黒月樹人のタバスコキメラミーム22「セシウム時計実験の嘘」
Tabasco Chimera Meam 22 of K.K. as “A lie of an experiment of cesium clocks”
黒月樹人 (KINOHITO KULOTSUKI, treeman9621.com

 特殊相対性理論の予測として、運動する物体の時間が遅れるというものがある。このタバスコキメラミームのページでは、「ローレンツの局所時間」に相当する予測である。これには、「フィッツジェラルド-ローレンツの収縮」も同時に生じていることになるが、こちらを計測するのは困難なので、いつしか、議論の中に入らなくなってしまった。時間のほうは、長さより精密に観測できるようになったので、こちらの予測が主に取り扱われる。そのような高精度の時計として、セシウム時計が用いられているようだ。私は、実際にセシウム時計の本体を見たこともないし、そのデータを使ったこともない。言葉として知っているだけだ。GPS衛星で用いられているとか、特殊相対性理論の検証のために用いられたとか、噂のように聞いている。そこでは、このセシウム時計が精度よく作動しており、明確な数字で、時刻を刻んでいるものと信じていた。ところが、現実は違っていたのだ。セシウム時計はナノ秒(ns, 109)の単位で計測できるということであるが、この単位の下端の桁まで正確に読み取って、その値を信じるわけにはいかないらしい。つまり、ある程度の「ゆらぎ」があるという。この割合を、英語でdrift rate と表現している。日本語に訳すと「漂流率」「流動率」「ゆらぎ率」などとなるかもしれない。カタカナを使って「ドリフト率」と表すことも一案だろう。私は、これらの中から「流動率」を使うことにしたが、「漂流率」のほうがイメージに合っているかもしれない。なにしろ、セシウム時計における時の刻みは、基準となる時間に対して、いつのまにか、遠くへと離れていってしまうのである。自然に戻ってくると期待することは、まず、できない。行ったり戻ったりするという「振動」のような誤差ではなく、行ったきり戻ってこない「流れ」のような誤差なのである。

 ところで、特殊相対性理論の予測を検証するために、セシウム時計を使った実験が行われて、その論文が1972年に公表された。ヘイフリー(Hafele)とキーティング(Keating)によるものだ。これは、4つのセシウム時計を、民間の航空機で運んで、地球を一周させるということを、東向きの一周と、西向きの一周とで行い、そのときの時計の進みや遅れを、地球表面にある基準時計と比べるという実験の報告である。このとき、特殊相対性理論の予測では、東向きの一周では−40nsの値となり、西向きの一周では+275nsの値となるという。これに対して、実験の結果は、−59nsの値と+273nsの値になったとされている。これらの数字を見比べてみると、予測値と実験値は、よく対応している。

 ところが、このときの実験値が「ねつ造」だということが明らかになった。このことを明らかにしたのは、A.G.ケリー(Kelly)という人で、「ヘイフリーとキーティングの試験;彼らは何を証明したか?」[1] という論文による。この論文は2000年にPhysics Essays に掲載された。日本では、この雑誌は京都大学で購読されているだけなので、Kellyの発見は、まだ広く知られていないと、交流のある原田 稔(小樽商科大学名誉教授, 原子核物理学)が、日本の雑誌「科学」20028月号に、「相対論の実験データねつ造」として、紹介の記事を公表した。2ページほどの記事であるが、話の流れは、簡潔にまとめられて説明されている。

 キーティングが所属していたアメリカ合衆国海軍観測所(USNO)に、そのときの実験データが保管されていたらしい。ケリーは、アメリカ合衆国の情報公開条例に基づいて、この資料を調べたという。そして、実際の実験によって得られた数値が、理論予測とは異なるものであることを見出し、そこから、どのような操作によって、理論予測に近い値へと変形されたのかということを明らかにした。ケリーの論点は、二つにまとめられるだろう。その一つ目は、セシウム時計の精度が、このような実験結果を保障するようなものではなかったということである。二つ目は、ヘイフリーとキーティングが、確たる根拠もなく、数値を変形させたということである。

 

1. 時計の流動率 (ns per hour)

時計     No

120

361

408

447

東向き試験前

4.50

2.66

1.78

7.16

東向き試験後

8.89

4.38

3.22

8.41

西向き試験前

8.88

6.89

4.84

7.17

西向き試験後

4.56

3.97

2.16

9.42

 

2. 試験の間の流動率における変化

時計   No

120

361

408

447

東向き試験

4.39

1.72

5.00

1.25

西向き試験

4.31

2.93

2.68

2.25

 

一つ目の論点である、セシウム時計の精度については、ケリーの論文の表1と表2の数字で説明されている。これらは、使用された4つのセシウム時計の流動率(drift rate)の値と、その推移についてまとめたものである。この流動率は1時間あたりの値である。実験で東向きに一周したときは65.4時間で、西向きに一周したときは80.3時間であった。図1として、これらの流動率に基づいて、セシウム時計の時刻表示がどのように変化してゆくが描かれている。そこに、ヘイフリーとキーティングが論文で用いた、平均値として、太い点線が描かれているが、個々のセシウム時計の変化を示す線は、そこから大きく隔たって、開きかけの扇子のようになっている。太い点線は、ただ、これらの4つのセシウム時計の変化が、ちょうど2つずつ、プラスとマイナスにプロットされていたために、真ん中あたりで安定していたように見えるだけであり、セシウム時計の選択を変えていれば、まったく異なる結果となるものである。4つのセシウム時計の中で、最も安定していた、447の番号をもつもので、東向き試験のときの流動率の変化は、−1.25ns/h であった。これに、東向き試験の65.4時間をかけると−81.75nsとなる。他の値の絶対値は、これよりずうっと大きい。このような数値を、高々4つ用いて、予測値の−40に近い値を求めようというのは、とんでもなく無理がある。ケリーが論じた手法とは異なるが、考え方は、このようなものであろう。予測値の数字のオーダーに対して、セシウム時計が保障する数字のオーダーが、同程度か、それより大きなものであるというのでは、実験として成立しようがない。一つ目の「無理」は、このようなところにあった。

 

3 オリジナル試験結果とH & Kの変形(ns)

 

東向き

西向き

時計

試験

1st

2nd

試験

1st

2nd

No.

結果

変形

変形

結果

変形

変形

120

196

52

57

413

240

277

361

54

110

74

44

74

284

408

166

3

55

101

209

266

447

97

56

51

26

116

266

平均

 

54

59

 

160

273

ノート (1) H & Kによって導かれた−59nsと+273nsの平均は、理論によって予測される、−40nsと+275nsと比較されるべきものである。(2) 標準偏差は、2ndの方法の平均に対して、それぞれ107と示され、その79と読まれるべきである。

 

二つ目の論点は、ケリーの論文の表3を用いて論じられている。この表にある「オリジナル試験結果」は、太字で記されているが、これは、ケリーが、アメリカ合衆国海軍観測所に保管されてあったヘイフリーとキーティングの資料から読み取ったものらしい。これに対して、1st2ndと記した数値は、ヘイフリーとキーティングが、この実験の結果を論文として発表するために「変形」したものである。そして、2ndの数字だけが、グラフとして描かれ、論文に利用されたという。このときの数字の操作には、法則性のようなものはない。このように数字を置き換えることに何らかの根拠があるのだとしたら、ヘイフリーとキーティングは、それを論じなければならないはずである。しかし、そのようなことはなされていないという。まったく、あきれたものである。(2008.10.28)

参照文献

[1] http://www.biochem.szote.u-szeged.hu/astrojan/hafele.htm