのところで、地面に加える力を強く意識することにより、加速度が生じ、ランニングスピードが大きくなる。
 このことが(身体で)分かっているのは、山縣選手だけかもしれない。

 中間疾走での山縣選手の工夫

 今回のレースで、中間疾走のフォームとして、山縣選手について、私が「おや、変わった」と感じたのは、膝から下を前方に、かなり意図的に振り出している、という点である。
 とくに、右脚での動きが大きい。
 重心は低いままだが、これで、後半、もう少し足首を固くして、馬のひづめのようにとらえ、長くした脚を、もっと大きく回転させた状態で、地面をとらえたら、絶好調のときのヨハン・ブレークのフォームに近づく。
 私がキリン走と呼んでいるメカニズムである。
 中間疾走で、膝から下を、意図的にであっても、強く前方に振り出すことによって、何がおこるのかというと、そのキック脚を接地するときの位置が、重心直下に近づき、私が規定している、ベータクランクキックという、力学的な効率が大きいフォームを生み出すことができるのである。
 前半の加速段階では、ガンマクランクでよい、というより、ガンマクランクキックのほうがよいのであるが、スピードが高まってきたら、ベータクランクキックのフォームが出てくるようにイメージすることで、さらにランニングスピードがあがる。
 山縣選手は、このあと、もっと足首を強くして、後半の接地時、地面をとらえる時間を短くする感覚へと進めば、さらに大きなランニングスピードが得られることだろう。
 このようなフォームは、実は、形だけまねても効果がでない。
 そのような動きの中で、ランニングスピードをさらに大きくするための、加速度を生み出すための、力をどのように生み出して、それを地面に伝え、その反作用を、自分の全重心で受け取るか、ということが、うまく実現できている必要がある。
 言葉で説明するとむつかしいが、ランナーの動きとしては、力強さや勢いが感じ取れるかどうかということで、判定することができる。
 100mのスプリンターにおける、優れたランナーは、一種の芸術家だ。
 味わい深く鑑賞するところが、いくらでもある。
 (Written by KLOTSUKI Kinohito, November 8, 2016)

 参照資料

[1] 山縣亮太 10.03 男子100m 決勝 全日本実業団陸上2016
From https://www.youtube.com/watch?v=tyc4HYKcaAg

[2] エントリー
2レーン 10.52秒 九鬼巧(NTN)
3レーン 10.51秒 草野誓也(リニアート)
4レーン 10.16秒 ケンブリッジ飛鳥(ドーム)
5レーン 10.48秒 高瀬慧(富士通)
6レーン 10.12秒 山縣亮太(SEIKO)
7レーン 10.44秒 馬場友也(LALL)
8レーン 10.53秒 安孫子充裕(山形市役所)
9レーン 10.51秒 猶木雅文(大阪ガス)
From http://kokospo.com/3459.html

[3] レースの結果
順位 選手 所属 記録
1 山縣亮太 SEIKO 10.03
2 ケンブリッジ飛鳥 ドーム 10.15
3 馬場友也 LALL 10.38
4 草野誓也 リニアート 10.45
5 猶木雅文 大阪ガス 10.49
6 九鬼巧     NTN 10.54
7 安孫子充裕 山形市役所 10.60
8 高瀬慧 富士通 10.66
From http://kokospo.com/3459.html


 

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