高速ランニングフォームの研究で分かったこと(9)拡大ページの見方

黒月樹人(KULOTSUKI Kinohito @ 9621 ANALYSIS)

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 はじめに

 「短距離ランニングフォーム解析」のシリーズでたびたび導入している、「ランニングフォーム概観」で、画像をクリックして現れる、拡大ページの見方を説明します。
 このような拡大ページの構成は、[1] 拡大ランニングフォーム、[2] キック局面の詳細データ、[3] 総合解析、[4] スピード能力3要素寄与式 dG=p(dT-dK)+dK+q(dS-dB) の三角表示の4つを並べたものです。

 [1] 拡大ランニングフォーム


図1 MRT(7) 拡大ランニングフォーム

 これはMRT選手(三重マスターズ陸上M50クラスの森田 享選手)の100mレースにおける、スタートから6歩目のランニングフォームです。このとき撮影したビデオ画像は1秒間に30コマ撮影するものでした。その1コマの画像から、1つのステックピクチャーフォームを構成しています。このときのMRT選手の1歩は6コマでした。
 撮影時に、ランナーが右から左に向かって走っているように、私はポジションどりをしています。なぜかというと、解析ソフトの都合で、右向きに走っているポーズでないと、うまく描けないようになっているからです(このとき、赤色が右手と右脚を、青色が左手と左脚を示しています)。そのため、ランナーが左から右に向かって走っている画像のときには、ビデオ画像を1フレーム(1コマ)ずつJPG画像に展開してから、BMP画像に変換するときに、左右を逆転させています。このような操作を行うため、ランナーが左から右に向かって走っている画像を解析したときは、青と赤で色分けしている、左右が逆になります。ソフトで少し工夫すれば、統一的に描写出来そうですが、まだ、そのように改良していませんので、あしからず。
 完全な真横ではないフォームは、いろいろな座標を読みとって角度をもとめ、コンピュータ内部のシミュレーションロボットにランナーのフォームをなぞらせるときに、座標回転をおこなって、ほぼ真横からのフォームへと変換していますが、スタンドなどからの、斜め上方から撮影されたフォームを座標回転で修正することまでは出来ません。斜め上方からだと、とくに、キック脚の足首あたりの測定値が不確かになってしまいます。ここは重要なところなので、ランナーと同じ高さで、ランナーの足までしっかりと写せるようにしておきます。
 キック局面の解析には、上記フォームで、キック脚が地面についているところの、4つのフォームを選びます。MRT(7)でしたら、右から2つめから5つめです。ときどき、最初や最後のフォームとして、地面に足がついていないものを選ぶこともありますが、各部の動きを角度で求めてロボットに与えているので、これで問題はありません。

 [2] キック局面の詳細データ


図2 [2] キック局面の詳細データ

 図2は「[2] キック局面の詳細データ」のページに、説明のため、丸数字を加えたものです。実際の「[2] キック局面の詳細データ」のページには、これらの丸数字はありません。
 @ 描写されているステックピクチャー(G, H, I)の1mを示すバ―です。
 A ランナーの全重心(G)の水平速度dxと鉛直速度dyの詳細フォーム(ビデオ画像間を1/10にした時間での再構成フォーム)における値です。下のグラフにおいて、水平速度dxはCの黒いプロット、鉛直速度dyは中抜きの緑のプロットで示されています。
 B 1)##から30)##は、詳細フォームにおける∠TWNの値。Tは(頭と胴体と両腕で構成される)上半身の重心、Wは腰点、NはHに示してあるように、Wから鉛直上方に伸ばした、Tと同じ高さの点です。B直下の「TWN」はキックポイント(H)前後の∠TWNの平均∠速度(単位は[度/秒])です。操作的には、キックポイント(H, 16[d])前5詳細フォーム(11[d])の、キック局開始フォーム(G)の∠TWNの値11)22.8から、キックポイント後5詳細フォーム(21[d])の、キック局面終了フォーム(I)∠TWNの値21)17.5を引いた22.8-17.5=5.3を、キック区間の時間(10/30秒 → 正しくは10/300秒)を考慮して3倍(→ 正しくは30倍)し、TWN=(22.8-17.5)×(10/30)=15.9 [度/秒](→ 正しくは[×10度/秒])と計算されます。グラフには∠TWNの値が中抜きエンジ色のプロットで表示されています。グラフの中央の白い領域がキック区間で、ここでのエンジプロットの傾きが角速度TWNの大きさに対応しています。∠TWNとして22.8度から17.5度へと変化しているので、上半身を少し後方へと反らせたことになります。
 C 全重心水平速度dxのプロットです。
 D 全重心鉛直速度dyのプロットです。
 E ∠TWN(トルソ角)のプロットです。
 F ∠TWNと同じように、ランナーのいろいろな角度を調べて求めた角速度(Jに示してあるもの)の中から、(1)TOL/KOLや(2)WOL/KOLの比を求め、さらに、(1)/(2)として、(TOL/KOL)/(WOL/KOL)=TOL/WOLを求めたものです。TO/WOは、キックポイント(H)における長さ(TOとWO)の比です。TOL(28.9)、WOL(47.5)、KOL(44.3)はJでの値を書き写したものです。
 G キック区間開始フォームです。キックポイントのフォームの5詳細フォーム前となります。ここでは11[d]のフォームです。
 H キックポイントのフォームです。下の丸数字12にある、peak dx(G) = 16[d] がキックポイントの詳細フォーム位置を示しています。
 I キック区間終了フォームです。キックポイントのフォームの5詳細フォーム後となります。ここでは21[d]のフォームです。これらのキック区間開始フォームと終了フォームを前後5詳細フォームとしているのは、操作上の便宜によるもので、実際のキック区間を意味しているものではありません。ランナーによっては、キック区間が、5詳細フォームぐらいの短いものから、20詳細フォームほどの永いものまで、いろいろあります。
 J キック区間の諸データ一覧です。飛値を10としているので、開始フォームと終了フォームとなりますが、飛値を1とすれば、キック区間の全ての詳細フォームを描くことになります。WKLなどの記号で、Lは一つ前の記号に対して、水平後方の任意の点を、Nは同じく鉛直上方の任意の点を意味します。最後にLを使っているときのWKLは、WK軸の姿勢角(の角速度)と呼びます。ちなみに、WKLはmomoの角速度で、KALはsuneの角速度です。最後にNを使っているときは、その前の軸に関する「前傾角」と呼びます。
 K キックポイントにおける諸データ一覧です。momoはキック脚の太ももの姿勢角、suneはキック脚のすねの姿勢角で、これらのmomoとsuneの組み合わせで、キックフォーム分類が行われます([3] 総合解析の◇フォーム分類グラフ◇を参照)。K膝角のKはキック脚を、S膝角のSはスウィング脚を、それぞれ意味する記号として使っています。K底角は、キック脚の足底の角度で、かかとをH、支点をO、支点から地面後方に引いた線の任意の点をLとしたときの、∠HOLのことです。GO前傾角は、GO軸の前傾角で、∠GOL(ここはLをNとすべきところ)を意味します。SO前傾角は∠SOMとなります。S角とT角は示したとおりのものです。T角はのちに「トルソ前傾角」と名づけ、「トルソ振動」などを考慮するときに多用しました。S角については、これまで、あまり考慮していません。S角の違いには、さほど重要な意味はなさそうです。
 MRT(7)は、この解析ページのタイトル。MRTはランナー記号で、(7)は解析番号ですが、今回の解析では(スターティングブロックを押すときを1としての)スタートからの歩数-1の数字となります。

 ※[おことわり] 10詳細フォームの時間を10/30[秒]としていましたが、これは10/300[秒]でした。このため、角速度の値にたいする、Bの次元(単位)を[度/秒]としていましたが、正しくは、[×10度/秒]となります。TOL/KOLなどの比の値は変わりません。

 [3] 総合解析




図3 [3] 総合解析

 @ ◇フォーム分類グラフ◇です。キックポイント(peak dx(G) = 16[d])のフォームにおける、キック脚太ももの姿勢角momo(θt)と、同すねの姿勢角sune(θs)の関係から、グラフに描いた範囲で、フォームを分類します。εはイプシロンクランクキックで、走幅跳の踏切1歩前でしばしば確認される、きよくたんに重心の低いフォームです。通常のランニングでは、スタートダッシュのときに確認された例があります。点線の対角線あたりのフォームを標準(高)フォーム、それより上を腰高フォーム、下を中腰フォームと呼んで区別しますが、それらのげんみつな境界は定義していません。きょくたんな腰高フォームとして、ハードルの踏切でのフォームがあります。ハードルのフォームを研究するとしたら、左上を中心として半円を描き、べつのフォームとして名称をつける必要があるかもしれませんが、通常のランニング、走幅跳の助走の他は、まだ何も手をつけていません。
 A キック区間開始フォームです。
 B キックポイントのフォームです。
 C キック区間終了のフォームです。
 このあとは、◇総合水平速度グラフ◇におけるものです。
 D キック軸加速度比aGO/gです。Kの、dGOという、キック軸GOの時間変化を、さらに時間で微分して加速度aGOを求め、重力加速度gで割った、加速度どうしの比です。体重の何倍の力でキック軸GOを伸ばそうとしたかを意味しています。
 E スウィング脚重心(S)水平速度dSです。
 F 全重心(G)水平速度dGです。グラフ下の値表示では、表示領域の都合で、dを省略して、Gとしてあります。
 G キック棒(上半身とキック脚をあわせて、棒のように見立てたもの)重心(B)水平速度dBです。
 H キック脚重心(K)水平速度dKです。スピード能力3要素の一つです。EとHの色は、それぞれの脚のステックピクチャーにおける色と対応しています。左に向かって走っている画像で解析したときは、赤(エンジ)が右脚で、青(紺)が左脚となります。右に向かって走っている画像は、左右反転させてから解析するので、色の対応が左右逆になります。
 I 相対スウィング速度dS-dBです。この式のとおり、Eスウィング脚重心水平速度dSから、Gキック棒重心水平速度dBを引いたものとなります。スピード能力3要素の一つです。グラフ下の値表示では、表示領域の都合で、dを省略して、S-Bとしてあります。
 J 相対トルソ速度dT-dKです。この式のとおり、上半身重心水平速度dT(グラフでは描いていないが、常にFの少し上に描かれる)から、Hキック脚重心水平速度dKを引いたものです。スピード能力3要素の一つです。グラフ下の値表示では、表示領域の都合で、dを省略して、T-Kとしてあります。
 K dGOは水平速度ではなく、キック軸GOの長さの時間変化(速度と同じ次元)を求め、dGOと表わしたものです。
 ◇総合水平速度グラフ◇の下部にある値表示は、ほとんど、キックポイントにおけるものです。一つ違うのはaGO/gで、KP=1.4がキックポイントでの値で、Max=3.7が、この曲線のピークでの値となります。KPはほとんど考慮しておらず、もっぱらMaxを評価します。理想的には(ガンマクランクキックなどで観測されるように)、キックポイントの少し前にaGO/gのピークがあって、このときのGO軸における力が作用し、dG値が大きくなって、キックポイントとなるものですが、このようになっていないフォームもたくさん観測されています。とくに、アルファクランクキックでは、aGO/gのピークではなく、トラフ(海溝、グラフの凹みの底)での、すなわち、数学における負極(運動力学的には、GO軸が短くなって反発しようとする瞬間)において、キックポイントが生じています。
 MRT(7)は、この解析ページのタイトルです。MRTはランナー記号で、(7)は解析番号ですが、MRT選手の解析では(スターティングブロックを押すときを1としての)スタートからの歩数-1の数字となります。

 [4] スピード能力3要素寄与式 dG=p(dT-dK)+dK+q(dS-dB) の三角表示




図4 [4] スピード能力3要素寄与式 dG=p(dT-dK)+dK+q(dS-dB) の三角表示

 スピード能力3要素の大きさを一つの平面グラフで直感的に見ることができるように工夫したものです。
 横軸は、キック脚重心水平速度dKと、全重心水平速度dGとの共用で、この図では4 [m/s] から12 [m/s] までを表示してあります。
 まず、キック脚重心水平速度(キックベース速度)dKの値を、三角形の左縦辺の位置として決めます。
 ヒップドライブ速度(ここの表示をまだ直していませんが、これは、ぺンジュラム速度を経由して、相対トルソ速度となっています)p(dT-dK)の値は、0-dGと表示してある横線から上へ、縦軸の上向き値に従ってプロットします。
 相対スウィング速度q(dS-dB)の値は、0-dGと表示してある横線から下へ、縦軸の下向き値に従ってプロットします。
 dKの縦辺の長さがp(dT-dK) + q(dS-dB)となり、この縦辺の長さ(速度値)を、dKの縦辺位置(dK値)から右へと求め、dG値のプロットとなります。これでdG = dK + p(dT-dK) + q(dS-dB)が完成します。
 三角形の面積の大きさはp(dT-dK) + q(dS-dB)に由来しますが、これだけではなく、dKの大きさを示す、横軸での位置に注目する必要があります。バランスのとれたフォームでは、dKが60%、p(dT-dK)が30%、q(dS-dB)が10%となることが多いようです。しかし、ランナーのタイプにより、これらのパーセンテージの傾向は異なります。
 (Written by KULOTSUKI Kinohito, Oct 22, 2013)

 

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