黒月樹人のタバスコキメラミーム8「MM実験」
Tabasco Chimera Meam 8 of K.K. as “MM experiment”
黒月樹人 (KINOHITO KULOTSUKI, treeman9621.com)

黒月樹人のタバスコキメラミーム8「MM実験」

 1. メタフォーの爆弾 「MM実験」と略したのは「マイケルソン-モーリーの実験」のことである。タバスコキメラミーム5「ローレンツの局所時間」の最後のところで、私はこの実験の内容について、暗示的なことを述べた。次のような文章である。「もうひとつ、これらの構築物が砂に変わってしまう爆弾がある。それは、マイケルソン-モーリーの実験が、光の経路差を基礎としてくみ上げていたモデルに関するものである。この爆弾が完成したとしたら、莫大な量の知識が、砂のようになって形を残さず崩れてしまうかもしれない。」いささか攻撃的な表現だが、ここに暗示されている「爆弾」は、マイケルソン-モーリーの実験の解釈が、フィッツジェラルド-ローレンツの収縮仮説へとつながり、ローレンツの局所時間と組み合わさって、まだマイナーな知名度しかないが、ポアンカレやローレンツの相対性理論や、メジャーなアインシュタインの特殊相対性理論へと向かってゆくのだから、これらの基礎のところに「爆弾」が埋まっていたとしたら、そして、それが爆発でもしたら、とんでもないことになるはずだ。そのようなものが存在して、これはメタフォーの世界のことであるが、ほんとうに「爆弾」のような機能を持っているものであるのかどうかということを、これから説明してゆこう。

 2. 白色雑音 私が最初に、「マイケルソン-モーリーの実験」を、モデルの構成から数式の展開までの詳しい内容について学んだのは、「現代物理学」(江沢 洋) という本の記述によってである。これは大学でのテキストとしての利用を見込んだ本であるらしく、まるで講義を受けているような流れで学ぶことができた。しかし、この実験のことを批判している側の考えを、インターネットのサイトで調べて、もう一度読み直してみると、いくつか問題点があることが分かった。そこで、私は、これについても、原論文を調べて、その内容を分析してみようと考えた。なぜかというと、これに先んじて、アインシュタインの特殊相対性理論に問題があることを知っていたが、さらに、アインシュタインの特殊相対性理論が100年も経つうちに、賛否両論の陣営の解釈の違いが強く影響して、いろいろな矛盾がでてきたり、仮説の定義が変わったりしてきているのを知っていたので、これらの白色雑音ぎみの情報をフィルターにかけるかわりに、アインシュタインの原論文を直接読んで、その意味するところの構造を、思考言語コアを利用して分析したことがあるからである。

 3. MM原論文 「マイケルソン-モーリーの実験」は有名なものだったので、これについての論文も、インターネットで探すことができた。これは英語の論文だった。やはり、この内容を正確に理解しようと考えて、これを日本語へと翻訳することにした。ただし、この実験の構成原理とでも呼べそうな、前半の部分だけにした。これらの実験のデータ取得とその分析について述べてある後半の部分の結果は、他の人の読みを信用することにした。おそらく、その部分には、誤解などの問題点は潜んでいないだろうという判断である。このような考え方は一般的ではないが、今回の問題では、「あやしい部分」は、この実験の「構成原理」のところにありそうだからである。この部分的な翻訳文は、私のホームページの「キメラミーム」のページに収録してある。「マイケルソンとモーリーの原論文の翻訳文(一部分)」という項目のものである。その原論文のタイトルは「地球と発光性エーテルの相対的な動きについて(On the Relative Motion of the Earth and the Luminiferous Ether)」というものである。

 4. ローレンツ論文 このキメラミームのページの、この原論文の翻訳文のそばに、これと紛らわしいタイトルの、やはり翻訳文のページがある。「マイケルソンの干渉実験」H. A. ローレンツの翻訳文、というものだ。これのタイトルは「マイケルソンの干渉実験 H. A. ローレンツ (MICHELSON’S INTERFERENCE EXPERIMENT)」としているが、原論文はドイツ語で、英語に翻訳されたものを、私はドーバー (DOVER) の「EINSTEIN, H.A.LORENTZ, H.WEYL, H.MINKOWSKI, “THE PRINCIPLE OF RELATIVITY」で見つけて、日本語へと翻訳したのである。いわば、(翻訳上の) 困難の2乗の産物である。これを日本語へと翻訳したときは、まだまだ学習不足で、これの内容を掌握することができず、とりあえず逐語的に訳しておくしかしかたがなかった。しかも、ドイツ語→英語→日本語の、困難の2乗の産物である。今読んでも、内容はぼんやりしていて、細かな表現が正確なのかどうかも、ちょっと怪しい。しかし、現在の知識をベースにして、この論文を読んでみると、これの意図するところは分かりそうである。この「マイケルソンの干渉実験」という論文でローレンツが主張したかったことのあらましは、およそ、次のようなことであろう。

 5. 収縮因子 マイケルソンとモーリーの1887年の実験で、構成原理のモデルから導かれる、地球の進行方向に沿った腕 (P) で往復する光の時間と、これと垂直な方向の腕 (Q) で往復する光の時間との、差は、Lv2/c3と見積もられている。ここでLはそれぞれの腕の長さで、いずれもLに等しいものとされている。vはエーテルに対する地球の速度。cは光速度である。このときの見積もり値は、[時間] の次元であるが、[時間][距離][速度] の式より、ここでは光が移動しているので、[速度] には光速度cをあてはめることができる。すると、この式での[距離] は「経路差」という長さの量である。この経路差は、上記の時間差 (Lv2/c3) に光速度cを掛けたものであるから、Lv2/c2 となる。そこで、Pの腕もQの腕も同じ長さのLであると仮定されているのであるが、この腕のどちらかが、Lより短くなっていたとしたら、このときの経路差を説明できると、ローレンツは考えた。光はこの腕を往復するから、長さLの腕の、Lv2/2c2 が短くなったと仮定される値となる。そして、ローレンツは、少し気取って、抽象的な表現を組み込んでいる。Pの腕について考えると、本来1と考えられていたものが1+δへと変えられ、Qの腕では、本来1と考えられていたものが1+εへと変えられたとすると、ε-δ= v2/2c2  (1) という方程式が得られると述べている。つまり、このような差は、PQの片側だけで生じていると考えるのは早計で、このように、両方の寄与があるという、一般的な考えから始めなければならないということである。この方程式の解の予想として、ローレンツは、Pがすべて引き受けるか、Qがすべて引き受けるか、PQが半分ずつ引き受けるか、という三つの可能性をあげている。しかし、その理由は説明していない。ここまで説明したのだから、どうして、1/32/3とか、2/53/5などの比で分け合う可能性がないのかということを説明しておくべきだろう。このあとの議論でローレンツは収縮因子の値を表わすことになるが、この収縮因子の決め方が、あまりはっきりしたものではない。はっきりしていないというより、まったく分からない。ローレンツは、何らかの収縮が腕PQの物体に起こっているとし、その現象は、それらを構成している二つの分子S1S2のところで起こっているはずだと進み、分子間の力について議論しようとしているが、ここの論理が、いったい何のことか分からない。そして、「双方の系において力のx成分は同じであり、一方y成分とz成分は (1v2/c2)1/2 の因数によって、お互いに異なっていると仮定すると、S1における力は均衡の状態になり、S2でも常にそのようになる」と説明している。ここで、x方向が、S1S2の運動方向である。ここの説明で、S1S2のどちらかが静止していいて、他方がvで動いていると説明している。このモデルが、いったい何に対応しているのかが、私には分からない。このような記述の後に、突然ローレンツは、次のような説明文を書いている。「変異は、分子の、それ自身による協定の、この配置について、自然にもたらされるものとなり、動きの方向における短縮が1に対して (1v2/c2)1/2 となるが」と、これはさらに続くが、このあとの記述は理解できる。この因数 (1v2/c2)1/2 を近似計算で展開して、v/c 4次のオーダー以降の微小な成分を無視すれば、1v2/2c2 の式が得られ、先に考察した予測値の、「Pがすべて引き受ける」という状況の、δ= v2/2c2 , ε=0 となるということだ。この論文での問題点は、この因数 (収縮因子) (1v2/c2)1/2 が、なぜこの形で記述されなければならないかということが論理的に説明されていないということである。そして、この因数の導入は、単に「仮定」されているだけであるということである。ひょっとすると、他の理由から決めたことを、こちらでも利用したいので、このように導入したのかもしれない。この「他の理由」とは、おそらくマクスウェルの方程式のことである。しかし、このことを議論するのは、ここではひかえておく。そのためには、さらに詳しい資料を、たっぷりと用意する必要があるからだ。

 6. 死なばもろとも 「マイケルソンとモーリーの実験」の結果を、何の疑いもなく信じて、その結果を解釈しようと、さまざまな理論を考えてきた、ここではローレンツを代表とする科学者たちが、生み出してきたものは、「ローレンツの局所時間」と「フィッツジェラルド-ローレンツ収縮」という、二大「仮説」である。これらは、仮説の2乗とも表現してもよいものであり、どちらか一方だけが生きのこって、どちらかが消えるものではない。同じ船に乗った旅人であり、嵐にあって船が沈んだら、「死なばもろとも」ということになる。

7. MM原論文の二つのモデル ここまでは、まだ、このページの前奏曲にすぎない。メインテーマの旋律は、これから現れる。「マイケルソンとモーリーの原論文の翻訳文(一部分)」の内容へと戻って、謎解きの手がかり部分を探さなければならない。彼らは、この論文において、実験の原理を説明するため、二つの図を挿入している。この図は、少し大きめの図2の余白に、やや小さな図1が組み込まれているというもので、混乱を呼びやすい。そこで、これらを分離させて、図の順番どおりに並べることにした。次の図である。

Tabasco_CM8_MM_experiment_01.jpg

1 運動系 (地球座標系) モデル 図2 静止系 (エーテル座標系) モデル

これまでの説明の中で用いた用語を使えば、図中のscx軸であり、エーテルに対して動いている地球の向きである。ローレンツの論文にあるPの腕がaca の経路部分であり、Qの腕はaba の経路部分である。sは光源で、dは光の干渉を見る装置である。aのところにあるはハーフミラーで、光はここで反射する成分と透過する成分とに分かれる。bcのところの線は完全な鏡である。実際の装置は、鏡を数多く使って、腕の長さをそのままにして、経路をのばす工夫をしている。その装置の図も、この論文には掲載されている。PQの腕の長さは、上記の説明に倣ってLとしておこう (原論文ではD)。重要な定義をしなければならない。この図の記号を優先的に用いるとすると、これまで使ってきた光速度cの記号を、ここで用いると混乱してしまう。そこで、ここでは (この論文では)、光速度をVとしている。これを採用しておこう。私は図1を「運動系モデル」もしくは「地球座標系モデル」と呼び、図2を「静止系モデル」もしくは「エーテル座標系モデル」と呼ぶことにしたい。原論文では、これらのモデルについて、特別な言葉は定義されていない。ここでは、まず、図1の地球座標系モデルで、この実験のプロセスを説明しよう。

 8. 地球座標系モデル 光が光源sから出て、aのハーフミラーに向かう。ここで光は、bの鏡に向かう成分と、ハーフミラーを透過して、cの鏡に向かう成分へと分かれる。それぞれの鏡で反射してaに戻ってきた光は、ここでも、それぞれ反射光と透過光に別れる。かくして、bcから戻ってきた光は、それぞれの分身を、sdへと向かわせる。このとき、dへと向かった、bからの光の成分と、cからの光の成分が、ともにdで観測され、波長がずれて干渉縞が現れるかどうか判定される。波長がずれていなければ、干渉縞は現れない。これらのdへ向かう二つの光がaのハーフミラーを透過するのは、それぞれ1回ずつなので、このハーフミラーで生じる「ずれ」や「遅れ」は、いずれにも共通しているので、ここでの結果には影響しない。

 9. 地球の運動 さて、このときの図1でのモデルは、「ほんとう」のことではないと、マイケルソンらは考えている。地球はエーテルの中で速度vをもって運動しているということと、光は静止しているエーテルを媒体として、このエーテルに対して速度cで運動するということを考慮して、図2のモデルを構成した。そして、このモデルに従って、光の経路差を見積もったのである。このことについて、詳しく説明して行こう。

 10. エーテル座標系モデルP 光源sから出た光は、やはりaのハーフミラーに向かう。ここまでの変化は共通しているので、何も問われていない。ここで透過光と反射光に別れ、透過光のほうは、cの鏡に向かい、反射光はbの鏡に向かう。さて、このとき、エーテルに対して光が速度cで進み、同時にこのとき、地球はsからcの向きに速度vで動いているから、地球上にある、これらの装置も、やはり速度vで、sからcの向きへと動いている。光がaからcへと移動した時間をt1とおくと、ここでの光速度はVであるから、Vt1Lvt1 となる。これを変形すると、(Vv)t1L となる。よく用いられるのが、これをさらに変形した、t1L(Vv) である。これが「光はエーテルの向かい風を受けて、その速度がVv となる」と見なされる根拠である。本当に減ったわけではない。式を変形して、このような形式になるだけである。

 この光がcで反射されてaへと戻るとき、ある時間t2 を要するが、この時間に、avt2の距離だけ近づいていることになる。この状況から、Vt2Lvt2 となり、(Vv)t2L を経過して、t2L(Vv) へと変形される。これが「光はエーテルの追い風を受けて、その速度がVv となる」と見なされる根拠である。本当に増えたわけではない。式の変形で、このような形式になるだけだ。こうして、移動したaであるa1のところに戻ってきた光は、このハーフミラーで、透過光と反射光に別れ、透過光は光源へと戻り、反射光が計測されるため、dへ向かう。eは焦点の位置で、fは装置の記号だったと思う。あまり問題には関わってこない記号である。

 11. エーテル座標系モデルQ腕 今度は、少し戻って、光源sからaにやってきた光が、ここで反射したほうの旅について考える。この反射光は、bの鏡に向かうが、aからbまでの経過時間t3の間に、この鏡bvt3の距離を移動して図2bにあるから、ここで反射する。b1は、光がaで反射したときのbの鏡の位置である。少し添え字の使い方が混乱しているが、知らん顔を決め込もう。問題点は、こんなところにあるわけではない。このときの反射光がaから図2bに向かって、a1へと戻るところは、あちこちで疑問視されている。aのハーフミラーの角度を、acの線に対して、正確に45度としているのかどうか。これについては、45度だと言い切る人もいるし、少しずれていると言う人もいる。「アインシュタインの特殊相対性理論」を支持する人々の中でも、この見解は異なっている。さて、この問題については、後で取り上げることにして、この光の旅路を終えさせよう。bで反射してa1へと戻ってきた光は、ここで反射光と透過光に別れ、反射光は光源へと戻り、透過光がdへと進む。このときの旅の経路は説明できた。忘れてならないのは、aba1の経路をたどった、この光の所要時間である。これは、2t3であるが、この値を、LVvで表現しておかなければならない。図2aからb1の直線がLである。b1bの距離がvt3である。三角形ab1bでピタゴラスの定理を適用すると、abの経路長は、{L2(vt3)2}1/2となる。よって、aba1の経路長は、鏡像の三角形の同じ斜辺の長さを加えればよいから、2{L2(vt3)2}1/2となる。さて、ここで問題は、この経路を進む光の速度である。これも議論の的になっている。この議論について解説してゆくと、計算が進まないので、マイケルソンらの考えにしたがって、Vとおこう。すると、2t32{L2(vt3)2}1/2V となる。これを変形してゆこう。まずV t3{L2(vt3)2}1/2 となる。これを平方しよう。すると、V2 t32L2v2t32 となり、変形して、(V2v2)t32=L2 となる。ここから、t3L(V2v2)1/2 である。aba1の経路での時間は、この2倍であるから、2t32L(V2v2)1/2 という式となる。

 12. エーテル座標系モデル経路差 このようにして、aで別れた二つの光が、bcの鏡で反射して、a1へと戻り、ここで、それぞれの分身と分かれ、dへと、そろって進むわけである。しかし、図1の状況では考えなかった、これらの二つの光の、時間の経路差というものが、ここで考慮されなければならない。cで反射した光の、腕Pの所要時間は、t1L(Vv)t2L(Vv)を加えたものである。一方、bで反射した光の、腕Qの所要時間は、2t32L(V2v2)1/2 である。これらの所要時間の差を⊿tと呼び、⊿t= t1t22t3と定義しよう。ここへ、求めた式を代入して、整理しよう。まず

t1t2 L(Vv) L(Vv)

L(Vv) (V2v2) L(Vv)(V2v2)

2LV(V2v2)

となる。よって、

t 2LV(V2v2)2L(V2v2)1/2

     2LV(V2v2)2L(V2v2)1/2(V2v2)

     2L{V(V2v2)1/2}(V2v2)

 ここで、少し方針を変える。時間で経路差を考えるのが自然ではあるが、マイケルソンらもローレンツも、距離の経路差で議論しているので、これを⊿Lとおこう。すると、ここで旅しているのは光なので、⊿L   Vtとなる。

   ⊿L 2L{V2V(V2v2)1/2}(V2v2)

2L{1(1v2V2)1/2}(1v2V2)

2L{1(1v2V2)1/2}(1v2V2)1

ここで、(1a)n ≈ 1na   , |a|<<1  の近似公式を適用しよう。

L 2L{1(1v22V2)}(1v2V2) 

  2L{v22V2}(1v2V2) 

  L(v2V2)(1v2V2) 

   Lv2V2Lv4V4 

 マイケルソンらの論文では、右辺第2項の4次の項は無視すると判断している。よって、次式が決まる。(マイケルソンらの論文では、LのところはDである。)

   ⊿L ≈ Lv2V2

 ローレンツが論文の中で考察しようとしたのは、時間の差である。⊿t=⊿LVであるから、⊿t ≈ Lv2V3 であり、このときの光速度はcで表されていたから、⊿t ≈ Lv2c3 となる。

13. 補色の背景画 ようやく、ここまで説明できた。しかし、これらは、メインテーマを浮かびあがらせるための、「補色の背景画」にすぎない。気分的には、ようやく、下塗りが終わったというところなのである。今までだったら、このあたりでキーボードを打つ手を休めて、「つづき」としたいところだが、そんなことをしたら、次回も、この「補色の背景画」を繰り返して描写しなければならないことになる。それは明らかに面倒なことである。このページの読者は、ここで休まれてもよいが、必ず、ここに戻ってきて、このあとの展開をたどってほしい。

 14. 二つの視点 マイケルソンとモーリーの実験の論文では、光速度をVとおいている。この論文の式を参照するので、この体系のまま進みたい。さて、この光速度Vであるが、この速度は静止しているエーテルを媒体にして伝わっており、このエーテルの中にあると考えてよい物差し (ruler) で距離が測られ、エーテル座標系の「絶対時間」で時間が規定されて、この光速度Vが計測されていると考えられる。しかし、マイケルソンらは、この視点を時々混乱させているように見える。エーテル座標系の記述で、P腕を光がaからcへと進むときには、P腕の距離Lを進む光の速度がVvで、cからa1へと戻るときには、P腕の距離Lを戻る光の速度がVvであるかのような表現をとっている。このときの描写では、解説者もしくは観測者は、エーテル座標系での現象を取り扱っているのにも関わらず、地球座標系にあるかのように考えている。「エーテルの向かい風」と「エーテルの追い風」というのは、地球に固定された観測者が感じとって言っているものである。私は上記の説明で、この部分の状況を、エーテル座標系の視点から眺めて描写した。数学的には、これらの二つの視点から構成した式は、互いに同値関係を守って変形してゆくことができ、数学的には同じものとみなすことができる。整理しておこう。P腕で光が進んで戻るときの現象では、エーテル座標系で構成した式を変形していって、地球座標系での式を作ることができる。このとき、光の速度Vは、エーテルの風の速度-v (地球の速度vの逆向き) によって、減ったり増えたりするように見なされる。このときのP腕で起こる現象での式については数学的に同じ結果となり、解釈の表現のほうで工夫していることになるが、Q腕で起こる現象では、どのようになるだろうか。

 15. Q腕を走る光 マイケルソン-モーリーの原論文では、Q腕を走る光に対しては、この「エーテルの風」の効果は表れないとしている。そして、図2のように、光はabaへと二つの背中あわせになった直角三角形の斜辺を旅すると描写している。このときの視点は、いったい、どちらなのだろうか。地球座標系の視点なのか、それともエーテル座標系の視点なのか。これは、エーテル座標系による視点と考えられる。光はエーテルに対して、acの線に対して90度の方向に進もうとしているのだが、この間に、エーテルの中での、地球の動きにともなった装置の動きによって、b鏡が進んでいるので、光がb鏡に到達したときには、図2b1ではなくbの位置になっているという解釈だ。ここが議論の的になっている。光はb1へ行くはずだとか、aのハーフミラーの角度が調整されているとか、b1bの距離を計算するとわずかな量であり、この光はレーザー光ではないから、そのように広がる成分もあるからとか、さまざまな仮説が飛び交っている。これらについて議論してゆくと迷路に入り込んでしまうので、ここでは、考察のための方針を絞って、ひとつずつ考えてゆくことにする。

 16. ベクトル算 マイケルソンらは、P腕の光を考察するときには、この現象を地球座標系の観察者の立場で見て、光の速度Vにはエーテルの風の速度が影響して、Vv Vv の速度になるとしている。これらの速度は実は、向きを持った値なので、ベクトルである。たまたまP腕の現象では、光の速度ベクトルVPとエーテルの風の速度ベクトルveが一直線上にあるので、これらの絶対値であるVvを、そのままの値で計算することになった。成分表示すると、VP(V, 0, 0), ve(v, 0, 0) となる。このような表記で、Q腕の光のベクトルVQを考えると、VQ(0, V, 0) である。このとき、マイケルソンらは、この、エーテルの風の向きと垂直な方向へ走る光に対する影響が「ない」と考えたが、これは明らかに間違っている。ここでも、ve(v, 0, 0) は作用するのである。そうでなければ、数学のベクトル算の世界は幻となって消えてしまう。VQve(0, V, 0)(v, 0, 0)(v, V, 0) となる。このようなベクトルに変化して、Q腕をaからbへと向かう光は進むことになる。鏡bで反射して、aのほうへ向かう光は、今度はy成分だけ逆向きになるから (v, V, 0) の成分を持つベクトルの速度で走る。y成分に関して、時間t3を掛けて移動距離を計算すると、往復で差し引き0となって、sからcへ向かう直線上に戻ることになるが、x成分の計算をすると、-2vt3 の距離だけ移動することになる。これは、ちようど、aからa1までの距離を、aからsの方向へと進んだ位置に相当する。しかし、ハーフミラーのaa1の位置に進んでいるのであるから、図2での、この光が戻る位置はaということになる。実際に計算するとわずかな量であろうが、理論的には、ハーフミラーの透過と反射の点a1へと戻ってこられないことになってしまうのである。このようなモデルは明らかに成立しない。マイケルソンらは、これらの理論モデルを構築するときに、明らかに誤っている。地球座標系に立って、エーテルの風の効果を考慮するという視点は、P腕に関する光については、エーテル座標系からの視点と矛盾なく理解しあえるように見えていたものの、Q腕に関する光については、まったく予想とは異なる現象を生み出したのである。よって、このような考察法は廃棄しなければならない。

 17. エーテルの風の効果 それでは、どのように解釈すればよいのか。エーテル座標系の現象には、エーテル座標系に立って眺めるという視点がある。「エーテルの風」を考えるのではなく、これと同じ意味である、「地球の運動」あるいは「装置全体の運動」を考えるという視点だ。この視点からの考察で、P腕についての現象は、t1L(Vv) t2L(Vv) の二つの式としても記述することができる。ちなみに、これらのもとの式は、Vt1Lvt1 Vt2Lvt2 である。この視点を保持しながら、Q腕の光を説明することはできるだろうか。光はエーテルの効果とは関係なく、定められた向きに光速度Vで進み、そのとき装置全体も速度vで進むのである。この説明はすこしあいまいになっている。言い直そう。Q腕を進む光は、y方向へと光速度Vで進み、そのとき装置全体はx方向へと速度vで進むのである。反射鏡bは十分広いとして、この光を反射すると仮定する。この光はbで反射されてsからcへのラインに戻る。このときのQ腕の光の経路は、図2でのab1aとなる。このとき、ハーフミラーの透過と反射の位置はa1へと移動している。これは、やはり成立しない。上記の16章での考察と同じ結果である。それでは、正しい解釈は存在するのか。

 18. 実験結果からのスタート 正しい解釈は、このような理論モデルでは得られない。得られたのは、エーテルの風の効果のようなものは存在しないということであった。この実験の結果である。ここからスタートすることにしよう。この実験の結果は、図1の地球座標系のモデルにおいて、P腕の、acを進む光も、caを進む光も、Q腕の、abを進む光も、baを進む光も、すべて同じ光速度Vを持っていることを意味している。これらのとき、腕の長さはPQLである。すると、これらの距離Lを光がVで走る時間は、すべて等しい。これをt0とおこう。このとき、図2の静止しているエーテルの中で、地球と、そこに乗っている装置全体が速度vで動いているとする視点では、この現象をどのように理解することができるか。今度はQ腕の光の旅から考えよう。

これは、図1で起こっている現象を、図2の観点で眺めているのである。図1で光はabを時間t0で走る。このときの距離Lは、図2では、ab1の長さである。ところが、図2の視点で、光はabへと進むと見ている。光がbに到達する瞬間は、図1と図2で同じはずである。ひとつの現象を、異なる視点から見ているだけであるから、このような事象の瞬間が「ずれ」てしまうことはない。ここの論理を取り違えると、いろいろなパラドックスが生まれてしまう。すなわち、このときの現象の時間はt0のままなのである。しかし、図2では、abの距離DabLではなく、これより長い。計算すると、Dab=(L2v2t02)1/2 となる。時間はt0だから、このときの速度VQ1は、VQ1=(L2v2t02)1/2t0 となる。これを計算してみよう。[] VQ12 t02=L2v2t02 [] VQ12 =(Lt0)2v2 [] VQ12 =V2v2  [] VQ1 =(V2v2)1/2 となる。この絶対値の速度をもつ、もとのベクトルを推定すると、VQ1(v, V, 0) となるだろう。これは、v(v, 0, 0) V1(0, V, 0) のベクトル和である。Q腕を戻るba1の経路での速度ベクトルはVQ2(v, V, 0) となる。このときは、v(v, 0, 0) V2(0, V, 0) のベクトル和である。このときV2は図1baを走る光の速度ベクトルである。

 19. P腕での計算 このような結果は、P腕を走る光にも成立するはずである。図1acを走る光の速度ベクトルはV3=(V, 0, 0) であり ca を走る光の速度ベクトルは V4=(V, 0, 0) である。図2ac を走る光の速度ベクトルは、VP1V3v(V, 0, 0)(v, 0, 0)(Vv, 0, 0) となり、ca1 のほうは VP2V4v(V, 0, 0)(v, 0, 0)(Vv, 0,0) となる。この計算結果は、図1の現象と図2の現象の違いは、図2のほうでは、装置全体が動いているので、これに応じて、距離がそれぞれ変化するが、この変化に対応して、光の速度も、v(v, 0, 0)とのベクトル和によって変化することになり、これらの変化が相殺して、時間t0はどこでも同じまま保たれるということを意味している。この主張に対する具体的な計算は行っていないが、これは容易に計算できる。また、このモデルの構成上、明らかに成立する。

20. まとめ これらのことをまとめてみよう。つまり、図1の地球座標系では、光はP腕に沿ってもQ腕に沿っても、同じ光速度Vで走るが、この現象を、この地球座標系全体がvの速度ベクトルで動いていることが観測できるエーテル座標系から見ると、「それぞれの向きに走る光の速度ベクトルに対して、このvをベクトル算して合成した速度ベクトルのもとに、それぞれの光は進んでいる」と観測できるのである。ここでは、光速度Vの上限を定めるような法則は存在しない。何も特別な原理は必要ないし、進行方向に物体が収縮しなければならないという仮定も、運動する物体の時間は遅くなるという仮定も、いずれも必要ない。この実験の結果は、ごくごく普通の数学で理解することができる。

21. 想像 おそらく、この実験の結果は、エーテルの存在が否定されたと解釈するより、エーテルが地球といっしょに動いていると考えたほうが自然だろう。なぜなら、現代においては、かつてのエーテルの役目を「真空」が受け持っているからである。この「真空」は、「何もない」のではなく、何らかの機能を持っているものである。そこに「何もない」と見てしまうのは、私たちの科学の分析能力が不足しているからに違いない。

それでは、宇宙空間で静止しているエーテルとの関係はどのようになるのか。それは新しい問題であり、まだ調べられていないと見なすことができる。海は地球とともに動いており、そこへ差し込む光は、水での速度が変わるので屈折するが、それによく似た現象が、宇宙のエーテルと地球とともに動くエーテルの境界で起こっているのかもしれない。ただ、その変化量がわずかなものであるとか、一様な変化であるために、何の変化も感じ取れないでいるのかもしれない。

ここで、ふと考えたことは、ほんのSFまがいの想像である。ここの部分については、無視してもらってもかまわない。(2008.08.30)