黒月樹人のタバスコキメラミーム28「レヴィ=ルブロン論文」
Tabasco Chimera Meam 28 of K.K. as “Lévy-Leblond paper”
黒月樹人 (KINOHITO KULOTSUKI, treeman9621.com)

 はじめに

レヴィ=ルブロン論文のタイトルは「One more derivation of the Lorentz transformation (ローレンツ変化のさらなる一つの導出)[1] ということが分かった。これについては、American journal of Physical 1976年版に収録されていて、購入しないと入手できないものになっていたはずだったが、これとは異なるサイトが、PDFファイルで公開されていたので、入手することができた。これは、タイトルが示すように、ローレンツ変換の導出について論じたものである。しかし、アインシュタインの導出法とは異なっており、光速度不変の原理を用いていない。相対性原理についても、アインシュタインの表現のような、意味があいまいなものではなく、いくつかの公準の中で、より操作的な表現で取り扱っている。ローレンツ変換の導出法は、これまでにも、幾つか知られているが、私が考察したところ、アインシュタインの方法も含め、ほとんどのものに、数学的な矛盾が見つかった。これについては、論文としてまとめ、現在投稿中である。よって、具体的な手法を詳しく説明することはできないが、このような考察により、アインシュタインの特殊相対性理論やローレンツ変換にまつわる問題の謎について、幾つかの指針を得ることができた。その指針の一つが、このレヴィ=ルブロン論文である。この論文の内容については、ジャン・ラデックが「アインシュタイン、特殊相対性理論を横取りする」[2] に、概要を紹介していた。それによると、このときの導出法は、1937年のララン (V. Lalan) の証明[3] を、レヴィ=ルブロンが再発見したものであるという。これらの証明における4つの公準についても、この本の中で紹介されていたが、実際の論文を読んでみると、微妙に異なっていた。まず、このレヴィ=ルブロン論文について、その内容をまとめてみよう。

 導入(以後、レヴィ=ルブロン論文についての章)

アインシュタインが用いた、光速度不変の原理を利用してローレンツ変換を導くことに異議を唱えている。そして、ルブロンの方法では、すべての物理法則が、数学的なポアンカレ群の不変性に基づくべきだと主張している。

 相対性原理:慣性系と変換

非常に一般的な形式においての、相対性原理を出発点とすることを述べている。ローレンツ変換の変数をx座標とt座標に限定し、変換後の座標値を、それぞれx’, t’ とし、これらの変換式を一般的な関数表現で規定している。このとき、これらの関数の中に、N個のパラメータを考えるのであるが、n=N2n個へと少し減らし、このn2以上だと、二つの関数に対して因果性が妨げられてしまい、n0だと変換が成立しないという理由で、n1としている。ここでの式は、次の形となる。ここで用いる式番号は、ルブロン論文に表記されたものとする。

   x’F(x,t;a),   t’G(x,t;a)                        (5)

 公準1:時空の均一性-慣性変換の時間と線形性

「時空が均一である」ことを仮定し、「あらゆる場所とあらゆる時間において、同じ性質をもつ」と補足している。いろいろ議論されてゆくが、ここでの結論は、次の式(10)である。上記のパラメータaは、議論の過程で現れたK(a)H(a)の係数としての関数から、v=K(a)/H(a)を構成することによって、ほぼvへと置き換わっている。ここで記したγはガンマである。しかし、まだ、この具体的な形は分かっていない。γ(v)λ(v)tμ(v)は、未定の関数として書かれている。

   x’γ(v)(xvt),   t’γ(v)[λ(v)tμ(v)x]                  (10)

 このあとに「反例」の説明があるが、これらは、論理の流れに、あまり影響しない。

 公準2:空間の等方性

ここで取り扱っている「空間」はx座標の次元だけであるので、この等方性は、(x,t)(x,t)の式表現の値が等しいことと、変換後の(x’,t’)(x’,t’)の式表現の値が等しいこととして表現される。具体的には、(12)式が成立する。

   -x’γ(u)( xut),   t’γ(u)[λ(u)tμ(u)x]                  (12)

 ここで、座標系の相対速度をuと置いている。これについては、(10)(12)を見比べて、γ(v), λ(v)t, μ(v)γ(u), λ(u)t, μ(u)の関係式を求めてから、次の(14)を得ている。

   u=-v                        (14)

 これらの関係を利用して、(15) のように、γ (v) λ(v)が偶関数でμ(v)が奇関数であることを導いている。

    γ(v)γ(v),   λ(v)λ(v),   μ(v)=-μ(v)        (15 a, 15b, 15c)

 公準3:群の法則

数学における「群」の構造が、すべての慣性変換の組に対して、慣性座標系の物理的な同等性として適用されると、主張している。数学における「群」の構造とは、単位元逆元一つの算法をもっていることである。この論文では、ローレンツ変換についての、恒等変換逆変換合成変換として適用している。

 ローレンツ変換における恒等変換とは、xx’, t’tの式で表され、このときv0である。ここから、この論文では、(18)の条件を導いている。

   γ(0)1,   λ(0)1,   μ(0)0        (18 a, 18b, 18c)

 ローレンツ変換における逆変換を、パラメータwを使っての、(x’,t’) から (x,t) へのローレンツ変換を考えている。これを、(10)に倣って、形式的に書いたものが(19)である。

   xγ(w)(x’wt’),   tγ(w)[λ(w)t’μ(w)x’]                  (19)

(19)の変数の配置へと、(10)の式を変形させて導いたものが(20)である。

   x[1γ(v)][1vμ(v) λ(v)]1[x’vt’λ(v)] ,

t[1γ(v)][1vμ(v) λ(v)]1[(1 λ(v))t’x’ μ(v)λ(v)]       (20)

これらの(19)(20)の式を見比べて、(21)の関係式を導いている。特に重要なものとなるのは(21d)である。これが後にローレンツ因子へと変わってゆく。

    w=-vλ(v)                               (21a)

λ(w) 1 λ(v)                                (21b)

μ(w) =-μ(v)λ(v)                            (21c)

   γ(w) [1γ(v)][1vμ(v) λ(v)]1              (21d)

 この章の解析は、このあとも続いて、(21a)(21b)を利用して、かなり複雑な処理を行うが、この詳細についての解説は省き、その結果の(30)(31)だけを記しておく。

   λ(v)1                                       (30)

   w=v                                        (31)

 この(31)(21d)へと代入し、(32)を得ている。ローレンツ因子に、また一歩近づいた。

   [γ(v)]2[1vμ(v) λ(v)]=1                      (32)

 群の「一つの算法」として、ローレンツ変換の合成変換を取り上げている。ここでは、変換前の座標を(x,t)とし、v1をパラメータとした一回目のローレンツ変換によって(x1,t1)となり、v2をパラメータとした二回目のローレンツ変換よって(x2,t2)になると表している。

x1γ(v1)(xv1t),   t1γ(v1)[tμ(v1)x]             (33)

x2γ(v2)(x1v2t1),   t2γ(v2)[t1μ(v2)x1]             (34)

 (33)(34)へ代入して、次の(35)を得る。

   x2γ(v1)γ(v2)[1μ(v1) v2][xt(v1v2)/(1μ(v1) v2)]        (35a)

 t2γ(v1)γ(v2)[1v1 μ(v2)][tx(v1v2)/(1v1 μ(v2))]        (35b)

 ルブロンは、この合成変換を、ひとまとめにし、一回で二回分の変換を、v1v2の関数としてのVをパラメータとした、(x,t)から(x2,t2)への変換として表現する。

x2γ(V)(xVt),   t2γ(V)[tμ(V)x]             (36)

 これらの(35)(36)の式を見比べて、ルブロンは、次の(37)を導く。

   μ(v1) v2v1 μ(v2)                                (37)

 このことから、ルブロンはHenceと一言で続け、次の(38)を導く。

   μ(v) αv                               (38)

 このときのαは、未定の係数か関数である。(37)から(38)の論理は、よく分からないが、(38)が解として(37)を満たすことは分かる。この(38)(32)へ代入すれば、「最後の未定関数がついに」と、ルブロンが記すように、(39)として得られる。

   γ(v)=(1αv2)1/2                      (39)

 このとき、平方根の符号として、マイナスを捨てたのは、(18a)の値に反するからである。また、「速度の加法則」は、(35)から直接導かれると、ルブロンは書いている。

   V( v1v2)(1α v1 v2)                   (40)

 このあと、(i) α<0, (ii) α=0, (iii) α>0 の場合分けをして、(i) α<0については、α=-κ2の値を想定して式を構成するが、これは、後の「因果律」の章によって捨てられる。(ii) α=0については、ガリレイ変換の式が導かれることを示している。そして、(iii) α>0 の場合に、αc2と置くのである。この場合にローレンツ変換が導かれる。
 このときの
αを、本で解説したジャン・ラデックは「時空の構造定数」と呼ぶ。ルブロンの論文では、「結論」のところで、「時空の構造とまさに関連した宇宙定数」と表現している。

 公準4:因果律

上に述べたように、因果律を理由として、(ii)(iii)は認められるが、(i)は、「私たちの仮定と一致しない」と書いている。

 黒月樹人の考察

 これを最初に読んだとき、「これには矛盾が見つからない」と考えた。アインシュタインの導出法でも、ポアンカレかローレンツが行ったとされるダランベルシアンやマクスウェル方程式を不変にする方法でも、数学的な矛盾があることを、私は見出した。しかし、このルブロンの方法に矛盾が無いとしたら、ミューオンの寿命が延びるという「観測結果」が、ローレンツ因子の影響であると考えなければならなくなる。これまで調べた、ローレンツ変換の導出法には、ことごとく数学的な矛盾があったのに、ひとつだけ、数学的な矛盾もなく、ローレンツ変換を導く方法があるということを、理解する根拠が見つからない。結果としての式は同じであるのに、ひとつだけ無矛盾であるというのは何故なのか。

 このページの記述をまとめる前に、アインシュタインの特殊相対性理論やローレンツ変換のことに関する論文や記事を数多く読んだ。大部分は、哲学的とも抽象的とも言える議論のものが多くて、私が試みたような、数式でストレートに表現できるような矛盾へと導いているものは見当たらなかった。この分野では有名な、ロシアのカラノフ論文[4] の主張は、おもにマイケルソン-モーリーの実験についての解釈が、問題の発端だということである。これは当たっているのだが、論証の手法が、もうひとつ詰め切れていない。しかし、この反論は、私たちの議論の基礎となっている。同じように、手法が「哲学的な証明」と宣言しているように、エリック J. ラングの考察 [5] も、数式での証明にはなっておらず、遠方からの威嚇射撃のような効果しか生み出していないが、ここに書かれた考察の一文には勇気づけられる。それは、ローレンツ変換の特性のひとつである、長さの収縮について述べている。つまり、ある慣性系というものがあるとき、それに対して、他の慣性系は無数にあるので、それらに対して、一つずつ長さを縮めるということは、まず不可能だということである。確かに、相対性原理を受け入れれば、このように考えられる。ミューオンの時間の遅れについても、地球を静止していると見たときには、動いているミューオンの時間が遅れるかもしれないが、相対的に考えると、ミューオンが地球の表面に近づいているとき、ミューオンを静止座標と見なせば、地球がミューオンに近づいていることになる。それなら、地球の時間も遅れるはずではないか。どちらも、相対的に運動しているのだから、どちらも時間が遅れるとしたら、どちらの時間が遅れているのか判定できない。このときの計算に用いるローレンツ因子の中で、相対速度vは二乗されているので、時間の遅れの比に関して、速度の向きは関係しない。やはり、ローレンツ因子で時間の変化を計算するというのは、かなり偏向した考え方である。重力の法則では質量の大小によって、相対的な効果が変わるけれど、ローレンツ因子には、このような性質はない。よって、「哲学的な証明」は、すでに行われていると考えてもよい。ただし、このような議論は、受け入れられがたい。やはり、もっと効果的なのは、数学的な矛盾として、式での結果を見出すことだ。そして、その大部分は (査定中なので未公開だが) 済んでいる。ただ、このルブロンの論文だけを残して。このページの記述を始めるまえは、およそ、このような状況だった。しかし、このページをまとめているとき、突然「ルブロンの論文の数学的な矛盾」が「見えた」。それは、もちろん、ルブロンの論文には書かれていない。まさしく、書く必要がないと判断されたところに潜んでいたのだ。これは数学的な矛盾を導く。そして、数式での表現である。しかし、申し訳ないが、これも「発見」に相当することなので、論文にまとめて、どこかで公認してもらう必要がある。このことの詳細についての説明は、しばらく待ってほしい。(2008.11.20)

 参照文献

[1] Jean-Marc Lévy-Leblond, One more derivation of the Lorentz transformation, American Journal of Physics Vol. 44, No. 3, March 1976.

http://www.hep.princeton.edu/~mcdonald/examples/mechanics/levy-leblond_ajp_44_271_76.pdf

[2] ジャン・ラデック, 「アインシュタイン、特殊相対論を横取りする」, 深川洋一[], 丸善株式会社 2005.

[3] V. Lalan, Bull. Sci. Math. France, 65, p. 8, 1937.

[4] Temur Z. Kalanov, On Logical Errors Underlying the Special Theory of Relativity

http://www.mrelativity.net/Papers/2/Kalanov.htm

黒月樹人による日本語訳

http://www.treeman9621.com/Kalanov_paper.html

[5] Eric J. Lange, Proof of the Falsity of the Special Theory of Relativity

http://www.physics.semantrium.com/relativity.html