黒月樹人のタバスコキメラミーム18「ダランベルシアンの尻尾」
Tabasco Chimera Meam 18 of K.K. as “The tail of d’Alembertian”
黒月樹人 (KINOHITO KULOTSUKI, treeman9621.com)

 1. 円の公式

タバスコキメラミーム9の「SF変換」の記述に誤りがあった。円の円周の公式と面積の公式とを混乱させてしまい、円周の公式を2πr2として、解析を進めてしまったのである。あわてて、「SF変換」を修正して、「改正版」としたが、このとき、奇妙なことに気がついた。ここでは、ガリレイ変換とローレンツ変換の違いを調べて、ローレンツ変換の代わりとなる、新しい変換を見出そうとしていたのだったが、そのような必要性があるのかどうかということを問わなければならなくなってしまった。そして、このことを調べてゆくと、これまでどうしても分からなかった、謎の手がかりが見えてきた。このときの謎というのは、アインシュタインの特殊相対性理論の、その骨組みであるローレンツ変換の成立理由である。なぜ、このような、仮定に仮定を重ねた変換式が成立し、そして、何も疑われることなく信じられてきたのか。アインシュタインの特殊相対性理論で生まれるパラドックスの源泉は、このあたりに潜んでいたのかもしれない。

2. ガリレイ変換

まず、x座標を含む、一つの静止座標系Sを考える。このx座標の正の向きに、速度vで運動している物体がある。そこに乗っている観測者が、この物体が運動していることを知らないで、この運動物体に原点があって、この運動物体では、あたかも静止しているように思える座標系S’ を考える。このS’ を運動座標系と呼ぼう。この運動座標系でのx軸の値をx’と表すこととする。すると、x’xvt という関係が成立する。ガリレイ変換では、残る変数のyzとは変わらず、さらにtも変わらない。つまり、y’y, z’z, t’t である。まとめると、次のようになる。

  x’xvt,   y’y,   z’z,   t’t                                 (1)

 3. ローレンツ変換

ローレンツ変換は、アインシュタインの特殊相対性理論のバックボーンである。これが無ければ、アインシュタインがもたらした数々のパラドックスは生まれない。

このようなローレンツ変換の奇妙な性質は、この変換式が表わす、距離の項と時間の項の、変化についての様式にある。距離の項については、一般的なベクトル表示でなくても、一つの座標だけで考えても問題はない。ここではx座標としよう。

ローレンツ変換では、x座標の変換式と、さらに、時間tにも変換式があって、これらが共に奇妙な変化をするという。距離のほうでは、収縮因子γ=(1v2/c2)1/2 が、xvt の全体に掛かる。x’=γ(xvt)。時間のほうでは、もう少し複雑になっていて、移動速度と移動距離に関連した修正項が組み込まれている。

言葉で説明するより、数式で表現したほうが分かりやすいだろう。つまり、次のようになっている。t’= γ(tvx/c2) 。あとの座標は、y’y, z’z であり、ガリレイ変換と変わらない。まとめると、次のようになる。

  x’=γ(xvt),   y’y,   z’z,   t’= γ(tvx/c2),   γ=(1v2/c2)1/2   (2)

 4. ローレンツ変換の二つの仮説

ローレンツ変換の特徴的な二つの式には、一つずつ、これに対応した仮説の名前が付いている。距離の変換式には、「フィッツジェラルド-ローレンツ短縮」という名が結びつく。時間の変換式は、「ローレンツの局所時間」と呼んでもよい。

 運動している物体は、その進む向きに、速度に関係した、ある割合で収縮するという仮説が「フィッツジェラルド-ローレンツ短縮」である。これは不思議な仮説だ。さらに不思議なのは、運動している物体では、この物体に局所的な時間というものがあって、静止している座標系の時間と比べると、これらに違いがあるという仮説である。このときの、運動している座標系の時間のことを「ローレンツの局所時間」と呼ぶことになる。これらの二つの仮説は、そっくりそのまま、アインシュタインの特殊相対性理論に組み込まれてゆく。

 5. フォークト(Voigt, 1887)

 このような、不思議な仮説を組み込んだローレンツ変換は、突然ローレンツによって生み出されたものではなく、何人かの先駆者の研究と関係しながら、少しずつ変化していって、ほぼ100年前に、このような形式に落ち着いた。英文ウィキペディアの「ローレンツ変換の歴史」[1] によると、この変遷の物語は1887年のフォークト(Voigt)から始まる。フォークトはドップラー効果と非圧縮媒体に関して、次のような変換式を導いた。

   x’xvt,   y’y/γ,   z’z/γ,   t’tvx/c2                       (3)

 このときのγは、後に規定されるローレンツの収縮因子と同じであるらしい。ここで驚くのは、このとき、既に「局所時間」という考え方が式になっていることである。だから、「フォークトの局所時間」というものも、あったことになる。そして、これらのすべての変換式にγを掛けると、現代のローレンツ変換と、まったく同じになる。これも驚きである。どのようにして、このような考え方の分岐が生じるのか、興味もわくが、ここでのテーマから、それてしまうので、先に進もう。

 6. ローレンツ(1895)

 年表の次の項目は、1895年のローレンツである。このときローレンツは、エーテルを静止系と見なし、これに対して動く系を考えて、次のような変換を考えた。

   x’=γ(xvt),   y’y,   z’z,   t’tvx/c2                         (4)

 このときの時間変数の変換式はフォークトのものと同じであるが、ローレンツはフォークトの論文のことを知らずにいて、独立に同じ式を見出したという。このような変換で説明しようとしたのは、ドップラー効果、光の光行差、フレネルの抵抗係数などのようだ。

 7. ラーモア(Larmor, 1897, 1900)

 次はラーモア(1897, 1900) である。二つの年代に対して、二種類の変換が提示されているので、これらを区別して、ラーモア(1897), ラーモア(1900) としよう。

 ラーモア(1897)の変換式は、次のようになっている。

   x’xvt,   y’y,   z’z,   t’t−γ2vx*/c2                          (5)

この変換に組み込まれているx*の定義はx*xvtらしい。これを組み込んで整理すると、かなり複雑な式になるが、これを書き下すのは、やめておこう。すぐに消えてしまうものであり、あまり意味がない。この変換では、空間項については完全なガリレイ変換であるが、時間のところが、ある種の「局所時間」になっている。これらの式の成立には、マイケルソン-モーリー実験で、v2/c2 の因子に依存した動きの効果が調べられたということが、かかわっているらしい。

 ラーモア(1900)の変換式は、上記のものから、次のように変わってきている。

   x’=γ(xvt),   y’y,   z’z,   t’t/γ−γvx*/c2                    (6)

 空間項については、(2)のローレンツ変換と同じであるが、時間項については、かなり複雑なことになっている。ラーモアは、これらの変換に関して、マクスウェルの方程式が不変となることを示したらしい。ここのところは重要な観点であるが、これ以上具体的なことは説明されていない。

 8. ローレンツ(1899,1904)

 これに続くのが、ローレンツ(1899,1904)の変換である。これを書き記しておこう。

   x’=γl(xvt),   y’ly,   z’lz,   t’lt/γ−γlvx*/c2                 (7)

 これらは、ラーモアの(6)の式に対して、l(エル)という因子が掛かっているだけの形になっている。

ローレンツ(1904)DOVERから「EINSTEIN」の名のペーパーバックスに収録されている[2]。ここに書かれている式は、次のようなものである。

c2(c2-v2)=β2

  x’=βlx,  y’=ly,  z=lz,  t’(l/β)t−βl (v/c2)x

これらの式から(7)の式へ、どのように処理するだろうか。しかし、現在、生き残っているのは、これらの式ではない。これには目をつぶろう。この論文でローレンツは、この変数t’は「局所時間(local time)」と呼ばれるものかもしれない、と書いている。

ここまでの変換式を眺めてゆくと、時間の変換式が、あれこれと変更されているものの、このような式が成立するための理由について、ほとんど説明がなされていない。説明が、うまく、つかないのかもかもしれない。後の説明文のところで、ローレンツもラーモアも、これらの局所時間について、明確な解釈を与えていないと書かれている。

 9. ポアンカレ(1900,1905)

 次のポアンカレ(1900,1905)では、ポアンカレの局所時間が説明される。

   t*tvx*/c2                                                      (8)

これについては、別の資料に詳しく説明されてあった。この資料の説明でも、ほぼ同じことが書かれている。この局所時間の考察において、まず、運動する座標系 (x*, t*) の値に対して、座標系の進行方向と同じ向きに進むときは、運動座標系の距離x*に対して、光の速度がcvとなって、逆行するときにはcvとなるとして、次の時間を定める。

  δto=x*(cv),   δtb=x*(cv),                                  (9)

ポアンカレはt*(δto+δtb)2を形式的な中間値とみなして、静止座標系での時間tとの差を考察して(8)の式を導いている。ただし、この式の導出のとき、すんなり(8)へ進めるわけではなく、v2/c2 <<1として、この項v2/c20と見なして消してしまうという操作が組み込まれる。ここのところの状況については、「相対性理論に現れる『局所時間』はどのようにつくられたか?」(黒月樹人) で詳しく説明した。

それから、この資料では、ローレンツがローレンツ変換を導いたとは書いてなくて、(2)の形式へと導いたのはポアンカレであるように説明している。次のようにまとめたのは、ポアンカレ(1905)のようだ。このとき、ポアンカレは、速度の単位として光速度c1としている。このため、他の式で現れているv2/c2 v2 と書かれることになる。

  x’=γ(xvt),   y’y,   z’z,   t’= γ(tvx),   γ=(1v2)1/2       (10)

ポアンカレは、この1905年の論文で、この変換について「ローレンツ変換」という名をつけている。そして、この変換が、数学での「群」の性質を持っていることを見抜いて、「ローレンツ群」とも名づけている。さらには、x2y2z2c2t2 が不変量であるということも示したらしい。また、この資料によると、マクスウェル-ローレンツ方程式の「ローレンツ共変(covariance)」を示したとある。このように、この論文では、このあとの状況に大きな影響を及ぼす内容を数多く生み出している。これはPDFファイルで公開されている[A]。ただし、フランス語であり、私には近寄りがたい。数式のところくらいなら、なんとか眺めることはできそうである。英文に訳されている解説書[B]もあるが、こちらは、ページ数が多く、すべて印刷するのもためらわれる。

10. アインシュタイン(1905)

ポアンカレ(1905)と同じ年に、アインシュタインが特殊相対性理論の論文を発表しており、その中で、速度の単位をcとしていない、通常の単位系でのローレンツ変換の式 (2) を導入して、いろいろなことに利用している。

11. ローレンツ変換のバックボーン

ローレンツ変化の歴史について、英文ウィキペディアの資料を斜め読みして、主に数式の変化について眺めてきたが、このように多様な変化があったにもかかわらず、最終的には (2) の形式で固定され、これが、あたかも完全無欠の正しさを持っているものとして、現在でも通用しているのは、なぜなのか。ここからが、このページの本論である。

私は、この「ローレンツ変換」の役目を引き継ぐものとして、「SF変換」というものを提案した。また、そのような発想を得るまでのところで、「ポアンカレの局所時間」や「ローレンツの局所時間」について、そして、これとペアを組む「フィッツジェラド-ローレンツ収縮」について、詳しく調べてきた。そして、ローレンツ変換の特徴的な変換式である、x座標での変換式が「フィッツジェラド-ローレンツ収縮」に、t座標での変換式が (最終的な)「ローレンツの局所時間」に、それぞれ対応していることを理解した。ところが、これらの二つの仮定は、あまりに突飛なものであり、それらを同時に満たさなければならないという条件は、あまりに重すぎるように思える。さらに、このような変換式を生み出すことになった、発想の源として、マイケルソン-モーリー実験があるということが分かりだしてきた。しかし、このマイケルソン-モーリー実験を、彼らの論文を読んで分析してみると、当時に問題視されていた光の経路差というものが、実際は存在していず、それは、この実験の理論モデルを構成するときの思い違いから生まれたものだった。その思い違いとは、エーテルの圧力として、光の速度に影響する、地球の運動速度としての速度ベクトルが、この運動方向で走る光の速度ベクトルにだけ影響して、これとは垂直な方向の速度ベクトルには影響しないというものだった。これはベクトル算とは相いれず、明らかな誤りである。この点が考慮されていなかったため、光の経路差があるものとして、いろいろな問題が生じてきたのだ。「フィッツジェラド-ローレンツ収縮」の仮説も各種の「局所時間」の仮説も、この実験の解釈をしようとして生み出されてきたものだった。今でも、光の経路差が実在して、ローレンツ変換の、不思議な二つの仮説は、そのときの実験結果を説明するために必要なのだと信じている人が数多くいる。このような物語を、おそらく、アインシュタインの特殊相対性理論のところまでしか辿らないのだろう。それ以前のことは、あまり有名ではなく、ポアンカレやローレンツの名前は、かなり広まっているが、この物語にラーモアやフォークトが登場しているということは、科学史家の研究によって、最近明らかにされてきたことのようであり、私もよく知らなかった。

ところが、ローレンツ変換のバックボーンは、このような、マイケルソン-モーリー実験からの流れだけでなく、他の、もっと強力な世界とも結びついている。まあ、背骨だけを調べるのではなく、背中についている羽の仕組みも調べなければならないというわけだ。それが、このページのタイトルにも組み込まれているダランベルシアンとのかかわりというものである。私は「SF変換」というページで、そのことについて、詳しく考察した。その内容を、このあと少し要約する必要がある。

12. ガリレイ不変性

ニュートンの運動方程式に、ガリレイ変換の式を組み込んで、変換前の形と変換後の形を比較してみると、新旧の座標の区別以外、まったく同じになる。このことを具体的な数式で調べてみよう。まず、ガリレイ変換を、x軸だけに適用して、次の式を得る。

   x’xvt,  y’y,  z’z,  t’t                        (11)

ここから、xx’vt と変形して、ニュートンの運動方程式f=m d2x/dt2 に代入する。このとき現れるvは「等速」であり時間変化がないから、dv/dt=0 であることに注意すると、

   f = m d2x/dt2

= m (d/dt) (d/dt) (x’+vt)

= m (d/dt) (dx’/dt + tdv/dt + v)

= m {d2x’/dt2 + dv/dt }

= m d2x’/dt2                                          (12)

となり、xx’に置き換えただけの式が得られる。

このときの状況を、ニュートンの運動方程式はガリレイ不変性をもつと表現する。

13. ダランベルシアンとガリレイ変換

次は、マクスウェルの電磁方程式を象徴する「ダランベルシアン」と「ガリレイ変換」の組み合わせの検討に移る。ところが、この組み合わせではうまくいかない。ガリレイ変換の式をダランベルシアンに組み込んでも、新しい座標系でのダランベルシアンだけにはならずに、余分な「尻尾」のような項が生じる。ここのところの操作については、タバスコキメラミーム9「SF変換」の「9. 偏微分の演算子」, 10. ダランベルシアンの空間項」, 11. ガリレイ変換の尻尾」のところで述べた。このページの後のところで、再び詳しく論じることになる。

   □=□ (v2/c2) (∂2/∂x’2)(2v/c2) (∂2/∂t’ ∂x’)             (13)

ここから、ダランベルシアンはガリレイ不変性を持たないということになる。

14. ダランベルシアンとローレンツ変換

ローレンツ変換のためのアイディアは、運動する座標系の、その運動方向の座標 (ここではx座標としよう) で現れる、ガリレイ変換の式と同じような形式で、時間も変化するのではないかというものだった。このアイディアを数式として表わすために、x座標での変換式と時間tでの変換式を、それぞれ、これらの変数を含む一次式とし、それらの変数の前に、未定係数(p, q, r, s)をつけた。

   x pxqt,  y y,  z z,  t rxst             (14)

これらの未定係数は4つあるが、静止座標系と運動座標系の関係から、運動座標系の速度vも利用して、未定であるものを二つ(p, r)に減らすことができた。

 x p(xv t),  y y,  z z,  t rxpt            (15)

そして、これらの変換の関係式をダランベルシアンに代入すると、ガリレイ変換のときと同じように、余分な「尻尾」の項が現れる。

   □=□{(v2/c2)p2p2+1}(∂2/∂x’ 2) 2p{ pv /c2r }(∂2/∂x’∂t’)

{ p2/c21/c2r2}(∂2/∂t’2)                                   (16)

この「尻尾」は、偏微分の様式で分類すると、三つの項として表わすことができた。これらの項には、未定係数が組み込まれた係数項がついている。ここで重要な仮定がなされる。つまり、これらの係数項がすべて0であるとしたら、このときのダランベルシアンは不変なものとなるということである。恒等式の解法だ。このときの条件は三つあったが、未定係数は二つだけだったので、このときの条件の二つだけで、これらの未定係数の形を決めることができた。

   p1(1v2/c2)1/2                                              (17)

   r=−v{c2 (1v2/c2)1/2 }                                        (18)

その一つの未定係数pが、後にβやγなどと表され、ローレンツ因子や収縮因子と名付けられて、有名になるものだった。このようにしてローレンツ変換の形式が確定した。「ローレンツ変換の歴史」として、この形式にいたる変化の過程を見てきたが、このような理由づけがなされてしまっては、フォークトもラーモアもお手上げである。ポアンカレは、この変換に、多くのお墨付きを与え、「ローレンツ変換」という名称を提案し、「ローレンツ群」の性質も示している。ところで、このような解析によって、ローレンツ変換の形式を確定したのは、いったい誰なのだろうか。「ローレンツ変換の歴史」の文脈では、ローレンツは(7)式を導いたと記してあり、そのあとに、光速度c1とする単位系でのポアンカレの(10)式が来ている。ただし、ポアンカレは、この(10)式を「ローレンツ変換」と名づけたということだ。(7)式と(10)式の間に、アインシュタインが広めた(2)式のような表現式が、ローレンツによって導かれていないとおかしい。そうでなければ、ポアンカレは、自らが導いた式に対して、ローレンツの名前をつけたことになる。

x’=γl(xvt),   y’ly,   z’lz,   t’lt/γ−γlvx*/c2               (7)

x’=γ(xvt),   y’y,   z’z,   t’= γ(tvx),   γ=(1v2)1/2       (10)

x’=γ(xvt),   y’y,   z’z,   t’= γ(tvx/c2),   γ=(1v2/c2)1/2   (2)

15. ダランベルシアンとSF変換

ガリレイ変換に対応する「SF変換」を考える。このために、地球の中心に原点をおいた極座標系を想定する。一般的な極座標を設定し、かつ、地球の中心に原点をおいたユークリッド座標との互換性をもたせる。ユークリッド座標のz軸は地球の回転軸に一致させ、北極が正になるようにする。xy平面は赤道面と一致する。x軸は地球の経度0の赤道を通り、y軸は地球の経度90度の赤道を通るとしておこう。この同じ、地球の中心を原点とする、極座標の方位角φ(azimuthal angle)は、このx軸から測るものとし、極角θ(polar angle)は中心から北極へと向かうz軸から測ることにする。棒rの長さは任意であるが、説明の都合上、あるθを固定したときr sinθが地球の半径REarth になるようにとるものとする。赤道の測地線に沿って、方位角がφから、刄モだけ変化するときを想定する。このとき、

刄モ= t (dφ/dt)                                                (19)

と表すことができる。ここで、次の形式でSF変換を定義する。

   φ=φ−t (dφ/dt), θ=θ, r’ r, t’ t                        (20)

 次の操作は、(20) がダランベルシアン() に対して不変かどうかを調べることである。極座標でのラプラシアン() は次式 (22) となる。全角の/の後にある、積の因子は分母にあるものとする。

□= (1/c2)(∂2/∂t2) −△                                        (21)

   △=(1/r2)(∂/∂r)(r2∂/∂r)

(1r2sinθ)(∂/∂θ)(sinθ∂/∂θ)(1r2sin2θ)(∂2/∂φ2)      (22)

このときのSF変換では、変化するのはφだけであり、θとrは変化しないから、∂/∂θと∂/∂rの項は0となる。残るのは ∂/∂φと∂/∂tの項である。(20)より、次のようにfを定義する。

φ=φt (dφ/dt) f (φ’,t)                                   (23)

この関数fについてダランベルシアンの処理を受けることになる。

(22)の右辺第3項にある2f/∂φ2 を求める。

2f/∂φ2(∂/∂φ)(∂φ/∂φ) ∂1/∂φ=0                           (24)

よって、このときのダランベルシアン (21) は、次のようになる。

   □=(1/c2)(∂2/∂t2)                                               (25)

 これによって(23)を処理する。

   □φ=(1/c2)(∂2φ/∂t2)                 

(1/c2) (∂/∂t) (∂/∂t){φt (dφ/dt)}  

(1/c2) (∂/∂t){ ∂φ/∂tdφ/dt }

(1/c2) { ∂2φ/∂t20 }

(1/c2) (∂2φ/∂t2) =□φ                                  (26)

 こうして、ダランベルシアンはSF変換で不変となる。

16. ガリレイ変換におけるダランベルシアンの尻尾

ここで、もう一度考えなおさなければならない。

(20)の式で、dφ/dtv と置けば、ガリレイ変換のx’xvt と同じ形である。こちらのガリレイ変換の式については、ダランベルシアンに対して不変ではないと判断した。このときの根拠となる式は(16)である。

   □=□ (v2/c2) (∂2/∂x’2)(2v/c2) (∂2/∂t’ ∂x’)                      (16)

この式の右辺第2項と第3項が「尻尾」である。これらを▲と置こう。

  ▲=(v2/c2) (∂2/∂x’2)(2v/c2) (∂2/∂t’ ∂x)                           (27)

ガリレイ変換の式として、これらで処理するのは、次式である。

  xx’vt                                                    (28)

これに対して、▲の処理をほどこそう。

  ▲x(v2/c2) (∂/∂x’)(∂/∂x’)( x’vt)(2v/c2) (∂/∂x’) (∂/∂t)( x’vt)

     (v2/c2) (∂/∂x’)(1)(2v/c2) (∂/∂x’) (v)

       (v2/c2) (∂1/∂x’)(2v/c2) (∂v/∂x’)

       0                                                      (30)

これは、いったい、どういう意味なのだろうか。形式的には「尻尾」が残るように見えている。しかし、実際に、この変換の式を処理してみれば、そのような「尻尾」は消えてしまう。このような操作は、(12)の式で見た、ニュートンの運動方程式とガリレイ変換の式とも対応している。これらより、x=□’x なのだから、「ダランベルシアンは、ガリレイ変換でも不変である」ということになる。それではいったい、ローレンツ変換は、何故、そして何のために生み出されたのだろうか。

ここのところの処理をすることは、SF変換の処理を行って、思いついた。SF変換の形式は、ガリレイ変換の形式と、ほとんど同じである。そして、SF変換についてダランベルシアンを作用させて不変となるのだったら、ガリレイ変換についても、ダランベルシアンを作用させて不変とならなければおかしいと考えた。そして、実行してみると、「尻尾」と名づけた余剰項での処理結果はゼロとなって消えてしまう。

いったいダランベルシアンは、どのような役目をしているのか。

17. ダランベルシアンの由来

 ダランベルシアンの由来は、波動方程式から来ている。

 一次元的な波について、波動方程式を導く手順は、「電磁力学」(牟田泰三,岩波講座現代の物理学2)の「6-1電磁波の存在」のところに、演習として載せられている。これを簡単にまとめる。モデルとしてはx軸方向に速度vで進むサイン波を考える。たとえばサイン波のピークが進む速さがvということである。もちろんピーク以外の点も、この速度で進み、サイン波の形が保たれる。このとき、この波をまずu(x,t) とおく。ところが、このような関係は、ガリレイ変換と同じである。そして、このu(x,t) f(vtx) とも表せることが導かれる。これは進行波である。これに対して、逆向きに進む波を退行波と呼ぶが、これはg(vtx) と表すことができる。以後、この退行波についての議論はしない。このとき、進行波の変数であるvtxは、サイン波として、この関係を保ちつつ移動するので、これを一変数zで置き換えてもよい。ただし、このzz軸の意味ではない。単なる変数である。つまり、zvtx, f(z) という合成関数であるとみなせる。こうして、次式のように整理する。

u(x,t)f(z),   zvtx                                           (31)

このとき、(31)txで微分することにより、次式が得られる。

∂u/∂t(∂f/∂z)(∂z/∂t)(∂z/∂t) (∂f/∂z)v ∂f/∂z                         (32)

2u/∂t2(∂z/∂t) (∂/∂z){ v ∂f/∂z}v22f/∂z2                           (33)

∂u/∂x(∂f/∂z)(∂z/∂x)(∂z/∂x) (∂f/∂z)=−∂f/∂z                        (34)

2u/∂x2(∂z/∂x) (∂/∂z){∂f/∂z}+ ∂2f/∂z2                            (35)

 (33)(35)から2f/∂z2を消去して次式を得る。

2u/∂x2(1/v2)( ∂2f/∂t2)                                            (36)

 これが1次元の波に対する波動方程式である。

 2次元の波動方程式の導き方は、「物理・工学における偏微分方程式 上」(コシリヤコフ, グリニエル, スミルノフ, 岩波書店)の「第6章 波動方程式」に解説されている。こちらは、Greenの公式なども使い、積分も多用して、かなりややこしい。要約するのは略して、結果だけを引用する。また、この本には、3次元の波動方程式の導き方も説明されている。これについても、結果だけを引用する。原文では一部の記号が異なっているが、ここでは、上記の記号に合わせる。

 2次元の波動方程式

   2u/∂t2v2(∂2u/∂x22u/∂y2)                                     (37)

 3次元の波動方程式

   2u/∂t2v2(∂2u/∂x22u/∂y22u/∂z2)                             (38)

このときの、右辺のカッコ内がラプラシアン()である。電磁波の速度はcであるので、vcで置き換え、v2を左辺に移して逆数とする。

   (1/c2)2u/∂t22u/∂x22u/∂y22u/∂z2                            (39)

 さらに、右辺を、すべて、左辺へと移して、作用素と関数uとを分けて表示しよう。

   [(1/c2)2/∂t22/∂x22/∂y22/∂z2]u0                           (40)

 この[  ]の中が、ダランベルシアン()と定義された。ラプラシアンが3次元の作用素であり、三角で表されており、ダランベルシアンは、これにict (ここでiは虚数) の次元を加えて4次元になったので、四角で表したのだとか、ジョークのような説明もされていたが、これは自然な発想だろう。

 これがダランベルシアンの由来であり、□u0 という関係が成立したとき、関数uが波動の性質をもつということを意味している。

 18. ガリレイ変換は波動関数か?

 ダランベルシアンの由来に基づいて、ガリレイ変換の式を作用させてみよう。その結果がゼロとなれば、波動関数となる。

ガリレイ変換の式を、まず書いておこう。

x’xvt,   y’y,   z’z,   t’t                                 (1)

これより、xx’vt として、これに対してダランベルシアンを作用させる。

   □x=□(x’vt)[(1/c2)2/∂t22/∂x22/∂y22/∂z2] (x’vt)         (41)

 しかし、これは、どのように扱ったらよいのだろうか。関数x’vtには (t, x, y, z)4変数のうち、tしか含まれていない。このときのx’をどうするのか。おそらく未知の変数として扱うのだろう。しかし、x’xvt から次式が出る。他は0となる。

   ∂x’/∂x1,   ∂x’/∂t=−v                                          (42)

 明らかにyzは関数x’vtに含まれないので、これに関する項はゼロとなる。よって(41)は次のように整理できる。

   □x[(1/c2)2/∂t22/∂x2] (x’vt)

     [(1/c2)2/∂t2] (x’vt)[2/∂x2] (x’vt)

     (1/c2)(∂/∂t){ ( ∂x’/∂t) ( ∂/∂x’) x’v}(∂/∂x) {(∂x’/∂x) (∂/∂x’) x’v∂t/∂x }

     (1/c2)(∂/∂t){vv}(∂/∂x) {1×1v×0 }

     (1/c2)(∂/∂t){0}(∂/∂x) {1 }

     (1/c2)×0∂1/∂x

     0                                                         (43)

 ガリレイ変換のxx’vtにダランベルシアンを作用させると0になるので、この関数は波動関数である。この代入法は特殊なものである。もう少し素直に、(1)x’xvtの形で処理すると、どうなるだろうか。

   □x’[(1/c2)2/∂t22/∂x2] (xvt)

     [(1/c2)2/∂t2] (xvt)[2/∂x2] (xvt)

     (1/c2)(∂/∂t) (v)(∂/∂x)(1)

     0                                                         (44)

 やはり0となる。こちらの結果のほうが解釈しやすいだろう。xvtという関数は波動関数なのである。サイン関数の波動関数に比べると、少し分かりにくいかもしれないが、振幅なしで、ただ進むだけの波ということになる。

 19. ローレンツ変換は波動関数か?

 ダランベルシアンの由来に基づいて、ローレンツ変換の式を作用させてみよう。その結果がゼロとなれば、波動関数となる。

ローレンツ変換の式を、まず書いておこう。

x’=γ(xvt),   y’y,   z’z,   t’=γ(tvx/c2),   γ=(1v2/c2)1/2    (2)

これより、まず、x=γ1x’vt として、これに対してダランベルシアンを作用させる。記述を簡単にするために、次のように表す。

g=γ1(1v2/c2)1/2 ,   xgx’vt ,   gγ=1                    (45)

   □x=□(gx’vt)[(1/c2)2/∂t22/∂x22/∂y22/∂z2] (gx’vt)      (46)

 (2)より、yzの変化はなく、処理関数に、これらの変数も含まれていないから、2/∂y22/∂z2は取り除いておける。(2)もしくは(45)より、次式を得る。

   ∂x’/∂x=γ,   ∂x’/∂t=−γv,   ∂x/∂x’g,   ∂x/∂tv,                (47)

 これらの準備のもとに、(46)の計算をつづけよう。

   □x=□(gx’vt)[(1/c2)2/∂t22/∂x2] (gx’vt)

     (1/c2)(∂/∂t) (∂/∂t) (gx’vt)(∂/∂x) (∂/∂x) (gx’vt)

     (1/c2)(∂/∂t){ (∂/∂t) gx’(∂/∂t)vt)}(∂/∂x) {(∂/∂x)gx’(∂/∂x)vt}

     (1/c2)(∂/∂t){ g(∂x’/∂t)v(∂t/∂t))}(∂/∂x) {g(∂x’/∂x)v(∂t/∂x)}

     (1/c2)(∂/∂t){ g(−γv)v}(∂/∂x) {gγ+vv1}

     (1/c2)(∂/∂t){vv}(∂/∂x) {11}

     0                                                         (48)

 かくして、xgx’vtは波動関数となる。これの元となるx’=γ(xvt) の場合はどうなるだろうか。γは定数であるから、ダランベルシアンの前に出せる

   □x’=□γ(xvt)=γ[(1/c2)2/∂t22/∂x22/∂y22/∂z2](xvt)

     =γ[(1/c2)2/∂t22/∂x2](xvt)

     =γ[(1/c2)(∂/∂t) (∂/∂t) (xvt)(∂/∂x) (∂/∂x)(xvt)]

     =γ[(1/c2)(∂/∂t) (v)(∂/∂x) (1)]

     =0

 こちらも0となるから、x’=γ(xvt)も波動関数となる。これは、振幅がなく、単純にvで進行するのではなく、γの影響で少し変わる。

 ローレンツ変換には、時間にかかわる式もある。t’=γ(tvx/c2) である。この形のままダランベルシアンで処理してみよう。

   □t’=□γ(tvx/c2)=γ[(1/c2)2/∂t22/∂x22/∂y22/∂z2] (tvx/c2)

     =γ[(1/c2)2/∂t22/∂x2] (tvx/c2)

     =γ[(1/c2)(∂/∂t) (∂/∂t) (tvx/c2)(∂/∂x) (∂/∂x)(tvx/c2) ]

     =γ[(1/c2)(∂/∂t) (1)(∂/∂x) (v/c2) ]

     0

 こうして、□t’0 となる。これらの処理を繰り返してみると、ダランベルシアンは、2次の偏微分から成る作用素なので、一次式の関数なら、一回目の偏微分作用で、各項の係数が残るかゼロとなり、二回目の偏微分作用素で、それらもゼロとなることが分かる。

 それでは、「ダランベルシアンがローレンツ不変であり、ガリレイ不変ではない」と言われるのは、いったい何故なのか。

 20. ガリレイ変換におけるダランベルシアンの尻尾

これまでの考察では、ニュートンの運動方程式とガリレイ変換の式との関係から、ダランベルシアンについても、このときの操作と同じことをすればよいと理解したのだったが、どうやら違うようだ。ニュートンの運動方程式は、その名のとおり方程式であるが、ダランベルシアンは作用素である。これらの、異なるものについて、「ガリレイ不変性」と「ローレンツ不変性」という、ほとんど同種の名称をつけている。これは混乱を呼ぶ。ずいぶん遠回りしてしまった。

ダランベルシアンの「ローレンツ不変性」についての、式の変形過程を読み取ると、このときの問題は、ダランベルシアンという作用素が、変換前の座標に対するものに対し、変換後の座標に対して、どのようになるのかということにあるようだ。この視点に立って、もう一度、「ガリレイ不変性」と「ローレンツ不変性」の意味をたどってみよう。

 ガリレイ変換(1)を次に記す。

  x’xvt,   y’y,   z’z,   t’t                                 (1)

 このとき、変数xxx’vtと書くことができる。さらに、変数tは変換後のt’と同じだから、xx’vt’としてもよい。そこで、xf(x’,t’)x’vt’と考え、次のように微分する。まず、ダランベルシアンの時間項について求める。

   ∂f/∂t(∂f/∂x’) (∂x’/∂t)(∂f/∂t’) (∂t’/∂t)

(∂f/∂x’) (v)(∂f/∂t’) (1)

v ∂f/∂x’∂f/∂t

   2f/∂t2(∂/∂t) {v ∂f/∂x’∂f/∂t}

=−v{(∂/∂x’) ( ∂x’/∂t) (∂f/∂x’)(∂/∂t’) (∂t’/∂t) (∂f/∂x’) }

(∂/∂x’) ( ∂x’/∂t) (∂f/∂t’)(∂/∂t’) (∂t’/∂t) (∂f/∂t’)

      =−v {(∂2f/∂x’2)(v)2f∂x’ ∂t’)}v (∂2f∂t’ ∂x’)2f/∂t’2

      v2 (∂2f/∂x’2)2v (∂2f/∂t’ ∂x’)2f/∂t’2

 演算子だけの表記にするため、fを取り除く。そして、1/c2を掛けておく。

2/∂t2v2 (∂2/∂x’2)2v (∂2/∂t’ ∂x’)2/∂t’2

(1/c2)∂2/∂t2(v2/c2) (∂2/∂x’2)(2v/c2) (∂2/∂t’ ∂x’)(1/c2)(2/∂t’2)

 次はダランベルシアンの空間項について求める。まず、∂/∂xについて。

   ∂f/∂x(∂f/∂x’) (∂x’/∂x)(∂f/∂t’) (∂t’/∂x)

   ∂f/∂x(∂f/∂x’) (1)(∂f/∂t’) (0)

   ∂f/∂x∂f/∂x’

   2f/∂x2∂f2/∂x’2

   2/∂x22/∂x’2

 ∂/∂y∂/∂zについては、y’y, z’z より、変換後も同じ表現となる。ゆえに、変換後のダランベルシアンの空間項(’)は、次のようになる。

   △2/∂x’22/∂y’22/∂z’2

 これらを集めて、ガリレイ変換前ダランベルシアン()と、ガリレイ変換後のダランベルシアン(’)の関係は、次のようになる。

   □=(v2/c2) (∂2/∂x’2)(2v/c2) (∂2/∂t’ ∂x’)(1/c2)(2/∂t’2)2/∂x’22/∂y’22/∂z’2

   □=□(v2/c2) (∂2/∂x’2)(2v/c2) (∂2/∂t’ ∂x’)

 このようにして、次の▲で表した、ガリレイ変換後のダランベルシアンの尻尾が生じる。

   ▲=(v2/c2) (∂2/∂x’2)(2v/c2) (∂2/∂t’ ∂x)

 ローレンツ変換は、このような尻尾が恒等的にゼロとなるという条件を果たして構成される。だから、ローレンツ変換後のダランベルシアンは、変換前のダランベルシアンと等しくなる。

 しかし、このときの、ガリレイ変換後のダランベルシアンには尻尾が生じるという、上記解析の論理には矛盾がある。この矛盾に気がつくきっかけは、「SF変換」で、円の円周の公式と面積の公式とを混乱させて、間違った式を導入したことに気がついて、この「SF変換」を訂正しようとしたことにある。はたして、「わざわい転じて福となす」かどうか、考察をつづけてゆこう。

(1)の式をよく見ると、t’tとなっている。これはy’y, z’zと同じ表現である。すると、t’tから、

t’/∂tt/∂t1

となって、t’t と見なすことができる。この考えからスタートすると、

(1/c2)∂2/∂t2(1/c2)∂2/∂t’2

である。時間は変換前でも変換後でも変わらないのだから、これを変数と見たときの偏微分が変わるわけがない。これなら、当然のこととして、

□=□

となり、尻尾の項▲が現れる理由がなくなる。

 「t’t」と「x’xvt」を見比べて、「t’t」ではなく「x’xvt」を優先しなければならない理由というものは、いったい何なのだろうか? これまでの解析では「x’xvt」を優先している。私は「t’t」を優先した。「x’xvt」を優先すれば、ダランベルシアンはガリレイ不変性を持たないということになる。一方「t’t」を優先したときには、ダランベルシアンはガリレイ不変性を持つということになる。まったく異なる。しかも、これは、数学的に矛盾している。式として並べられたものに、優先順位を決めなければならないという理由は、どこにあるのか。数学は、そのような論理を、どこで生み出したのだろう。

このことを私は考えてみた。どこかに「誤り」があるに違いない。まず、一つ目の「誤り」は、「x’xvt」を優先したということである。「t’t」と「x’xvt」は、式として、対等の権利を持っていなければならない。それなら、「t’t」を無視する理由はない。これを生かし、かつ、「x’xvt」も生かすとしたら? こうして、私が気づいたのは、次のようなことである。

x’xvt」を優先した、上記の解析においては、「xx’vt」と変形し、「t’t」を利用して「xx’vt’」として、このxf (x’,t’)という2変数の関数と見なしている。尻尾の項▲は、ここから生み出されている。ここでは、x’t’が、独立した2変数だと考えていることになる。このような考察は、座標変換の前の、xtについても同様である。「x’xvt」を眺めてみよう。このとき、xtは独立しているのだろうか。変わっているのはtだけであり、このときxは静止しており、伸びたり縮んだりするとは、少なくともガリレイ変換では考えられていないはずだ。

分かった。この論理の矛盾点は、xtが独立していると考えたからだ。しかし、ガリレイ変換においては、これらは独立していないのだ。変換後の座標xを求めるとき、このxは変化してはならない。そして、このxに対してtが変化して、定数のvと組み合わさり、−vtの値を生じて、x’を決めるのである。だから、ガリレイ変換においては、x’tだけを変数としている関数として表現されなければならないということになる。このような状況にあるにもかかわらず、「xx’vt’」の式から、まったく機械的に、x’t’2変数の関数として偏微分の式を生み出して、それを組み込んだため、尻尾の項▲というものが現れたのである。つまり、この論理の矛盾は、xx’vt という形に変形して、xx’t (=t’) 2変数の関数として、∂f/∂t(∂f/∂x’) (∂x’/∂t)(∂f/∂t’) (∂t’/∂t) という操作を組み込んだというところにあったわけである。このときは、x’のほうを固定して、tの関数と見なすべきである。すると、∂f/∂t(∂f/∂t’) (∂t’/∂t)∂f/∂t’ となり、矛盾は消える。このように考えれば、数学的な矛盾は生じない。間違っていたのは、数式や数学ではなく、本来1変数の関数を2変数の関数と見るという「解釈」にあったのだ。

ただし、このような関係にあるとき、xx’は−vtの値だけずれているという状態であるから、偏微分の/∂x/∂x’は等しいとしてもよいだろう。

 21. ローレンツ変換には何らかの意味があるか?

 ローレンツ変換は、ガリレイ変換におけるダランベルシアンの尻尾に対応する項を、恒等的にゼロとすることによって生み出された。このとき、上記の、尻尾が生み出されるときのものと同じ論法が用いられている。

ローレンツ変換のスタートのアイディアを次に記す。

   x’pxqt,  y’ y,  z’ z,  t’rxst

 これは、他の条件を利用して、次のように書き換えることができる。

   x’p(xv t),  y’ y,  z’ z,  t’rxpt

 ここから、ダランベルシアンの時間項を調べる。

   (1/c2)(∂2/∂t2) (1/c2){(∂/∂x’)(∂x’/∂t)(∂/∂t’)( ∂t’/∂t)}2

         =(1/c2){pv (∂/∂x’)p(∂/∂t’)}2

         =(1/c2){p2v2 (∂2/∂x’2) 2p2v(∂2/∂x’∂t’)p2(∂2/∂t’2)}

 さらに、ダランベルシアンの空間項を調べる。

   −2/∂x2=−{(∂/∂x’)(∂x’/∂x)(∂/∂t’)( ∂t’/∂x)}2=−{p(∂/∂x’)r(∂/∂t’)}2

       =−{p2 (∂2/∂x’ 2) 2pr(∂2/∂x’∂t’)r2 (∂2/∂t’ 2)}

   −2/∂y2 =−2/∂y’2,   2/∂z2 =−2/∂z’2

 これらの計算結果を総合する。

   □=(1/c2){p2v2 (∂2/∂x’2) 2p2v(∂2/∂x’∂t’)p2(∂2/∂t’2)} 

     −{p2 (∂2/∂x’ 2) 2pr(∂2/∂x’∂t’)r2 (∂2/∂t’ 2)} 2/∂y’2 2/∂z’2   

    ={(v2/c2)p2p2}(∂2/∂x’ 2) { 2p2v /c22pr }(∂2/∂x’∂t’)

{p2 /c2r2}(∂2/∂t’2) 2/∂y’2 2/∂z’2  

  =□{(v2/c2)p2p2+1}(∂2/∂x’ 2) 2p{ pv /c2r }(∂2/∂x’∂t’)

{ p2/c21/c2r2}(∂2/∂t’2)                                (29)

 ここに現れた「尻尾」の項を恒等的にゼロとするという要請を組み込んで、次のローレンツ変換の式のための因子が得られる。

   p1(1v2/c2)1/2,   r=−v{c2 (1v2/c2)1/2 }

 このように振り返ってみた。空間軸xの変換に時間tが入っており、時間軸tの変換には、空間変数のxが入っている。そして、これらの変数を、まったく独立した変数として解析を進め、2変数の関数として偏微分の式が導かれている。しかし、上記の考察で見たように、これらは、それぞれ1変数の関数と見なして操作しなければならないものであり、同じ矛盾を抱えている。

ローレンツ変換の距離変数の変換式x’pxqt では、距離xを固定して、時間tを変数とする関数と見なし、時間の変換式t’rxst では、時間tを固定して、距離xを変数とする関数と見なすべきである。

他の条件を利用して、未定係数を減らした式では、x’ p(xv t) は距離xが変化できないし、t’rxpt では時間tが変化できない。

これらから変形したx=(1/p)x’+vt tのみの関数であり、t=(1/p)( t’rx)xのみの関数である。すると、xtを変数と考えたときは、x’t’を固定しておかなければならない。

このような状況のもとでは、ローレンツ変換の因子を求める、上記の処理は、初めの式から、既に無意味なものとなってしまう。次の式である。この中にある∂x’/∂t∂t’/∂tはゼロになってしまうし、∂/∂x’∂/∂t’は意味をもたない。

(1/c2)(∂2/∂t2) (1/c2){(∂/∂x’)(∂x’/∂t)(∂/∂t’)( ∂t’/∂t)}2

ローレンツ変換の因子を導くとされた、これらの処理は、本来1変数の関数として理解しなければならないものを、2変数の関数として扱ったものであり、明らかに論理的なものではない。

22. 空想の作品

ガリレイ変換におけるxx’vt’の式をx’t’2変数の関数とすることができないということを理解し、1変数の関数として処理すると、ガリレイ変換に関する、変換前の座標値でのダランベルシアン()と、変換後の座標値でのダランベルシアン(’)は、等しくなり、余剰項()は生じない。このとき、ローレンツ変換を創造しようという理由はなくなってしまう。ガリレイ変換で、既に必要な条件は満たされているからである。

しかし、ローレンツ変換は生み出された。何の必要性もなく、論理的な根拠もなく。

そして、ここから、莫大な時間と労力が、この空想を膨らませるために費やされた。その最初の、最も有名な作品が、「アインシュタインの特殊相対性理論」であった。

 

参照文献

[1] 英文ウィキペディアの「ローレンツ変換の歴史」History of Lorentz transformations

http://en.wikipedia.org/wiki/History_of_Lorentz_transformations

[2] H. A. LORENTZ, ELECTROMAGNETIC PHENOMWNA IN A SYSTEM MOVING WITH VELOCITY LESS THAN THAT OF LIGHT, Peprinted from the English version in Proceedings of the Academy of Sciences of Amsterdam, 6, 1904. In the book of “THE PRINCIPLE OF RELATIVITY”, DOVER.

[A] Sur les articles de Henri Poincare “ Sur la dynamique de l’electron ”

http://www.annales.org/archives/x/marchal2.pdf

[B] A.A. Logunov, HENRI POINCAR´E AND RELATIVITY THEORY

Translated by G. Pontecorvo and V.O. Soloviev, edited by V.A. Petr

http://arxiv.org/PS_cache/physics/pdf/0408/0408077v4.pdf